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モグリの鍛冶師  作者: 英心
2/11

二話  「その名はサクラ」

2話目となります


今日は朝から忙しい。特に仕事が詰まってる訳ではない。午前中の客が話が長い

だけだ。客の名は…忘れた。この国の伯爵って事だけは覚えているんだが…

まぁ~風来坊な俺には、この国の貴族様が誰であろうが知ったこっちゃ~ない


「見た目がゴージャスで煌びやか。誰が見ても溜息が漏れ且つ

 王家に角が立たない様な剣と鎧一式」


反吐が出る依頼だ。内容が余にも抽象過ぎたので俺は困ったが、

この手の客は初めてって訳でも無い


「でしたら…材質は鋼としミスリルでコーティング。プレートアーマー一式と

 剣はレイピア系、盾はタワーシールドは如何ですか?

ミスリルの輝きと美しさが着る方の格を上げる装備となりましょう」


「…うん。素晴らしい。今回、王家より長く忠誠を尽す当家に勲章を承る事に

 なってのぉ。その授賞式に鎧一式を新調しようと思ったのじゃ…」


なんて、やりとりしたのが先月頭の話で、今日がその納品って訳だ。

材料が揃ってるんなら、半日仕事で出来上がるんだが、俺の工賃として18万£

も請求してっから、ワザと時間が掛かる演出をしたって事だ。

今日の午後からの客と重なるんなら、一日早めの納品をしときゃ良かったと

後悔したもんだ。


ホニャララ…伯爵は出来の良さに感激し満足げに帰って行った。


さて、あと二時間もすれば、今日のメインゲストのご到着だ。俺は急いでランチ

の仕度に掛かる。


午後に訪れる客の名は『サクラ』彼女はこれで、三度目の依頼となる。

初めて依頼してきたのは7ヶ月前。初めの依頼品は赤漆当世具足の篭手だ。

一目見て、彼女が同じ日本人では?と思ってしまう。

余にも驚きすぎて名前を聞くことさえ忘れた事を覚えている。


そして二度目が2ヶ月前に同じ赤漆当世具足の兜を依頼。本当に日本人なのか聞き出せ無かった。そして今回三度目は、胴を含む残りの全てだ。1年に三度も

俺に依頼し続けるには、資金的に厳しかったのだろう。何所かで他の支払い方法

が在ると聞き付けた彼女がその真偽を確かめる為、今日相談と依頼に訪れる


「や、やぁ~こ、こんにちわ、エイジスど、殿」

「いらしゃい。サクラさん」

「きょ、今日は、せせせ、先日ははは、話していた件についてなな、なのだが」


えらく緊張しているサクラに先ずは昼食を誘う事にした


「出来たら先に食べながら貴女ともう少し打ち解けたいと思うのですが」

「な、なんるほど…うん。互いを知る事も大事ですね。わわ、私も同意します」


「コレは!?」


あ~彼女の反応で俺はガッカリとしてしまった。俺が今回作ったランチは

『ハンバーグステーキ』彼女が日本人なら、直に解る料理と思ったからだ。

だが、彼女の目は初めて見る目をしていた。


食事をしながら、彼女の生い立ちをザックリと聞いた。

この大陸を横断した反対側の海岸沿いに彼女の祖国は在るらしい。実は彼女は

3世つまり、祖父母がこの国へ移民し、彼女はこの国で生まれ育った。だから

祖国を知らない。祖国の名は『ジポン』どことなく『ジパング』や『ジャパン』

に似ているが、黄色人種で黒髪の人が多い国らしい。


結果的に彼女『サクラ』が俺と同じ日本人で無い事は残念だったが、俺が

一目惚れした事実は変わらない。


この国の女達はどれも俺にはオーバーサイズなのだ。ボリューム万点なのだが

俺にはアウェー感が拭えない。横に立つとまるで、ペットの猿に見えてしまう。

その点サクラは、日系二世とか三世と言った感じで、俺が横に立っていても

様になる。まぁ~見た目の釣合だけで言えば、そんな感じだ。


肝心なのは中身だ。さっきから判る様に彼女は俺と2人っきりで話をすると

緊張している。ソコも気に入っている。恥じらいと言うか奥ゆかしさが彼女には

在ると思えた。


「でで、ソロソロ本題に移りたいのだが、良いかな?」


「う~ん。今回は残り全部となるから…4万5千£と云った所か、

 まぁ~三回目だしマケテ4万£だ」

「そうか、やはり高価だな…5千£もマケテくれるのは有難いが、資金は遥かに

 足りないか…ででで、そそそそ相談なんだが、貴公には現金以外の支払いが

在るとききき、聞いた誠か!?」

「それは先日と同じ質問だが、答えは…『在る』だ。金額に応じて俺と共に過す

 時間だ。支払額が多ければ、それだけ俺と過す時が長くなり。逆に小額なら

