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7 道中

 上陸時、まだほとんど夜に近い時間だったので海岸線からの風景はよく見えなかったが、出発時には徐々に日が登り、その風景が露になって来ていた。




 青々とした草原が広がり、高い山はあまり無いのか地平線の彼方まで見渡せそうな素晴らしい風景だ。

 最も、所々小高い丘が突き出し、遠方には山々が微かに見えるので本当に地平線の彼方まで見える訳では無いのだが、国土の大半が山間部である本土ではなかなか見る事は出来ない光景だろう。


 ……しかし、それは本土に住んでいる日本人にとってであり、アメリカ大陸に住む者達にとってはさほど珍しい光景では無かった。勿論、アメリカ大陸にも山間部どころか、本土より遥かに高い山脈が連なっているのだが、北郷達の目の前にある平野部ぐらいならそう珍しくも無いのだ。







「………」

「「「「………」」」」


 ポストカードに出来そうな素晴らしい風景にも、北郷や護衛達は全くの無言。歩き続けて最早30分にもなるが、誰1人として口を開かない。

 それもその筈、北郷達がこの大陸に来た目的はあくまで情報収集であり、観光では無い。もしもこれが観光目的ならばもう少し和やかな雰囲気にもなるのだが、現実は未知の大陸への初上陸という事もあり、全員が常時警戒を行なっている。




 護衛達は自分達日本人にとって絶対的な神である北郷様を、直々に御守りしているという事実に若干興奮しながらも、北郷の側を離れず、冷静に周囲を警戒しなから、特に陣形なども組まずに歩いている。

 本来ならば北郷を護りやすいように陣形を組んだり、前方の安全を確認するために先遣隊なりを出した方が「北郷様を御守りする」という観点から見れば良いのだが、そんな事をすれば近世の軍隊から見ても軍人の行動だとバレる。

 元軍人の従者という設定なのだからバレても問題無いようにも思えるが、それでは自分達が守っている人物が相当な重要人物であると、自ら喧伝しているのと同じになってしまう。

 馬車や馬に乗らず、護衛がたかだか4人という時点で大した人物では無いように見えるが、それでもガチガチに護衛していれば、かなりの重要人物だとバレてしまうかも知れない。


 事実、彼等が護っている人物は10億人の信者を擁する巨大宗教の教祖であり、超大国の指導者でもある。もしも彼の身に何かがあれば、この大陸の国々は勿論、最悪、この世界の人間が絶滅するまで続く大戦が起こりかねないのだ。




 そんな「歩く核兵器」にも等しい北郷はと言うと……一見すると周囲を護衛に囲まれてただ歩いているだけに見えるが、実はそうではなかった。


 護衛達には伝えていないが、北郷は『探索』魔法を展開しながら移動していたのだ。


 『探索』魔法、と聞くと、何やらどこぞの物語に出てきそうな物凄い魔法に聞こえるが、実際はそうでもない。

 魔法自体はそこまで難しくなく、下位の魔術師でも発動出来る魔法なのだが……展開出来る半径は僅か1~2m程度。それに効果としては、範囲内の物体の大体の大きさや形が分かる程度で、個体の識別などは不可能。

 本来の用途としては、「暗闇や洞窟内で障害物などを避けるための魔法」であるため、どこぞの漫画やアニメに出てくるような「展開している範囲内の全ての物が分かる」なんて事は出来ない。


