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43 カラハソ戦争

 日本帝国とトラキア王国との交渉から少し経ち、戦争準備を終えたトラキア王国は日本帝国に宣戦布告した。


 宣戦布告理由としては、「日本帝国が侵略戦争を仕掛けようとしていたので、先に宣戦布告した」となっている。

 流石に「先の交渉内容が気に食わなかったから」では何の正統性も無いので、とりあえずそれらしい言葉で取り繕い、無理矢理正当化したのだ。




 トラキア側の戦力は、同盟国であるイリリア王国や属国などを合わせれば、70万にも達する大軍勢だ。

 これほどの大軍勢は歴史上でも数える程しかなく、間違いなくパンゲア世界では最強であり、いかなる強国をも圧殺する事が出来る。


 そのため、トラキア王国国王であるグラーフェはまだ開戦もしていない内に勝ちを確信し、既に戦勝の祝宴すら開いていた。

 更には、国王が戦争を宣言した時には不安がっていた臣下達も、大軍勢を目にして「これなら日本帝国に負ける事は無いだろう」と安心し、今までの消極的な態度を一変させて主戦派に移った。


 確かに常識的に考えれば70万もの大軍勢がいれば負ける事などあり得なく、悪くても講和など痛み分けには持ち込める。彼等貴族階級からして見れば、国が滅ぶ事より自分達の家が存続するかが大事であり、最悪日本帝国に併合さえされなければ彼等の負けは無い。

 いかに噂に名高き日本帝国と言えど、70万もの大軍勢を相手に圧勝する事は難しく、仮に戦況が悪化したとしても無能な国王を日本帝国に売り渡し、自分達の命脈を繋ごうと貴族達は画策していた。










 前哨戦として、トラキア王国はイリリアや属国の艦隊を合わせた連合艦隊をアバロニア大陸に向かわせた。

 アバロニア大陸とカラハソ大陸の間には巨大な内海が存在するため、どちらにしろ海を越えなければならない。そして、兵士を大量にアバロニア大陸に上陸させるためには制海権が不可欠であり、その制海権を手にするために連合艦隊は日本帝国に艦隊決戦を挑むつもりなのだ。


 連合艦隊は様々な等級の船で構成されているが、全てを合わせれば100隻を超える正に大艦隊だ。先のメディア王国艦隊の倍以上であり、船員の誰もが自分達の勝利を疑っていなかった。




 しかし、日本帝国の領海(一方的に宣言)に入った瞬間、地獄が始まった。

 特殊戦艦などで構成された日本帝国艦隊が出現した。初めは今まで見たことが無い巨大な鉄の軍艦に船員達は恐れたが、数が10隻と自分達の10分の1でしかないので落ち着き、いかに巨艦であろうと10倍以上もの戦力差なら勝てると考えた。


 しかし、互いの距離が2000mに近付いた所で日本帝国艦隊がズラリと速射砲が並んだ横腹を見せた瞬間、日本帝国艦隊の砲撃が始まった。

 連合艦隊からして見れば、2000mなど有効射程どころか砲弾が届く事すら無い距離であり、到底当たる筈が無い。しかし、日本帝国にして見れば2000mなどあって無いような至近距離なため、面白い様に砲弾が命中する。


 榴弾が命中した船は次々と大爆発を起こし、船員を殺傷しながら船を沈めていく。連合艦隊も反撃をするが、2000mもの距離では連合艦隊の球形弾は届く事すら無い。

 あまりにも一方的な海戦(虐殺)に、各々の判断で海域を離脱しようとする船が続出するが、1隻たりとも逃がす気が無い日本帝国艦隊は逃げようとする船を重点的に狙う。1万m以上先を楽々狙える速射砲に、帆船が逃れられる筈が無かった。







