三話 「ご婦人の願い」
3話目です
昨日は久しぶりに鍛冶師ギルドからの依頼で大口の仕事を終え納品したばかり、
今日は一日仕事を休もうと決め込んでいた。
えっ!なんでギルドの仕事を?って…そりゃ別に俺達は仲違いしてる訳じゃない
単に組織に組しているか、どうかの違いさ。それに知人のGMから
大好きな酒の誘いを受けたなら、断る理由は無いだろう。それが先週頭の話さ。
結局俺は酒に釣られて、仕事を個人的に請けたに過ぎない。
個人が個人に依頼する。
いつもの流れって事で、ギルド組織は目を瞑るしかないのさ。
「くそ~手間隙掛かるだけで、金に成らない仕事がやっと終わったんだ。
2~3日仕事はしなぇ~ぞぉ!」
誰に言い訳するで無く、独り大声で叫んだ俺は休養宣言を発し、いつもの
温泉宿へ、しけこむ事にする。そそくさと戸締りを済ませ、手荷物片手で
家を飛び出した。
向うは同じ町だが、違う区にある温泉宿だ。温泉宿と言っても
こっちじゃ湯船に浸かる温泉では無く『蒸し風呂』って奴さ。
歩いて行くには、ちょっと距離があるが、散歩がてらに丁度良い。道すがら、
ご近所の商店を見て廻るのも乙なものと洒落込んだ。
「よぉ~旦那!お出かけかい?良いね~朝っぱらから。…所でさっき、綺麗な
ご婦人が旦那の家を訊ねてたが、お会いになりましたかい?」
『いや会ってない。どうせ仕事の依頼だろ!?俺は今日休日にしたんだ』と
心の中で叫びながら、声を掛けた八百屋の店主に会釈して分かれた。
10分程歩き町の中心に差し掛かった所で鍛冶師ギルドの職員と出会う
「エイジスさんこんにちわ。昨日は助かりました。今からどちらへ?
冒険者の方は、時間に余裕があって羨ましいですな~」
「うるせぇ~よ!コッチは疲れてるんだ。温泉で疲れを解消してくんだよ」
「そうそう。あまり外で営業しないで下さいね。さっきも綺麗なご婦人が
エイジスさんの事をお尋ねにウチに来られましてね~とりあえず、
冒険者エイジスさんの事はお伝えしましたケド、お会いになりました?」
「・・・いや会ってないよ。まぁ~縁が無かったって事だ」
後ろ髪引かれる思いはするが、俺はこのまま宿へと足を進めた。
歩いて小一時間。やっと温泉宿が見える小道に差し掛かった所で
宿の女将『ライラさん』と出会った。歳は38。小股の切れ上がった良い女だ
俺の所に女性客が増えたのは、この人が噂を流したからでも在った。
そう俺は、俺達は、何度と無く関係を結んだ事がある。
…言っとくが、ライラさんは未亡人。フリーな女性なんだ。
独身だからな!俺は他人の女性には手は出さない主義なんだ。
「あらエイちゃん。もう話は終わったのかい?」
話?話って何だと俺は考え、顎に手を置いてみる。
「アラ!嫌だ。まさか入れ違いになっちゃのかね!?直に自宅に帰りなよ」
「嫌々女将さん。俺は宿に、しけこむ為に態々歩いて此処まで来たんだ。
とんぼ返り、だなんて殺生だぜぇ!」
「何言ってんの!お客在っての商売なんだ。サッサと戻って仕事しなさい」
俺は、この女性に頭が上がらない。幾らAVで仕込んだといっても経験値が
低かった俺を無双に引き上げてくれたのは、この人との関係が大きかったからさ。
強く俺を押し返そうとする女将に訳を聞くと、昨夜の客が俺を頼って遠くから
訪れていたらしい。
その女性も女将と同じく独り身で、女手一つで息子を育てた
その息子が剣を担いで家を出るって話で、どうしても立派な剣を与えたいって
親心・母心なんだと。
「話を聞く限りじゃ~息子の身勝手な振る舞いで母親置いて出て行く話じゃ
無いのかい?そんな親不孝な息子に剣を造るのはどうだろう?」
「あ~そうでも無いみたいよ。何でも『コロッコ族』は、独り立ちが前提の種族
って話で、旅立ちは大切な儀式の祝い事って聞いたわ」
「ふ~ん。そうなんだ。でもコロッコ族なんて聞いた事も無いな」
