第十三話 町の防衛
「街って……この魔物たちを倒してまわるのですか?」
「ま、そりゃあもう手を打ってあるから問題ねぇよ」
「へ?」
『……どうやらすでに街にツルをはわせておるようじゃの。ツルが魔物を倒しておるようだし……魔物の全滅は時間の問題じゃ』
「ま、そういうわけだ。城にまわしていた分も街に向けたから、そっちはいいんだが……っと」
がたがたと城が揺れ始め、段々と足場が崩れ始める。
「ど、どうするのですか!」
「とりあえず、下に降りる。この辺りで高台といえば……」
「学園の屋上か監視塔ですね」
「学園のほうが近いし、そっちに行くか。しっかり捕まってろ」
再びアリカは体をもちあげられ、共に下へとおりていく。
アリカ、リンと抱えながら、空中で魔物に襲われてもまるで意に介さず敵を処理する。
(……ちょっとイメージとは違ったけど、やっぱり最強の英雄、なんですね)
アリカは軽く微笑を浮かべながら、レアールを見やる。
「……ていうか、あなたはあのレーザー回避したのですか?」
「あぁ? もちろん直撃したが、あのくらいなら問題なかったぜ。ちょっとばかり服が焦げたくらいだ」
「……た、タフですね」
タフなんて言葉ではすまない。
アリカは頬をひきつらせていると、学園の屋上へと着地する。
崩壊が始まっている空から、瓦礫がどんどん落ちてくる。
「敵さんは、一応最悪な状況も考えていたみたいなんだよな。あの城の崩壊で、この街を破壊するつもりだったらしいな」
「意外と用意周到ですね」
「厄介な相手だったぜ、本当に。んじゃ、やることはわかるか?」
「ツル魔法で、あれらを弾くのですか?」
「そうだ。俺がツルで街の外まですべり台を作ってやる。アリカはそのツルの上に乗るように、瓦礫を弾いてってくれ」
「……わかり、ました」
不安はある。まだまだツル魔法は使い慣れていないのだ。
「安心しろ。俺も補佐はしてやるよ。まだ、うまく扱えないだろ?」
「な、舐めないでください!」
アリカは頬を膨らませる。
レアールはからかうように笑ったあと、空を見た。
「んじゃ、始めるとするか」
レアールが魔法を発動し、空をツルが覆う。
アリカも同じように発動させる。
レアールのものは、このまえ戦ったゴブリンよりも太い大きなツルだったが、アリカはまだまだ大人程度の太さだ。
それでも空へと真っ直ぐに伸ばし、崩れ始めた瓦礫をはじいていく。
細かい操作は難しいが、レアールが隣からニヤニヤとした顔を向けてくる。
「どうしたどうしたー? さっさとしてくれよな?」
「わ、わかっていますよ!」
レアールは馬鹿にしながらも、自身も残りのツルで弾いていっている。
街を守るツルも、瓦礫を除くためのツルも同時に器用に扱いながら、さらにアリカたちへと襲い掛かってくる魔物までも処理してみせている。
だから、アリカは瓦礫に集中できた。
やがて、空が晴れた。
魔物の軍勢は消え去り、そして瓦礫さえも消滅した。
アリカは疲労によって息をきらし、余裕げなレアールが額に手をあてて、遠くを見るように覗き込む。
「はー、もっと平和ボケしていると思ったが……上出来だったな」
「……あの、レアール様。聞いても良いですか?」
「様だなんていらねぇよ。一緒に戦った仲間なんだ。もっと気安く呼んでくれ」
「……それじゃあ、レアール。あなたは……どうして、昔のままの容姿で生きているんですか?」
「なんだよ。英雄は死んでいたほうが英雄っぽいってか?」
「そうじゃ、ないですよ。……私の曾祖母は……あなたのことが好きだった、と思います。だから、もっと早く戻って来れなかったのかって」
「……。まあ、そいつは悪いことしたよな。俺はもともと、魔王を倒した後魔界に行って、魔人と戦う予定だったんだよ。……で、魔界にいったら何か体の構造自体が変わっちまったみたいでな。こっちに来てもう十年くらいになるんだが、体の機能は一切衰えてないんだよ。たぶん、不老状態だな。不死かどうかは知らんが」
「……いや、レーザーくらって生きているなら、不死じゃないですかね」
「ありゃあ、ただの魔力の塊だ。魔力への抵抗力があれば、あんなの無傷だっての」
「だったら、やられたふりなんてしないでください!」
「楽しいだろ?」
「心配しました!」
アリカはふうと短く嘆息した。
レアールの話は突拍子もないことだったが、先ほどの彼の強さがそれを裏づけていた。
レアールは何かに気づいたのか、屋上の手すりに手をかける。
「それじゃ、英雄見習いさん。サーシャを今後ともよろしく頼むぜ。あ、俺のことは内密にな。友達さんにもそう伝えておいてくれ!」
レアールはそのまま、ピースを浮かべるとともに屋上から飛び降りた。
遅れて屋上の扉が開け放たれる。
姿を見せた騎士や、リンのお姉さんがこちらに気づくと、駆け寄ってきた。
リンのお姉さんと知り合いだったアリカは、何度もお礼を言われて抱きつかれた。
