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モグリの鍛冶師  作者: 英心
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八話  「難題な客」

8話目となりました


鍛冶師の仕事が減った理由が判った。簡単な話だ、俺の作品より少し性能は落ちるが、流通している商品より優れたものが格安で売られているだけだ。別に俺は、それでも構わない。


 所がソレでは困る連中が居る。そう、世に居る一般鍛冶師の連中だ。何だ彼だ言いながら、俺と鍛冶師ギルドでは住み分けが出来ていたからだ。奴等に俺が作る物は、到底真似る事は出来ず。高額な値段を請求していたからだ。


 なので、俺の仕事が減った理由も実は鍛冶師ギルドからの知らせで判ったのだ。奴等は、俺にどうにかして欲しいらしい。知った事かと俺は思う。元々出回ってる武器も俺の作る奴より性能が劣るなら問題無い。返って、見栄っ張りな客が俺の所に依頼してこない分、清々すると感じていた。ソレだのに何をトチ狂ったか知らないが、ギルド職員は俺の為に態々情報を流したと言いやがる。本当に虫唾が走る奴だ。


「あぁ~暫く様子見るしか無いな~所で、その鍛冶師は誰か突き止めてるのか?」

「いいえ、…名前を偽名してるらしく、まだハッキリと確定はしていません」

「じゃ~俺としては静観するしか手が無いな。なんてったて俺モグリだし」


捨て台詞を残し俺は、虫唾の走るギルド職員の前から消える事にする。


 偽名で安売りって事は、本職の鍛冶師か?だとすれば、誰だか検討は付いてる筈だ。正会員に対して、対応に困ってるってのが実情か。と俺は勘繰る。つまり、正会員なら、価格の設定はある程度、各自の裁量に任せてある。客にしてみれば、安くて物が良いなら、有難い話だ。良い物を作れないのは、才能の無い奴・技術不足な奴等だ。俺から言わせれば自業自得って事だ。


 訳が判れば、俺の対処は一つしかない。更に出来上がった武器のランクを上げれば良いだけの話だ。特に材料費や作業が難しくなる訳じゃ無い。『手を抜く』作業を一つ削れば良いだけなのだ。ランク3からランク4に上げ価格据え置きにすれば、本当に欲しい奴は戻ってくるだろう…来なければ、店を畳んでもOKだしな。


「旦那様。どうですか!?モネも加わった事ですし、以前の様にどちらかに花見とかサイクリングに出かけませんか?」


 レナは、どうやら仕事が無くて俺の心配をしているらしい。…いじらしいじゃないか、主人に対して奴隷が心配する等普通じゃ考えられない不敬に当たるが、ウチの二人はお構い無しに俺を心底心配してくれる。ソコが俺には無性に可愛く思える。


「そだな~いっその事、どっか遠い国にでも旅行に行くか!?」

「旅行ですか!?」

「あぁ!半年否、1年でも良いぞ。見た事の世界を見せてやる。どうだ!?」

「…それは、ご辞退申し上げます」

「ん?どうしてだ?氷の世界とか見たいって、以前言ってたじゃないか」

「ハイ。ですが、今の状況では有りません。…僭越ながら旦那様には、やるべき事が在ります。昨今鍛冶師ギルドで問題になっている案件。解決ならさるべきかと」

「私共は、2人とも旦那様の忠実な僕で御座います。と同時に鍛冶師の旦那様をお慕い申し上げております。この様な形で、旦那様の鍛冶師としての灯を消さないで下さい。どうせ最後を飾るのであれば、旦那様に相応しい終焉が御座いましょう」


 そこまで、鍛冶師に固執している訳でもなく、力量で負けたツモリも無い。だから俺は今回の件、まったく何の感情も湧いてなかったのだが、どうやら2人には自暴自棄に俺が成っている様に見えているらしい…本当に愛らしい2人だ。


「よぉ~旦那!どうだい?相手とは話は纏ったかい?」

「…スマンが、ワシの頼みを一つ聞いて欲しい」


 酒場の一角で、俺は鍛冶師GMと差しで酒を酌み交わしていた。あんまりウチの2人を心配させるのも悪いと思ったからだ。そして、目の前のGMにも、幾ばくかの借りが在る。だから、俺は思い腰を上げ二人で酒の席を設ける事にした。


「…なんだ!?力比べでもしろってか?」

「そうじゃ。実は…王国から既に男爵様に話が来ておる。王都で御前にて互いの矛盾を比べさせろとな」

「かぁ~!面倒臭せぇ~。作っても良いが、俺が人前に出るのは御免だぜぇ」

「お主が、そう言うと判って居るから尚、頭を痛めるのじゃ!良いか御前で認められれば、一気にお主の名声と富。全てが手に入るのじゃぞ」

「そして、自由も奪われる。…別に金で言えば、俺は既に働かなくても豪遊する分は稼いだ。名声なんてクソにも成らん。それに…下手をしたら王都暮らしにでも成ったら、此処の教会の寄付や孤児院への寄付は誰がする?」


 GMは数少ない俺の自慰的行為を知っている男だ。俺のお蔭で、この町の人口が増えている事を知っている。それは、男爵も同じだ。だから俺の言葉の意味を十分理解していた。


「御前試合では、身代わりを立てろ。それで相手が納得しないんなら、非公式で俺を尋ねさせろ!改めて受けてやると伝えれば良い。其れが俺の最大の譲歩だ」


 結局GMは折れるしかない。俺の指図通り事は運ぶ。そして結果も見えていた。敢えて、俺は素っ気無い鋼鉄の剣と鎧を作って代役に持たせた。但しランクは、どちらも7だ。アマダン鋼のランク4でも俺の剣と鎧には歯が立たないだろう。傷一つ付かなかった剣と鎧は、そのまま王に献上される事になる。当然、莫大な金額をギルドに請求しといた。


試合後、謎の鍛冶師の作品は急速に市場から消える。その代わり俺は、ランク2の製造方法をギルドに流してやる。トバッチリを受けるのは客だからだ。


騒動は落ちつき、鍛冶師ギルドに活気が戻る。但し俺は機嫌を損ねる日々が増えた見栄を張る客が以前より増えたからだ。そんな輩はモネに対応させる。彼女を買っていて本当に良かったと思う。今夜はキッチリ可愛がってやろう。


そして一ヵ月後、俺の元を尋ねる影が在った。


「御免下さい。コチラにエイジス殿は御出でですか?」


レナが接待に向うが人影は無い。気のせい?と思えば

「…いえ、此処に居ります」


カウンター越しで見えなかったが、客はカウンターより、遥かに小さい娘が1人立っていたのだ。


「…本当に君が?『はい。私です』…名前は?『エノーラと申します』…で?」


などと押し問答を繰り広げ、この幼い少女?が俺のライバル(自称)が名乗り出てきやがった。…一体俺に何を求めてやがる!って思いだ。


「私を弟子にして下さい」


下種な客より難題な問題が浮上しやがる。やっぱり押し切って旅行に行けばと良かったと、今更ながら後悔する俺だった。



八話  「難題な来客」  完


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