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39 冒険者と教国

 アトランティカ大陸北部の未開拓地域に、男女2人のペアが大きな岩に隠れていた。


 2人の目線の先には、鹿らしき獣の死肉を漁る1匹のゴブリンがいた。石包丁で皮を剥ぎ、肉を無理矢理切り、腹を裂いて内臓を食べるなど、原始人さながらの捕食行動を行なっていた。

 身長は150cm程度と、江戸時代の日本人と大差は無いが、肌は緑色で耳はエルフのように尖り、腹は欠食児童のごとく不自然に出っ張っていて、汚い腰簑とボロ切れを身に纏っていた。


 見た目は完全にアニメやゲームに出てくるゴブリンそのモノだが、粗末な弓と石の矢尻で出来た矢が十数本入った皮製の矢筒を背負い、更には直ぐ側には刃こぼれしているが鋭い石槍が置いてある。人間を殺すには十分な武器だろう。

 ゲームの世界では雑魚キャラであり、この世界においても多少武術に心得があり、それなりの装備を整えれば殺せるモンスターだが、大した武装もしていない一般人が遭遇すれば殺される可能性が高い。


 残念ながらパンゲア世界にはレベル制などのとんでも概念は無く、鍛えれば単独でドラゴンを倒せるようになるというご都合主義も無い。

 どんなに鍛えようが所詮は人間の範疇であり、ベテランの冒険者や軍人でさえ、準備を怠れば雑魚であるゴブリンに殺される事も珍しくないのだ。




 そんなゴブリンの背後の岩の後ろに隠れている2人は、目立たない色の服の上に皮鎧を身に纏い、腰には実用性一辺倒な長剣を下げ、背中にはマスケット銃を担いでいた。

 冒険者がマスケット銃を担いでいる光景を日本帝国の子供達が見れば、「夢が壊れる」と嘆くかも知れないが、本人達にとっては死活問題なので気にする余裕は無い。


 ゴブリンが獲物に夢中になっている事を確認した2人は、互いに無言で担いでいるマスケット銃を下ろし、銃口に火薬と弾丸を詰め、銃身下部に収納されている槊杖で突いて装填する。

 普通のマスケット銃なら弾丸を素早く装填出来るが、2人のマスケット銃は銃身内部にライフリング(旋条)が刻まれたライフル銃なため、弾丸がライフリングの溝に引っかかって装填に時間がかかる。

 2人は油を染み込ませた布に弾丸をくるみ、無理矢理溝を滑らせるなどの涙ぐましい工夫をしているが、それでも通常の倍近くの装填時間を要した。


 幸運にもゴブリンは獲物に夢中で2人の存在に全く気付かず、久々の上等な食事にご機嫌だった。

 そんなゴブリンに2人はライフル銃を構え、狙いを定める。そして、男が小言でカウントする。


「…3…2…1…0」


 ゼロと呟いた瞬間、男はトリガーを引いて火皿にハンマーを叩き付け、少し経った後に銃声と共に銃弾が発射。そして、直後に女のライフル銃も火を吹いた。


 獲物に夢中だったゴブリンも流石に響き渡る銃声には気付き、咄嗟に銃声のする背後に振り向こうとするが、時既に遅かった。

 2人の銃弾は見事ゴブリンに命中し、1発は背中に、もう1発は後頭部に命中し、ゴブリンを即死させた。










 銃撃後もみだりに近付いたりはせず、少し経ってからゴブリンがピクリとも動かない事を確認し、男の方が隠れていた岩から出てきて慎重に近付き、先程装着した銃剣でゴブリンを2、3回刺す。

