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36 白旗の意味

 日本帝国軍の猛烈な進軍は尚も続き、メディア王国軍は何とか日本帝国軍を王都に近付かせないよう、先の陸戦のように10万単位での決戦を挑んで見るなどをしたのだが、既にリディア王国に力を見せ付け終えた日本帝国軍はいちいち決戦に付き合う事などせず、攻撃機や掃射機、攻撃ヘリなどの航空攻撃によって軽々と撃退。

 平野での決戦は不利と悟ったメディア王国軍は、ならばと交通の要所に建てた要塞などに籠城したが、これまた日本帝国軍の自走砲やロケット攻撃によってあえなく陥落。


 結果、メディア王国軍側は夥しい数の死傷者を出したものの、日本帝国軍の進軍を遅滞させるどころか、何ら被害を負わせる事なく王都への到達を許してしまったのだった。










 メディア王国の王都ラリサはミレトスと同様に、周囲を空堀や半月堡、稜堡で囲っている城郭都市だ。

 そんな王都では、日本帝国軍の侵攻に備えて様々な準備が行われていた。城壁や半月堡、稜堡には大量の大砲を備え、跳ね橋など外部と繋がっている橋は全て収容されるか落とされて遮断され、王都や周囲の空域では頻繁に飛龍兵が哨戒飛行を行っていた。


 先の誓い通り、軍務卿は王都の防衛対策に積極的に動き、自ら現場に赴いて確認する程だった。近衛とも連携してバリケードを築いたり、少しでも早く敵を察知出来るように余剰の飛龍兵を全員哨戒任務に就かせるなど、正に東奔西走していた。

 先の誓いで軍務卿に感銘を覚えた近衛飛龍連隊長が積極的に協力してくれているため、近衛との揉め事は一切起きていない。軍と近衛がここまで協力し合っているのは建国以来であり、メディア王国にとっては既に奇跡的な光景だった。




 軍務卿は部下や近衛に様々な指示を下しながら、内心は不安で一杯だった。


(…この程度の防衛対策で効果があるのか…?)


 軍と近衛が手を取り合い、互いに協力してバリケードを築いたり陣地を構築するなど、とても頼もしい光景が広がっているが、日本帝国軍についての詳細な報告を聞いている軍務卿には不安でしかない。


(周辺の街や要塞も同様な強固な防衛対策を敷いていたというのに、呆気なく陥落した。確かに規模は王都に劣る所はあったが、それでも今までの常識ならば少なくとも一月は保った筈。なのに、日本帝国軍を相手に1日と保たなかった……)


 陸戦や海戦など、今までの戦歴から言って到底日本帝国軍に勝てる筈も無い。例え王都の防衛体制をどこまで強化しようとも、50歩100歩でしかない事を軍務卿は理解していた。


(このようなバリケードや陣地を構築した所で、日本帝国軍の鉄の飛龍が吐くという火線(ロケット弾)を受ければ、何もかもが無意味になるだろう…)


 陣地を必死に築く工兵を、痛々しい目で軍務卿は見る。陣地を築いたとしても日本帝国軍に簡単に破壊され、何の効果も無かったという報告が何件もあったからだ。


 しかし、だからと言って諦める訳にもいかない。既に自分は国王に対して「命をかけて王都を守る」と誓っており、二度と誓いを破るつもりは無かった。


(……なあに、既に捨てた命だ。ならば少しでも多くの敵を道連れに、派手に散ってくれよう…)


 改めて悲壮な覚悟を決め、キリッと眼差しを強くして自分の仕事に戻る。最早一辺の迷いもなく、ただ懸命に王都の防衛体制を強化する。

 その姿は先の誓いの時に見せたように、全てを受け入れた者独特の輝きさえあったのだった。







 







 しかし、遂にその日が訪れた。


 日本帝国軍の前線飛行場から飛び立った数十機のA-10が王都に襲来し、哨戒飛行に出ていた数騎の飛龍兵と遭遇。

 日本帝国軍の攻撃を王都へと伝えるために飛龍兵達は全力での逃走を開始したが、最大でも120km/hしか出せない飛龍が600km/h以上で飛ぶA-10から逃げ切れる筈もなく、瞬く間に30mmガトリング砲によって挽き肉にされた。


 こうして、日本帝国軍による王都侵攻が開始したのだった。










 飛龍兵達を撃退したA-10部隊は王都の上空に到達し、先ずはご挨拶と言わんばかりに先頭を飛んでいた1機が城門に空対地ミサイルを撃ち込んだ。

 その城門はメディア王国自慢の城門で、長年に渡り「例え砲弾を何十発と撃ち込まれようとビクともしない」と大々的に宣伝していて、更には念のためにと今回の襲撃に備えて大量の魔術師を動員し、城門全体に強化魔法さえ施したのだ。