 質の悪いレーダー程度の性能でしかなく、中位の魔術師でも『探索』出来る範囲は10mぐらいで、上位ならば50m程度。

 記録に残っている中では100mまで伸ばす事も可能だったらしいが……だからと言って使い道があるのかと聞かれれば「微妙…」としか言い様が無い。

 夜戦においては中々使える魔法にも思えるが、敵味方の区別が出来ないので同士討ちの可能性があり、そもそも、科学技術が進んでいないこの世界では夜戦自体がほとんど無い。

 オマケに、魔術師の大半は下位か中位レベルなので、『探索』出来る範囲があまりにも狭すぎる。


 そのため、あまり使い所が無く、一般的には「暗い夜道を歩く時に便利」程度にしか認識されていない。




 しかし、それはあくまで普通の魔術師にとっての認識であり、北郷にとって『探索』は、とてつもなく有効な魔法なのだ。

 知っての通り、北郷はコピー能力を持ち、魔法すらもコピー出来る。

 それによって通常ならば握りこぶし大程の大きさでしかないファイアーボールも、まるで巨岩のような大きさの業火にする事が可能だ。

 『探索』についてもそれは同様で、コピーによって増やす事で範囲を自在に拡大させる事が出来る。


 通常の魔術師ではどんなに頑張っても100m程度が限界だが……上陸してから北郷は、なんと1kmもの広大な範囲を常に『探索』していた。

 それどころか、理論的にはこの世界全てを『探索』する事すら可能なのだ。


 …とは言うものの、そんなに広大な範囲を『探索』した所で無意味であり、尚且つ、幾ら何万回とコピーしようが精度が上がる訳でも無いので、判別不能な数が多すぎて混乱してしまうだろう。

 北郷が常時1kmもの範囲を『探索』しているのは、周囲の警戒のためと、目撃者の有無を確認するためだ。




 立場上、北郷は大陸の調査のために護衛を連れて来てはいるが、北郷を護衛するためでは無い。何故なら……北郷に護衛など必要無いからだ。


 通常の魔術師が魔法を発動させるには、長い長い呪文の詠唱が必要不可欠であり、その魔法が強力になればなる程に比例し、呪文も長くなる。オマケに呪文詠唱の間、魔術師は全くの無防備になるため、例え農民でも簡単に殺す事が出来る。

 しかしそれに比べ、コピー能力を持つ北郷には呪文詠唱など必要なく、全くのノータイムで魔法を発動させる事が出来、連発も可能。更に、弱い下位魔法でも何百何千とコピーすれば、上位魔法すら超える程の威力となる。

 そのため、例え盗賊の集団など強力な敵に取り囲まれようとも、容易く殲滅する事が出来る。だが……その場面を目撃されては極めて厄介な事になる。


 死人に口無しと目撃者を消せれば問題無いのだが……1人2人ならまだしも、もし人が大勢いる街中だったならどうしようも無い。

 勿論、北郷もバカでは無いので街中など、目撃者が多くいる所でコピー能力を使うつもりなど毛頭無いのだが、全く無いとも言い切れない。誰かに絡まれたり、命の危険を感じるような危機的状況下に陥ったならば、使わざるを得ない。




 そういった危機的状況を回避するために、護衛達を連れて来たのだ。


 ひ弱な魔術師が1人でいれば侮られるだろうが、4人の屈強な護衛を引き連れていれば簡単に絡もうとは思わない。

 それに、もし目撃者がいる場所で戦わざるを得なくなった場合でも、前衛は護衛達に任せて自分は後衛に徹するという、魔術師にとって極当たり前のスタイルが取れる。


 つまり、北郷にとって護衛達は隠れ蓑に過ぎないのだ。




 ちなみに、護衛達に『探索』について伝えていない理由としては、北郷が魔法を展開しているからと周囲の警戒を怠らせないためと、ただ単純に面倒だっただけ。

 つまり、北郷にとって護衛達はその程度の存在でしかないのだ。


 そんな事とは露知らず、護衛達は「北郷様を御守りする」という崇高な使命を果たすべく、油断無く周囲を警戒しながら、無言で歩き続けていた。










 上陸地点から歩いて約2時間。


「………」

「「「「………」」」」


 相変わらず景色は素晴らしいのだが、未だに誰1人として口を開かこうとしない。

 もしもこれがよくある冒険物や異世界ファンタジーならば、親交を深めるために会話ぐらいはあるだろうが、このグループにはまるで無かった。


 護衛達は神である北郷様に気軽に声をかけるなどあまりにも畏れ多く、だからと言って仲間内だけで会話をするのも北郷様をご不快にさせるかも知れないので、黙るしかない。

 北郷が話しかけたり、場の空気を読んで行動すれば直ぐにでも解決する問題なのだが…肝心の北郷は護衛達と親交を深める気など毛頭無い。

 そもそも、北郷は護衛達を駒程度にしか思っていなく、更には気軽に会話をする事で神としての権威が下がりかねないので、少なくとも北郷から積極的に話しかけるなどあり得なかった。


