第3話 一階層へ
「さて……」
講習は終わった。
参加者たちは帰る者もいれば、ダンジョン前で調べ物をしている者もいて様々だ。
だが、俺はダンジョンに入ることにした。
仕事もなく、やることもない。時間には余裕がある。
あと、今の俺がどれくらい稼げるのか知りたかった。
理想を言えば、二日で何万円かは稼ぎたいが……難しいだろうな。
ダンジョンは甘い世界じゃないって如月さんも言ってたし。
「すぅー……はぁ……」
何度か深呼吸をしてから、俺は決心した。
入口付近の担当者にダンジョンライセンスを見せると、再びダンジョン内へと足を踏み入れた。
「不思議な場所だなぁ」
相変わらず変な壁だ。
外とダンジョンの中って、ここまで違うのか?
まるで異世界に来たみたい……ってそうだ。
新しいスキルを見ないと。
ピコンッ
★★★★
【武器強化】
分類:アクティブスキル
〜効果〜
・手に持っている武器を【8秒間】強化する。
★★★★
「ほんとにそのままだな……」
“クールダウン”よりもわかりやすいのは助かるな。
どれくらい武器を強化するんだろう?
ちょっと強くなるだけ? 岩とか斬れる?
この辺も検証した方がよさそうだな。
まずは弱いモンスターと戦おう。
武器はサバイバルナイフがあるから多分大丈夫。
懸賞でたまたま当たったナイフだけど、こんな形で役に立つとはな。
とりあえずモンスターを警戒しながら一歩ずつ前進……奥から足音?
「ギキィ!!」
出た、さっきのゴブリン。
できれば不意打ちしたかったが、ゴブリンが飛び出してきたため、お互い向かい合う形の立ち位置になった。
ゴブリンは涎を垂らしながら、ボロボロのナイフを握りしめて攻める機会をうかがっている。
……こっちから仕掛けるか?
如月さんはこのゴブリンをあっさり倒していた。けど俺は戦いに関してはド素人。ただのフリーターだ。
そのフリーターが未知のバケモノと戦うんだから、相当無茶をしている。
けど、やらないとダメだ。
これは仕事。多少無茶をしないとお金は稼げない。
心の中で整理をつけ、すり足でゴブリンの方へ近づいていく。
ナイフを両手で握りしめ、ゴブリンから視線を離さず、タイミングを見極め……
「はぁ!!」
一気に踏み込み、ナイフを突き立てた。
グサァッ!!
「グギャ!!」
刃がゴブリンの肩を貫く。
俺にここまでの力が……と感動するも、ゴブリンはまだ死んでいない。
すぐにボロボロのナイフを振り上げ、反撃の体勢を取るゴブリン。
俺は刺さっていたナイフを慌てて抜き、ゴブリンから距離を取った。
「あっぶねー……」
一撃では倒せないか。
頭か心臓を狙わないと倒すのは難しいだろう。
それにしてもだ。俺、意外と動ける。
普段の運動はバイト先へのチャリ通勤と荷運びくらいだ。未知の生命体を相手に大怪我を負わせられるほど鍛えてきた覚えはない。
これもスキルを獲得したからか?
「ググギィ……」
ゴブリンは出血した肩を押さえながら、ふらついた足で俺へ近づこうとする。
確実に弱っている、動きも鈍い。
仕留めるなら今だ。
「“武器強化”……」
スキルを使用すると、右手に握っていたナイフが青白く輝きだした。
これが武器強化? ゲーミングデバイスみたいにやたらと光っているな……
けど、確かな力も感じる。
(チャンスは一回……)
今回は心臓に……心臓に刺す……
ただ、それだけに集中して、俺は足を踏み込むのと同時にナイフを思いっきり突き出した。
グサァッ!!
「グギャアアアアアアア!!」
悲鳴と共に胸元から勢いよく血が吹き出す。
そして、ゴブリンはそのまま力尽き、全身が光の粒子となって散っていった。
「すごいな……」
ナイフが豆腐みたいに、すっとゴブリンの体へ入り込んだ。普通の時より出血量も多く、ゴブリンもかなり痛がっていた。
同じナイフの攻撃なのにここまで差があるとは。
やはりダンジョンで戦うにはスキルは必要だな……
ん? なんだこの表示?
「数字……?」
右下の方に謎のアイコンが表示されている。
アイコンに重なるように数字が表示されており、1秒ごとにカウントが1ずつ減っている。
ゲームみたいだな。
確かFPSでスキルを使った時にこんな表示が……
ってまさか?
ピコン!!
『クールダウン発動。スキル説明文にクールダウンの項目が追加されました』
これがクールダウンか。
一定時間経つことで再びスキルが使用可能になるっていう。つまり数字が表示されている間はスキルが使えないのか。
試しに“武器強化”を……使えない。
やっぱり時間が経たないとダメみたいだ。
というかクールダウンの項目ってなんだ?
“武器強化”に追加されたのか?
試しにウィンドウを表示してみると、“武器強化”のスキル説明に文章が追加されていた。
★★★★
【武器強化】
・クールダウン:18秒
★★★★
クールダウン、結構長いな。
最初のスキルだからか長めに設定されている?
クールダウン中は戦闘を行わない方がいいな……
けど、右下の表示って消したりできないのか?
戦闘中はいいけど、今は少し邪魔だ……
あ、消えた。
どうやら俺の意志で表示したり消したりできるらしい。
色々試しているとクールダウンの時間が経過し、右下のアイコンが点灯した。これでもう一度使える。
「ってそうだ。素材素材……」
スキルに夢中すぎてすっかり忘れてた。
俺はゴブリンがいた場所に落ちていた鉱石を拾い上げる。
綺麗だな……いくらで売れるんだろ?
ダンジョン素材の相場なんてまったく知らない。
とりあえずカバンに入れておこう。
「先に進むか」
時間の余裕はある。
暗くなる前に帰れたらそれでいい。
俺はナイフを握りしめ、探索を再開した。