 それでもゴブリンがピクリとも動かない事を確認すると、女の方に向かって手招きをする。それを見た女は構えを解き、安堵のため息をつきながら歩いていく。


 臆病とも取れる程の念の入れようだが、死んだ振りをするモンスターもいるため、迂闊に近付いて殺されるというケースも珍しくない。

 脆弱な肉体しか持たない人間にとって、ゴブリンの1撃ですら致命傷になりかねないので、念には念を入れなくてはならない。

 どこぞの物語のように、長剣でモンスターの群れに突っ込んでいくなど、自殺行為でしかないのだ。









「死んだ?」

「あぁ、まぁ…頭撃たれてんだから当たり前だが」


 女の質問に男が答える。既に戦闘体制は解除され、どこか気だるげだ。


「にしても…やっぱりライフル銃の命中率や威力は凄いわね。マスケットだったら外してるか、当たったとしても1発じゃ死なない事もあるし」


 岩からゴブリンまでは20m程離れていて、マスケット銃でも十分有効射程内なのだが、ライフリングが無いマスケット銃では弾道が不安定なため、外れる事も珍しくない。


「せっかく奮発してバカ高いライフル銃を手に入れたんだ。このぐらいは出来なきゃ困る」


 関心する女とは対照的に、男は自分のライフル銃を見ながら眉をしかめる。


 パンゲア世界でもライフル銃自体はかなり昔から実用化されていたが、前記したように蒸気機関の無いパンゲア世界ではライフリングを刻むのは職人の手作業ため、量産化は難しく、必然的に高値になる。

 なので購入するのは王族か貴族ぐらいで、平民は買うどころかライフル銃の存在すら知らない者がほとんどだ。


 では何故この2人がライフル銃を所持しているのかと言うと、この2人は未開拓地域で活躍する数少ない冒険者で、危険な未開拓地域でモンスターを狩る事で、落ち目の冒険者にしてはそれなりの高収入を得ていた。

 モンスターとの戦いにおいては遠距離からの一撃必殺が王道であり、そのためにはより命中率や威力が高い銃が必要だったため、たまたま手に入れた伝を使ってライフル銃職人と知り合い、大金を叩いて2丁のライフル銃を入手する事に成功したのだ。









 討伐証明の耳を切り取り、2人はその場を後にした。

 冒険者ギルドに持っていけば、それなりの報償金が出る。相手がゴブリン1匹とは言え、もし人里にでも降りてきたら惨事になりかねないので、報償金は安くない。


 そんなに儲かるなら誰だって冒険者になりたがるように思えるが、普通の冒険者の仕事は精々が郵便配達ぐらい。勿論それでは報酬は雀の涙程度でしかないので、子供やドロップアウトした老人が主にやっている。

 2人のように未開拓地域でモンスター狩りをすればそれなりの稼ぎは持てるが、死亡率があまりにも高く、新人においては実に半数以上が死亡、もしくは日常生活に支障をきたすほどの障害が残る。

 先のゴブリン討伐のように、それなりのベテランである2人の冒険者がゴブリン1匹を狩るのにわざわざ隠れ、奇襲を仕掛けていたのだ。新人ではゴブリン相手に死ぬ事も珍しくない。


