第15話 レアモンスターに出会った
「この辺……だよな?」
”気配察知”に導かれるがままダンジョン内を散策すること五分。
赤いモヤモヤが多い場所をスルーできるおかげで、特に苦戦することなくここまで来ることができた。
で、肝心の金色のモヤモヤが近くにいるはずだが、周りは草と木ばかりで何もない。
”気配察知”も嘘をつくのか? なんて疑い始めていたとき。
ピョンッ
ピョンッ
「えっ」
草が覆い茂った場所で金色に輝く謎の物体。
隠れながら様子をうかがうと、そこには光り輝くスライムの姿があった。
あいつがゴールドスライムか?
意外と簡単に見つかったという現実に驚きつつも、俺は警戒されないようそーっと近づく。
この手のレアモンスターはすぐ逃げるというからな。
見つけた獲物は絶対に逃がしたくない。
(スライムは核を潰せば倒せるはず……なら、一突きする隙を作ればいいだけ)
逃げ足が早いパターンを考慮してスキルの使い方を決めていく。
とどめは”武器強化”。
退路を防ぐのに”ファイアボール”。
よし、作戦決行だ。
「”ファイアボール”」
俺は”ファイアボール”をゴールドスライムの奥側へと投げ込んだ。
火弾が放物線を描いて飛んでいき、やがて後方の草むらへと着弾。
すると炎が一気に燃え広がり、後方が炎で包まれてしまった。
(思ったよりも爆破範囲が広い……あ、逃げるな)
突然の奇襲に驚いたのか、ゴールドスライムは慌てて飛び跳ねながら逃げようとする。
やはりすばしっこい。通常スライムの二~三倍のスピードだ。
しかし、ヤツの後方は炎で防がれている。逃げ道は限られている。
あとは見失わないよう俺が集中すれば――
「っ!!」
正面に突撃、かと思いきや壁に向かって飛び、そのまま張り付いて移動。
そんな移動までできるのか。通常スライムにはない特性……もしや逃げに特化している?
「すぅ……」
ゆっくり深呼吸をした後、ワープナイフに”武器強化”を付与する。
逃げ道が限られていることに変わりはない。
ゴールドスライムの移動方向は俺が隠れている場所。
つまりチャンスはある。
早すぎてもダメだ。
遅すぎてもダメ。
ゴールドスライムに気づかれない、一瞬のうちに弱点を突く。
まだだ……まだ引き付けてから……
「今だ」
逃げ出すゴールドスライムが通路の角にたどり着いた瞬間、俺は飛び出すのと同時にナイフを突き出した。
グサッ!!
「ッーーー!?」
ナイフは見事にゴールドスライムの中心部に突き刺さり、身体は一瞬で光の粒子となって弾け飛ぶ。
(うまくいってよかった)
タイミングを合わせることだけに集中した結果だ。
逃したら嫌な気分のまま一日を過ごすことになっただろう。
っと、魔石の回収を忘れてた。
倒しても素材がなければ意味がない。
「あった」
地面に黄金に輝く魔石が落ちていた。
意外と大きい。俺の手のひらくらいあるんじゃないか?
「今日はもう帰るか……」
落としたりしたら大変だ。
依頼達成のフローも知りたいし、今日はこの辺で探索を打ち切ろう。
明日には三階層も制覇できるかな?
◇◇◇
「……今日、登録した人ですよね?」
「そうですね」
「どこかで手に入れた……?」
「でもないです。ちゃんと倒しました」
依頼窓口のお姉さんが引きつった笑みを浮かべている。
多分、不正を疑われている。貴重な素材をあっさり出したからなぁ。
嘘はついてないが仕方ない。
「……運がよかったんですね。色々とすみません」
「いえいえ」
俺視点でも一回は疑うと思う。
受付のお姉さんは表情を整え、アプリから送信されたデータを処理して対応していく。
そして、明細書が発行される。
★★★
ゴールドスライムの魔石×1
報酬:73000円
★★★
「やばっ」
たった一個で七万……?
達成報酬込みとはいえ、とんでもない金額だ。
二階層で探索してた頃を余裕で上回っている。
けど、財布に入れるにはこの金額は多い。
ダンジョンの報酬は現金手渡しの他に銀行口座へ直接入金することができると最近知ったので、そっちにしよう。
「あのー、口座振込に変更することってできますか?」
「大丈夫ですよー。少々お待ちください」
ちょっと豪華なご褒美を、なーんて軽い気持ちで始めたダンジョン副業。
最初だからとはいえ、うまくいきすぎて自分でも不安になる。
……そういえば、他のモンスターの素材をまだ売却してない。
それも含めるといったいいくらになるんだろう。
十万はさすがにいかないよな? ボスも倒してないし。
あー怖い怖い。
バタバタバタッ!!
「す、すみません!! 誰か助けてください!!」
売却額を眺めていた時、フロア内に女性の声が響き渡る。
鬼気迫る表情で息を切らし、周りをキョロキョロ見回していた。
俺と同じ初心者か? 身に着けてる装備が簡素だし。
と、近くにいた探索者らしき青年が声をかける。
「何があった?」
「友達がヘドロスライムに襲われて三階層に取り残されたんです。私はなんとか逃げて助けを呼びに……」
「ヘドロスライム? まさか妙にデカいヤツじゃないのか?」
「確かに大きかったです」
「……マジか」
ダンジョンに一人で? だいぶまずい状況じゃないか?
逃げて来たあたり、残された友達にモンスターを倒す力はない。
「けど悪いな。俺たちはもうMPがない……」
「そ、そうですか……」
「この時間帯はダンジョンから帰ってくるヤツが多い。三階層とはいえ、スキルなしでは……」
非常な現実を前に、女の子はその場で崩れ落ちてしまう。
周りの探索者も助けたくても助けられないもどかしさで顔を伏せるばかり。
……待てよ?
「俺が行きます」
「えっ」
俺なら大丈夫だ。
俺のスキルはMP消費型じゃないから。
「君、MPに余裕があるのか?」
「今日はそこまでスキルを使っていないので。救助するだけなら行けると思います」
「そ、そうか……すまないが頼めるか?」
静かにうなずく。
危ない、スキルの詳細を言いかけた。
個人情報だってことを忘れるところだった。
「あ、ありがとうございます……!!」
「いえいえ。それで友達の居場所はわかりますか?」
「そ、それが必死に逃げ続けていたので……わかりません……」
「なんとか頑張ってみます」
「あくまで救助を優先するんだ。恐らくヘドロスライムは変異個体の可能性が高い」
「変異個体?」
「通常よりも強い個体だ。少なくとも三階層に出ていいモンスターじゃない」
亜種なんているのか。
俺よりも歴の長そうな探索者がここまで言い切るんだ。
下手に戦わない方がよさそうだ。
(そういえば……)
”気配察知”って人間も探知できないのかな。
モンスターと同じ生き物だから何とかなりそうだけど。
ま、三階層についてから考えよう。
再びダンジョンに入るべく、俺は水や食料、あとは薬などの準備を始めた。




