第32話 黒鉄の騎士
「キィイイイイ!!」
「よし」
再び現れたエコーバットを真っ二つに斬り伏せる。
真っ暗なダンジョンだけど、”気配察知”である程度、敵の位置を把握している。奇襲にも対応できているし、今のところ致命的な怪我は負っていない。
最初の戦いでパターン化できたからか、エコーバット×プラズマゴーストの組み合わせもあっさり倒せるようになった。
このままスムーズに進んでほしいのだが……
フッ
「え?」
突然、目の前に鏡が現れた。
俺の身長と同じくらいの高さで、洋風レトロな装飾が施された丸い鏡。
ゴシックホラーっぽいな。枠の部分が若干汚れているところが特に。
「へ? か、身体が……」
突然、身体が浮いた。ゆっくり鏡に吸い込まれるように。
じたばた手足を動かして泳ごうとするが、一ミリも進んではくれない。
周りを見渡したが、掴めそうな壁や出っ張りは見当たらなかった。
結果、成すすべもなく、鏡へと吸い込まれてしまう。
(なんだここ……)
見渡す限りの虹色。色や線が異次元のようにぐにゃぐにゃ曲がっており、見ているだけで吐き気がしそうだ。
芸術家の絵か?
「いてっ!!」
気づけば謎の空間は消え、地面に投げ出されると同時に尻もちをつく。
戻ってきた……一体何だったんだ?
カツン……カツン……
「っ!!」
金属っぽい重みのある足音。
俺は懐中電灯を消して、近くの岩陰へ身を隠す。
同時に”気配察知”を発動すると、目の前に赤いモヤモヤが一つ出現。
(やっぱりモンスター……けど何故だ?)
エコーバットと戦っていた近くにモンスターの気配はなかった。
リスクを最小限に抑えるために孤立しているモンスターを狙っているからだ。
運悪くスポーンしただけか?
「いや……」
改めて”気配察知”で全体を見回すと、俺は気づいた。
モヤモヤの配置が変わっている。俺が最後に見た時はこんな配置じゃなかった。モンスターは移動し続けるとはいえ、何もかも違うなんてさすがにおかしい。
「あっ」
もしかして鏡か?
あの鏡は別の場所にワープさせる効果があるのか?
静から鏡のギミックに関する話は聞いていないから、単純に遭遇していないだけ、もしくはギミックもランダムの可能性がある。
(ってこの気配は……)
目の前の赤いモヤモヤよりさらに奥からドス黒いオーラを感じ取った。
一回り大きくて、見ているだけで威圧感がある。
間違いない。ここがボス部屋だ。
結果的にワープで大幅短縮できたのか。ラッキー。
(とりあえず倒すしかないか)
だが、ボス部屋へたどり着くには目の前のモンスターを倒さなければならない。
突っ切ってもいいが、スキルを一つ消費した状態でボスに挑むのは少し危ない。なるべく万全の状態でボスに挑みたいからだ。
「”ファイアボール”」
まずは牽制と明かりを兼ねた”ファイアボール”を気配に向けて放つ。
「Fuuuuuuuuuuuuu!!」
着弾と同時に正体を確認する。
黒いモヤモヤをまとう黒鉄の騎士。
突然現れたスキルにも一切動じず、蒸気音のような低いうなり声をあげている。
見た目通り頑丈そうだな。
ジュエルゴーレムの時みたいに鎧を破壊するのは……
「無理そうだな」
”ファイアボール”は確かに命中した。
だが、装甲を若干焦がしただけで、効いている様子はない。
どうにか内部のコアに攻撃が通れば……
「Fuuuuuuuuu!!」
騎士が唸り声と共に剣を振り上げる。そして俺の方を向いて一気に振り下ろすと、地面を走るように斬撃が飛んできた。
斬撃が飛ぶのか!?
なんて恐ろしい攻撃を……!!
(あぶなっ……)
本能的に横へ飛び出して何とか回避。
振り返れば、後方の岩が真っ二つに斬り裂かれていた。
盾で防ごうとしても、俺ごとミンチにされそうだ。
基本は回避に専念した方がよさそう。
(”酸液”も多分効かない……”武身強化”の重ね掛けでも厳しそう……)
四階層から頑丈なモンスターに苦戦している気がする。
俺のスキルって突出して火力が高いスキルが”武身強化”くらいしかないからな……
パーティだとハンマーなどを扱う力自慢が相手をするのだろう。
ないものねだりをしつつ、騎士の攻撃を回避しながらじっくり観察していく。
カタカタッ……
(頭?)
正確には首の付け根、鎧兜の部分だ。
あそこが不自然に揺れていた。
兜と身体を分離させる……見た感じ幽霊だから離れても動くよな?
いや待て。もしかしたら騎士の内部に……
「”武身強化”」
作戦を決めた俺はワープナイフを握りしめ、足を踏み込んで騎士との距離を詰める。
気をつけるのは騎士の斬撃のみ。
斬撃は飛ぶけど、今のところ曲がったりはしてない。基礎スペックでゴリ押すタイプだ。
攻撃も素直だし、隙さえ作れば……
「”酸液”」
”酸液”を騎士の足元へと発射。
予想通り騎士の足は一切溶けなかったが、地面には効果がある。
緩んだ地面に騎士が足元を取られ、片膝をつく体勢をとってしまう。
「はあっ!!」
その隙にワープナイフを兜と胴体の隙間へ入れ込む。
刃が潜り込むのと同時に、レバーを下ろすように力をグッと入れると――
カポンッ!!
「Fuuuuuuuuuuuuu!!」
(これがコアか)
胴体の中身を覗き見れば、炎のような揺れものをまとう黒い塊が。
お目当ての物を確認した俺は、高揚する気持ちと共にスキルを発動する。
右手は”武身強化”を付与したワープナイフ。
左手は”ファイアボール”。
これで十分だろう。
「あばよ」
コアへ向けて強化ナイフと”ファイアボール”を同時に投げる。
二種類の攻撃がコアへ同時に命中した瞬間、ピキーン!!という甲高い音と共に黒い塊の部分へヒビが入る。
待つ間もなく、コアは粉々に砕け散った。
「Fuuuuuuuuuuu!!」
残されたのは騎士の悲痛な断末魔のみ。
頑丈な鎧が光の粒子に変換され、やがて宙へと溶けていく。
「倒した……休憩……」
魔石を拾った後、俺は近くの岩陰に背中を預ける。
とりあえず全スキルのクールダウンが完了するまで休憩。
終わったらボス部屋を見学だ。
……またワープとかないよな?
ボス部屋の前でワープさせられたらさすがに萎えるんだけど。
ピコン!
『レベルアップしました。”酸液”の効果範囲が拡大しました』
おぉ、便利な効果だ。
地面を溶かしたりといやらしい使い方が多い”酸液”において、溶かせる範囲が増やせるのはかなり大きい。
「……もう少し休憩するか」
一度腰を下ろすと立ち上がるのがダルく感じる。
五分くらいならモンスターも寄ってこないだろ。
寝ないように気を付け、周りを警戒しながら、俺は少しばかり身体を休めた。