 結果、連合艦隊は全滅した。

 何隻かが降伏をしようとしていたが、日本帝国流の白旗ではなく、パンゲア世界流の降伏の証である赤旗や軍服を掲げたため、日本帝国艦隊は無視して沈めた。

 日本帝国側は事前に「降伏の際には白旗を掲げよ」と宣言していたので、それ以外の降伏プロセスは認めなかった。


 この事は開戦前にトラキア国王にも伝わっていたが、「野蛮人の作法など知るか」と無視して全軍に伝えていなかった。

 その後、この海戦の結果や再度日本帝国が「白旗以外の降伏は認めない」と中立国経由で宣言したため、流石に今度は全軍に伝えられたのだった。










 連合艦隊を全滅させ、制海権を握った日本帝国軍はカラハソ大陸への上陸作戦を開始。

 先の対メディア戦と違って極秘離に行う必要は無いため、特殊戦艦による艦砲射撃で防御陣地や要塞などを破壊した後、大量のエアクッション艇や揚陸艦、輸送ヘリなどで大部隊をカラハソ大陸に上陸させ、橋頭堡を築いた。


 そして、先の対メディア戦と同様に攻撃機やヘリを先行させ、敵部隊や要塞などを破壊した後に地上部隊が占領する。

 兵力に関してはトラキア・イリリア連合軍が圧倒的に上なのだが、上空からのミサイルやロケット弾、ガトリング砲火に為す術は無い。勿論、連合軍も大量の飛龍を派遣するなど涙ぐましい努力はしたものの、攻撃機や高射機関砲によってハエのように落とされた。




 ならばと連合軍は野戦での決戦を挑むために、20万もの兵力を集結させて待ち構えた。

 日本帝国軍側としてはわざわざ決戦に付き合う必要など無く、輸送機で何発か大規模爆風爆弾でも投下すれば終わるのだが、それでは決戦を避けたとして侮られる可能性もあるため、仕方なく地上部隊を派遣して決戦に応じた。


 トラキア・イリリア連合軍20万に比べ、日本帝国軍は5千と40倍もの兵力差があり、連合軍側は「流石にこれなら勝てる」と確信していた。


 しかし、いざ決戦が始まって見ると、開戦直後に自走砲や自走ロケット砲によって連合軍の砲台陣地は瞬く間に破壊され、飛龍部隊も高射機関砲によって殲滅され、戦列歩兵もガンシップや攻撃ヘリによって殲滅されるという、先のメディア王国との決戦よりも一方的な結果となってしまった。

 先の決戦はリディア王国の観戦武官達に見せ付けるために戦車を使ったが、今回はただ単純に敵を掃討するのが目的だったため、航空戦力を多用し、より一方的な展開となったのだ。







 決戦に圧勝した日本帝国は驚異的な速さで進軍し、次々と敵国の村や都市などを占領していった。

 そして、占領した地域には日本帝国お馴染みである占領政策を行い、日本帝国への忠誠心を高めていく。


 何しろトラキア王国は国王が軍拡を推し進めたために年々増税していき、元々乏しかった公共サービスはほぼ消滅。食べていくには男は軍人になり、女は娼婦になるしかなかったのだ。

 そんな夢も希望も無かった生活が、日本帝国に占領された事で一変。略奪されるどころか逆に食料を配給され、王族や貴族が着るような衣服なども無料で配られる。

 今までは病気にかかったら死ぬしかなかったのに、日本帝国の軍医が無料で診察してくれ、無料で薬までくれる。

 オマケにほとんどの税が免除されて、新しい家まで用意してくれるとあれば、誰だって従う。今まで祖国は搾取しかして来なかったのに、新たな支配者は自分達に様々なモノを与えてくれるのなら、祖国を裏切るのも無理も無い。


 そもそも、パンゲア世界には愛国心という観念が薄く、貴族など国によって様々な恩恵を受けられた特権階級出身者なら持っている事もあるが、何の恩恵も受けられずにただただ搾取され続けた平民達に、愛国心など存在する筈が無い。

 平民達にとっては自分達に恩恵を与えてさえくれれば、誰が国王や貴族だろうがどうでも良いのだ。










 海戦にも陸戦にも圧倒的な敗北を喫し、民心さえも離れてしまった。

 それでも尚連合軍は奮戦するものの、日本帝国軍の進軍を遅滞させる事すら出来ない。




 今戦争の影の原因であるドーマク伯爵は、リディア商人からありったけの九九式小銃や三式拳銃を購入しようとしたが、通常価格並の高価格を提示された。

 日本帝国の力を知るリディア王国人にとって、日本帝国との戦争を決意したトラキア王国は最早滅亡が確定しているので、足元を見てマスケット銃の20~30倍もの値段を請求したのだ。


