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第6話:誰も彼もが何かを迫る

ジュブセ(仮)何話かにつき、ちょいちょい他のシリーズも投稿していきます




 朝焼けの中、白いリーゼントもどきを乱したまま、太郎はうぇっとした顔をしていた。

「クエストといった所で、何ぞ、また面倒な……」

「――えてしてそういうもの。綯夜宰も羅神もまた、日々何がしかのクエストに追われてる。具体的には、特定の周期で三つ四つソシャゲで」

「いや、んな遊び半分の話じゃなくてだな。ま、ぶっちゃければあっちからすれば遊びみたいなものなんだろうが」

 とある国、とある街。現代文明でいう繁華街のようなものだが、ここには花屋がある。花屋といっても如何わしい類の商売、つまりは娼館などだ。時代や状況に関わらず、そいった場所で稼がざるを得ない人間も少なくない。特に戦時需要を見込む国家の場合、外敵を狩り尽くした後の場合はなおのことである。

 それは別にして、太郎は酷く憤慨していた。

 自分の眼下の惨状に対してではない。とある大型の娼館の屋根が爆発した程度は些細なことだ。内部に無理やり「斡旋」していた汚職をしていた兵士や、彼にとって忌むべき対象の一人にしてこの場所のオーナーが、まとめて泡吹いて伸びているのも、騒ぎを聞き付けて集った兵士たちが身元捜しなどをしているのも、実は大した話ではない。

「……多すぎるだろ、いくら何でも。いや、量刑はともかく呪い返ししろっていうのが、また面倒というか。弥生、生きてたけれど」

「――まあまあ、お兄様! ここは我等が創造主に免じてくださいっ」

「綯夜宰に免じろと言われてもなぁ……。助かったことに相当感謝はしてるんだが、仲が良かったとか判断できるほどの面識でもないぞ」

「――シック、失言しました!」

「――その発言が既に失言。でも、実際問題、藤堂太朗の目的を果たすためには必要」

 ちなみに太郎たちは現在、空中に浮いている。眼帯を外してはいないため、魔力を用いたものではない。ならば何故飛んでいる、浮かんでいるかと言えば、太郎の両手をレコーとシックの姉妹が掴んで、ばっさばっさと羽ばたいているためだ。

 そして何より雲の上である。

 太郎は半眼のまま、視界をぐぐっと下にフォーカスしているのだった。

「――ともかく、これで5/112は終了」

「三桁ってどんだけだよ」

 レコーのカウントに、太郎は声こそ出さないが多少げんなりしていた。

 修羅の神、羅神が太郎に与えたクエストとは、すなわち怒りを爆発させろという類のクエストだった。感情が抜け落ちつつある彼に結構無茶なことを言っているが、しかしだからこそよりそのルールは明確なものとなっていた。

 すなわち、彼の愛した花浦弥生を彼の死後、阿賀志摩辻明にそそのかされ嬲った面々を、粛清しろということだ。量刑は本人に委ねられるが、ともかく全員に会わなければならないというのが何よりも、太郎の胸糞を悪くしていた。

 まだ悪くなる胸糞が残っていたことに多少驚いている太郎だが、それ以上に気が落ちる。

「……弥生から話を聞いた時は、考えてみりゃ『名もなき敵』だった訳だからな。考えてみれば、『具体的な人物』になった時点で、何かしらの審判は必要か」

 そう。羅神がレコーに「これゾイ」と手渡したファイル。今回「ぎるてぃ」した亥柿太平をはじめとして、阿賀志摩辻明や枝蔵英夫も記載された人物データこそが、太郎に課せられた審判対象。

 その数、実に112人。

 現在は一角の将になっていたり、証人になっていたり、記憶喪失で彷徨っていたりと様々なパターンがあり、その中で言えば太朗のクラスメートと兵士の比率は1:3くらいの割合だった。

「……三桁か」

「――そりゃ壊れますね!」

「あん?」

 他人事のようにきゃぴきゃぴ言うシックを、下から睨みあげる太朗。「ひッ!?」という声を上げ、彼女はすぐさま黙った。

「……はぁ。ま一旦流す。しっかしまーた『ギガテレポート』の世話になるとは」

 意識すれば、彼の視界にはうっすら横にだだっ広い大陸が見える。それぞれ行った事のある箇所、行った事のない箇所などのマーカーがされており、そして「超重要!」と念を押された箇所に、クラウドルの、花浦弥生が現在生活している宿があった。

