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37 黄金郷

 メディア王国との戦争に勝利した日本帝国軍は、併合した地域の統治を開始した。

 メディア王国の場合は国土の大半を占領され、軍もほとんど存在しないも同然なので日本帝国軍の支配にほとんど逆らう事なく、比較的素直に受け入れた。




 しかし、メディア王国の属国達はそうではなかった。

 何しろ、属国側からして見ればメディア王国に対して兵や資金の供出はしたものの、宗主国が負けたからと言って一緒に併合されるなど、納得がいく筈も無い。

 「属国となれ」と言われたのなら甘んじて従っただろうが、併合されて国自体が消滅するなどあまりに理不尽過ぎた。


 メディア王国と同様に、領土の大半が占領されるか軍が壊滅状態になったならば、仕方なく併合も受け入れただろう。しかし、現実では領土は寸土足りとも奪われておらず、それどころか、兵を供出していない属国に至っては日本帝国軍との戦闘すら起きていないのだ。

 これでは併合など、土台無理に決まっている。


 ……何より、併合ともなれば王族や貴族と言った特権階級は自分達の特権や利権などその他諸々を失う事になるので、到底受け入れられる筈はなかった。




 そのため、属国達は新たに対日本帝国連合軍を組み、併合命令を拒絶。日本帝国軍を迎え撃つ体制を取った。

 一方、日本帝国側もこの展開は戦前から予想済みで、既に国境沿いに軍を待機させていた。戦ってもいない属国達がアッサリと併合を受け入れると信じる程、日本帝国は呆けていなかった。


 連合軍からの併合拒絶を受け、日本帝国軍は即座に宣戦布告。

 メディア王国軍にしたように攻撃機や掃射機、攻撃ヘリなど航空戦力を全面に押し出し、敵を蹂躙しながら占領していく。


 逆に、連合軍側では今まで見た事も無い鉄の飛龍(航空機)や地龍(戦車)にパニック状態だった。メディア王国軍に兵を供出した国はあったが、その肝心の兵士達は日本帝国軍との戦闘で死亡したか捕虜になり、未だ帰国は果たせていない。

 そのため、連合軍は日本帝国軍についての情報が乏しかった。メディア王国経由である程度の情報は入ってはいたのだが、あまりにも現実離れし過ぎていて信じておらず、かつてのメディア王国軍のように高をくくっていた。

 そして、その代償を支払う事となったのだった。




 先の戦争と比較にならない程の早さで連合軍を蹴散らし、日本帝国軍は次々と属国を占領していく。


 そもそも、連合軍の戦力が非常に少ない事も問題だった。

 後進国は先の戦争で兵を供出出来ない程に人口が少く、かき集めた所でたかが知れる。一方、中小国はある程度人口に余裕があり、それなりの数を徴兵する事も出来るが、その余裕分は既にメディア王国に供出済みで、残っているのは近衛や僅かな常備軍ぐらい。


 無差別に徴兵でもすれば数を集めるぐらいは出来るが、そもそも、日本帝国が併合命令を出してから侵攻してくるまで時間がほとんど無かったため、その徴兵すらロクに出来ていない。

 それに、例え大規模な数を徴兵出来ていたとしても、支給する武器すら無い。メディア王国は列強国なので、常に戦争に備えて膨大な数のマスケット銃などを備蓄していたが、連合軍は所詮は中小国と後進国の集まりでしかないので、そんな膨大な数の備蓄は無い。

 そのため、例え10万規模の大軍を形成した所で大半はマスケット銃などは持てなく、弓や槍、包丁など手近な物で武装するしかなく、更には軍服も無いので私服で戦う事になる。そんなモノは最早軍隊とは呼べず、野盗の集団でしかない。


 元々、宗主国であるメディア王国が完膚なきまでに敗北したのだから、属国の集まりでしかない連合軍に勝ち目など初めから無いのだ。







 開戦から1週間と保たずに連合軍は日本帝国に無条件降伏、結局は日本帝国に併合された。

 そして、最初の併合命令に逆らったとして連合軍の王侯貴族や大商人など、特権階級は全員処刑された。勿論老若男女関係無く、赤ん坊やまだ生まれてもいない胎児の首までハネ、徹底的に粛正したのだった。







 







「ようやく片付いたか…」


 属国の併合や粛正完了の報告を受けた北郷はため息を吐く。


「これでリディア王国とその属国以外の、アバロニア大陸は制覇出来た」


 日本帝国はメディア王国に勝利したので、協定通りメディア王国とその属国達、そして北部の未開拓地域を正式に領有宣言をし、リディア王国やその属国も協定通り、即座に領有を承認した。

 こうして、日本帝国は一気に広大な領土を得たのだった。


「旧メディア王国や属国の統治は順調か?」

「はい、かつての統治体制おかげで、住民達は我が国の統治に非常に好意的です」


 パンゲア世界の国家のほとんどは絶対王制なため、平民の立場など無いも同然。高い税金を支払わされる割には公共サービスなど皆無で、更には明確な階級社会が確立しているので平民にチャンスなど訪れない。

 これがパンゲア世界の常識だ。


 しかし、日本帝国の支配下に入ると生活は一変。今まで食べた事も無いような豪華な食べ物や、貴族が着るような高価な衣類が無料で配給される。

 これだけでもパンゲア世界では十分カルチャーショックだというのに、更には三等国民になったという事で消費税以外の税金は基本的に免除され、義務教育として3年間だが無料で学校にも通えるのだ。

