第37話 レイド戦が始まる
「ダンジョンの変化を確認したため、これよりレイド戦を開始します!! ダンジョン内はとても広く、モンスターも大量に出現しているので、無理せず討伐をお願いします!!」
ダンジョン入口前にわらわらと集まる探索者たちに、職員さんたちが必死に呼びかけている。
作戦としては、プラチナランク以下が群がるモンスターたちを追い払い、隙ができたところをダイヤランク以上が通り抜けてレイドボスと戦う。
ダイヤランク以上のMPを節約するためだ。
大雑把な作戦だ。
しかし、戦い方もスキルも何もかも違う探索者たちをまとめるには、これくらいシンプルな方がいい……と、俺は思う。
「それでは選ばれたダイヤランク以上は後方へ……あれ、白金さん?」
「スキルがなくても雑魚は殺せる。肩慣らしにちょうどいい……ふふっ」
「は、はぁ……」
シロナはもう武器を出してやる気満々だ。
バトルジャンキーだと聞いていたが……ダンジョンには色んな人がいるんだなぁ。
「紗理奈と静は俺と一緒……でいいんだよな?」
「勿論ですっ。また文也様と戦えて嬉しいです♪」
「私、二人と組むの初めてだからワクワクしちゃうな〜。参考までに二人の戦い方を教えてもらってもいい?」
今回は俺と紗理奈と静の三人でパーティを組んだ。基本は三人を中心に立ち回りつつ、周りの探索者が追い込まれたらその都度援護していくという流れだ。
「紗理奈、こっちへ」
「んー?」
「あっ、なるほど……」
そろそろ紗理奈にも俺のパッシブスキルについて話した方がいい。
俺は首を傾げた紗理奈を連れて、隅の方でスキルについてコソコソ話し始める。
そして全てを話し終わったとき、紗理奈は苦笑いを浮かべていた。
「……だからソロで活動できたのね」
「えっと、なんか特殊みたいで……」
「シロちゃんが一目置くわけね……彼女、他人の才能を見抜くのが得意だから」
やっぱり規格外なんだな……
マスターランクが俺に注目するわけだ。
「その、シロナとは知り合いなのか? 妙に親しげというか……」
「あぁ、昔同じパーティだったのよ。ゴールドランクまでの話だけど」
「「えっ」」
意外な繋がりに驚く。
「安定を求める私と、とにかく強敵と戦いたいシロナちゃんと合わなくてね〜。だから解散しちゃったの」
「そんなことが……」
「あぁ、勘違いしないで。今でもたまに話すし仲は悪くないわ」
「あくまで探索者としての考え方の違い、ですよね?」
「そうそう♪」
そういえばシロナがこっちに来た時、何度か紗理奈の方を見ていたような気がする。
考えが合わなかったのも……まぁバトルジャンキーな彼女に合わせるのも大変だよな……
「ささ、始まるわよ。文也くんは前衛で戦ってもらって、私とシズちゃんは後衛からサポートする。この流れでいい?」
「大丈夫だ」
「了解です♪」
「文也くん、決して無理はしないでね。レイド戦は何が起きるかわからないから」
全員のスキル構成について話し終えたところで、探索者の集団へと戻っていく。
(さて、頑張るか……)
クールダウンで実質無限にスキルが使えるとはいえ、油断はできない。クールダウン中に襲われたら一発であの世行きだ。
いつも通り自分のペースで戦うのが一番だろう。
◇◇◇
「ひっっっろ」
一階層に入ったはずだ。
なのにダンジョン内はだだっ広い空間に早変わりしていた。
辺りを見渡しても先の見えない闇ばかり。後ろには入口らしき光が微かに差している程度だ。
だが、奥の方から妙な存在感が漂っている。
これがレイドボスか? 遠くにいるのにボス並の威圧感がある。
「「「キシャアアアアアアッ!!」」」
そして闇の中からゴブリンたちが囲うように飛び出してくる。
何だこの数!? まるで軍勢じゃないか。
二、三体出てくるだけでも厄介なのに。
「とにかく前方の敵に集中!! サイドは防衛を徹底して、ダイヤランク以上を前に出してあげて!!」
「「「「了解!!」」」」
ダイヤランクであり職員でもある紗理奈の呼びかけに、探索者たちが意気込んだ声をあげる。
同時にスキルによる猛攻がゴブリンたちへと雨のように降り注いでいく。
「”武身強化”!!」
俺もスキルで身体能力を強化し、迫り来るゴブリンたちを待ち構える体勢をとる。
「……ふふっ」
その時だった。
無邪気な笑顔を浮かべるシロナが、誰よりも前に飛び出したのは。
「「「ギャアアアアアアッ!?」」」
「物足りない……早く強者を味わいたい……」
「っ!? スキルなしでゴブリンを……」
シロナの双剣がゴブリンたちを斬り裂き、周囲に血肉を舞わせる。たった一人で、ゴブリンたちを次々と細切れにしていく。
スキルを使用した様子はない。腕力だけでゴブリンたちを圧倒しているのか?
