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第六話 前日

 団体戦前日。

 土の日の今日。アリカは自分の体の調子を確かめてから、すぐに部屋を飛び出した。

 今日の朝九時に、学園の掲示板に明日の団体戦の日程が張り出される。


 リン、ネイリッタとともに朝食をいただいたあとアリカはリーダーとして、掲示板の前へと行った。

 そこにはたくさんの人がごったかえしていた。

 みな、チームメンバーで固まり、期待するように視線を向けている。

 アリカもそんな一団に加わる。

 やがて教師がやってきて、紙を貼り付ける。終わると同時に人々が突っこんでいく。


「もう、なんですか!」

「アリカ! アレをやるぞ!」

「な、なんですか?」

「アリカが足場になってあたしがその上に乗る。そうしたら、見えるだろ?」

「逆になってください!」

「私……リン様に踏まれたい! お願いします!」


 ネイリッタがその場で四つんばいになるが、周りの生徒にもみくちゃにされるだけだった。

 あの日、ネイリッタは負けてからかなり性格が柔らかなものとなった。

 今までの行いを詫び、さらにはなぜか「アリカ様」とまで呼んでくるようになったのだ。


 やがて人が減っていき、アリカたちもようやく掲示板を見ることができた。

 アリカチームとかかれた隣には、クラリアチームと書かれていた。

 その名前に聞き覚えがあり、アリカはうっと頬をひきつらせる。

 クラリア……学園では最強とさえいわれている、獣人の女性だ。

 チームとして申し込んでいなかったため、アリカも声をかけたが断られた一人でもある。


 成績は優秀だが、あまりのサボり癖に学園での評価は悪い。

 実際、最低限の授業にしか出席していないし、去年の試験もほとんど受けていない。

 しかし、一度だけ受けた試験で、座学、実技、魔法とすべてでS評価を取っていた少女だ。


「……よかったぜ。クラリアと戦いにならなくて」


 ホッとした様子で隣の男チームが口を開いた。

 と、それから男はクラリアの対戦相手を見て、がははと笑った。


「誰かと思ったら、この前のせこい奴じゃねぇかよ! クラリアにどんだけボコボコにされるんだろうな」

「お、おい……後ろにいるぞ」


 そんなことを言っている男達がいたので、アリカがじっと睨む。

 リンと、そのせこい奴に敗北したネイリッタも同時に睨むと、ネイリッタを見て、男はうっとした顔を作る。

 ネイリッタに嫌われるのは男としても遺憾なようで、そのまま頭をかくようにして去っていった。


「まったく……アリカ様気にする必要ないよ」

「そうですね。ていうか、この前まではあなた言うほうだったような気がするのですが……」

「私はそんなこと言わないよ?」


 ぎゅっと抱きついてくるネイリッタに頬をひきつらせながら、アリカはそれでも男たちの言っていたように気にする部分もある。

 せこい戦い方だろうが、今は勝ちが欲しい。

 それでも、クラリア相手に本気でぶつかって、どこまで抵抗できるのかはわからなかった。

 

