本日も妖世界は平常運転です
「・・・」
この家の主であるお面屋を見て、居候のカゲロウはため息を付いた
この世界に来て、お面屋に会って名をもらいすでに二年の時が過ぎていた
(妖世界に時間の概念があるのかはわかんないけど)
一方でお面屋はニコニコと笑いながらカゲロウを見ている(と、いってもお面だが)
カゲロウがため息を付いた理由は至って簡単である
お面屋がお面を一つ無くしたということだ
お面を売る商売をしているくせに無くすとは何事だとカゲロウは再びため息を吐いた
「そんなことよりさ、お客さんのとこいかなきゃね??」
ニコニコとお面を買いに来た客を見てお面屋は笑う
お面屋はいつでも気楽に生きている
まったくその通りだとカゲロウはため息を吐きたくなったが、お面屋がすでに客の処に行ったのを見て空を見上げた
最初の頃はこの世界に馴染めず(妖にびびったこと含め)四苦八苦していたが、慣れてしまった自分を感じて苦笑する
本来ならば、天に召されるはずだったこの魂だが何故かこんな世界に来てしまった。
自分が人間だった頃は、まさか妖と呼ばれるモノが本当に存在するとは思ってもみなかった
お面屋に聞いた話だが、時より人の魂が迷い込んでしまう時があるらしい
その大半は過激派な妖に喰われてしまうらしいが
「ホラほら!そんなとこに突っ立ってないでコッチを手伝ってくれ給えよ!!カゲロウ!」
お面屋に呼ばれ、渋々とカゲロウは手伝いを始めた
ちらほらと通りを歩く妖は、人の姿に近いものも居れば、妖怪や動物に近いものもいる
なんともいいがたいな、と思いながらカゲロウはお面屋に従いお面を取りに室内へと向かった
多種多様な表情、形のお面が並んでいる
何度見ても不気味だとカゲロウは内心で小さく毒づきながら
お面屋が書いた絵を参考にお面を取っていく
100を超えるお面の数だが、その全てを暗記しているお面屋もやはり人間とはかけ離れた存在なのだなぁと思わざるを得ない
それか余程の才能を持った天才か
(ま、この世界に人間は居やしないか)
「いやいや、狸一族さんにゃいつもお世話になってますぜ。うちのお面をご贔屓にきてくれてるじゃありませんか」
お面屋の機嫌の良さそうな声を聞いて、部屋の奥からちらりと顔を出してカゲロウは、話し相手をみる
ゴマをするお面屋の、前には大きな風呂敷を背負った小太りの子供に見える
鼻が特徴的で、袴の間から狸の尻尾が覗き出ていることに目を伏せれば、人間とそう変わらない
「うちの旦那が、ここのお面をたいそう気に入ってるダス。これからもよろしく頼むダスよ」
ガラガラとしたダミ声の狸は、尻尾をゆらゆらと左右に揺らしながら上機嫌に帰っていく
あの風呂敷の中はすべてお面なのだろうかと考えを巡らせていると、ムスッとしたお面をつけたお面屋がこちらに歩いてくる
「はぁ〜、狸はいい金づるだけど、お面の良さをわかっちゃァいないね。使いに買いにこさせて自分は直接選ばない所もいやだねぇ」
「狸一族って言ってましたけど、他にもいるんですか?」
「あぁ、狸は体の大きさで偉さが決まるのサ。ありゃ随分小さいから、使いだろう」
お客さんの声に反応したお面屋はにこやかに店に戻っていく
(妖も集団生活するんだな)
どうも2年間で出会った妖は自由気ままで他社に干渉しないモノが多かったが、全体で見るとそうでもないのかもしれない
(でも俺が出会った妖は、全てお面屋関連の妖ばっかりだ)
お面屋の自分を呼ぶ声に返事を返しながら、カゲロウも客の対応に向かう
第一咄 本日も妖世界は平常運転です