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5 上陸準備

 魔術兵科新設から少し経ち、北郷達は再び会議室にて重要会議を行っていた。




 しかし今回の出席者は前回と違い、戦略研究会の軍事部門担当や親衛隊、侍従などの軍事分野の関係者が中心だ。

 議題は「北郷自らが未知の大陸に行き、情報などを得てくる」ことについて。


 未だ戦略研究会や侍従長などは反対しているが、北郷が「行く」と言えば反対意見など無意味だ。

 ちなみに親衛隊は意見していない。あくまで彼等の任務は北郷を護ることであるので、北郷が行くと言うのなら上陸時の注意や道中の安全の確保、帰還時の事などを考えている。




「上陸先はここがよろしいかと。

 比較的海岸に近い場所に大きな都市がありますし、道中には村もあるので極力野宿を避けられるでしょう」


 軍事部門担当者が会議室の大きなテーブルをタッチする。

 このテーブルは大きなタッチパネルにもなっており、テーブルには北東大陸の太平洋側の映像が映っている。


「ふむ…成る程。確かにここなら比較的近くに大きな街があり、尚且つ、程好い場所だな…」


 その意見に北郷は肯定する。

 本音としては野宿などしたくないので都市の直ぐ近くに上陸したいのだが、都市の近くに上陸すればこの世界の人間に目撃される可能性が高い。騒ぎにでもなればたちまち日本帝国の存在がバレ、情報を集める事が困難となる事は想像に難くない。

 そのため、そこそこ都市から離れ、不便でも人口密度が低い地域に上陸して陸路で都市に向かうのが好ましい。


 更に言えば、都市に向かう前に田舎である程度の情報を集めた方が後々に動きやすくなる。

 都市で誰もが知っているような常識を尋ねれば不審がられるだろうが、田舎ならば余程の辺境の出なのと思ってくれる可能性が高い。それに、仮に怪しまれても都市ならばあっという間に情報が伝わるだろうが、田舎ならば情報の伝達速度は遅いので長期の活動でなければバレる前に帰還も可能となる。




「では上陸地点はここにするとして、ここまでの移動はどうされますか?

 居住性などを考えれば空母や強襲揚陸艦を派遣し、海岸付近に来たらヘリかエアクッション艇に乗り換えて上陸。

 隠密性を考えるなら原潜で移動し、夜間にボートで上陸などがありますが、いかがされますか?」

「…ふむ…」


 担当者の言葉に、北郷は考える。


 アメリカ大陸から未知の大陸までは経由出来るような島が存在しないため、太平洋を横断するには必然的に大型艦艇が必要になる。移動距離から考えれば長い旅になるのは明白なので、居住性で考えれば空母や強襲揚陸艦が一番だろう。

 しかし、それでは動員人数が多すぎて北郷の存在がバレかねない。北郷の存在を知る者は極々僅かしかいないのでそう簡単にバレる事は無いだろうが、リスクは少ないに越した事は無い。


「ならば原潜が妥当だろう。隠密性が高く、動員する人数も少ないから私とバレる可能性は低い。

 しかし夜間の上陸は避けた方が良いな。地球世界なら問題無いが、この世界ではモンスターがいるから夜に動くのは危険だ」


 隠密性を高めるなら夜、それも深夜に上陸する方が人目に触れる可能性は低いが、地球世界にはいないモンスターという不安材料がいるので、生粋の臆病者である北郷としては避ける。


「かしこまりました。

 では一番居住性が高い原潜を用意し、上陸は夜明けに行いましょう」




「では続きまして、北郷様の護衛はいか程にいたしますか?

 安全性を考慮するなら最低でも1個分隊(10人程度)、それに移動や寝床として馬車が必要かと」


 担当者の意見に親衛隊は頷くが、侍従長は顔をしかめる。

 彼は事前の会議の場で「最低でも1個小隊(30人程度)と装甲を張った8頭立ての大型馬車が必要」と発言したが、流石にそれでは目立ち過ぎるとして即座に却下された。

 なのでそれ以降は担当者と親衛隊のみで話し合われ、最終的に「1個分隊と1~2頭立ての簡素な馬車が妥当」という意見に纏まった。


 しかし、そんな彼等の考えを北郷は否定する。


「いや、護衛は一個班(3~4人)程度で、馬車はいらん」

 護衛の縮小と馬車の削除という意見に、親衛隊隊長が反論する。


「なっ!?……一個班ではあまりに少なすぎます!