 別に無視している訳でも無いので、護衛達が話しかけたり、質問したなら北郷も答えただろうが、護衛達はそんな畏れ多い事など到底出来ないという……負のスパイラルに陥っていた。




 しかし、そんな負のスパイラルを打ち砕く時がようやく訪れた。

 上陸地点からずっと歩いていた草原が途切れ、地面が剥き出しになっている道に辿り着いたのだ。


「…ようやく街道に着いたか…」


 約2時間振りに北郷が喋る。


 コンクリートやアスファルトで舗装されておらず、馬車1台が走れば一杯になる程の狭さという、日本帝国であれば農道のような道でしかないが、この世界においては立派な街道(国道)だった。

 日本帝国の一般的な道路と違ってでこぼこしていて歩きにくいが、整地はしてあるのでこれまで歩いてきた草原に比べればずっと歩きやすい。


(懐かしいな……昔はこんな道が普通だったな…)


 本土統一前の事を思い出し、柄にも無く北郷は感傷に浸っていた。

 今でこそ北郷は週に1日程度しか働いていないが、人材が揃っていなかったかつては常に東奔西走し、1日中働き詰めで休みなどまるで無かった。今の生活とはまるで逆で、ある意味では充実していた日々を送っていたのだ。


(……まぁ、今の方が楽で良いけど)


 普通の人ならば、かつての働き詰めの日々を良い思い出として懐かしむだろうが、根本的にニートである北郷にとっては嫌な思い出でしかないのだ。




「……良し、街道に出たならば後はひたすら道なりに南下すれば、村に辿り着く筈だ。

 これからは現地民に出会う事になるだろうが、それぞれの役割を忘れるな」

「「「「はい、畏まりました。エリック様」」」」


 護衛達は軍人としての敬礼ではなく、従者として頭を下げる。


「…うむ、では行くぞ」


 その言葉と共に、再び無言の時間が始まった。










 舗装されていないとは言え、整地され、歩行の障害となる大きな石などは取り除かれているので、先程までの草原よりは遥かに歩きやすい。

 未だ早朝と言える時間なので街道には誰もいなく、北郷達一行が無言の行進を続けていた。


(このまま誰にも会わずに行ければ最高だな…)


 予想よりも早く街道に出られ、先程までの草原よりも移動速度は上がっている事から「もしかしたら昼頃には村に着けるかも知れない」と楽観的な予測をしていたその時……北郷が展開していた『探索』内に、何者かが侵入した。




 表面上は何も変わらず、歩行も乱していないので護衛達は何ら気が付いていないが、北郷は内心動揺していた。


(…何か大きな塊が、近付いて来る?)


 『探索』では大まかな大きさと形しか分からない。分かりやすいイメージとしては、レーダー画面に出てくる光点のような感じだ。


(…大きな塊の周りには小さな何かがいる。まるで大きな何かを守るように………もしかしたら馬車か?)