 ここまで多大な恩恵を与えてくれるなら、今まで何も与えてくれなかった祖国など捨て、日本帝国の支配を受け入れるのは当然だ。


「良し、何時も通り順調に同化政策は進んでいるな」


 喜ばしい報告にも、北郷は眉ひとつ動かす事なく答える。普通の国なら至極順調な状況に笑顔ぐらいは見せるだろうが、日本帝国にとっては通常運転でしかないので驚くに値しない。

 何故なら、この同化政策は500年以上も使用してきた歴史ある政策であり、そもそも失敗した経験が無いので心配する必要が無い。


 普通の国が新たに広大な領土を手に入れたなら、その維持や管理などに莫大な予算が必要になるので、増税をしたり住民を奴隷として酷使するなど、少しでも利益を出すために搾取する。

 しかし、そうなれば必然的に住民の不満が高まり、独立運動や反政府活動が活発化して維持費が高騰し、結果的にマイナスになってしまう。


 一方、無限に予算や物資がある日本帝国はそもそも利益を上げる必要が無く、税金を免除したり様々な公共サービスを与えるなど、採算度外視で投資をしまくる。

 それによって一時的には莫大な赤字になるが、住民達は積極的に日本帝国に協力し、同化政策も順調に進むので結果的にはプラスになる。


 日本帝国が欲しているのは無知な奴隷ではなく、優秀な労働者なのだ。









 旧メディア王国や属国達についての報告は簡単に終わり、未開拓地域についてに移った。


「国境の明確化は完了しました。現在は簡易的な国境線ですが、何れはロードスと同様に要塞線で分断する予定です」


 これまでは未開拓地域と行っても明確な線引きなど無く、ただ単に人間が住んでいる地域と住んでいない地域で分けていただけ。モンスターが住む未開拓地域など誰も欲しがらないので、今まではそれで問題は無かった。

 しかし、日本帝国が未開拓地全域を領有したため、明確な線引きが必要になったのだ。


 現在未開拓地域と接している国は、日本帝国とリディア王国の属国の2国だ。宗主国であるリディア王国も呼んで国境確定の協議を行った結果、日本帝国有利な線引きに決まった。

 この決定に属国側は不満を覚えたが、宗主国であるリディア王国でさえ日本帝国には逆らえないので仕方ないのと、モンスターが住む未開拓地域など領有した所で利益にならないので、アッサリと引いた。


 そして、国境が確定した直後に日本帝国は密入国を防止するために国境線を引いた。

 モンスターの移動も防ぐために深い空堀や幾重にも渡る有刺鉄線、高圧電流を流した高いフェンスなど、簡易的(日本帝国規準)ながら長大な国境線を引き、何れはロードスのように要塞線を引いて完全に遮断する計画なのだ。




「モンスターについては問題は無いのか?」


 ライオンや象など野生動物ならまだしも、ゴブリンやオークと言った高い知能を持つモンスターから、サイクロプスやドラゴンなどの強力なモンスターもいるので、開発の邪魔になるのは必至だ。


「多少は面倒ですが、パンゲア世界の兵器レベルでも未開拓地域に追いやる事は出来たので、問題はありません」

「そうか……では研究用にある程度の数を確保した後、モンスターは絶滅させよ」

「畏まりました」


 モンスターを絶滅させれば生態系が狂う可能性が高いが、だからと言って野生として残すのはあまりにも危険過ぎる。熊や狼ならまだしも、ゴブリンやドラゴンを残せば未開拓地域は何時まで経っても人が住めないので、野生のモンスターは絶滅させるしかない。

 動物園のように鑑賞と保存目的の施設も検討されたが、ドラゴン以外のモンスターを飼い慣らす事は不可能であり、逃げ出したりすれば動物とは比較にならない程の被害が出かねないので、研究目的以外は却下となった。


 ちなみに、万が一にも研究所から逃げ出してアメリカ大陸で繁殖などされても困るので、モンスターの研究所が作られるのはパンゲア世界でのみ。危険外来生物に指定され、どんな理由があろうともアメリカ大陸への持ち込みは固く禁じられた。




「邪魔なモンスターさえいなくなれば未開拓地の開発の障害は無くなる。

 資源調査の結果はどうなっている?」

「まだ全域の調査は終了していませんが、現時点でも石炭や原油、金、銀、鉄鉱石、ウラン、希少金属(レアメタル)希土類元素(レアアース)などなど、様々な資源が豊富に埋蔵されている事が確認されました」


 ロシアのシベリアが豊富な資源を埋蔵しているように、未開拓地域は正に宝の山と言えた。オマケに未開拓地故に金や銀、鉄鉱石と言ったパンゲア世界でも重要視される鉱山も全くの手付かずなため、露出した鉱脈なども幾らでもあった。

 パンゲア世界の住民達は未開拓地域の価値などまるで分かっていなかったが、衛星からの調査によって大量の資源が埋蔵している事を日本帝国は知っていた。


「ようし、やはり未開拓地域は資源の山だったな。今はまだモンスターがいるから採掘は難しいが、採掘さえ始まれば未開拓地域はとんでもない発展を遂げる筈だ」


 未開拓地域は危険なモンスターが生息しているため、人間は住んでいない。そのため、邪魔なモンスターさえ絶滅させれば移住も可能になり、ロードスと同様にいきなり一等国となる。

 二束三文で手に入れた未開拓地域が、ちょっと手を加えれば黄金郷になるという事実に、北郷や日本帝国政府は笑いが止まらなかったのだった。


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