試験
「さあ、試験を始めよう」
そういったテンパスの言葉で、スリンはあっという間に別世界へと入り込んでしまった。
目の前は真っ暗で、何があるのかすらわからない状況で、スリンは一人手探りで歩き回っていた。
前も後ろもわからず、何の音も聞こえない。人がいるという気配すらない。
それも当然、これはテンパスが試験のために新たに開いた空間世界だからだ。
完全に現実世界と隔離されて、スリンはとても不安になっていた。
「ウムス……」
そう、声に出してみたが、答える様子はない。
前に何があるのかがわからない状況がこんなにつらいとは、スリンも思っていなった。
「ウムス、何があったのかわからないけれど、あなたがこんな状況に身を置きたくなるなんてよっぽどのことだったんでしょうね」
スリンは思わず、そうつぶやいていた。
「ここは怖いわ。ウムス、ジルフェ、オンディーヌ、ザラマンダー、リグナム、みんな、きて」
それだけ言うと、スリンは気を失った。
現実世界では、急に消えたスリンを見て、五人の精霊は固まっていた。
「まさか本当にやるなんて」
ジルフェは驚きのあまり、口元を手で覆っていた。
「ねえ、テンパス、もしスリンが私たちを呼べなかったら、あの空間に置き去りということはないでしょうね」
テンパスは、にやりと笑った。
「察しがいいね、ジルフェ。その通りだよ。だってそうでもしないと、君たちとスリンとの契約は切れない。僕は人殺しはしたくないしね。
今、この世界とスリンのいる空間はつながっている。しかしそれは一本の細い糸でつながっているようなものだ。
もし、期限になってスリンが君たちを呼べなかったら、その糸を切り離す。そうすれば、スリンはこっちの世界では死んだことになるということさ」
「そんな……」
思わず詰め寄ったオンディーヌにトラクタスは一振りの刃を突き出した。
「君は、スリンのことを信じているの、いないの」
「信じてはいる」
「なら、おとなしく待ちな」
オンディーヌは仕方なく引き下がった。
その次の瞬間、五人の精霊は自分の体がどこかに引かれるのを感じた。
そして七人の精霊は、異空間へと吸い込まれた。
パチ、パチ。
どこからか拍手の音がする。
スリンは目覚めた。
目を開けると、そこには七人の精霊たちが鎮座していた。
「きがつきましたか、スリン」
「ジルフェ。わたくし……」
「それにしても、あなたたちとスリンの絆は思ったよりも深いようだ。
これで私たちもあなたに任せられるというものだ」
そしてテンパスは跪いた。
「リュウア・スリン。私と契約をしてくれないか」
スリンがうなずくと、トラクタスも同じように契約の願いをした。
「よし、これで、私たちはスリンの友だ。よろしく頼むよ」
こうして、スリンのもとに七人の精霊が集ったのだった。