 その甲斐あって、元々強固だった城門は正に鉄壁となり、「これならいかに日本帝国軍の攻撃でもそうそう破られはしないだろう」と軍務卿ですら思った程だ。


 しかし、その自慢の城門は1発の空対地ミサイルによって意図も容易く破壊され、粉々になった。


 絶対の自信を持っていた城門が僅か1撃で破壊されるなど考えもしなかった軍や近衛達は、敵の来襲にも関わらず呆然としていた。自分達の常識で考えれば最早鉄壁という言葉すら生温く、強化魔法が切れるのを待つか、城壁を壊さなければ王都への侵攻は不可能な程だというのに、僅か数秒で破壊された。

 信じられない、というよりも、信じたくないという思いなのだ。




 メディア王国側の空白時間の間に、A-10部隊は龍舎や兵舎、陣地、近衛の施設など、軍事施設に対して攻撃を開始。城門と同様に、堅牢に作られた建物はミサイルやロケットの攻撃によって容易く破壊され、被害は一気に激増した。

 これにより呆けていたメディア王国側もようやく正気に戻り、王都を防衛するために必死に動き始めた。


 しかし、現実は常に無情だ。日本帝国軍の鉄の飛龍を落とそうと近衛飛龍連隊が勝負を挑むが、全く相手にすらなっていなかった。


「畜生っ!! なんて速さだ!!」

「速すぎるっ! 何で飛龍があんなに速く飛べるんだ!?」

「何かの魔法か!? じゃなきゃ、あんな速さで翼が保つ筈がない!!」


 近衛飛龍連隊は混乱しながら何とか追いすがろうとするも、逆に距離が開くばかり。

 逆にA-10部隊にとって飛龍など何の脅威でもなく、例え攻撃を受けた所で被害など無いのだが、地上部隊にとっては厄介な存在でもあるので掃討を開始した。


「うわぁ、 こっちに来やがった!」

「くそ、振り切れんっ!!」

「後ろに着かれたっ!! 誰か助けて…」


 旋回性能なら生物である飛龍の方が格段に上なため、ロケット弾ぐらいなら避ける事も可能だろう。しかし、高速で連射される30mmガトリング砲を避けられる筈もなく、撃たれた飛龍はカスっただけでも挽き肉のようにグチャグチャになる。

 何とか逃げようと足掻くも、5倍以上もある速度差によって簡単に追い付かれ、同様に挽き肉にされる。例え命中しなくとも、30mmガトリング弾が近くを通り過ぎる衝撃波だけで飛龍は重傷を負い、落ちていく。


 王都防衛のためにと軍務卿がメディア王国中から必死にかき集め、近衛飛龍連隊と合わせて200騎以上もいた飛龍兵が、僅か10分足らずで壊滅状態となっていた。








「……まさか…これほどまでとは…」


 近衛飛龍連隊がハエのように落とされ、各種軍施設や、必死に築いてきた陣地やバリケードなどがロケット弾や30mmガトリング弾によって意図も容易く破壊されていく様を見て、軍務卿は震えていた。

 今までの報告から、日本帝国軍のデタラメな強さ自体は知識としては理解していたが、実際に軍務卿自身が目撃した事は無かったからだ。


「…なんと……余の近衛が意図も容易く……」


 軍務卿の横で、近衛飛龍連隊がA-10に落とされていく様子を見た国王は呆然とする。つい1時間程前まではあんなにも頼もしく、最強だと疑っていなかった精鋭達が次々と落とされていく様は、下手な悪夢よりもよほど衝撃的だ。


「陛下、お気を確かに!」


 口をポカンと開けたまま呆然とする国王に、このままでは不味いと感じた軍務卿は肩を揺すった。


「あ、あぁ……すまない…」


 国王が臣下に謝るなど普段ならあり得ないのだが、あまりの衝撃を受けて心が弱っていたからか、思わず国王は謝っていた。


「いえ……それよりも、あの鉄の飛龍をどう撃退するのかを考えなくては…」


 国王の言葉を軽くスルーしながら、軍務卿は災厄の原因である鉄の飛龍(A-10)を睨み付ける。

 飛龍兵をあらかた片付けたA-10部隊は軍施設の攻撃に集中し、重要な施設からミサイルやロケットを撃ちまくり、残弾が無くなれば30mmガトリングでクレーターを量産している。


