第30話 ごちそうと五階層
「おまたせしましたー」
テーブルに料理が次々置かれていく。
食欲のそそるスパイシーな香りと共に湯気が立ちのぼる。
絶対美味いわこれ、間違いない。
「すみません。写真だけ撮ってもよろしいですか?」
「全然大丈夫。料理とか好きに移動させていいよ」
「ありがとうございますっ」
料理が揃うと静はスマホを取り出して撮り始める。
カメラの位置や皿の位置を調整したりする。
静には申し訳ないが、食べ物を写真に収めたいという気持ちがよくわからない。すぐに食べたいと思ってしまう俺は、ロマンを理解できていないのだろう。
「すみません」
「ん?」
「ついでに文也様も……」
「俺を???」
別に構わないが……美味しそうな料理フォルダに異物が混入しないか?
静に言われるがままピースをする。
パシャッ!!
「えへへ……文也様……♡」
料理を撮ってた時より嬉しそう。
一体どの部分に惹かれたのだろうか……
「早速いただきましょう♪」
「い、いただきます……」
困惑しつつも、俺は手を合わせて料理に手をつける。
まずはペペロンチーノからいただこうか。
「うっま……」
予想通り、というか予想以上。
まず最初にニンニクのクセと香りがガツンと来る。醤油ベースの味付けと上手く絡み合っていて、するする食べられる。
「今まで食べてたパスタはなんだったんだ? これがプロの技……」
「本当に美味しいんですよね~あむあむ」
静も美味しそうに食べている。
これは定期的に通いたくなる味だな……マルゲリータはどうだろうか?
「これも美味いんかい」
「王道ですから♪」
外はカリカリ、中はモチモチ。
食感も完璧だし、何よりトマトソースが美味しい。
トマト系って青臭い風味があるのに、それを一切感じない……むしろ甘い。
食べ物系の動画はいつの時代も需要があるが……この美味しさが全国全世界に広がっていると考えると、食に囚われる人の気持ちが少しだけわかった気がする。
「あ、ペペロンチーノをいただいても?」
「お? いいぞ」
ペペロンチーノの皿を静の近くまでスライドさせる。色々食べたいのだろうと思ったのだが……
「……」
え、首を振った? というか納得してなさそうな顔。
取り皿によそった方が良かったのか?
「できれば、あーんで……♡」
「っ!?」
手に持っていたフォークを落とす。
あ、そういうこと? でもここ、お店だよ?
やるかやらないか悩んだが、静が物凄く嬉しそうな顔をこっちに近づけている。
断ったら静が悲しむだろうな……ええい、今日は静にいっぱい助けてもらったんだ。覚悟を決めろ。
新しくフォークを出した後、俺はペペロンチーノをすくって、
「あ、あーん……」
「あーん♪」
静の口元まで運んだ。わかりやすいくらい手元が震えていて恥ずかしい。
だけど静は気にもせず、フォークに絡みついたペペロンチーノを一口で食べてしまう。
「ん~、美味しいですねぇ♡」
「美味しいならよかったよ……」
変な汗が出てきた。モンスターと戦う時と同じくらい緊張したかも。
静っておしとやかな雰囲気なのに、意外と大胆だよな……
「文也様、明日のご予定は?」
「明日? 午前は今日と同じバイトで……午後からダンジョンで五階層を探索する予定だ」
「五階層、ですか」
「やっぱ危ない?」
「ダンジョンはどこも危ないですけど……五階層はボスがいますから」
「ボスか……」
二階層にいたリザードマン。
同じ階層にいるモンスター達とは次元が違うと、俺は戦いの中で実感した。
「ボスは部屋に入るたびに出現個体が変わります。なので対策が難しく、毎年多くの死傷者を出しています」
「……ボス部屋もランダムか」
ゲームといいグッズといい、ランダム要素はいつの時代も人を苦しめてきた。
