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35 決意

 メディア王国国王、ロターリオ3世は先の海上決戦の報告を聞き、怒りに震えていた。


「……それで? 何か申し開きはあるのか?」


 口調は冷静だが、般若のごとく恐ろしい顔つきをして、両手を震える程に握りしめている様子から、国王が怒り狂っているのは明白だ。

 一方、報告に来た海軍大臣は血の気を感じさせない程に蒼白になり、国王とは逆に恐怖で震えていた。


「そ、その…えっと…………敵艦隊の力は凄まじく、我が艦隊も奮戦したものの…力及ばずに敗れました…」


 何とも曖昧で何の情報も無い言い訳でしかないが、これは仕方ない。何せメディア王国側の船は全て沈み、生き残った将兵は全員捕虜にされたので、決戦についての情報が何も無い。

 だからと言って国王に向かって「何の情報も無いので分かりません」とは言えないので、仕方なく曖昧な表現で濁したのだ。


 しかし、当然ながら国王がそれで納得する筈も無かった。


「…そうか、では今回の大敗の責任として貴様を海軍大臣から解任する。

 沙汰は追って知らせる。下がれ」

「…はい…」


 当然の処罰なので周囲は勿論、本人さえも文句1つ言うことなく受け入れる。

 戦闘艦どころか、哨戒艦艇のほとんどを失い、メディア王国海軍は最早存在しないも同然。その責任を取らされる彼がどんな罰を受けるのかは、想像に難くない。










 海軍大臣が終わった後、今回の海戦を計画、推進した司令部のトップである軍務卿への審問が開始された。


「…決戦前、貴様は「今作戦こそ最後の勝機」と余に演説したが、結果は歴史上にも無い程の大敗だ」

「…………」


 国王の嬲るような言葉に、軍務卿はただ黙って聞く。先程の海軍大臣とはまるで逆で、言い訳をしようという素振りさえ見せない。


「更に、貴様が「一気に決着をつけるべき」と余に嘆願し、戦闘艦艇のほぼ全てを動員した結果、余の艦艇は全て海の藻屑となった」

「…………」


 パンゲア世界の国々は絶対君主制国家なため、軍隊は国王の私物である。


「全ての艦艇を動員する際、余は貴様に「必ず勝てるのだな?」と問いかけ、貴様は「はい、必ず勝てます」と答えた。

 しかし、結果は先程も言ったように完膚なきまでに大敗。勝機を生むどころか我が国の戦力は激減し、日本帝国軍は着実にこの王都に近付いて来ている。

 …何か申し開きはあるか?」


 睨み付けるように国王は軍務卿の目を見る。

 幼き頃から政争に明け暮れ、他の兄弟達を排除して玉座を手に入れた男の目は鋭く、相手が平民だったなら恐怖で腰を抜かしただろう。


「いえ、言い訳しようもありません。全ては私の不徳の致すところであり、如何なる処罰もお受けします」


 国王の問いに、軍務卿は即答する。決戦前から「もしも失敗すれば全ての責任は自分が負う」と決めていたため、毅然とした態度で返答する。


「ほぅ、如何なる処罰をもか…。

 ならば貴様は勿論、貴様の妻や息子、娘達、更には兄弟や親戚、家臣など一族郎党を残酷な拷問の上、惨たらしく処刑すると告げても……甘んじて受けいれるのか?」


 国王のあまりにも無情な処罰に、近くにいた重臣や近衛飛龍連隊長などは青ざめる。

 確かに国家存亡の危機を招いたとも言えるので、一族朗党皆殺しは仕方がないにしても、残酷な拷問の上に惨たらしく処刑するなどあまりにも酷すぎる。が、だからと言って諫言などすれば自分に返って来るかも知れないので、ただ黙って推移を見るしかない。