 そのため、稼げると分かっていても未開拓地域に行く冒険者はかなり少ない。

 よほど金に困っているのか、それとも普通の職に就けない過去を持っている者でなければ、誰も好き好んで未開拓地域など行きたくないのだ。




「そういや聞いた? 何か凄いライフル銃が開発されたって」

「いや、初耳」

「何でも、5発連続で撃てて、200リーグ(400m)以上先の的に命中させられるって」


 女は馴染みの商人から聞いた噂を話した。辺境の未開拓地域だが、商人達のネットワークによってそれなりに鮮度が高い情報を得られていた。


「ふーん…」


 しかし、男は信じていないのか軽く返すだけ。

 男の態度が不満だったのか、女は眉をひそめながら更に告げる。


「む、信じてないな? この情報は安くなかったんだから、信頼性は高いわよ?」


 無料や安い情報はガセである事が多いが、高い情報はそれなりに信頼性が高かった。多少の誇張はあれど、そのほとんどが真実である。


「ふーん、なら本当なんだろうけど……どんだけ凄い性能だよ」

「何か、噂の日本帝国の銃らしい」

「日本帝国?……あぁ、あの外海の外の国か。何かとてつもない軍事力を持ってるって噂だけど……本当だったのか?」


 日本帝国についての噂は商人経由などで入って来るが、所詮は隣の大陸の事なので2人はそこまで興味は無かった。


「さぁ? 何でもそのライフル銃を大量に購入したリディア王国は、メディア王国との戦争で圧勝したって聞くけど」

「へぇーー、そんなに凄ぇ銃なら是非とも欲しいな。この銃も悪くねぇが……やっぱり装填の際に時間がかかり過ぎるのが欠点だな」


 肩にかけているライフル銃を手に取り、評価をする。


「5発も連続して撃てるなら、ケンタウロスどころか、飛龍だって仕留められるかも知れねぇ」


 通常なら飛龍兵など、軍隊を持ってしか倒す事の出来ない飛龍を撃ち落として見せると豪語するが、女は対照的に冷めた目で見る。


「…例え本当に5発連続して撃てたとしても、流石に飛龍は無理よ。地龍なら運が良ければ仕留められるかも知れないけど、空を飛ぶ飛龍を銃で撃ち落とす何て……とんだ夢物語だわ」


 女は呆れたようなリアクションを取る。

 パンゲア世界の常識では飛龍こそが最強であり、同じ飛龍以外には落とせないのが通例だ。一部、対空砲や対空ロケット弾という例外もあるが、それでも命中率の関係から除外しても支障は無い。

 メディア王国戦の戦訓が伝わっていたならどうか分からないが、残念ながら別の大陸の未開拓地域に住む彼等には、戦闘の詳しい様子などは伝わっていなかった。







 







 同じアトランティカ大陸にある列強国の1つ、メロス教国の首都ヴァレンチアでは、未だ謎が多い日本帝国についての報告が行われていた。


「…それで……日本人とは誠に人間なのか?」


 メロス教国の国王に当たる教皇は、真剣な眼差しで部下に尋ねた。


「……はい、姿形は勿論、何か特殊な能力を持っている訳でもない。間違いなく、我々と同じ人間でした」

「……そうか…」


 部下の自信満々な言葉に、教皇は内心ガッカリする。

 何故ガッカリなのかと言うと、もし日本人が人間でなかったのなら、かつての亜人達のように討伐令が出せたからだ。


 前記したように、メロス教は人類を創造した神メロスを信奉する宗教で、人類至上主義である。

 まだ亜人やモンスターがパンゲア世界中に住んでいた時代には絶大な権力を誇り、全ての国の頂点に君臨していた。しかし、教義である亜人の絶滅を果たし、モンスターを未開拓地域に追いやる事に成功してからは年々影響力が減少し、今では単なる列強国の1つにまで凋落してしまった。

 勿論、教国は現状に満足しておらず、かつての栄光を取り戻すべく奮闘していた。


 そんな時に、突如パンゲアの外からやって来たという国が現れた。その国はパンゲアよりも遥かに進んだ文明を持ち、そして遥かに優れた兵器を有していた。

 当初、教国はその国にあまり注目していなかったが、先日のメディア王国との戦争結果を知り、一気に注目した。


 パンゲアの外からやって来た国、日本帝国は列強国であるメディア王国を正しく鎧袖一触し、瞬く間に勝利。そして、併合してメディア王国そのものを滅ぼした。

 その戦力は正に規格外であり、もし日本帝国がその気になればパンゲアそのものを征服しかねない。

 まるで物語の魔王のような存在であり、上手く利用出来ればかつてのようにメロス教国が全ての国の頂点に立てるかも知れないと興奮したメロス教国は、日本帝国についての徹底的な調査を開始した。




 そこで話は最初に戻る。日本帝国を魔王化させるのに一番手っ取り早いのは、亜人だと宣言してかつてのように討伐令を出せば良い。

 なので日本人が人間かどうかを徹底的に調べた結果、人間だと分かったので教皇はガッカリしたのだ。


「我々とは全く違う文化を有してますが、パンゲアの外の国なので当然かと。

 また、我々の文化を破壊する気などは無く、何かしらの齟齬が発生しても基本的には話し合いで解決し、暴力的な解決に及ぶというケースも滅多にありません」

「…そうか…」


 文化の違いから何かしらの騒動などは無いかと期待したが、それも空振り。むしろ好意的な印象を持たせる。


 それはそうだろう。何せ日本帝国は異文化と触れ合うのは慣れており、史実の白人達のように現地民に横柄な態度を取る事も無い。そんな事をすれば国の品位を傷付けたとして、反逆罪で死刑にされかねないからだ。