その苦しみはダンジョンでも変わらないらしい。
やっぱりクソだよ滅びろ……と、ガチャで天井まで引いた高校時代を思い出してしまう。
「ちなみに五階層ってどんなギミックなんだ?」
「確か全体的に暗いダンジョンだったと思います。超音波を発するエコーバットや、ほぼ無敵のプラズマゴーストなんかがいて……」
「ほぼ無敵?」
「攻撃する時しかスキルが当たらないんですよ……あれは本当に厄介でした」
聞いた感じ、五階層は四階層とは別の理由で厄介そうだ。
暗いってことは死角から攻撃される可能性もある? 懐中電灯でも持っていこうか。
「本来なら静もご一緒したいのですが……大学の講義に加えてランク制限があるので……」
「ランク制限?」
「ボス部屋に入れるのは一定値の実力を持つ探索者だけです。ブロンズならブロンズ、シルバーならシルバーしか入れません」
「まさか協会が出してるランクって?」
「ボス部屋を基準に作成されています」
階層突破で昇格するって随分大雑把だと思っていたけど、あれはダンジョンのシステムに合わせた結果だったのか。
「ですが文也様なら大丈夫だと思います。何故なら文也様ですから♪」
「俺は神様じゃないぞ?」
「神様じゃないです。文也様ですっ」
「……そうだね」
キラキラとした瞳の奥から感じる妙に黒い闇。
思わず素直に頷いてしまう。
何故静はここまで俺を慕ってくれるのだろうか。
何か裏が……あの純粋そうなキラキラした眼を向けておいて、ありえないと思う。
いや、純粋だからむしろ怖いや。
「まあ本当に追い詰められたらボス部屋から逃げてください。ドアさえ押せばいつでも抜け出せますから」
「そこは良心的だよな……あ、でももう一回入ると」
「別のボスが出ます……」
「良心なんてないな……」
やっぱクソだねランダム要素。
ゴリ押しで突破するしかない、か。
どんな相手が来ようと実力で圧倒すれば全部解決する。脳筋理論すぎてまた紗理奈に説教されそうだが。
明日はレベル上げしながらボス部屋を覗くとしますかー。
◇◇◇
「さて……」
バイト終わり……ではなく早朝。
相変わらず人が多いなーと眠気の残る目で周りを見回しながら、ダンジョンの入口を目指す。
おや? 今日はバイトの予定では?
俺もそのつもりだったのだが……
『ごめん。今日のシフト休みにしてくれない?』
朝ごはんも食べてさぁ行こうと立ち上がった瞬間、店長から届いたメッセージ。
一気にやる気が落ちて、数十秒ほど布団で寝転がった。
どうやらシフトの調整をミスっていたらしい。
本来なら月~木曜日の出勤だったのだが、今週に限っては火曜日が休みで代わりに金曜出勤という形に。
別にいいんだけどね。週四勤務は守られてるし。
ただもう少し早く気付いてほしかった。
急な休みができたとはいえ、ご飯は食べて着替えも終わっている状態。
またゴロゴロするのもな〜というワケでダンジョンへ向かうことにした。
(この時間から五階層の募集は……ないか)
ざっと確認した後、アプリを閉じる。
朝にパーティ募集をかけて昼頃に人が集まればと思っていたが、急なシフト変更で全てが破綻した。
今から募集して待つのもめんどくさいし……いつも通りソロで潜るか。
「おはようございまーす」
警備員さんに挨拶をしながら、ダンジョン内へと入っていく。
あの人いつもいるよなぁ。休みとかちゃんとあるのかな?
「ワープ」
五階層の階段前へワープした後、慎重に下へと降りていく。
同時に懐中電灯もつける。
五階層のギミックについて静から色々聞けてよかった。
ボスは無理でもダンジョンそのもの対策ができるのは大きい。
お、そろそろか?
「え?」
暗い、というか何も見えない。懐中電灯でやっと足元が見える程度。
聞いてた通り厄介なギミックだなぁ……