 しかし、動揺する周囲とは正反対に、軍務卿は毅然とした態度を崩さぬまま返答した。


「それが陛下のお望みとあらば」


 そう言って頭を深々と下げる。その姿に迷いは一切無く、全てを受け入れた者独特の輝きさえあった。

 その潔く、忠義溢れる姿に重臣達は感動した。特に武官である近衛飛龍連隊長は何か感じるモノがあったのか、若干涙ぐんでさえもいた。




「……よかろう。では軍務卿よ、処罰を言い渡す」

「…………」


 国王の言葉に軍務卿は頭を下げたまま、目を瞑って沙汰を待つ。内心では「処刑は自分だけにして欲しい」と願いつつも、どんな処罰を言い渡されても受け入れる覚悟は出来ていた。


「軍務卿よ……死ぬ気で王都を防衛するのだ」

「……は?」


 予想もしなかった国王の言葉に、どんな処罰でも受け入れると覚悟していた軍務卿は思わず呆然とする。軍務卿だけではなく、部屋の中にいた全員も何が起きたのか理解出来なかったように呆けた。


「どうした軍務卿、余の決めた処罰が不服か?」

「い、いえいえ、滅相もございません。

 …ただ、思いもしなかった処罰でしたので…」


 普通に考えればあまりにも大甘な裁定だ。例え軍務卿の覚悟に感じ入っての減刑だとしても、精々が一族郎党から処刑は軍務卿1人のみで、残りの家族や親戚、家臣は国外追放に減じられる程度。

 メディア王国海軍の壊滅に対する処罰としてはあまりにも軽すぎるため、周囲にいる者達は不満そうな顔をする。


「無論、王都の防衛に見事成功すれば罪を許すが、失敗すれば先程言ったように貴様の一族郎党を拷問の末、処刑する」

「……かしこまりました」


 追加の条件に、周囲はとりあえず納得した。まだ甘い所もあるが、王都防衛に成功すればその功績で罪を相殺し、失敗すれば一族郎党皆殺しになる。

 つまり、例え軍務卿の指揮の下、王都防衛に見事成功したとしても軍務卿に昇進や昇給などは無く、逆に失敗すれば軍務卿が全責任を取らなければならない。

 軍務卿にとってはどう転んだ所で、ゼロかマイナスにしかならないのだ。










 軍務卿の審問は終わったので、現在の戦線の確認や王都防衛についての会議に移った。


「先の海戦に勝利して以来、日本帝国軍は従来の陸上輸送に加えて海上輸送も積極的に行い、更に進軍速度を早めています。日本帝国軍が王都へと襲来するのも時間の問題です」


 メディア王国の領土が事細かに書かれた大型の地図に指揮棒を指しながら、軍務卿は国王に報告していた。


「ふむ……日本帝国軍の進軍を止める事は出来んのか?」

「残念ながら、現状では不可能です。日本帝国軍はリディア王国軍の新式銃より遥かに優れた兵器を大量に保有しており、勝負にすらなっていません」


 国王の言葉に軍務卿は即答した。


「例の新式銃以上か…。

 我が国の新式銃開発はどうなっているのだ?」


 前記したが、メディア王国は少数ながらリディア王国の九九式小銃を鹵獲しており、それを基に新式銃の開発を行っていた。


「何とか開発に成功し、試作品も完成しました。

 装填速度こそ従来と大した変わりはありませんが、射程距離や威力を引き上げる事には成功しました」


 戦時という事もあって新式銃開発に莫大な資金や人員を費やしたおかげで、リディア王国より遥かに早い速度で新式銃開発に成功した。

 ちなみに開発した新式銃はシルヴィア銃とほとんど変わらない。


「おぉ、遂に完成したか! ならば早速その新式銃を量産し、全部隊に配るのだ!」


 喜色を浮かべながら国王は命じる。開戦以来、リディア王国軍や日本帝国軍に敗北する屈辱的なニュースが続き、これまで良い話など一切無かったのでつい興奮してしまったのだ。

 しかし、国王とは対照的に軍務卿の顔は暗い。


「…それが……構造が複雑で量産化は非常に難しく、現状では近衛連隊に充足させるのも困難です…」


 リディア王国と同様、メディア王国にも蒸気機関は無いので量産化が出来ない。リディア王国と違って人出はあるので時間さえかければ大量に揃える事は可能だが、日本帝国軍の進軍速度を考えればその前に王都が包囲されてしまうのは明白。