 とんでもないボッタクリなのだが、それでも新式銃がどうしても必要だったドーマク伯爵は、蒸気機関開発にかける予定だった予算を全て投入し、買えるだけの新式銃を購入した。

 結果、全ての部隊に行き渡らせる事は出来なかったが、それでも大半は新式銃を装備する事が出来たので、トラキア王国で最強の部隊が完成した。

 これならば日本帝国軍の進軍を遅滞させる事ぐらいなら出来るのではとドーマク伯爵も期待したが、現実は無情だった。


 最強の部隊も日本帝国軍の空襲には何の役にも立たず、掃討されていく。

 更に、日本帝国にとってはトラキア王国やイリリア王国より、蒸気機関の開発を進めるドーマク伯爵を抹殺するのが重要なため、化学兵器が投入された。

 無色無臭の毒ガスに、ドーマク伯爵の軍は全く気付かず死んでいく。それはドーマク伯爵も例外ではなく、懸命に前線で指揮を執っていたが突如苦しみ出し、間もなく死亡した。


 シルヴィアと同様に、もしも日本帝国がパンゲア世界に来なかったのなら、さぞや後世に名を残した事だろう。

 それほどドーマク伯爵は先見性や柔軟性に富んでいて、更には高い地位や財力によって行動出来る範囲も広かった。


 しかし、日本帝国の存在によってその輝きを見せる事は無く、ただ敗者として歴史に埋もれていったのだった。










 日本帝国軍の進軍を遅滞させる事すら出来ず、遂にトラキア、イリリア共に王都への進軍を許してしまった。


 イリリア王国の国王は、素直に敗けを認めて降伏勧告に応じた。


 しかし、トラキアのバカ国王は敗けを認めないどころか、包囲される前に近衛や臣下達を引き連れて王都を脱出。南部の別荘地へと逃亡し、王都に残した将兵には「王都を死守せよ」と命じ、捨て駒にしたのだ。

 しかし、王都に残された将兵は命令を無視し、王都へと進軍した日本帝国軍に降伏した。

 元々無能な国王にウンザリしていたのに加え、自分達の逃走のための時間稼ぎに使われた事で遂に愛想が尽き、現地指揮官が命令を無視して戦闘を行う事なく降伏。

 王都は無血開城となった。




 そして、戦闘をする事なく王都を占領出来たので、日本帝国軍は直ぐ様トラキア国王討伐に乗り出した。

 衛星監視によって居場所は直ぐに判明し、別荘地へと逃亡中の集団に気化爆弾を投下し、トラキア国王グラーフェを抹殺。ついでに近衛や臣下達も皆殺しにした。




 トラキア・イリリアの両国が敗北した事で、属国達も素直に敗けを認め、間もなく全部の属国が日本帝国に降伏。




 こうして、開戦から3ヵ月でカラハソ大陸全土を巻き込んだカラハソ戦争は、終結したのだった。







 







「3ヵ月か…以外と長引いたな」


 カラハソ戦争についての報告を聞いた北郷は、そう呟く。

 パンゲア世界の基準で考えれば10年以上かかっても不思議は無いのだが、2ヵ月程で終わると試算していた日本帝国にとっては、少しばかり不満が残った。


「はっ、主な原因と致しましては、戦争初期に連合国側の降伏プロセスの伝達不備によって、戦闘が無駄に長引いた事です」


 事前に通達しておいた日本帝国流の降伏の仕方を、連合国の兵士は勿論、士官すらほとんどが知らなかったので、パンゲア世界流に赤旗や軍服などを掲げるも、日本帝国軍は白旗以外を降伏と認めない。

 そのせいで本来なら早期に連合国側が降伏して終わった戦闘も、連合国側が全滅するか、逃亡するまで無駄に長引いたのだ。


 流石に戦争中期~後期にもなれば連合国側(トラキア国王)も事の重大性を認識し、ようやく全軍に日本帝国流の降伏プロセスが伝達された。

 しかし、日本帝国軍の進軍に比べてその伝達速度はお世辞にも早いとは言えず、結局全軍に伝わったのは戦争末期だった。


「更に言えば、元トラキア国王であるグラーフェが王都より逃亡した事も、長引いた要因の1つです」

「……あぁ、あれか…」


 今まで日本帝国軍を相手に後手後手に回っていた癖に、敵軍が王都に接近していて止められないと分かるやいなや、非常に素早い動きで近衛や閣僚を引き連れ、王都が包囲される前に逃げ出した。 そのフットワークの軽さは驚嘆に値するもので、もし王都に残した将兵が命令通り時間を稼いでくれたのなら、余裕で別荘地に辿り着けただろう。


