第5話 ちょっとしたご褒美
「ふふふ……少しだけ贅沢してしまった」
ダンジョンでは慎重に。現実ではちょっと調子に乗る。
普段は五百円以下の食事で済ませるのに、七百円もするお高めのカツ丼に手を出しているのだから。おまけにコーラまで付けてしまった。
新たな一歩を踏み出したのだ。これくらい甘えてもいいだろう。
意気揚々と豪華な食事を手に、自宅へと帰還した。
「いただきまーす」
諸々の作業を終えて、カツ丼にかぶりつく。
うまっ。食べ応えが全然違う。
スーパーの丼ものとはいえ、味はしっかりしている。
そしてコーラもグビグビと……あー、生き返る。
この甘さと強炭酸が、生きてるって実感させてくれる。
最高だ。幸せだ。
くだらないご褒美でも、俺は十分満足している。
「そういえば……」
新しいスキル、まだ見てなかったな。
確か“ファイアボール”とか言ってたっけ……
ピコン!
★★★★
【ファイアボール】
分類:アクティブスキル
〜効果〜
・手から火の玉を生成する。生成した火の玉は投げることが可能。
・クールダウン:22秒
★★★★
「うーん……」
クールダウン……やっぱり長いな。
遠距離に飛ばせるからか、“武器強化”よりも長めに設定されている。
けど、ゲームのセオリーで言うとクールダウンが長いスキルは強い傾向にある。
ということは“ファイアボール”もかなり火力が出せるスキルなのでは?
試してないからわからない。
次にダンジョンへ潜った時に試してみよう。
(遠距離攻撃……か)
カツ丼をもぐもぐしながら、得たスキルについて考える。
今のところかなりバランスよくスキルを獲得している。
近接特化の“武器強化”
遠距離もいける“ファイアボール”
パーティを組める友達がいない俺にとっては、かなりありがたいスキル構成だ。
クールダウンのせいで連発できないのは悩みだが……レベルアップすればその辺も使い勝手がよくなるのかね?
米粒一つ残さずカツ丼を平らげ、コーラを飲みながらスマホでダンジョンに関する情報を調べていく。
とりあえず協会近くのダンジョンについて。
「ほーん……」
少し調べるだけで、いろんな情報が出てきた。
初~中級者向け。サポートも手厚く、理不尽に強いモンスターはいない。
ドロップ素材も安定している。下層はまだ未知数な部分が多い。
なるほど、オーソドックスなダンジョンってことね。
最初に行く場所としては正解だった。
てかこのWiki便利だな。
初級者向けのコツまで載ってるじゃん。
「おおー」
色々書いてある。
初級者NG行動集とか特に参考になる。
調子に乗らない、
モンスターを甘く見てはいけない、
スキルを使いすぎるとMPが切れて動けなくなる……
「あれ?」
「MP?」
そんなのあったっけ。
スキルって時間経過で回復するものじゃないのか。
もしかして間違った情報……?
あ、そうか。
・スキル獲得後、MP制を廃止し【クールダウン】に統合。
こんな文章が記載されていた。
もしかして、俺だけスキルの仕組みが違う?
けど、今のところMPの方が便利だと思うけどな……リキャストを待たずに連発できる方が戦闘では便利な気がする。
まぁ“クールダウン”にも強みはあるのだろう。
まだまだ成長段階なのだから。
「明日は……バイトか」
もう少し起きていたいけど寝なきゃ。
朝早いシフトはこれだから大変だ。
仕事のために寝るって結構嫌なんだけどな……
ゴミを捨てて、歯を磨いて、風呂に入る。
夜のやることをすべて終えた後、俺は電気を消して布団へと入った。
「おやすみー……」
動いたからかな。
凄くまぶたが重い。
よく眠れるのは……いいことだけど……
◇◇◇
「……慣れないな」
再びダンジョン協会へ。
バイト終わりなのに余力がある。無駄に休みも増えたけど……
「今日は俺の限界を知るところからだな」
上振れを無視してどこまで稼げるか気になる。
そして、俺がどのモンスターまでなら戦えるのか。
自分の実力を把握することは、今後の立ち回りに大きく影響する。
多分、二階層まで行けたら凄いと思うけど……
欲張るのはいけない。あくまで安全第一で探索しなければ。
「お!! お前ゴールドランクまで行ったのか!!」
「そーなんだよ!! やっと五階層を突破してさー!!」
大声の方を振り向けば、一人の男性が金色に輝くダンジョンライセンスを自慢げに見せていた。
俺のライセンスは銅色。そういえばランクによって色が変わるんだっけ。
ランクはブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤ、マスターの六段階。
ランクが上がると高難易度ダンジョンへの入場許可や一部施設が利用可能になるのだとか。
俺には遠い話だと思うけど。だって初心者だし。
「お気をつけてー」
銅色のライセンスでも入れる協会内ダンジョンはレベルが低いということだ。
いつかは他のダンジョンを巡るようになるのだろうか。
ダンジョンで活躍する自分の姿が、まだあまり想像できないが……
「おっ」
早速、ゴブリンが現れた。
姿を見て一瞬で身を隠したから、ゴブリンにはまだ俺の存在は気づかれていない。
……新しいスキルを試すなら今か?
早速、俺は頭の中で“ファイアボール”と念じた。
すると手のひらサイズの炎の弾が出現。
手に持っているのに全然熱くない。不思議だ。
「よっと」
その“ファイアボール”を物陰からぽいっと投げた。
野球ボールのように放物線を描いて飛び、そのままゴブリンに命中。
「グギャアアアアアア!!」
そしてゴブリンの身体が炎に包まれ、光の粒子となって消え去った。
「……強いな」
遠距離でこの火力か。
クールダウンが長いのも納得できる。
けど相手がゴブリンだったから、というのも大きいだろう。
もっと強いモンスター相手だと効果が薄いかもしれない。
危なくなったら即離脱。
安全第一で進んでいこう。