「…そうか…」


 国王はガックリと肩を落とす。なまじ希望が大きかったため、絶望も大きかった。




 少し経って国王も気を取り直し、会議を続けた。


「…では、日本帝国軍の進軍を止めるのは不可能なのか?」

「誠に残念ですが……このままの状況が続けば近い内に日本帝国軍は王都へと至ります…」

「…………」


 せっかく立ち直ったというのに、再び国王はガックリと肩を落とした。

 そんな国王を鼓舞するために、近衛飛龍連隊長が自信満々な声で断言する。


「ご安心下さい陛下。例え敵の軍勢がこの王都を攻めて来ようとも、我が近衛飛龍連隊が鎧袖一触にして見せましょう!」


 その姿に迷いは一切無く、必ず勝てると信じて疑っていない。

 何故なら、近衛飛龍連隊など近衛は国王を守るのが任務なため、基本的には国王が居る王都から出ない。そのため、先の海戦前の海軍と同様に、日本帝国軍と戦った経験が無いのだ。

 更に言えば、どこの国でも近衛は精鋭中の精鋭の存在であり、その中でもパンゲア世界最強の存在である飛龍を運用する近衛飛龍連隊は別格なため、自然と自尊心が高くなる。自分達が負けるなど考えてすらいなく、本気で日本帝国軍を鎧袖一触に出来ると信じているのだ。


「…………」


 軍務卿はポーカーフェイスを貫きながらも、内心ではため息をついていた。陸戦や海戦など、日本帝国軍についての様々な報告を聞いている軍務卿は、近衛飛龍連隊を持ってしても日本帝国軍に到底敵わない事を悟っていた。

 幾ら近衛飛龍連隊が精鋭中の精鋭で、武器や飛龍も最高のモノばかりで構成されているとは言え、普通の部隊とそこまでの差は無い。確かに集団戦になればその違いは出てくるが、日本帝国軍から見ればミクロレベルの違いでしかないのだ。


 しかし、軍務卿はその場では何も言わなかった。言った所で相手が認める筈も無く、逆に反感を買って王都防衛の際に無駄な争いが起きかねないので、軽く流して会議を終えた。










 会議が終わった後、執務室にいるのは国王と軍務卿の2人のみだった。軍務卿が国王に対し、王都防衛について大事な話があると言ったからだ。


「「…………」」


 2人きりになってそれなりの時間になるが、2人とも互いに無言で目を合わせるだけ。まるで目で会話をしていると言わんばかりの雰囲気だ。


「…陛下、何とか日本帝国との講和、もしくは降伏を考えては頂けませんでしょうか?」


 長い沈黙を破って軍務卿が出した言葉は、まさかの降伏勧告だった。


「……何を言う軍務卿。まだ余の軍勢は健在ではないか?」


 国王は即答はせず、少し考えた後に軍務卿の意見を否定する。しかし、思う所があるのかキッパリとした否定はせず、冷静に言い返す。


「…確かに、未だ我が軍は20万以上の大軍を有していますが……現状では日本帝国軍と相手にすらなっておらず、例え全軍を集結させたとしても蹴散らされるだけでしょう」

「…………」


 不敬とも取れる発言だが、国王は顔を僅かにしかめるだけで黙って聞いていた。国王自身もこのまま日本帝国軍と戦って、最終的に勝てるかどうか不安だからだ。


「このままいけば必ずや日本帝国軍は王都にまで至り、王都は焦土と化すでしょう。

 …そうなってからでは遅いのです」

「……しかし、王都には精鋭である近衛が控えておる。流石に今までのようにはいかんだろう…」


 国王にとって最後の希望である近衛の名を出すも、軍務卿は静かに首を振る。


「残念ですが、近衛を持ってしても日本帝国軍を倒す事は不可能です。確かに近衛は最強の戦力と言えますが、それはあくまで常識の範囲内です。

 日本帝国軍は陸戦では僅か5千で10万の大軍を破り、海戦においては5隻で45隻もの大艦隊を沈めたのです。例え近衛がどんなに強かろうと、こんな非常識な敵には敵いません」