「つっても、クラリアかぁ……あたしも出来ればやりたくない相手だったな」


 掲示板を見上げていたリンが、嘆息がちにいった。


「そういえばリン様は、一年のときに何度か模擬戦をしたことがあるよね?」

「なんで知ってんだよ」

「だって、良く見ていたしね。リン様凄くかっこよかったよ」

「けど、余裕で負けちまったからな」


 アリカも言われて思い出す。

 リンはアリカよりも成績が良いため、模擬戦の相手も必然的に強い人となる。

 リンの意見を聞きながら、アリカはふむふむとうなずく。


「とりあえず……今日は一日連携の練習と作戦会議です!」

「ま、やれることをやりまくっておかないとな」

「そうだね。あんまり負けすぎちゃうと、私の評価も下がっちゃうからね」


 すぐに訓練場へと向かうと、明日の試験のために多くの人間が利用していた。


「……うっ、こんなにいるとは思いませんでした」

「アリカ様、考えていなかったの?」

「そ、そりゃあ……こんなにいるなんて」

「ま、初めての模擬戦なんだし、とりあえずみんな何かやるだろ」


 これでは体を大きく動かすような訓練は行えない。

 そう思っているのはアリカたちだけではなく、場所を確保できなかった人たちは去っていく。


「実戦での連携をしたいのであれば、他にも出来る場所はあるんじゃないかな?」


 ネイリッタがしたり顔でいい、リンもすぐに思いついたように手を打つ。

 アリカもそれはわかっていたが、少し危険もある場所だ。


「迷宮、ですね。けど、大丈夫ですかね?」

「少し心配なんだよね。……迷宮に入ったことあるのってリン様だけだよね?」

「なんで知ってんだ……。まあ、あたしは何度か迷宮には行ったことあるけど……いっても、冒険者の人と一緒に行っていたことばかりだぜ?」

「迷宮にはトラップとかたくさんあるって聞きますし、そこらへんが怖いんですよね」


 トラップは魔法探知能力が高くなければ、見破ることができない。

 三人は罠を見破る能力がないため、思わぬ危険が襲い掛かってくることを考えると、おいそれと訓練の場として選ぶことはできなかった。


「……アリカー腹減ったのじゃー」


 のんびりとあくびをしながら、簡素な服に身を包んだ女がやってきた。

 

「サーシャ……あっ」


 アリカはそこで、良いことを思いついた。

 サーシャの前まで歩いていき、ニッコリと笑う。


「サーシャ。あなたって迷宮の罠とか見破れますよね?」

「そのくらいは簡単じゃが……手伝うなんて面倒なことはせんぞ?」

「迷宮探索が終わったら……ネイリッタ、おいしいケーキでも食べに行きましょうか」

「あっ、良いね! リン様とケーキを食べさせっこして……くふふ!」

「おい、あたしはあんまり行きたくないんだけど」

「決まりですね! サーシャ、私たちは迷宮に行ってそのままケーキを食べに行きます! 食べたかったらついてきてください」


 いうと、サーシャは腕を組む。

 どうにも乗り気ではなさそうだったが、ゆっくりと首を縦に振る。


「……面倒じゃが仕方ない。行くとするかの」


 サーシャの勧誘に成功し、迷宮での不安はなくなった。


「後はどこの迷宮に行くかですね……」

「この街近くだと、三つだね。ライオット迷宮、レイド迷宮、リースタ迷宮……どれにしようか、リン様」

「あたしが行ったことあるのは、ライオット迷宮だけだぜ。それ以外については、知識さえねぇよ」

「あ、私レイド迷宮は知っていますっ。確かボス級の魔物がたくさんいる迷宮ですよね?」


 アリカがいうと、ネイリッタがこくりと頷く。


「知識だけでよければ、すべて知っているよ。アリカ様の言うとおり、レイド迷宮は巨大モンスターの迷宮だね。ゴブリンとか普通の魔物も、全部本来より大きいサイズで出てくる迷宮。リースタ迷宮は……水棲系モンスターがたくさんでてきて、雷系魔法が有効かな」

「ライオット迷宮は、この中じゃ一番一般的な場所だな。基本的なゴブリン、ウルフ、スライム種の魔物がいて、迷宮初心者にはオススメだったぜ」

「うーん難しいですねぇ……」


 普通に迷宮を攻略するのならば、ライオット迷宮が良い。

 しかし、今回は連携の練習をしたいのだ。

 それにはレイド迷宮が最適であった。レイド迷宮は、サイズのでかい魔物が出てくるが一体でしか出現することはない。

 敵をクラリアと見立てるのならば、一番連携練習が出来ると思っていた。

 

