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第五話 模擬戦

 アリカはそれからまだ学園に残っていたベイナーガのもとをたずね、ネイリッタの情報を集めていた。

 ネイリッタ・ブラストコール・ラ・アリニア。

 彼女についての情報をもらってから、自室にて、リンとサーシャを交えて作戦会議を開いていた。 


「魔法なしの実技で、B。魔法ありの実技でA……。アリカ、明日からあたしはおまえの友人じゃなくなっちまうのか……」

「何を負けたことにしているんですか! わ、私だって魔法なしの実技でA評価ですよ! これだけなら、ネイリッタにも負けていません。それどころか勝っています!」

「魔法ありの実技はFか。うむ、おぬしはダメダメじゃのう」

「ダメな原因! 魔法契約を今だけでも良いからしてください!」

(そのまましれっと正式な契約を!)

「ダメに決まっておろう。今のおまえではわしを使いこなせないんじゃ」


 アリカの浅はかな作戦はあっさりと砕かれる。


「リンの契約魔法は三つ。サンダーショット、アクアウォール、フレイムブレス、か。近距離に近づかれたらアクアウォールで距離をあけ、サンダーショットで誘導し……フレイムブレスでしとめる。こりゃあ、丸焼きだな」

「あまりおいしくはなさそうだのう」

「だ、誰がですか!」


 二人の無責任な話に、しかしアリカは首を振る。


「……この模擬戦は、首輪奪いのルールになっています」

「首輪奪い? ああ、お互いにネックレスつけて、それを奪い取るって奴か?」

「そうです。最悪、対決で勝てなくても奪えれば勝利です」

「というか、アリカはそれを狙っているんだろ?」


 情けない話だがアリカはそこに期待している。


「……はい。それに、私少し戦い方に工夫も加えました。馬鹿正直に戦ってばかりではいられないと思い、ちょっと汚いですけど、色々と戦いの幅もできました。だから……まるで歯が立たないとも思っていません」