「…………」


 軍務卿の言葉に国王はまたもや黙る。もしも国王が暗君だったなら軍務卿の言葉には耳を貸さず、それどころか日本帝国と通じているのではと疑って処刑したかも知れないが、国王は暗君ではないので軍務卿の言葉に耳を傾けていた。




「…軍務卿の言いたい事はよく分かった。

 しかし、現時点での講和や降伏は出来ない」

「…………」


 自分の提案を拒絶されたが、軍務卿は顔色1つ変えなかった。自分でも分かっていたからだ。


「我が国は日本帝国軍に対して1勝もしておらず、ほとんど損害すら与えられていない。そんな状況で講和を求めれば、日本帝国は我が国が到底飲めないような苛烈な要求をしてくるに違いない。

 そのため、王都の防衛戦で出来る限り敵に損害を与え、少しでも良い条件で講和を結ばなくてはならない」


 近衛飛龍連隊長など重臣達とは違い、国王は最早逆転勝利など望んでいない。軍務卿が何度も前線の詳細や敗残兵の証言を報告した事で、国王は既に日本帝国には勝てないと諦めていた。

 望むのは少しでも損害の少ない講和だ。


「先程余に誓ったように、王都を死ぬ気で守るのだ。貴様が見事防衛に成功すれば、我が国の勝利となる」

「はっ、畏まりました!」


 国王の命令に軍務卿は見事な敬礼を返す。自分の望み通り国王が現実を受け入れていた事に歓喜しながら、祖国を日本帝国の魔の手から守るために、一層の決意を固めたのだった。







 







 軍務卿が決意を固めていた頃、魔石鉱山周辺の領地をリディア王国軍が侵攻していた。


「奪え! 何もかも奪うのだ!」


 リディア王国軍の士官が部下達に積極的に略奪をさせる。勿論、自分達も領主の舘などを襲って貴金属や美術品などを根こそぎ奪う。

 その際、略奪によってテンションが上がり、冷静な判断能力を失ったリディア王国軍兵士による強姦や放火、虐殺なども多発しているが、士官達は見て見ぬふりをしている。


 ちなみに、その領地の警備部隊や軍は領民を守ろうとしたが、大軍で更には九九式小銃や三式拳銃を装備したリディア王国軍によって撃退された。




「殿下、順調に進んでいます」

「うむ、この領が奪い終わったら直ぐに隣の領地に移るぞ」


 士官からの報告にシルヴィアは頷き、新たな侵攻計画を指示した。

 日本帝国の規準で考えれば野蛮極まりない行為だが、パンゲア世界ではむしろ勝者の特権であるので誰も躊躇いはしない。シルヴィアも積極的に領主や大商人、富農などの屋敷に略奪を行い、それなりの成果を上げていた。


「やはりこの領地の駐留軍も少ないですね」

「それはそうだろう。日本帝国軍が猛烈な勢いで王都にまで進軍しているのだ。このような地方に回す兵などあるまい」


 日本帝国軍が王都へと進軍している事で、メディア王国中の将兵は王都や周辺の基地へと派遣されていた。そのため、必然的に国境周辺の守りは手薄になり、リディア王国軍が大手を振って略奪に勤しめるのだ。


「何度も言っているが、決して日本帝国軍の支配地域には足を踏み入れるな。万が一にも何かがあれば厄介だからな」


 本来ならば日本帝国が支配する筈だった地域をリディア王国が略奪しているのだ。日本帝国側が良い感情を抱く筈がない。


「それと、もし日本帝国軍と遭遇してしまったのなら速やかに道を譲れ。我々はあくまで彼等のおこぼれに預かっているだけだからな」


 自嘲するようにシルヴィアは告げる。公式的にはお互い対等な独立国同士だが、実際には不平等条約を押し付けられて銃や弾薬の供給弁を押さえられている属国に近い。

 今回の略奪も日本帝国が黙認してくれているから行えているが、もしも日本帝国の機嫌を損ねれば略奪などに対する損害賠償を求められる可能性もあった。


「はっ、よく心得ています」

「うむ、ならば良い。

 それにしても……相変わらず九九式小銃や三式拳銃は金食い虫だな…」


 幾ら警備の手が薄いとは言え、全くいない訳でもないので時折戦闘は発生する。少数な上、相手はマスケット銃ぐらいしか装備していないので九九式小銃を持つリディア王国軍が圧勝するのだが、弾薬費を考えると頭が痛いのだ。