「何か考えがあんのか、リーダー?」


 リンの言葉に、アリカは思考を一時中断する。


「私は、レイド迷宮が良いと思います。他の迷宮だと、たくさん魔物が出てきて連携どころじゃなくなってしまうと思います」

「……うーん確かにそうだね」


 たくさんの魔物とやりあう場合、連携も大切だが個人の戦闘になってしまうこともある。

 だからこそ、多少強いくらいの魔物である、レイド迷宮が、いまの自分たちにあっていると思ったのだ。

 アリカの考えを聞くと二人 も納得したように頷いた。


「それじゃあ、そこでよいのかの? わしもう疲れたのじゃが」


 腰掛けた彼女の服は、もともとアリカのだ。二人とも胸以外の体型は似たようなものなので、よく使いまわしている。

 そして、それはアリカのお気に入りの一着でもあった。


「あっこら! 服を汚さないでください」

「んー? 服なんて着れればなんでも良いじゃろ?」


 ひらひらと手を振るサーシャにアリアはいつものように吠える。

 この魔法はいつも自分の言うことを聞いてくれない。

 本当にわがままな奴だと思うと、ふたたびむしゃくしゃが湧き上がる。

 それでも、伝説の魔法であるため、強くは言えないのが現状だ。


「ほらほら、いつまでも遊んでないで、行こうぜ」

「遊んでないです!」

「リン様、外は危険だし、手を繋いでいこうよ。私を守って!」

「おまえは十分強いだろ」


 ネイリッタははぁはぁと息を乱して、リンに抱きつこうとする。

 それをひょいとかわし、リンはアリカの背後に隠れる。

 隠れられたアリカへと、ネイリッタが手をわななかせながら近づいてくる。


「ちょ、ちょっとネイリッタ。あなたリンが好きなんですよね?」

「くふふ、このさいアリカ様でも良いよ……最近女の子に触れてなくて……たまっているんだ」


 舌をだしてからかうように言う彼女に、ぞくぞくと背筋が冷える。


「に、逃げます!」

「目標はレイド迷宮だな!」


 リンと顔を合わせ、サーシャを連れて走り出す。

 街からでてすぐの場所にあるため、迷宮まで全力疾走である。

 ネイリッタがその背後を追いかけてくる。

 とはいえ、日頃から鍛えているアリカと、成績優秀なリンのほうが、体力だけならば上だ。

 街の外――フィールドの移動中、魔物に遭遇することはなかった。

 さすがに走りすぎて、迷宮の入り口に到着する頃には、皆疲れて膝をついていた。


「……も、もう……照れ屋、だね」

「ほ、本気で私は嫌なんです! 私はノーマルなんです!」

「私もノーマルなの。私、自分より弱い男を好きになんてなれないの」

「ま、男で強いやつってのは珍しいもんな」

 

 草原で横になりながら、そんなことを話す。

 その話題となれば、アリカは色々といいたいこともあった。


「本当、男って弱いよね。身体能力は同じくらいで、魔法のレベルが格段に違うんだもん」

「けど、頑張っている奴だっているじゃんか。強い人だって……ほら、ベイナーガ先生とかさ」

「でも、この前あっさりやられてたんだよね? やっぱり、所詮はその程度なんだよ」


 アリカはあのときのことを思い出していた。

 現場にいたアリカとリンとは別で、ネイリッタはいなかったのだ。

 あの場にもっと人数がいたとして、どうにかなっていたかは疑問が残るものだ。


「そういえば、二人はいたんだよね? 襲撃者の男の人って強いの?」

「……かなり、つよかったな。はっきりいって、国最強の部隊でも……どうなるのやらって感じだったな」

「それって、リン様のお姉様がいるクロッタ部隊のこと?」

「まあ、さすがにとめられるとは思うけど未知数な力って奴を感じたな」

「今までみた中でも最強の男って感じでした」


 アリカはあのときのことを思い出しながら、ぐっと拳を固める。

 敵であり、参考にはしたくはない。

 けれど、彼はほとんど魔法を使わずに戦っていたのだ。

 いつかは自分もあのように慣れるのかもしれない。その目標としては良いものでもあった。


「休憩は終わりかな」


 立ち上がったネイリッタを見て、それを合図に動き出した。

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