第26話 探索と目的
「……それが文也様のパッシブスキル……MPという概念が存在しない……」
俺は”クールダウン”に関する話を静に全て打ち明けた。静は最初こそ驚いたものの、途中から顎に手を当てて考え込みはじめた。
「”クールダウン”さえ終わればどんなスキルでも使用可能に、ということですよね?」
「そうだな。今のところ全部のスキルは”クールダウン”で再使用できる」
「まさか根本から違うとは……やはり文也様は素晴らしいお方ですね♪」
両手を合わせて満面の笑みを浮かべる静。
褒めてくれるのは嬉しいが……妙に崇めてるような雰囲気を感じるのは何故?
「ダンジョン帰りでも静を助けることができたのは、”クールダウン”によって全てのスキルが回復していたから……これで全ての謎が解けました」
「やっぱ周りには言わない方がいい?」
「ですね。MPとは違うシステムに加えて、ダンジョンへ長時間潜れるスキルというのは、今までの常識から大きく離れています。下手をすればダンジョン協会より上の存在が手を出してくるかもしれません」
「う、上の存在?」
何それ。政府機関とか裏組織とか?
紗理奈が言ってたように、変な企業に連れ去られて実験とかされるのかもしれない。
「いずれにせよ今は黙っておく方がいいか……あ、紗理奈に言うのは?」
「大丈夫だと思います。あの方は協会側の人間としてスキルの秘匿性を理解しているので」
紗理奈は職員として情報の取り扱いに気を使ってるだろうし大丈夫か。あと、静にだけ言ってると「なんで私に言わなかったのぉ……」とかゴネそうだし。
「静に明かしてくださり、ありがとうございます。こうして信頼していただいたことに対する喜び……全身全霊をもってお返しします」
「そこまで気を張らなくていいからな……?」
スカートの両裾を持ち上げ頭を下げる静。
その所作はとても綺麗でまるでお嬢様のような品を感じさせるが……やはり俺に対する思いが爆発しすぎているような。
「ですが文也様の強さはクールダウンだけでは……あっ」
何かを言いかけた後、静は偽物の鉱石を見た瞬間、ハッとした顔と共に足を止めた。
「どうした?」
「いえ、大したことではないのですが……常在依頼の存在を思い出して」
「常在依頼?」
「常に募集している依頼ですね。突発系よりは報酬額が落ちますが割と美味しいので……」
「まさか鉱石採取?」
「正解です」
ほほう、常在依頼なんて項目があったのか。
昨日パッと見た時はそんな項目は目に入らなかったが……そういえばやたらと募集期間が長い依頼があったな。
もしかしてあれのことか?
「宝箱みたいに鉱石もどこかにあるのか?」
「んー、鉱石は見たことないですね……けど、元にした鉱石がどこかにあるはずなので」
「元にした?」
「コピーするにしても、大元がなければできないと思うんですよ。これだけ四階層にコピーが散乱していますし」
確かに。宝箱はあったんだし鉱石もどこかにあるはずだ。
「怪しい部屋とかって知らない?」
「部屋ですか? 何もない場所がいくつかあったのは覚えてますが……」
「何もない場所?」
「物もなければモンスターもいない場所があるんです。中に入っても何も反応しませんでした」
「ふむ……」
怪しいな。スタンシールドの時もだが、特殊な場所に本物の鉱石がありそう。
静の言う何もない部屋。それは何かしらの条件を満たすことで起動するのでは?
「文也様は運が良かったんですね……文也様?」
こういう特殊な部屋でありがちなギミックといえば?
最もわかりやすく、起動しやすいものと言えば……
「モンスター……」
「えっ?」
「何もない部屋にモンスターが隠れていて、そいつを倒せばギミックが起動するとか……」
「こちらから仕掛けないと起動しない仕掛けですか……試してみる価値はありますね」
時間はあるんだし色々試してみよう。
まずはモンスターを探すために”気配察知”を使用する。
「部屋の場所って覚えてたりする?」
「少し前の話なので……あっ、でも向こうを右に曲がった場所にあったような」
「右か」
静が指差す方向に意識を向ける。
すると、地面よりも下の部分に黄色いモヤモヤが表示されていた。めっちゃ怪しい。これが隠れギミックじゃないのか?
「何かわかりました?」
「部屋の地下にモンスターの反応がある。”気配察知”は下の階層まで探知できないし、ここのモンスターで間違いない」
「ということは、それが隠されたお宝?」
「多分。行ってみよう」
クールダウンが全部完了していることを確認した後、俺たちは例の部屋へと歩みを進める。
「……そういえば静ってなんでダンジョンに潜っているんだ?」
「何故、ですか?」
「いやその……なんでもない」
うっかり「お金持ちなのに?」と言いかけた。
あまりにも失礼だ。普段一人でいるから、モラルのない言葉でさえ口から出そうになる。
「いつか、自分のお金だけで生活したいんです。今は親の援助を受けていますが」
「援助ってことは……大学生?」
「はい。両親の会社に入るのは簡単ですけど、そんな決まりきった道を行くのは嫌で。ダンジョンは道の一つとして取り組んでいるところですね」
「甘えたくない?」
「そんな感じです。といっても両親とは仲がいいですし、単純に静のワガママです」
今まで不自由のない生活をしてきたからこそ、静は自分の足で進んで自分で道を切り開きたいと思っている。
何かしないといけない、とは誰もが思うことだが、行動に移せる者はそうそういない。
「偉いなぁ……」
「そうですか?」
「ちゃんと前を向いて行動してるだけで偉いよ」
社会人ルートから逃げてダラダラフリーターを続けていた俺とは大違い。
一応、ダンジョンに挑戦してはいるけど……果たして俺は前に進めているのだろうか?
そもそも俺にとっての前とはなんなのか?
「っと……ここか」
なんてネガティブな疑問を増やしていると目的地に着いた。