 北郷の中では、徒歩より少し速いぐらいの速度で大きな何かが街道上を移動し、その大きな何かの周りを6つの小さな何かが包囲している。

 一見すると、その大きな何かを小さな何かが襲撃しているようにも見えるが、同じぐらいの速度で移動しているのだから襲撃では無い。


(馬車とその護衛達か…。

 商人の荷馬車とその護衛達なら問題無いだろうが……軍や貴族の馬車ならヤバイかも…)


 馬車と同じぐらいの速さで移動しているという事は、護衛達も馬に乗って移動している可能性が高く、間違っても庶民の馬車では無い。


(商人相手なら、例え話しかけられても誤魔化せるだろうが……軍や貴族が相手だと勘ぐられるかも…)


 国家体制どころか、国名すら分かっていないので貴族制度が存在するのかは分からないのだが、文明レベル的に考えれば貴族が居てもおかしくは無い。

 商人ならば職業上、情報の大切さを理解しているからあまり込み入った話は聞いて来ないだろうが、軍や貴族はそんな遠慮はしない。むしろ、管理する側なのだから気になればとことん質問してくるだろうし、何より、スパイか何かに疑われでもしたら拘束されかねない。


(…最悪、消すしかないな。

 幸いにも、範囲内には他に人らしきモノは何もない。なら死体や証拠を消せばこちらにたどり着く事は出来ない筈…。仮に捜査が行われても、文明レベル的に考えて真相が解るまでかなり時間がかかるだろうから、それまでには帰還出来るだろう…)




 北郷が方針を決定した少し後に、小高い丘を越えたかのか遠目にだが、馬車が現れた。


「…エリック様。前方に馬車が見えます」

「…うむ」


 隊長のジョージが北郷に馬車の発見を報告する。

 『探索』によって事前に察知は出来ていたが、本当に馬車なのかどうかは分からなかったので、確認の意味で北郷は頷いた。


「…どんな種類の馬車か分かるか?」


 北郷の視力は悪くないが、別段良い訳でも無いので遠すぎてよく見えない。


「…1台の幌馬車の周りを、6騎の騎馬が護衛をしています」


 狙撃手であるチャーリーが答える。


「そうか……護衛の装備は分かるか?」

「…全員バラバラです。

 長剣を下げている者もいれば槍を肩で担いでいる者、弓矢を背中に下げている者など、鎧など防具の類いも統一性はありません」

「ふむ…」


(馬車は幌馬車で、統一性の無い装備の護衛達がいるという事は……商人の荷馬車と、護衛として雇われた傭兵の可能性が高いな。

 貴族なら装飾された豪華な馬車に乗るだろうし、軍なら統一された装備をしている筈だ)


 厄介な可能性が消えた事で安堵した後、北郷は指示を出す。


「…ならば話しかけられない限りは無視だ。

 もし話しかけられたとしても、私が対応する」

「畏まりました」


 全員が頷き、代表してジョージが応える。




 互いに距離を詰めていく事で、徐々に北郷にも馬車や護衛の姿が見えて来た。


 馬車は2頭立ての幌馬車で、大きさはそこそこだが多くの荷物を載せている事が分かる。

 護衛の騎馬は全員がバラバラの装備で、チャーリーの言っていた通りに長剣や槍、弓矢など様々。防具も、胸甲やチェーンメイル、革鎧など統一感が無い。見た感じも、騎士というよりも山賊に近いような風貌だ。


 しかし、北郷が一番気になったのは、何人かがピストルを腰に差している事だ。


(…マスケット式のピストルだな…。

 まぁ、文明レベル的に傭兵が持っていても不思議は無いか…)


 初めて見た現地民の格好から、事前の調査とのズレは無いかと北郷は確認していた。







 北郷が警戒しているように、商隊の護衛に就いていた傭兵達も、北郷達の事を警戒していた。

 まるで軍人のように揃った装備を身に付けた4人の護衛を、1人の魔術師が引き連れているのだから警戒して当然だ。


 護衛達は鎧など防具の類いは一切身に付けておらず、武器も腰に下げている長剣と短剣だけという、みすぼらしい格好でしかないのだが、まるで歴戦の兵士のように隙が見当たらない。

 そしてその護衛達を引き連れている魔術師はと言うと、黒いローブに大きな杖という、魔術師にはありがちな格好でしかないが、その大きな杖の先端には2等級もありそうな程の、大きな魔石が埋め込められている。