 アリカが真剣に言うと、リンは肘をついた。


「その、新しい戦い方ってのは実戦したのか?」

「いえまだしてないです」

「んじゃ、ちょっとあたしが相手してやるよ」

「いいのですか? ……その、怒らないでくださいよ」

「なんだよ。そんなせこい戦い方なのかよ?」

「……えと、まあ」


 ぽりぽりと頬をかいた後、アリカはリンとともに校庭へと向かった。



 ○



 次の日。

 昼休みの校庭には、食事を持ったまま多くの生徒がいた。

 毎日何試合か模擬戦は行われている。

 それらを見ながら食事をする人もいる。

 アリカは両手に剣を持ち、軽く振るう。

 最後の準備体操を行いながら、イメージを固めていく。

 心を落ち着かせるように深呼吸をしていると、


「なあ、アリカとネイリッタ。どっちが勝つと思う? 明日の昼飯賭けようぜ」

「おいおい。そりゃあ賭けにならねぇだろ。だれがアリカに賭けるんだよ」

「いやいや、一人くらい賭ける奴いるかもしれないだろ。んじゃ、まずネイリッタな。ネイリッタが勝つと思う奴は手をあげて……って全員だな」


 アリカは聞こえてきたその声に、頬の筋肉がひきつる。

 対面にいたネイリッタは口元を隠しながら、相変わらず丁寧な笑みを浮かべている。

 それなりに男性のファンも多く、応援団なるものがあった。


「がんばってくださいネイリッタ様!」

「みんな、ありがとー! って……あれ、アリカさん。誰も応援してくれてないね」


 くすくすと笑ってくるネイリッタに、眉間に皺を寄せる。


「別に応援があるからって強くなるわけじゃないですし」

「そうかもしれないけど……くふふ。寂しいねぇー」


 ネイリッタがしばらくあおってきていたが、やがて彼女の両目が見開かれる。


「おーい、アリカ! サーシャつれてきたぞ!」

「……まったく。わしは別にこの試合をちょっと見たくらいで評価を変えるわけじゃないぞ?」

「まあまあ。ここでアリカの味方はあたしたちくらいなんだし、応援してやろうぜ! アリカーがんばれ!」


 ネイリッタの顔に憤怒の色が表れる。

 アリカはふふんと胸を張るようにして、両手を剣の柄にあてる。


「私にだって、応援してくれる人はいますよ。有象無象の誰かさんたちではなく、親友たちがね」

「親友が応援してくれていると言っているみたいじゃぞ?」

「え、誰だ?」

「リン! 泣きますよ!」

「冗談だ、冗談。頑張って勝ってくれよー!」


 リンが手を振りながら大声をあげる。

 ネイリッタはそれがたまらなく憎たらしい様子だ。

 

「……それでは、二人とも試合をこれから始めますが、準備はよろしいですか?」


 ベイナーガが審判をつとめ、アリカもネイリッタもこくりと頷く。


「勝利条件は首輪をとること。あと、過剰な怪我を相手に与えた場合も敗北になります。制限時間は五分。五分をすぎたときに首輪を両方ともが持っていた場合は引き分け。これでいいですか?」

「はい」

「五分どころか、一分もかからないと思うけどね」


 先手必勝と考えているアリカは、すでに両手を剣の柄に当てている。

 ネイリッタは今も余裕綽々といった態度を崩さない。

 ベイナーガの口が動くのを耳と目を集中させて待つ。

 騒がしかった校庭の会話も、徐々に消えていく。

 それらが完全に消え――。


「始め!」


 同時に、アリカは動き出す。

 始めの一歩は、アリカのほうが早かった。

 それでも、その一歩程度の遅れ、ネイリッタの魔法の前にはあまり関係ない。


「あなたが、素早いことは知ってるよ。けど、魔法がないんじゃね」


 ネイリッタとアリカの間に、水の壁が出現する。

 飲み込まれれば、動きを阻害されネイリッタの連続魔法にやられる。

 大きく後退すると、サンダーショットが襲い掛かってきた。


 剣で弾く。態勢は崩されたが、ライドットのダークショットとは次までの発射速度が違うため、態勢を戻せる。

 フレイムブレスがやってきたが、そのときにはすでに余裕で回避することができた。

 一度深呼吸をして、ネイリッタを見据える。


「どうしたの? そんなに距離があったら、自慢の剣も届かないよ? 魔法とか使えば?」

「ふん……っ」


 挑発であるとわかっていたために、アリカは軽く呼吸をする。

 かちんとはきても、自分を見失うほど短気ではない。

 負ければリンにも多大な迷惑をかけることになる。

 だから、アリカはいつも以上に冷静に状況を分析し、すべき行動を頭のなかで組み立てていく。


 休んでばかりもいられない。

 ネイリッタの魔法が常に襲い掛かってきて、それらを後方にさがって対処する。

 ネイリッタは、長距離での決定打がない。中距離が限界であるフレイムブレスさえ気をつければ、時間を稼ぐことは十分できた。


 五分という制限時間が減り、ネイリッタは段々と苛立ってきたようだ。

 引き分けになった場合の約束は話していない。ネイリッタとして、勝てるものだと思っていたのだから、焦りもあるだろう。


「逃げてばかりで、チームについては諦めたのかな?」

「そうですね。私、リンの友達をやめるのは嫌ですから」


 なんて軽くあおりかえす。

 ネイリッタの表情が険しくなる。

 ネイリッタは、本当にリンの近くにいたいのだというのが良く分かった。

 だからこそ、そこを刺激しながら、アリカはチャンスを見計らう。


「おいアリカ! 弱いからって逃げるのはないだろ!」

「そうだそうだ! 無駄に時間かけてんじゃねぇぞ!」


 周りからの野次も、アリカは気にしない。

 冷静に――常に余裕をもった態度で、笑っていたあの男は。

 犯罪者を参考にするのは良くないかもしれないが、あの男の戦いはアリカにとって理想でしかなかった。

 だからこそ、こっそりと少しくらい真似をする。


(……正攻法では勝てないけど、もう)