 しかし、今までの無能っぷりのせいで忠誠心は最早無く、日本帝国軍が王都に到着した瞬間に降伏した。

 正に身から出た錆だった。










「まぁ良い、とりあえずこれでカラハソ大陸を支配し、更には蒸気機関の開発も止まったのだから、万々歳だ。

 …他に蒸気機関の開発に積極的な国は無いだろうな?」


 日本帝国にとってはカラハソ大陸全土の支配より、蒸気機関の開発阻止が重要なので、北郷は念のために尋ねた。

 もしドーマク伯爵のように蒸気機関の可能性に気付き、開発を促進していればまた進軍しなければいけない。


「はい、現在の所、トラキアの他には蒸気機関の開発に積極的な国はありません。

 シルヴィアのように九九小銃を真似て新式の銃を開発した国はありますが、値段や量産化、それに銃器ギルドの猛反発など様々な問題によって、制式化は出来ていません」


 日本帝国の力を知ろうと、リディア王国以外からのロードス島を訪れる者達が急増している。

 入国許可証の発行に1エクシードもかかるので、訪れるのは貴族や大商人など限られた者達だけだが、それでも入国者数は毎年右肩上がりだ。


 そして、訪れた者達の大半は九九式小銃や三式拳銃を購入していく。友好国価格が適応されないので値段はマスケット銃の20~30倍もの超高価格だが、それでも売れ行きは好調だ。

 自分で使う用や、護衛達に配る用、はたまた贈答用など様々な客層があるが、一番多いのが研究サンプル用だ。


 リディア王国のように九九式小銃や三式拳銃を制式採用すれば手っ取り早いのだが、友好国価格が適応されないのでとてもではないが大量購入は不可能。

 それに、友好国価格を適応させるためには日本帝国と通商条約を結ぶ必要があり、不平等条約を要求されるのは必定。更に言えば、日本帝国と通商条約を結べばリディア王国のように自国の市場を奪われる可能性も高いため、生産系ギルド全般から猛反発を受ける。


 なので必然的に新式銃の自国生産を目指すのだが、シルヴィアと同様に開発は出来ても、制式化は不可能。

 手作業で作るので価格はマスケット銃の2~3倍以上にもなり、手間がかかるのでマスケット銃に比べて生産数が少なすぎる。大量の予算を投入し、長い時間をかければ全軍に行き渡らせる事も可能だが、今までマスケット銃を生産していた銃器ギルドからの理解を得られない。

 どこの業界も保守的なのに加え、100年以上もほとんど変わらないマスケット銃を作ってきた熟練の職人達にとって、今更新しい銃など拒絶反応を示してしまう。


 そのため、どこの国でもシルヴィア銃(ミニエー銃モドキ)のような新式銃の開発には成功するものの、制式化には漕ぎ着けておらず、旧来通りにマスケット銃を使っている。

 その問題を解決するには蒸気機関を開発するしかないのだが、便利な魔法の存在からかそこまで必要とされておらず、パトロンになるのは新し物好きか変人の貴族ぐらい。それも、出してくれる予算は雀の涙程でしかない。




「うむ、それは重畳。既得権益を守ろうとする各ギルド達のおかげで、これから先も新式銃の制式化は遅れに遅れるだろう。

 それに、蒸気機関についても魔法のおかげで遅れている。中途半端で使えないと思っていたが、なかなか役に立つではないか」


 上機嫌そうに北郷は笑う。

 ただでさえ魔術師の数が少ないのに加え、呪文が長く、強化魔法は時間と共に劣化していくので、治療以外には役に立たないと諦めていた魔法のおかげで、各国の蒸気機関開発が遅れるのだ。

 何れは蒸気機関の機関車や工作機械なども開発されるだろうが、それでも魔法のおかげで史実より遅れるのは確実。


 少しでも他国の蒸気機関開発を遅滞させたい日本帝国にとっては、魔法は棚からぼた餅のような存在だった。

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