第39話 レイドボス、現れる
「強いけど……時間がかかるな」
ULTは確かに強かった。ドラゴンゾンビのバリアを貫通し、直接本体を斬り付けられる。
有象無象のモンスター相手でもズバズバ倒せるし、発動中はまさに無双状態だ。
しかし、溜まるのがあまりにも遅すぎる。
三十分ほどかけてようやく一回と考えると、普段使いには向いていない。
今回はレイド戦で大量のモンスターを倒せるから早いが、通常のダンジョン探索なら溜まる前に家へ帰っているだろう。
ゲージは日をまたいで保持できるのだろうか。
その辺も今度確認しておこう。
「アンタは休んでな」
「はい?」
再び前に出ようとした俺の肩に、男性探索者の手がぽんと置かれた。
「でかいスキルを使ったばかりだろ? MPも消耗したはずだ。ここらで休憩した方がいい」
「いや、まだ戦えるが……」
「大丈夫だ!! アンタのおかげでモンスターも減って戦いやすくなった。それに討伐隊が何かやらかすかもしれん。いざって時に備えてほしいんだよ」
「なるほど……じゃあお言葉に甘えて」
そこまで言うなら、と俺は後方へ下がり、入口近くの即席の休憩スペースに座り込む。
戦えるとはいえ、身体の疲労は徐々に溜まっていたので正直助かった。
探索者というのは、全体的に親切な人が多い気がする。
変わった人もいるにはいるが、基本的には互いに助け合おうとしている。
ダンジョンはとにかく危険だ。仲間割れしている余裕などないのだろうか。それとも、ここに集まった探索者たちがたまたまそうだっただけか。
いずれにせよ、恵まれているのは確かだ。
「ふへぇ……疲れました」
「お疲れ。静はMP大丈夫か?」
「何回か使える余裕はあります……けど、そろそろ戦力外になりそうですね」
「じゃあ、その分俺が頑張らないとな」
「ふふっ、頼りにしてますっ♪」
水を飲みながら静と軽く雑談する。
そういえば、頭を押さえながら入口まで戻る人が増えているが、あれは魔力切れの症状か?
俺はなったことがないが……後々一気に反動が来るなんてことはないよな。
グラッ……グララ……
「ん?」
地面が揺れている。妙な地響きが繰り返された時、討伐隊が向かった奥の方から一人の探索者が慌てて駆け寄ってきた。
「レイドボスがこっちに来るぞぉ!!」
「「「え?」」」
どういうことだ、と全員が困惑したその時。
「ゴォオオオオオオオオオ!!」
「「「うわぁああああああああああ!?」」」
ドォオオオオオオオン!! という轟音と共に、地面から土色の悪魔のような巨大モンスターが突き出てきた。
「どういうことだよ!! 討伐隊はやらかしたのか!?」
「追い詰めてはいたんだって!! けど、あいつ急に潜り出して……」
「だからってこっちに来るか!? 仕方ねぇけどさぁ!!」
言い争いが始まるが、互いにどこか気を遣っており、半ば諦めているのが伝わってくる。
まさかレイドボスがここまで来るとは誰も予想していなかったらしい。ヘイトは討伐隊が買っていたからな。
タタタッ……ダッ!!
「逃がさない……まだまだ楽しませて……!!」
「ゴォオオオオオオオ!!」
ジャキン!!
闇の中から姿を現したシロナが、レイドボスに刃を振るう。
黒いオーラをまとった双剣を、レイドボスは透明な盾のようなスキルで防ぎ、そのまま素早く遠くへ跳躍した。
「みんな下がって!! レイドボスの攻撃に巻き込まれるわよ!!」
「退避ー!! 退避ー!!」
紗理奈の呼びかけで、全探索者が距離を取りながら戦い始めたその時だった。
レイドボスの目が真っ赤に光り、俺たちの方を向く。
「全員伏せろぉ!!」
「「「っ!?」」」
討伐隊の必死の叫びに、その場で全員が伏せた瞬間――
「ゴォオオオオオオオオ!!」
「「「うああああああああ!!」」」
目にも止まらぬ速さで放たれた細い光線。
それが俺たちの頭上を通り過ぎ、凄まじい轟音とともに大爆発を引き起こし、近くにいた探索者たちが勢いよく吹き飛ばされた。
「こ、これがレイドボスの力……」
「今まで俺たちが戦ってきたのは何だったんだ!?」
あまりにも一瞬。モーションも隙もない。
ジュエルゴーレムの光線には溜めがあったのに、こいつはそれ以上の火力をほぼゼロ秒で放ってくる。
文字通り、今までのモンスターとは格が違う。
「ゴォオオオオオ!!」
「また暴れ出しやがった!!」
「ヘイトを俺たちに向けろ!! 掃討隊に近づけるなぁ!!」
「面白い……今回のレイドボスはやりがいがある……」
膨れ上がった筋肉の手足で縦横無尽に飛び回るレイドボスを、討伐隊は必死に追いかけている。
相変わらずシロナは楽しそうだ。というか、目が据わっていないか?