「制限時間が一分をすぎました」


 その言葉を聞き、業を煮やしたネイリッタが動き出す。

 ここだ――アリカも地面を蹴って一気に距離をつめる。


 アリカは憎たらしかったが……あの男の技を真似する。

 駆け出したアリカは剣を地面すれすれに構える。

 いぶかしんだネイリッタがアクアウォールを使用し、アリカの体を飲み込もうとする。

 後方へと飛ぶと、そこへサンダーショットが来る。

 どうにか身を捻ってかわし、アリカはその場で回るように地面に落ちていた石ころを蹴り上げる。

 アリカは、手ごろな石を試合前に配置しておいたのだ。

 その石を剣で素早く打ち放つ。

 連続で放たれた石であり、フレイムブレスを用意していたネイリッタはそれを真っ直ぐに放った。


「こんな戦い方。情けないと思わないのかな?」

「そう、かもしれませんね!」


 アリカはすでにネイリッタの横に踏み込んでいた。

 ネイリッタが驚きながらも、即座に短剣を抜く。

 右の剣が受け止められ、その間にネイリッタはもう一つの剣を用意しようとする。

 だからアリカは剣を地面にこすりながら、すくいあげる。


「……な!?」


 砂が舞い上がり、ネイリッタの顔へとかかる。

 それを払うために、ネイリッタは顔を覆う。

 隙だらけだ。

 両手の武器を払い落とし、アリカは剣を捨て、彼女の胸のペンダントを掴んだ。


「いたっ!」


 軽く引っ張ると、簡単にちぎれた。

 アリカはそのペンダントをぐっと抱えあげる。


「……勝者、アリカ・サンフィー・ラ・リメンバー」


 ベイナーガの宣言を聞き、ネイリッタはようやく目をあけて勝負がついたことを理解したようだ。

 

「ちょ、ちょっとまって!」

「……私の、勝ちですよね?」


 ひらひらと、アリカは無事なネックレスをネイリッタに見せつける。

 ネイリッタは悔しそうに歯噛みしたあと、諦めるように頷いた。


「やりました! やりましたよ、リン、サーシャ!」


 戦闘が終わったところで、アリカはすぐに二人へ駆け寄る。

 手を繋ぎ、リンとハグをして喜びをわかちあう。


「やったなアリカ! 今日は祝勝会だ! とっておきの菓子でも食おうぜ!」

「そうですね! 私、密かに隠してあったのがあるんですよ!」

「それはあれか? 棚の置くにある隠し扉の中にある奴かの?」

「な、なぜそれを!」

「わしが前に食べちゃったのじゃ。すまんの」

「すまんですむわけないじゃないですか! 何してくれているんですか!」


 ぺろと舌を出して逃げるサーシャを追いかける。

 校庭では驚きの声がたくさんあったが、アリカもリンも、そんなことは気にしない。

 アリカはもう勝ったのだから、それ以上そこにとどまるつもりもなかった。

 

「……アリカ」


 と、アリカの背中にそんな声がかけられた。

 振り返ると、ネイリッタが走って近づいてきていた。

 その顔に、怒りの感情はない。むしろ、羨望のようなものが向けられていたように思った。


「あっ、もう時間ないので今夜から、私の部屋に来てください」

「……さ、誘っているの?」

「はぁ? チームの作戦をたてるんですよ。もちろん、リンもいますからね」

「……そ、そうなんだ。うん、わかったよ。それじゃあ……体綺麗にしていくね」

「何を想像しているのですか! 普通の作戦会議ですよ!」


 ネイリッタがくねくねと体をよじっていて、アリカは首を傾げる。

 とはいえ、ネイリッタがチームに加わってくれることになり、アリカは満足した。


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