すぐにリンは運ばれ、治療を受けるがどこも異常はなかった。
○
街の惨状、被害は大きかったが、それでも最小限に留められたらしい。
その日の夜、リン、ネイリッタ、クラリアの三人が部屋へとやってきた。
「すべて、アリカがいたおかげって話じゃねぇか」
リンのお姉さんが嬉しそうにいい、アリカはどうにも頭を掻いてしまった。
この世界ではすでにレアールは死んだことになっている。
だからこそ、あのツル魔法を使えるのはアリカしかいないということになっている。
(……わ、私そこまで感謝されるようなことはしていないような気がするのですが)
実際、レアールがいなければ何もできなかっただろう。
リンの姉はそれからすぐに部屋を去り、じっとアリカのほうに視線が集まる。
「……レアール様はどうしたの?」
ぼそっとネイリッタが聞くと、気になった様子のクラリアも顔を寄せてきた。
「そういえばどうしてクラリアがいるのですか?」
「……レアール様と戦ってみたい。どこに行ったら会える?」
「わ、わかりません。あと……みなさん、レアールのことは他言無用でお願いしますって話です」
「……なんで?」
クラリアが首を捻る。
その横では腕を組みながら、まるで状況を理解できていないリンの姿もあった。
リンはずっと気絶していたのだから、レアールと言われてもわからないのだろう。
リンには後で説明するとして、先にレアールのことを考えた。
(……今日みたいに、レアールはたぶん自由に行動したいんですよね。下手に英雄復活! なんて騒がれると、事件が発生しても自由がききませんよね)
それに、敵への切り札にもなれない。
レアールはたぶん、対策をたてられても余裕で対処するだろうが、それでも彼としては敵にばれたくはないのだろう。
「レアールは、たぶん英雄としての扱いが嫌なんだと思います。ていうか、私もイメージしていたのと全然違いましたしね」
「……そういうものなのかな? 目立つっていいことだと思うんだけどなー」
「それはネイリッタだけです」
「なぁ、レアールってなんだ? あたしが寝てた間になんで英雄様の話が出てくるんだよ」
「それはあれですよ――」
襲撃者がレアールだったこと。
彼は密かに魔人の作戦に気づき、それをとめるために動いていたことなどを明かす。
はじめは驚いていたが、リンも納得したようで、そしてこのことは四人の内緒ということになった。
「……また事件が起きれば……」
「クラリア! 物騒なことを言わないでください!」
「冗談。それと、あなたにも興味がある」
じっと顔を寄せてきたクラリアは、無機質ながらも整った容姿をしている。
「わ、私ですか?」
「うん。また今度戦いたい。同年代で、あんなに楽しかったのは……あれが初めて」
ぎゅっと手を握ってきたクラリアは、無表情ながらも瞳だけが輝いていた。
綺麗な顔たちに、うっと唸りながら視線を逸らす。
「わ、私は……仲間がいたから戦えただけですよ。一人じゃ結局、何もできませんでした」
「……けど、あたしを助け出してくれたんだろ?」
「それだって、レアールがほとんどの敵を引き受けてくれたから、どうにかできただけです」
仮にレアールがいなかったと想像すると……最悪な未来に今さらながらに震えてしまった。
「まあ、わしがおれば別にレアール様がいなくともどうにかなっていたんじゃよ」
アリカの手の甲の魔方陣から、サーシャが飛び出す。
それを見たクラリアがぷにぷにとサーシャの脇腹をつつく。
「なにするんじゃ!」
「……これが、レアール様の魔法。なるほど……」
「何かわかるのですか?」
「脇腹ぷにぷに」
「太っているといいたいんじゃな!?」
吠えたサーシャがクラリアを追いかけ、クラリアはささっと逃げていく。
騒がしい部屋の中で、アリカは席につく。
疲労がどっと体にのしかかったところで、リンが紅茶をおいてくれた。
「ありがとうございます」
「……あたしこそ、本当に感謝しかねぇよ。アリカが、来てくれなかったら……あたしはどうなってたか。結局、あたしってあんまり強くねぇんだな……って思っちまったよ」
「あのとき、リンが守ってくれたから私は戦えたんですよ」
紅茶をすすり、はーと肩の力を抜く。
「アリカ様、リン様。……今はもう過去の失敗を嘆くときじゃないと思うんだよね。今日は……」
といってネイリッタは鞄を取り出した。
その中には様々な菓子や甘いものが並べられていく。
それに気づいたサーシャがささっとテーブル近くへとやってきて、クラリアも鼻をひくつかせる。
アリカはテーブルをベッドによせ、仮の椅子とする。
そして全員でお菓子を食べながら、たくさん笑った。
(……今は、そうですよね。みんなが無事なことを喜ぶのと、団体戦初勝利! あと正式な魔法契約!)
アリカはもう喜ぶべきことがたくさんあって、何で笑えば良いか分からなかった。
だから、全部を噛み締めるように口が裂けそうなほどに笑った。




