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第四話 ネイリッタ


 次の日。授業も再開され、アリカも取り組んでいく。

 実技では散々な成績になってしまうのだから、座学で挽回するしかない。

 授業が終わり、昼休みとなったところで、リンとともに昼食を食べに向かう。


「アリカ、団体戦はどうするんだ?」

「うーん……」 


 団体戦は最高三対三で行うため、人数が一人少ないというだけで不利なのだ。


「あたしとアリカだけじゃ、さすがにつらいよな?」

「……そうですねぇ」


 アリカたちは一年のときの団体戦はボロボロだった。ただ、一年はまだ遊びという部分が多いため、成績には関係ない。

 しかし、二年からは違う。成績にも深く関わってくるため、どうしても無視できなくなる。


 だが、他に候補がいるわけでもない。

 アリカとわざわざ組んでくれる人はいない状況なのだ。

 その点で、アリカはリンに足を向けて眠れないほどの感謝がある。


「……とりあえず、次の休みまでに後一人、ですか」

「いくつか、やろうと思えば出来ないこともないぜ?」

「例えば?」

「脅す、弱みを握る、とかだな」

「どっちも同じではないですか!」

「はっはっはっ。まあ、けど……あたしは別に今のままでもいいぜ? アリカと二人きりってのも悪くないしな」


 勝気に微笑む彼女に、思わず同性ながらに見とれる。

 リンは女性から良く告白を受けるが、こういった面が強いのかもしれない。


「それでも、楽しいだけではいけません。……やるからには、勝ちたいです」

「だな。そんじゃ、あたしの後輩に頼もうか?」

「……もしかして、飛び級の人ですか?」

「ああ。何人か、昔告白してきた奴がいるからさ。この際利用しちまうってのも……」

「それはダメです!」

(……私のために言っていることはわかっている。私が迷惑をかけているのもわかっている。けど……それはダメだ)

「リンが酷い人になってしまいますし、相手の子も可哀想です」

「……おうおう。相変わらずアリカは良い子だなぁー」


 ぎゅっと抱きつかれ、頬擦りをされる。

 犬のような彼女を押し返そうとすると、ちくりとした鋭い視線を感じる。

 周囲を見回す。


「どうしたんだ?」

「い、いえ……なんでもないです。……その、もしもメンバーが集まりませんでしたら、やっぱりリンは別のチームに入れてもらったほうが……」

「おいおい。あたしはアリカの親友なんだぜ? そいつ見捨てて他のチームでのんびり戦いなんざできねぇよ」

「……リン」

「第一、弱いところで勝ち上がっていくほうが、楽しいじゃねぇか!」

「……弱いところ?」

「飯食べようぜ!」

「弱いところっていいましたよね!」


 リンに言い返すが、アリカは肩を落とす。

 もっと、力をつけなければならないだろう。

 なにより、仲間を一人誘う必要がある。

 リンをつきあわせ、彼女まで成績を悪化させるわけにはいかない。


「リン、今日の放課後は私勧誘に行ってきますから!」

「あたしも付き合うぜ」

「リンはうちの最強のアタッカーになってもらう必要があるんです。だから、放課後は自主練習の時間にあててください」


 何も負けることが前提なつもりはない。

 アリカが真剣に見やると、リンは呆けた顔のあと、笑った。


「アリカのその力強さは、アリカにしかないものなんだと思うぜ。だから、きっとうまく行くよ」

「強さ? 良く分かりませんが、リンはとにかく力をつけて、私は後一人を探す。これで残りの時間をがんばっていきますよ!」


 リンには強気で言い放ったが、二年になる前からメンバー探しはしている。

 たまにリン目当てで入ってくる子もいたが、結局は一回参加してメンバーから外れることばかりだ。

 二年になってからは、そういったことは許されない。

 まだ、チームを組んでいない人を探し、残りの時間でどうにか後一人を見つけなければならない。

 自然気合も入るものだ。



 ○



 放課後になり、まずはチームに参加していない人間の名簿を受け取った。

 二年でも参加していない人はまだそれなりにいる。

 この一ヶ月は、チームの移動が許される期間である。

 来月から本格的に団体戦が始まり、それからチームの移動はできなくなる。

 


 チーム登録していない人間は、三種類の人物だ。

 一ヶ月の間の準備期間の団体戦が面倒な人。

 チーム自体が決まっていない人。

 入りたいチームはあるが、チームの人数が一杯で、今は待っているといった人に分けられる。


 アリカが狙うのは、その中でもチーム自体が決まっていない人だ。


「頑張っているようですね」


 ベイナーガがニコリと柔らかい笑みを見せる。

 今アリカは職員室にて、ベイナーガと名簿を見ているところだ。


「……はい。リンもいますし……私は一応サーシャの契約者ですからね。情けないところはもう見せられません」

(今までたくさん見せすぎましたし……)

「そうですか。その心意気は素晴らしいです。……ところで、サーシャ様とはどうですか?」

「……いや、あれは全然言うこと聞いてくれなくて」

「まあ……難しい魔法みたいですからね。僕も冒険者をしているときに、一度契約試験を受けさせてもらいましたが、結果は失敗でした。その点……少しあなたには期待しているんですよ」


 ベイナーガの言葉に、アリカは首を捻った。

 ベイナーガほどの人が契約できなかった事実に、今はただ驚いていた。


「私も全然ダメですよ?」

「ですが、仮契約をしてもらっているではありませんか。サーシャ様は、今まで誰ともそれさえもしたことはないと聞きます。正直いって伝説の英雄の魔法とそんな関係であるあなたに、少し嫉妬してしまいます」