「どーでも良いが、マリッサとか他の連中の居場所はクローズアップしねぇんだな」

「――さして興味がないかと思いましぴょん!」

「唐突に来たな、それ」

「――二期放映中ですからねお姉様、ぴょん!」

「あん?」

「――別に原作ではぴょんぴょん言わないぴょん! まぁそれはさておき。機能拡張についてはシックに丸投げして大丈夫」

「わかった」

「――ぴょん!? お姉様、少しお手伝いを!」

「――私は藤堂太朗とおしゃべりしてるから、遠慮する。何か問題でも?」

 視線の圧力に屈するシック。半眼で見上げていた太朗は、何か少しくらいは妹に容赦しても良いか、と思った。

「とりあえず、どっか一回下りるぞ。テレポートやるにも、足場が安定してた方が気が楽だ」

「「――了解」です!」

 言った瞬間、太朗のことをブランコでもするように前後に振るサポート端末(自称)姉妹。

 ぶんぶん振り回し、ぽいっと投げ捨て消失。おそらくは特殊空間たる“幽界天門(アストラルゲート)”に引っ込んだのだろう。だが、太朗にそれを確認する余裕はない。アイパッチを外し、太朗は魔力を放出する。全身がオレンジに、目からは青い光が迸る姿に。

 その状態のまま、太朗は足に魔力を溜めタイミングを見計らう。何せ高度は6.5キロ前後。そこから自由落下に晒されて、太朗本人は仙人なので問題はないだろうが、その周囲への被害は甚大になることだろう。だからこそ、魔力を地面に着地する前に逆噴射するなりして、威力を弱めなければならない。

 そして落下してる中、雲を通過した直後――。


 太朗の目の前に、光のシルエットが出現した。


「何ぞ!?」

 高速で落下してる最中、突然現れたそれに太朗は叫ぶ。両手が鳥の翼をしているような、そんな女性的なシルエット。ただしサイズは太朗の現在の大きさを超え、三メートル近くあるだろうか。そんなものがソニックブームを撒き散らしながら、今にも太朗に激突しようとしているのだ。

 慌てて太朗はテレポートを使う。が、こちらもこちらで混乱していたため、座標設定が甘い。

『――条件解放。“天空の怪鳥”オキュペート。別名“大大天翅(だいだいてんし)”』

「今そんな情報いらん」

『――では必要な情報を。この状態で落下すると、本気で威力を調整しないとヤバいです』

 一秒にも満たない判断でのテレポートにより、角度が大分急降下になった太朗。両足が真っ赤に染まり、色々とメテオストライクな状態である。それでも一切燃え尽きていないあたりが太朗らしいと言えば太朗らしいか。

 加えてである。

「……何ぞ、速度上がってないか?」

 気のせいでなければ、太朗の加速度がほんの一瞬のうちに倍になったような。それこそ髪の毛をちりちりと摩擦する空気抵抗が更に酷くなり、髪型が爆発状態である。

 これに対するレコーの回答は。

『――急いで逃れようとした結果、魔力が上の方向に放出されて加速』

「いや、俺のせいじゃねぇぞ」

『――それでも結局自分でやったことですしぃ』

 どうやら慌てた結果、足に溜めていた魔力が上方向に放出されてしまったようだ。下に噴射して威力を中和しようとしたのに、何という体たらく。おまけに落下先の調整も難しいときているし、足の魔力が減った以上、今から更に集めても間に合うかどうか。

「何ぞ、クッション代わりに出来るもんでもあればまた違ってくるんだろうが……」

『――速報』

「あん?」

 と、太朗の視界端に「速報:ティルティアベルに襲われる村」と表示される。意識してみると、クリックされたように色が変化し、小さなウィンドウが開いた。


 大量発生したティルティアベルが、エダクラーク村を強襲。据え置きのゴーレムが対処するも、数体は村に逃げ込んでいる。


「レコー。これ使えるか?」

『――まぁ、やってみましょう』

 太朗の視界に、先ほどよりは拡大された地図が表示される。ガエルス王国を中心とした地図は、つい先日まで太朗がある目的のために生活していた圏内。そのうちの一角にマーカーが表示されている。