 大きな魔石に経験豊富な護衛という、一見すると大貴族かかなり高い地位の魔術師の一行にも思えるが、その割には護衛の人数や格好がおかしい。

 2等級もの魔石を保有しているという事は、かなり高い地位の魔術師か、家柄がかなり良いという事だ。ならばそれに相応しい数の護衛を付けるか、そうでなければ相応しい格好をさせる筈だ。


 魔術師が魔法を使うには長い呪文の詠唱が不可欠で、その詠唱時間を稼ぐためには前衛が必ず必要になる。強力な魔法になればなる程長い長い呪文の詠唱が必要になるため、どんなにケチな魔術師でも前衛には金を惜しまない。

 装備をケチった挙げ句、前衛が全滅すれば後は魔術師自らが戦わなくてはならなくなり、魔術師は体を鍛えていない事が多いのでその時点でアウトだ。


 大陸のそこら中にモンスターがいた昔と違い、人里近くにモンスターが出なくなった事でそこまで警戒する必要は無くなったのだが、高価な魔石や道具狙いの盗賊は何時の時代も絶えないので、強力な護衛は不可欠なのだ。


 オマケに、魔術師も含めて一行は馬車どころか、馬にさえ乗っていない。


 王都のように近場に都市が密集し、治安も比較的安定しているような地域なら徒歩での移動もあり得なくは無いが、こんな地方ならば馬や馬車での移動が普通だ。

 金が無い平民や駆け出しの魔術師ならば徒歩での移動も珍しくないが、2等級もの大きな魔石を持ち、ベテランの護衛を引き連れている魔術師が徒歩などあり得ない。

 体力が無い魔術師は、馬や馬車で移動したがるのが当たり前なのだから。







 このように、目立たないようにと出発前に様々な工夫を凝らして来たのだが、全てが裏目に出ていた。


 しかし、これは仕方ないだろう。

 北郷はこの世界について無知であり、何より……魔石についての知識が無かった。


 もしも北郷が持っている魔石が、最下級の6等級か、その1つ上の5等級だったなら、多少は怪しまれるだろうが単なる駆け出しの魔術師と思ってくれただろう。

 しかし残念な事に、北郷が持つ魔石は駆け出しの魔術師が持っているのはおかしい、2等級の魔石だった。


 北郷に支給された魔術書にも魔石についての記述はあったのだが、あくまで基本的な知識のみで、市場価格や希少性など、一般常識は書いていなかった…。




 魔石は魔石鉱から採掘される鉱石で、そもそも採掘量が少ないので全体的に割高。

 しかし、6等級や5等級ならば比較的多く採掘されているので、頑張れば平民にも買える程度の値段なのだ。

 その一方、4等級からは中々採れなく、値段も必然的にハネ上がる。4等級だけでも平均的な平民の年収に匹敵するというのに、北郷が所有している2等級ならば百年分にも値する。


 そんなバカ高い魔石の所有者が、「馬にも乗らず、防具も身に付けていない護衛を4人しか付けていない」というのはあからさまに異常だ。

 もしも出会っていたのが貴族や軍など、治安関係者の馬車だったなら即座に事情聴取を受けていただろう。







「………」

「「「「「「………」」」」」」


 しかし、互いに何も言わず、ただすれ違い、通り過ぎた。


 前記したように、もしも貴族や軍の馬車だったなら止められていたかも知れないが、北郷達が出会った馬車は幸運にも商人の馬車だ。

 わざわざ朝早くから移動する程急いでいるというのに、わざわざ面倒事に首を突っ込むような真似はしない。


 傭兵側としても、依頼人が話しかけるよう指示したならまだしも、わざわざ自分達からあからさまに面倒事がありそうな一行に話しかけたりはしない。

 下手な好奇心は身を滅ぼすという事を、彼等は経験上、理解していた。




 こうして、かろうじて北郷達の初の現地民との接触は無事終了した。


 何やら傭兵達が自分が持っている、杖の先の魔石にやたら注視していた事に疑問を持ったものの、とりあえずやり過ごせた事に北郷は安堵したのだった。

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