 ぺろっと舌をだすベイナーガに、アリカは頬をかいた。

 さすが、女子たちの間で人気のある教師だ。

 冗談めかした態度も似合っている。


「昔……僕の知り合いの魔法工房を紹介する話が出たときもあなたは断りましたよね」

「……そう、ですね。私は……サーシャを使いこなしたいんです。レアール様のように……」


 他の魔法と契約する機会も与えられたが、ほとんどすべてで魔法に拒否されてしまった。

 その理由は、「心に迷いがある」というものだった。

 人型の魔法は少ないが、丁寧に教えてくれた魔法もいた。

 アリカは今もサーシャを使いこなしたいという気持ちがあるから、他の魔法を受け入れられない、と。


「その夢を持つことは大切です。子どものうちは、必死に夢を追いかけてください」

「……ありがとうございます」

「まずは、メンバーですね。一応、誘って入ってくれるかもしれない人たちに線を引いてあります。頑張ってください」

 

 紙には丁寧に線が入っていた。

 それは、ベイナーガが持っている交友関係を使って割り出したものだろう。

 感謝を告げながら、アリカは早速、部活動をしている彼ら、彼女らに声をかけに行った。

 候補は三十人近くいるのだ。一人くらいは、入ってくれるかもしれない。

 入ってくれれば、後は良いチームだと思ってもらうように努力をするだけだ。



 ○



 半分に声をかけたが、全滅だった。

 弱いチームに入りたくはない。

 負けるのわかっていて誰が組むかっての。

 冷たい言葉をぶつけられ、アリカは疲れてベンチに腰かけていた。


「……はぁ」


 嘆息をしてから、アリカは自分の手を見る。


(……どうしたら、強くなれるのでしょうか? ……サーシャへの思いを捨てればあるいは。けど、それは……私の今までを否定することでもあるんですよね)


 サーシャとの契約を完全に諦められれば、アリカも別の魔法と契約が結べるかもしれない。

 だが、それは――アリカはぶんぶんと首を振る。

 弱気な考えはダメだ。

 前に進むのに、ネガティブはダメだ。

 それがレアール様の口癖だったと、曾祖母から聞いていたアリカはすぐに笑顔を浮かべてベンチから立つ。


「きっと……誰かが仲間になってくれるはずです! 今行きますよ! 未来の仲間さん!」


 アリカはやけくそ気味に叫び、走り出そうとしたところで、道を女性が塞いだ。


「あ、すみません」


 横にずれようとしたところで、彼女はくすりと笑った。


「チームのメンバーを……探しているんだよね?」

「……わ、私に言っているんですか?」

「そうだよ。こんにちは。私はネイリッタ。あなたが、アリカさんでいいのかな?」

「は、はい! あなたは本当にチームに入りたい人なんですか?」

「うん。そうだよ。リン様のチームに、ね」

「……え?」


 なにやら雲行きが怪しくなり、アリカは目を細めた。

 ネイリッタは酷く冷たい笑顔を浮かべ、それから上品に口元を隠して笑う。


「くふふ。私はね、いくつか条件があるんだ。リン様と二人きりでいられれば、私はそれでいいの。二人きり……わかるよね?」

「……私は、邪魔ということですか?」

「そうだよ。だから、私はチームに入るけど、あなたはリン様から離れてくれないかな? リン様、いっつもあなたと一緒にいて、邪魔なんだよね」


 アリカはネイリッタを敵と認め、その横を抜けていこうとする。


「ああ、無駄だよ。あなたのメンバー探しは絶対に成功しないよ」

「……何を言っているんですか」

「だって、私がみんなに言っちゃいますもん。男にはちょっと甘えて頼めば、女の子には家の力を使えば……ね?」

「家を使うなんて、学園では無意味ですよ?」

「卒業後の進路とか……色々と脅す材料はあるんだよ?」

「……酷い性格ですね」


 呟くがネイリッタは褒め言葉のように嬉しそうに笑った。


「ま、本当にやる気はないよ。いまのとこは」

「……つまり、あなた以外は誘っても無駄、といいたいのですか?」

「そうだよ。だから、私を入れてよ。それで、あなたは置物のようになって。ああもちろん、団体戦には入れてあげるよ」

「そんなのは、ごめんです! 私はみんなで協力して団体戦を突破したいのです」

「あなた以外で協力はするよ?」

「それはしていません!」


 お互いににらみ合い、それからネイリッタが人差し指を向けてくる。


「……なら、戦いで決着をつけよっか」

「……どういうことですか?」

「私がまけたら、うんアナタの望みを一つ聞こうかな。私が勝ったら、さっきいった通りの条件を飲んでもらうよ。あなたからしたら、勝っても負けても良いことばっかり、よかったね」

「……」


 挑発されているのはわかっている。

 しかし……これからネイリッタは自分のチームの仲間になるかもしれないのだ。

 それに、ネイリッタの言うことが本当だとしたら――。

 アリカは様々なことを考えた結果、びしっと指をつきつける。


「わかりましたよっ。模擬戦の申し込みをしてやります!」

「くふふ、言ったね? それじゃあ、これから申し込みに行こうか。明日の昼休みの時間なら、たぶん出来るだろうしね」

「用意がいいですねっ」

(この生意気な奴を、叩きのめしてやります! それで、チームに入れてやるんです!)


 アリカはチームのリーダーだ。

 だからこそ、自分の力を示す。

 そして、生意気な彼女の鼻をへしおってやる。


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