 そんな少数ではモンスターどころか、盗賊の襲撃を受ける危険性まであります!」


 事前の会議でも一個班という意見も出た事は出たが、それではモンスターの大群に遭遇した場合は非常に危険である。

 更に、文明レベル的に考えて盗賊が存在する可能性も高いため、たかだか5人(北郷を含む)では盗賊の襲撃を受ける可能性もあるので、その案は即座に却下された。




 しかし、北郷はそれを指示する。それも長距離移動には必須の馬車すら無しで。


「確かに危険性は高い。が、今回の目的を思い出すのだ。

 今回、わざわざ危険性が高い大陸に渡るのは情報を得るためである。そのため、私や護衛達は田舎から出てきた世間知らずを装った方が比較的情報を得られやすい。

 多くの護衛を引き連れて豪華な馬車に乗って世間知らずなお坊ちゃんを装うという手段もあるが、それでは周りに聞けと言われる可能性が高い。

 そのため、田舎者を装った方が楽なのだ。だから護衛は最小限とし、移動も徒歩にする」

「「「…………」」」


 北郷の意見を聞いて担当者や親衛隊隊長、侍従長達も「確かに…」とは思うが、それでは北郷を危険にさらす事になってしまい、本末転倒になってしまう。


 周りが悩んでいるのを見ながら、北郷は躊躇いなく更に言う。

「装備も小銃などではなく、剣や弓矢にしよう。

 防具もローブやマントを着て極力目立たないようにする」

「剣や弓矢ですか!?

 …一応銃器はあるようですから、せめて小銃ぐらいは所持していたほうが…」

「それでは目立つ。

 確かに、この世界ではマスケット銃や大砲のような初期的な銃器は存在するようだが、文明レベル的に考えて民間人が持っていて良い物では無いだろう。最悪、脱走兵やスパイと勘違いされかねん。

 田舎者の旅人を装うなら、むしろ剣や弓矢みたいな原始的な武器の方が好ましい」

「「「………」」」


 担当者達も理屈では北郷の言っている事は正しいと理解出来てはいるのだが、その護衛対象が神であるのたからそう簡単には割り切れない。




 担当者側のそんな葛藤を理解はしているが、一々気にしていては話が進まないので北郷は無視する。


「そうだ、親衛隊の中にはマルタ島帰りも居たな?」

「…はい、4名程おりますが…」

「ではその者達を護衛としよう。

 マルタ島帰りなら剣等の扱いも慣れているだろうし、鎧も着慣れている筈だ」


 貿易特区マルタ島。

 マルタ島は唯一外国との交易や外国人の居住が許される島で、主にローマ帝国との交易の拠点だった。


 外国人を迎え入れるための島なので意図的に文明レベルを中世程度に下げられ、兵器のレベルも中世に落としたために兵士は剣や槍、弓矢、ボウガンなどを持ち、鎧を着て馬に乗っていた。

 あくまでパフォーマンス用だが、それでも精強に見せるために厳しい訓練を日々行っていた。なのでマルタ島帰りの将兵は剣や弓矢などの扱いが非常に上手い。


「た、確かに奴等はマルタ島帰りなだけあって剣等の扱いには長けていますが、それでも火器を持たなければ危険です!」

「安心せよ。必要になれば私が出す。

 小銃から戦車まで、何でも揃う」


 確かに北郷の能力を使えばどんな物でも出せるだろう。

 それを直に何度も見ているので親衛隊隊長も否定はしにくいが、「護衛対象から武器を貰うというのはいかがなものか…」という葛藤は捨てられない。


「なぁに、案ずる事は無い。いざという時は私の魔法で撃退すれば良い。

 …お前も知っているだろう?」


 北郷は隊長の目を覗き込むように見ながら言う。

 それに隊長は反応し、体が少しだけ震える。あの巨岩を一撃で粉々にした魔法を思い出したのだ。


 あの圧倒的な破壊力。

 自分達人間には到底到達出来ない事を思い知らされた光景。恐らく一生忘れる事は無いだろう。


(…確かに、魔法があるなら北郷様の護衛など1個班程度で十分……いや、最悪いなくても問題は無いだろう。

 北郷様の豊穣のお力(コピー能力)があればわざわざ重い荷物を運ぶ必要など無く、例えモンスターや賊に襲われようと魔法で撃退出来る…)


 そう確信出来るが、それでは親衛隊たる自分達の存在意義が無くなってしまうので口には出せない。







 その後、結局は北郷の指示通りに決定した。


 西海岸から原潜で出発し、北東大陸の海岸付近からはボートに乗り換え、夜明けに上陸する。


 護衛はマルタ島帰りの4人のみ。


 装備は現地のレベルに合わせて剣や弓矢などを主体とし、銃器類についてはその都度北郷が支給(コピー)する。


 物資は基本的に北郷が出し、テントなど必要最低限の物は護衛達が運ぶ。


 移動は基本的に徒歩。




 以上、大まかにだが決まり、早速原潜の手配や装備やその他諸々の準備を始めた。


 近代兵器など、日本帝国の技術レベルに合った物なら簡単に準備出来たが、中世~近世レベルの物を揃えるからどうしても時間がかかる。

 それに、護衛の者達も久々に鎧を着て剣等で戦わなくてはならないので、マルタ島の時の勘を取り戻すために基礎的な訓練から復習しなくてはならないからだ。


 その他にも様々な準備が必要なので上陸まで時間が掛かるが、日本帝国はこの世界での第1歩を踏み出したのだった。

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