「やべぇぞ!! 入口が岩で塞がれてる!! あっつ!!」
「ただ壊すだけじゃダメそうね……水系のスキルが使える人いる!?」
「まずいまずい!! モンスターがまた来るぞ!!」
熱された岩に入口を塞がれ、さらに追い込まれていく俺たち。
減ったとはいえ、レイドボス以外のモンスターもまだ残っている。
負傷者を守りながら岩を壊し、レイドボスとモンスターの両方と戦い続ける。
かなり厳しい。残された時間も多くはない。
(なんとかしないと……)
最前線のシロナは好戦的だが、致命的なダメージは与えられていない。
レイドボスが彼女の攻撃を器用にかわし、スキルを駆使して受け止めているからだ。
討伐隊も、素早く頑丈なレイドボスに苦戦している。
ヤツの動きを止める方法はないのか?
「グギャ!?」
「ん?」
一体のモンスターが何かにぶつかって転ぶのが見えた。
あれは――ドラゴンゾンビのバリア?
魔石を囲うように展開されている。
倒したはずなのに……そうか。貫通で倒したからだ。
“龍撃斬”はバリアを貫通しただけで、完全に破壊したわけではない。現に灯籠も残っている。
想定外の倒し方が、バグのような挙動を引き起こしたのか……
「いける」
「ふ、文也くん!?」
これは利用できる。
そう確信した俺は、紗理奈の制止を振り切って討伐隊の方へ駆け寄った。
「“酸液”!!」
「ゴォオオオオオオオ!?」
地面に先置きする形で“酸液”を設置し、着地したレイドボスを転ばせる。
「ナイスだ坊主!! 討伐隊にいねぇのが不思議だぜ!!」
「ありがとうございます。それと、あの魔石にレイドボスを突っ込ませることはできますか?」
「魔石に!? 一体なんでって……なんだあのバリア?」
「ドラゴンゾンビのバリアがまだ生きています!! あそこにレイドボスをぶつければ、動きが止まるかもしれません」
「確かにあのバリアは固い……だがリスクも……」
自己責任では済まない博打。ましてや見知らぬ探索者からの提案だ。
簡単にうなずけるものではない。
「面白い。やろう」
「正気か白金シロナさんよ!?」
「今は試すしかない。それに発想がぶっ飛んでて最高」
だが、即座に賛同する狂気的な少女が一人いた。
「マスターランク様がやる気満々だ。こうなりゃ地獄まで付き合ってもらおうぜ」
「ダイヤランクの見せどころだな……!!」
マスターランクが言うなら、と他の探索者たちも覚悟を決めていく。
やはり実力がある者は、多くの人間から信頼される。
「だったら私も戦おうかしら?」
「サリー、本気?」
「あらシロちゃん。別に前線から退いたわけじゃないのよ?」
「ならいい。相変わらずだ」
合流した紗理奈とシロナは、互いに笑みを浮かべている。
仲が悪くないどころか、あだ名で呼び合うあたりかなり親しげだ。
「文也」
「ん?」
「貴方も戦って」
「……死なない程度でいいか?」
「構わない。貴方がいると興奮するから……♡」
誤解されるようなことを言うな。
ほら、顔も赤くさせるな。変な吐息も出すな。
「「「う、うわぁ……」」」
あらぬ関係を疑われている……。
ならば、その空気を払拭できるくらい活躍してみせよう。
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