 礼儀正しくしながらも、あくまで堂々とした態度を取る。日本帝国は史実の日本と違い、あまり頭を下げないのでむしろアメリカに近い。




「…旧メディア王国や属国の統治状況はどうなっているのだ?」


 外国人ならまだしも、支配民に対しては横柄な態度で乱暴狼藉を行なっているのではと教皇は再び期待する。

 最も、パンゲア世界では支配民に対して重税を課したり、略奪や強姦、虐殺なども珍しくないので例え日本帝国が同様の事を行なっていようと、それを糾弾するのは難しい。

 現に、教国も支配民に対し、メロス教国への改宗の強制や搾取などを行なっている。


「残念ながら、日本帝国の統治法という法律により、支配した国には最低でも40年間は外国人は入国出来ないらしく、調査は進んでいません」

「…外国人の入国禁止?」

「はい、日本帝国は同化政策を取っており、支配した民族を自分達と同じ日本人に仕立て上げるとの事です」

「ほぅ、珍しいな」


 パンゲア世界では被支配民は基本的には一生被支配民のままで、差別される。そうする事で平民より下の階級を作り、平民達の不満を反らしているのだ。


「現在では国境線は明確にされ、厳重なバリケードも張り巡らされているので侵入は困難を極めています。

 何人か侵入させようとしましたが、強力な魔法がかかっているのか金属の網に触れれば感電死し、下手に近付けば地面が爆発して最低でも足を失います。それに、どうやって察知しているのかは分かりませんが、侵入しようとすれば直ぐに日本帝国の国境警備隊が駆けつけ、連続して撃てる恐ろしい銃によって射殺されます」


 国境線には偽装した監視カメラやマイク、探知機が張り巡らされているので、存在すら知らないパンゲア世界の住民にとっては、何でこちらの動きが解るのかが理解不能だった。


「…密告者がいるのか?」

「分かりません。何度も身元調査を行ないましたが、裏切り者はいませんでした」


 調査によって裏切り者は判明しなかったが、毎回毎回あまりにも早く国境警備隊が駆けつけるので、部隊内は疑心暗鬼の念に包まれていた。


「…では、旧メディア王国内の情報を集める事は不可能か…」

「…残念ですが、現時点の統治状況を知るのは非常に困難です。

 しかし、メディア王国と戦争中の占領地に対する統治活動についての情報を得ました」

「…ほぉ?」


 あまり国王の食付きは良ろしくない。何しろ戦時中では占領地に対する統治は苛烈を極めるのが普通で、どこの国でも略奪や強姦、放火、虐殺など、鬼畜な行いが平然と行われる。

 なので、例え日本帝国が戦時中に占領地に対し非道な行いをしようとも、別に騒ぎ立てる程の事でもない。


 しかし、現実は国王の予想とはまるで逆だった。


「日本帝国軍が都市や村などを占領した際、住民の名前や年齢、職業、家族構成などを把握した後、住民全員に対し食料や衣類を配給したようです」

「…は?」


 あまりのあり得なさに教皇は唖然とする。

 普通なら補給を確保するためや将兵の士気を上げるために、食料や衣類、金目の物などありとあらゆる物を略奪する。しかし、日本帝国は逆に与えるというのだから教皇が唖然とするのも無理は無い。