「…弾薬費分だけでも元は取れたか?」

「いえ、戦闘の際に大量に消費しますし、兵士達が戯れに領民や獣を射殺しますので…」

「全く……戦闘ならば仕方がないが、それ以外はマスケット銃や銃剣を使うように徹底せよ」


 あくまで弾薬が勿体無いのであって、領民を無意味に殺す事を責めた訳では無い。下手に禁止にすれば兵士の不満が溜まり、士気が下がるので推奨こそしないが、禁止にするつもりも無かった。


「まぁ、これだけ派手に略奪すれば徴兵した兵士達に払う給金分ぐらいなら徴収出来ただろう。このまま行けば何とか収益も出る筈だ」


 将兵の乱暴狼藉によって悲鳴や怒声などが響いているが、シルヴィアは一切無視して微笑みさえ浮かべる。

 自国の領土となるのなら多少は考慮もするが、戦後は全て日本帝国の領土となってしまうので、一切の手加減は無い。むしろ、日本帝国の統治活動を阻害出来るので、積極的に略奪を行い、虐殺や強姦、放火を行っていた。





「さて、そろそろ奪い終わっただろう。次へ向かうぞ。

 手間取っていては日本帝国軍が王都を落とし、戦争が終わってしまいかねん。全く、何もかもが異常な国だ…」


 愚痴を言った後に馬に騎乗し、進軍命令を口に出そうとした瞬間、シルヴィアの頭が破裂し、脳みそが吹き飛んだ。


「殿下っ!!?」

「何だ!? 何があった!?」

「狙撃かっ!?」

「どこから狙ったというのだ!!」

「あぁ、何という事だ…」


 何が何だが分からずに混乱する者や、狙撃と察知して周囲を見回す者、脳みそが飛び出ているシルヴィアの体を抱きながら途方に暮れる者など、反応は様々だった。










「命中」

「…あぁ」


 シルヴィア達から600m程離れた小高い丘の草むらの中には、ギリースーツを着た観測手と狙撃手がいた。

 狙撃手が持っているのは徹底的な近代化改修を施し、更にはサイレンサーを取り付けた九九式狙撃銃で、弾丸はリディア王国軍が採用している7.7mm弾と同じなので、例え弾丸を調べられても日本帝国の仕業とは断定出来ない。

 メディア王国もリディア王国軍から鹵獲した九九式小銃を少数ながら持っているので、例え難癖を付けられても堂々と否定が出来る。


「任務完了、撤収」

「了解」


 観測手がシルヴィアの死亡を確認し、2人は直ぐにその場から立ち去った。




 これこそが北郷が待ち望んでいた、シルヴィアを暗殺出来る絶好の機会だった。

 平時においては例えリディア王国軍と同じ弾丸を使用しようとも、シルヴィアが死ねば最も都合の良い日本帝国の仕業だと誰もが思う。しかし、戦時中ならばシルヴィアが死んだ所で何の不思議も無い。


 更には、メディア王国がリディア王国軍の九九式小銃を少数ながら鹵獲した事で、更に疑いを反らせる。何しろシルヴィアは味方からは女神として崇められ、敵からは魔女として恐れられる程の女傑だ。敵国が暗殺を考えない筈が無い。

 オマケに、シルヴィアは大々的な略奪の指揮を取っていたのだ。怒りに駆られたメディア王国軍兵士がシルヴィアを狙撃したとしても、何ら不思議は無い。




 こうして、日本帝国のシルヴィア王女暗殺は見事成功。リディア王国軍の士気は一気に低下し、魔石鉱山に引きこもったのだった。

 リディア王国側は当初、長距離狙撃という高等技術に日本帝国を疑ったが、まさか戦時中に味方を疑う事も出来ず、更には状況的に考えればメディア王国による暗殺という可能性が高いので、結局は「メディア王国軍による卑劣な暗殺」というシナリオに落ち着いた。


 戦後、シルヴィアは英雄として大々的な国葬が行われたのだった。

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