「…何か対策は無いのか?」


 縋るように国王は軍務卿を見る。頼りにしていた近衛や軍は最早壊滅状態であり、頼れるモノは他に無かった。

 しかし、軍務卿は悔しげに口を噛み締めながら首を振る。


「……残念ながら…あの鉄の飛龍を落とす手段は我が国にはありません。幾つもの戦場で目撃したという報告こそありますが、未だに撃墜に成功したという報告は皆無です…」

「……そうか…」


 軍務卿の報告に、意外にも国王の反応は冷静だった。

 それもそうだろう、メディア王国最強である近衛飛龍連隊を持ってしても、敵の飛龍を1騎も落とせないどころか逆に全滅したのを見せ付けられれば、諦めもする。

 一応、対空放火としてロケット弾や大砲もあるが、飛龍さえロクに落とせないのに飛龍よりも遥かに早い敵に通用する筈が無い。




 国王と軍務卿が為す術も無くただ見ている間にも、A-10部隊の攻撃は続く。

 あらかたの軍施設の破壊が終わったA-10部隊は、30mmガトリング砲で城壁や防衛施設を破壊するなど、最終局面に入っていた。


「…陛下、最早我が軍は壊滅状態であり、とてもではありませんがこれ以上の戦闘は不可能です」

「…………」


 軍務卿の言葉に国王は沈黙する。


「軍の施設はほぼ全てが破壊され、用意していた防衛施設もほとんどやられました。

 将兵の被害も甚大で、特に士官など上級将校は軒並み死亡、もしくは重傷を負い、職務遂行は不可能です」

「…………」


 つまり、軍事的な行動は不可能という訳だ。完膚なきまでの大敗であり、最早勝敗は決していた。

 今の状態なら列強どころか、後進国の軍にすら敗北するだろう。




 更に悪いニュースは続く。


「陛下! 日本帝国軍が王都を包囲しました!」


 遂に日本帝国軍の陸上部隊も追い付き、逃げ場を残さないように王都を包囲していた。


「更に、日本帝国軍は我が国に無条件降伏を要求! もしも受け入れないのなら王都に住む人間を全て殺すと宣言しています!」

「…………」


 最後通牒すら突き付けられ、最早逃げ場は無かった。


「……陛下…」


 軍務卿が縋るように国王を見る。

 ここで国王が降伏を飲めば自分達はともかく、王都に住む住人は助かる可能性は高いので、何としてでも国王に降伏を飲ませるつもりだった。もしも国王が降伏を拒んだなら、間違いなく軍務卿は国王を殺し、無理矢理にでも降伏しただろう。

 しかし、その心配はいらなかった。


「……終わったのだな……メディア王国は……」


 ガックリと無念そうに国王は首を落とす。

 感情的には認めなくなど無いが、それをすれば王都は文字通り滅ぼされてしまう。流石にそこまで意地を張るつもりなど無かった。


 国王の言葉に軍務卿は勿論、周囲の者達は涙を流す。講和ならまだしも、無条件降伏では祖国が残る筈が無いからだ。


「……白旗を上げよ…。我が国は日本帝国に降伏する…」

「……はっ、畏まりました!」


 命令を受けた軍務卿は泣きながらも綺麗な敬礼をする。

 通常、パンゲア世界で降伏の証は赤旗、もしくは指揮官の軍服を掲げるのが一般的だ。しかし、日本帝国の宣戦布告文書に『降伏の際には白旗を掲げよ』と記載してあったため、完全なる降伏の証として国王は白旗を掲げるよう命じたのだ。


 周囲の者達もその意味を理解しているので、改めて祖国が無くなるという事を実感したのだった。










 こうして、日本帝国とメディア王国との戦争は終結。その直後に、メディア王国の属国達も日本帝国に降伏した事で、正式に戦争は終結したのだった。


 元々はメディア王国とリディア王国との戦争であり、日本帝国はリディア王国の要請によって参戦しただけに過ぎなかったのだが、リディア王国の活躍は初戦のみであり、それ以降の戦いは全て日本帝国の活躍だったので、完全に主役と脇役が逆転していた。

 そのため、パンゲア世界中の国々は勿論、リディア王国の国民でさえ「日本帝国とメディア王国との戦争」と認識していた。


 主役を完全に奪われたリディア王国の面子は丸潰れだが、皮肉にもこの戦争によって日本帝国の戦力が明らかになり、今まで以上に日本帝国に逆らえなくなってしまっていた。

 更に、リディア王国の象徴とも言えるシルヴィア王女が暗殺された事で国内はパニック状態になっており、今は国外を気にする余裕すら無かった。

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