行為自体も極端に変わる。…で!?今回幾ら足りないんだ?」


「・・・正直に言おう・・・全額だ。いや、正確に言えば、材料の一部も無い

 赤漆がどうしても手に入らなかった」

「・・・貴公が材料全て持ち込みなのは知っている。今回。今回だけは、

 その材料分も込みで依頼を引き受けて貰えないだろうか?」


俺が材料持ち込みを掲げるには理由が在る。一つは『モグリ』の俺では材料費が

高い仕入れになるからだ。次に俺は材料集めに危険な狩りに行きたくない。

三つ目にどうしても欲しい武具の材料位己で集めろ。が理由なのだ。


今更彼女にそんな話をしても意味は無い。本音を語った彼女に本音で返す。


「赤漆、君の依頼分位の量なら俺が持っている。君なら価格以上の手間と時間を

 理解してると思うが、それも含めてどう支払うつもりだ?」


「エイジス殿が…望まれる時間を共に過そう…と思う」

「その意味は…本当に理解してるのか?」

「わわ、私は初めてだが、そそ、その意味と仕方位は知っている。

 出来るならとは思うが…貴公、貴公ならば…奪って貰っても良いと思った」



「じゃ。これからデートに行こう」

「でーと?」

「ああ。俺と連れ立って買い物したり、散歩するんだ。但してを繋いでだ」

「てて、手を繋ぐ!公衆の面前でか!?」

「そうだ。なんなら何所かでチューをしても良いかな」

「tytyちゅ、チュウーだと!きき、貴公は公衆の面前でそんな破廉恥な

 行為を私に押し付けるのか?そそ、そんな悪趣味が在ったとは!!」

「おいおい、チューなど、この国では当たり前の様に外でしてるだろう。

 君だってここに住んでるなら、何度も見ている筈だ」

「確かに見て知っている。だが!アレはパートナーだ。彼等はパートナーとして

 将来を誓い合ってるからだぞ!」


いや~今ドキ、そんな奴は1/10も居無いぞ!と俺は思ったが、無理に彼女の

貞操観念を崩す気はない。そこで別の提案を出す。

現在彼女に特定の影は無い。家は一人暮らしって事は確認済みだ。


「なら、買い物を一緒にして後は此処に一週間滞在だ。それ以上譲歩は無い」

「ぐっ!…判った。その条件を呑もう」

「ありがとう。ではお礼に。その滞在中に防具は君の見てる前で作ろう。それと

 材料は全て俺持ちだ。君の分は金に替えると良い」


こうして一週間『サクラ』は強制的に俺と短い同棲生活を始めた。


◇ ◇ ◇ ◇



自慢の風呂で身体を温め、リラックスさせる為身体にマッサージを施すと

緊張が少し解け始める。スキンシップは大事だと熟々思う。

肩を揉み、背中を押していく。足の裏を押せば痛みを挙げるが、脹脛から

フトモモへとマッサージを続けると痛みから気持ちよさに変わる。そして

彼女の胸に触れると今までとは明らかに違う声が漏れ出した


「その~なんだ。初めてなのだ…優しくしてくれ」


怯えた声で俺に嘆願するサクラ。彼女の唇に唇を重ねると、小さく震えていた

やがて、その震えは小刻みに増え続け、彼女の体は次第に汗ばんでいく。


その日の夜。俺の寝室で小鳥の囀りは永く鳴き続けた。羽根を広げた小鳥の舞が

俺を更に虜にさせる。そして…朝日を共に迎える事に成る。


それから一週間。朝昼晩と俺の作る料理にサクラは驚いてばかりだ。

どれも彼女には、新鮮で旨かったらしい。

普段人に見せる事無い作業風景に彼女は感動と驚きを見せていた。

時に一緒に町へ買い出しに行き、共に風呂へ入る。そして小鳥の舞と囀りを

俺は、俺達は楽しんだ。そして約束の日。


依頼は『赤漆当世具足』だ。以前作った品も一旦解体、再構築。全ての装備に

ランク4とし、付与魔法を施す。アマダン鋼の『打刀』と『脇差』は俺からの

プレゼントだ。


「これは…」

「持って行くと良い。それと具足に施した付与だが、君と君の仲間を窮地から

 救ってくれる筈だ。…死なずにまた顔を見せに来てくれ。約束だ」

「ありがとう」

一言礼を言って『サクラ』は俺の下を去った。


俺に鎧を依頼してきた女に残れとは言えない。彼等は冒険者。

己の力を信じ進む者。所詮脱落した俺が止める事等、おこがましい。

ただ、願うは惚れた女が再び俺に姿を見せに来る事だけだ。


出来るだけの仕事を俺はした。持てる力で彼女の鎧と剣を仕上げた。

後は彼女の運に任せよう。再びサクラと逢える事だけを俺は願いつつ彼女を送る


二話  「その名はサクラ」  完


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