 そこに向けて意識を集中させると、足元の空間が捩れた。まるでブルーシートで身体が覆われるような、そんな見た目というのが正解か。ぬるっとした、ぐらっとした、いかんとも形容するのが難しいそれにより、太朗は体を圧縮される。いや、視界の上では普通に空であり、眼下は山があるというように見えるのだが。

『――出力!』

「よし」

 レコーの一言に合わせて、飛び蹴りのようなポーズをとる太朗。

 そして視界が切り替わった瞬間、彼の足元には「タコの口」のようなものが見えた。うねうねと動く八本の触手は吸盤がなく、独特の粘液を漂わせている。鎧袖に触れるだけで一瞬で蒸発させられるだろう腐蝕液を巻き散らす、クマのような胴体を持つそのモンスター。

 しかし太朗はぶっちゃけ関係ないので、そのまま落下。相当高い高度から落ちてきた分の運動エネルギーを欠片も損ねずのキック、加えて同時に地面に魔力を放った太朗。

 何が起こったかと言えば、落下したエネルギーはその熊のようなタコのようなモンスターの体を中心に、村全体に拡散した。運動エネルギー、すなわち空気振動である。太朗の魔力の方がティルティアベルのそれよりも高すぎたためか、ティルティアベル自体はその一撃で粉砕され、解けて、無害な破片となって粉々に飛び散ったが、それ以上にまるで小型台風でも発生したような破壊力の風が、エダクラーク村全体を襲った。

 アイパッチをして髪を整えた後、太朗は周囲を見回す。

「……何ぞ、おいレコー」

『――て、てへペロ☆』

 ティルティアベルという見るだけで正気度が下がっちゃいそうなモンスターについては、狩人もどきをしていた時に多少知識を得ている。一匹いたら三十匹いると思えと言う森最強の捕食者。本来は農作物などを荒らすのだが、状況に応じて雑食に切り替わりヒトさえ食べるため、発見し次第国を問わず討伐部隊が組まれるほどだ(戦争に利用しても、高確率で共倒れになるくらい扱いが難しい)。

 だが、一匹倒した時点で主に彼(彼等)のせいで村の家の壁という壁、屋根と言う屋根にダメージが入っているのは、流石にいただけない。吹き飛んでいるもの、傷ついているもの、湖我か飼っていたものが完全に壊れたり、色々と問題のある光景だった。

『――け、計算違いではない。今の一撃で、他のティルティアベルもダメージを負った』

「巻きこみすぎだろ。あー、ま、そこは本人達に任せるか」

 肩を竦めて、太朗は手を掲げる。と、どこからともなく黒と金色の日本刀が出現。妖刀「バンカ・ラナイ」である。

 彼はそれを、先ほどの一撃でぶっ飛ばされたティルティアベル側に向けて、半分まで抜刀して納刀。

 と、瞬間的に斬撃が飛び、四体の胴体を見事に真っ二つにした。腐蝕液が多少飛び跳ねたが、人命を奪う程ではない。

「はぁ。じゃあサポート頼むぞ」

『『――今度こそ了解』です!』

 そしてギガテレポートを敢行する太朗。古い級友に会うこともなく、本当についでに来たといった感じである。ちなみに村長たる枝蔵英夫は、現在ゴーレムたちと一緒に戦って大部分の群れを片付けて居るところだ。

 だからこそ。そんな枝蔵英夫の娘が、太朗にたった今守られた事に彼自身気付いていない。かつて父親を庇った勇敢な少女が、今、リーゼント姿の彼に守られたという事実を。

 このせいで百何年か後、太朗がちょっとしたトラブルに見舞われることになるのだが、それはまた別な話。

 ともあれ、機関王国へと転移した太朗を最初に待ち構えていたのは。


「あ、どうも。ご無沙汰しております」


 背中から羽根を生やした、とんでもなく美しい女性――“運命の女神”アエロプスがその場に居た。

 

 

 

 

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