一話 「モグリで商売しています」
一話完結型を目指しています。
R-18でも良いかなと思いましたが、まずはR-15で書いてみました
俺の名はエイジス。モグリの鍛冶師だ。何がモグリかって?
鍛冶師ギルドに登録してないってだけさ。
なんで正規の鍛冶師に成らないのかって?
そりゃ~正規に登録すれば、材料は安くで手に入るけど、その分、受けたくない
仕事も舞込んで来るからだ。人に縛られるなんて、もうゴメンだね。
それで、建前上俺の本業は冒険者ってことさ。冒険者なら依頼を受けようが
狩りをしようが自由だからだ。じゃなんで冒険者をしないのかって?
そりゃ~怖いからに決ってる。
…そう俺だって、三年前は違ったさ。
訳も判らず気がつけば知らない世界に放り出されていた。最初の3分は驚きと
戸惑いだった。1時間後には異世界だって認識して感動と喜びで一杯だった。
2日後には、やっと町に辿り着いて、即行で冒険者登録を済ませたよ。
そして1週間後に現実って奴をマザマザとこの目に焼き付けさせられた。
知り合ったこの世界の仲間と共に、狩りに出かけた俺達は、簡単な仕事だと
請けたのにも関わらず、魔物に太刀打ち出来ずボロボロになった。
2人が死んで1人は左腕を失い、冒険者家業をその日に廃業した。
五体満足だった俺は、そのまま引篭もりになった。
そして1年前、冒険者繋がりで剣を一本造ってやったのを切っ掛けに
モグリの鍛冶師に成ったって訳だ。
高山英司29歳普通のサラリーマン。それが俺の本名と隠している素性だ。
何でこの世界『ド・ワール』に来たのかは判らない。
気がつけば、草原にポツンと突っ立てた。
転移者ならではのチート的能力で色々便利な生活を送ってる。
ド・ワールは、元の世界と比べると文化レベルは中世時代によく似てる。
アスファルトや電気は無く、風呂に入る文化も無けりゃ、料理は肉を焼くか
野菜を煮込む位しか無かった。だから正直金は在っても使い道は少ないんだ。
服の流行とかも無いから、年中同じ服着てても馬鹿にされないしな。
ただ魔法が意外と便利で使い勝手は良い。中古の家を買って自前の魔法で
リノベーション。デカイ風呂で満喫すれば、アクセク働いてたサラリーマン時代
が嫌になり、勝手気ままなモグリ家業に落ち着いたって訳だ。
俺に依頼をする条件は只1つ、材料全て持ち込み。俺は製造オンリー。
馬鹿高い請求を吹っ掛けるんだが、中々出来上がる品が一級品って事で
後が絶えないって訳さ。
こう言えば、コミュ障害の偏屈男に聞こえるかも知れないが、日本じゃソコソコ
モテてたと自負していたさ。所が此処はマッチョが好みらしい。お蔭で俺の恋愛
は惨敗続きで更新中。そんな俺に、日の目を見る切っ掛けが3ヶ月前に在った。
一人の女が例の如く俺に仕事を依頼する。所が支払う金が無い。
そこで女が取った行動が、身体で払うって事だった。
マッチョな男は力で只攻め立てるエッチしかしない。散々AV見て学んだ俺は、
その女を何度も昇天させてやったのさ。
すると、噂が噂を呼んで、今じゃ女の客の大半は身体で払う奴が増えている
オマケに我が家の風呂も女達には人気が高い。良い感じで俺のハッピーライフは
回り始めているとこだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「う~んん」「アァハァ~ン」「…アッ!アッ!…ア~ン」
「…ウフッ。あなた…見た目は華奢で物足りないって思ってたケド…凄いのね
あんな風なエッチだ…なんて、生まれて初めてよ。オマケに鍛冶の腕も
超一流なんでしょ。素敵だわ」
「う~ん鍛冶の腕が一流とは言った事は無いが…客が絶えないのは事実だね
それよりベッドの上で一流って呼ばれる方が俺としては嬉しいケドね」
「そうね…確かにテクニックは凄いと思うわ。でも…私は太い腕に力強く
抱締められるのも好きよ。貴方とは真逆な事よね…でも満足したわ
…明後日には依頼の品、出来上がるのよね!?」
俺は『またか』と心の中で呟きながら、横で裸で寝る女に応える
「あ~問題なく明後日。『銀の剣』ランク3を1本。確かに御請け致しました」
「ウフッ。そういじけないで、正直に気持ちを伝えただけよ。それに貴方との
エッチも忘れがたいモノよ。剣が依頼通りだったら、またお願いするから
だから…剣はちゃんと造ってね」
「それは抜かりなく作るさ。人の命が懸かる武器だから手抜きはしないさ」
「ソレを聞いて安心した。それじゃ帰るわね。素晴らしい一時をありがとう」
女は俺と会話をしながらサッサと服を着始めて、依頼に手抜きをしないと確約を
取ると、俺の家をソソクサト出て行った。
「あ~…なんて名前だったけ今の客…まぁ~良いか」
名前も覚えて無い依頼者と支払いの情事を楽しんだ。客が帰るのをベッドの上で見送り、一人タバコに火を付ける
「まぁ~良いか。さて飯の支度でもするか」
『アーデレール』と云う名のこの町の一角に中古の家を買ったのが半年前
序に自前の魔法でリノベーションし自慢の風呂を設けた。キッチンもそれなりに
広く使い易い。日本で一人暮らしが長かった俺は料理の腕もこの世界では
『超』が付くほどだと思っている。だが、今の所自慢の料理を一緒に
食べてくれる女は俺には居無い。家も在り自慢の風呂も完備。
仕事は選んでいるが金は潤沢に在る。ベッドの上でも自慢出来るほどだ。
それなのに…俺には心休まるパートナーは居なかった。
「あら!エイジスさん。今日は新鮮な魚が入ってるわよ買ってかない?」
「よ!旦那。こないだの酒旨かったよ。有り難うな今度余った鉱石持ってくよ」
「おじちゃ~ん飴ちょうだい」
…こんな風に俺はいつの間にかこの町に馴染んじまった。だけどまだ迷ってる
元の世界に帰る方法を探すべきか、此処に骨を埋めるか…今の所、ド・ワール
の暮らしが俺には贅沢すぎる位合っているが、パートナーが見つからない寂しさ
が心の何所かで『帰りたい』と叫んでいた。
一話 「モグリで商売しています」 完
如何だったでしょうか?
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