「味方だけど恐ろしいわね……前よりも更に強くなってる」
「スキルなしで前衛に飛び込むって、無茶苦茶ですよ……」
これがマスターランクであるが故の実力。
そして、その思考は常識から完全に外れている。
「またね」
「ん?」
「ふふっ……」
だが、俺に小さく手を振る姿は、普通の少女と変わらないものだった。
「シズちゃん、私達も行くわよ!! ”ガトリングウィンド”!!」
「勿論です!! ”ホーリーショット”!!」
シロナに続く形で紗理奈と静もスキルによる攻撃を始めた。
俺も更に前へ出て、ゴブリンたちのヘイトを買うように立ち回っていく。
(動きはシンプルだな)
所詮ゴブリンだ。
見慣れた動きであるのと、そもそも”武身強化”の動きについてこれていない。
耐久力もないので、ナイフを一振りするだけで倒せる。
(ULTゲージが溜まっている……)
ふとウィンドウ画面を見れば、ULTゲージが2%と表示されていた。
結構モンスターを倒したはずなのに、溜まるのは意外と遅い? 覚えたばかりだからか?
「”ギガトンウォール”!! オラオラオラァ!!」
「後ろにもいるぞ!! 気をつけろ!!」
「うわあああああ!? か、かってぇぞ!?」
「援護ー!! 援護を頼むー!!」
だがモンスターはゴブリンだけではない。
シルバーウルフやゾンビ、ありとあらゆるモンスターが闇の中から次々と姿を現す。
モンスターの軍勢に探索者たちも必死に喰らいついていくが……
「「「シャアアアアアアアッ!!」」」
「っ!! ファイアリザードマンの群れだと!?」
「ブロンズとはいえボスがこんなに!?」
おいおい、ボスまで来るか。
しかもファイアリザードマンとは、ちょっと懐かしいヤツを。
「うわあああああっ!!」
「無理するな!! 一旦引けー!!」
「前より強化されてる!? なんて面倒なヤツらだ!!」
ブロンズクラスとはいえ、流石にボス級のモンスター相手では分が悪い。
基礎スペックではシルバーランクのモンスターとあまり変わらないからだ。
それが束になって襲い掛かってくる。
「シャアアアアア!!」
「あああああああ!!」
一人の探索者にファイアリザードマンが襲い掛かる。
刃が振り上げられ、今にも斬り裂かれそうな瞬間、俺はスタンシールドを間に滑り込ませた。
ピキーン!!
「シャアッ!?」
ジャストタイミング。
スタン効果が発動し、ファイアリザードマンの動きが止まった。
「”ファイアボール”」
怯んだ隙を見て、ファイアリザードマンの口の中へ”ファイアボール”をぶち込む。
炎弾が内側から焼き尽くし、やがて爆発と共に身体が消し飛んでいった。
「大丈夫ですか!?」
「す、すまねぇ、助かった」
尻もちをついた探索者に手を伸ばして立ち上がらせる。
油断できないな……数も増えてきたし、周りのモンスターを倒すのに精一杯だ。
ズバババババァ!!
「あははは……!!」
……で、何故シロナは元気そうなんだ?
バケモンかよ。
「あらあら、随分張り切ってるわねぇ!!」
「シャアッ!?」
紗理奈もさっきより前に出て、ファイアリザードマンの首元を蹴り飛ばす。
「紗理奈さんって本当に後衛ですか? リザードマンをあっさり倒しましたけど……」
「ふふっ、お姉さんは誰かを守る時に強くなるの♪」
流石ダイヤランク……ブロンズランクのボスなんて子供扱いか。
上には上がいるんだなぁ。