「貴族など特権階級の者達は皆処刑されたようですが、平民に対して強姦や殺人など乱暴狼藉は行わず、それどころか治療活動すら行なっていたとか」

「……はぁ?」


 先程よりも教皇の声が大きくなった。

 占領地の貴族を殺す事は珍しくないのでどうでも良いが、平民に対して乱暴狼藉を働かないなどあり得ない。

 戦争という特殊な環境下では理性が働き難く、強姦や殺人が起こるのは当たり前であり、下手に禁止すれば将兵の不満や欲求が溜まり、士気も下がるので黙認するのか普通だ。


 オマケに、貴重な医薬品を被支配民に使うなど無駄でしかない。そんな事をすれば味方の治療活動に支障を来たし、死傷者が激増してしまう。

 そもそも、パンゲア世界では薬そのものが高価なため、被支配民に使っていてはあっという間に無くなってしまう。


「……どういう事だ? 将兵に使う医薬品が無くなるではないか? それとも、日本帝国では軍人は治療して貰えないのか?」

「いえ、何でも日本帝国軍は常に膨大な物資を運搬していたらしく、むしろ余っていたとの事です」

「…………」


 これには教皇は絶句してしまった。

 軍事活動とは常に大量の物資を消費するため、どんなに輸送しようが不足するのが当たり前。例え多少余ったとしても、万が一補給が途絶した時のために備蓄しておくのが当たり前で、住民達に配るなどあり得ないからだ。


 しかし、日本帝国にとってはむしろこれが当たり前で、異常な程兵站を気にする伝統がある日本帝国では、アメリカ以上に膨大な物資を補給する。

 それに、馬車ぐらいしか輸送手段が無いパンゲア世界に比べて、日本帝国はヘリや輸送機などの空輸や、トラックを使ったり進軍中にレールを引いて貨物列車を運行するなど、大量の物資を素早く前線に送り届ける事が出来る。

 特に日本帝国では進軍と同時に統治する事も視野に入れているので、とにかく大量の物資を必要としているのだ。




「その後は戦争が終了し、併合されて国境が封鎖されたので確実な事は分かりませんが、噂では税が免除され、道路などが綺麗に整備され、新しい家も建てて貰えると聞きます」

「…………」


 教皇は変わらず絶句したまま。まるで貴族や神官に対して行う行為に、最早頭は真っ白だった。

 相手が元王族か上級貴族だったならこの待遇にも納得するが、相手は単なる平民。それも被支配民という、ある意味では奴隷のような存在だ。普通なら重税をかけて死ぬまで搾取をする対象だというのに、日本帝国は逆に税を免除して家まで与えると言う。

 税の免除や家はあくまで噂でしかないが、そういう噂が立つという事でさえ、パンゲア世界ではあり得ないのだ。







 教皇は最早頭を抱えていた。

 もし噂話が本当だったなら、どう考えても討伐令など出せない。それどころか、もしそんな命令を出せば逆にメロス教国が悪役になってしまい、ただでさえ低下しているメロス教国の地位は完全に失墜してしまう。


 物語で言うなら日本帝国は平民を圧政から救う「救世主」で、そんな英雄を殺せと命じるメロス教国は「魔王」になってしまう。

 そんなレッテルを張られれば一生魔王のイメージが付き、最悪メロス教そのものが危険思想として滅ぼされてしまう危険性すらあった。


「……その噂は…誠なのか…?」

「…分かりません。ですが…平民達は信じているらしく、日本帝国に入ろうと試みる者達もいます」


 ちなみに、日本帝国はスパイが侵入する可能性があるからと、難民は受け入れていない。そのため、幾ら国境警備隊に懇願しても「帰れ」と言われるだけで、それでも諦められない者達は国境を越えようとするが、感電死するか爆死する。

 それに、例え奇跡的に国境を越えられたとしても、不法入国者として射殺されるだけだ。


「……そうか、分かった…」


 しかし、メディア王国にとってはそれだけで十分だった。単なる噂でしかなくとも、平民達が信じているのなら無視は出来ない。

 他の列強国なら、そんな噂など無視して攻め込む事も出来るだろうが、宗教国家であるメロス教国には大義名分というモノが必要であり、それが無ければ本当に単なる国になってしまう。


 理想を掲げる宗教国家にとって、それが強みでもあり、弱みでもあった。

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