「ええ。普段は森の深くに住んでる妖精族なんですって」
「妖精ですか!」
「そうよ。とっても綺麗なご婦人よ。エイちゃんも一目惚れするわね。
ホラ!こんなトコで立ち話もなんだから、ささっとお帰りになりなさい
そのうち。私の方から遊びに行くからさ」
結局女将に押し切られ。オマケに急げと言われたので、俺は来た道を引き返す
オマケに片道1時間の道程を走って帰る羽目に成る。
「ぜぇ!ぜぇ!ぜぇ!。くそ!…今度しっかり…運動しなきゃな」
肩で息を切らす俺は玉の様な汗を流しながら、玄関先で膝を崩してバテてた
「もし!もし!」
誰かが俺を呼ぶ声がする。中々に透通る様な綺麗な声だ。
後ろを振り返るが人の姿は無い。
「もし!?貴方様が噂の鍛冶師殿ですか?」
再び声がする。しかし目の前には、誰の姿も見えない。
「貴方がエイジス殿で間違い何のですか?」
三度声がしたので俺は応える
「俺がエイジス本人だ。貴女が俺を探してるコロッコ族の妖精さんですか?」
「あぁ~良かった。何度お呼びしても返事が無いから、諦め掛けておりました」
「どうやら、入れ違いだったらしいですね。宿の女将から話を聞いて走って
帰って来たんですよ。所で私には貴方のお姿が見えないんですが…
一体、どちらにおいでで?」
すると足元に何かが当たる感触がある。下を俯いて覗いてみると、ソコには
4インチ程の、大き目の虫?が俺の脚に触れる姿が飛び込んだ。
「はじめまして。私はコロッコ族の『セラフィス』と申します。
確かに…確かに綺麗なご婦人だよ。透通った背中の羽も綺麗だし。青っぽい髪色
も素敵だと思う。色白で、よく見れば細くも無く太くも無いプロポーション。
ふくよかな体のラインも凹凸がハッキリしていて、色気もあって確かに
一目惚れしそうに成るケド…そう!日本の匠が作り上げた精巧なフュギャアって
ご婦人さ。だけど、だけど全長4インチ。10センチの女性と、どうすれば
良いんだって話だよな!
聞けば、息子の為に剣を頼みたい。大針蜂の針を用いた『ホーネット・エペ』が
御所望らしい。材料もしっかりと用意してあるが、支払金が足りない。
つまり、このご婦人も、俺と関係を結んで依頼したいって事なんだ。
俺は悩みに悩んだ。解決策を編み出す方法を模索する。
えっ。何を悩むかって?そりゃ~このご婦人と晴れてエッチをする方法さ!
武器を作る事は簡単だ。普通に作れば良い。出来上がった剣に『スモール』って
魔方陣を刻めば永久的に剣は小さいままなのさ。問題は俺とご婦人の体のサイズ
の差をどう埋めるかだ。何だって!?俺にも『スモール』の魔法掛ければ
良いだろう!って!?それが生物じゃ精々30分が限界なのさ。
取り合えず、方法はコッチで考える。1週間時間を貰う事にして『セラフィス』
さんには、一旦女将の宿へ帰ってもらうことにした。
約束の日の朝。ちゃんと妖精セラフィスさんの手元にサイズの合った小さな剣
『ホーネット・エペ』を手渡すと凄く喜んでくれた。息子の旅立ちの儀式に
まで日にちが無い。日を改めて支払いに訪れると約束し彼女は一旦帰宅した。
俺はその間着々と準備を進めていく事にする
一週間後。彼女は突然現れた。無事間に合い息子を盛大に送り出したそうだ。
息子も俺の剣を喜んで自慢して村中に見せびらかしていたらしい。
そして彼女の支払いの時が訪れる。俺が悩んで出した答えが。
魔術式を刻んだペンダント。一旦彼女を『ビッグ』で人のサイズに大きくしたら
魔法のペンダントで『継続』魔法を持続させるハイブリット方式だ。
こうして俺は、人類初の妖精とのベッドインを果した無双野郎になった訳だ。
いや~妖精って本当に病み付きになっちゃうね。アレは正に天にも昇る思いだ
って横で寝てるライラさんに話して聞かせたら、おもいっきり鼻を摘まれ痛い
オチで終わった異世界での、ファンタジーな話だぜぇ。
三話 「ご婦人の願い 完
如何でしたか?