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第12章 すれちがう告白

「本当に、楽しかったです」


私は、せいいっぱいの気持ちを込めてレイスさんにお礼を言った。


「それは、よかったです。ただ……急に仕事が入ってしまって、あまり時間が取れず、すみません」


「そんな……。私のほうこそ、お仕事でお疲れなのに、お付き合いいただいてしまって」


申し訳なくなって、思わずそう口にする。

けれどレイスさんは、やわらかく首を振った。


「謝らないでください。そもそも、お誘いしたのは私ですし……久しぶりに、本当に楽しかったです」


「ありがとうございます。それにしても……ここ、本当に町の明かりがきれいに見えますね」


丘の上から、眼下に広がる景色を眺める。


「以前、連れてくるとお約束していましたから。こうして果たせて、よかったです」


――以前。

それは、私がまだ別の姿だった頃のことだ。


半年と決めたはずなのに、気づけば一年以上の時間が過ぎてしまっていた。


「あの……レイスさん」


私は深呼吸をしてから、彼のほうへ顔を向ける。


レイスさんは、少し首をかしげながらも、静かに耳を傾けてくれた。


「本当は……もっと早く言うべきだった言葉だと思います。でも……なかなか、言い出せなくて」


一度、言葉を整える。


「レイスさん、以前の私におっしゃいましたよね。このような容姿では、好意を持ってくれる人などいない、と」


その瞬間、レイスさんは驚いたように私を見る。


「あ……ですが――」


言い終わる前に、私は顔が熱くなるのを感じながら、続けた。


「でも……私は、好意を持ちました」


一瞬、彼の表情が固まる。

それから、少し照れたように微笑んで、


「あの言葉に……私は救われました。本当に、うれしかったです」


その言葉に、都合のいい考えが一瞬、頭に浮かび、私はあわててそれを消し去った。


決意が鈍らないように、なんとか言葉を絞り出す。


「私……いつまでたっても、レイスさんに気にかけていただいて……すごく、うれしいんです」


正直な気持ち。


「本当に、うれしいんですけど……」


小さく息を吸ってから、


「もし……今の私のことが、レイスさんの中で引っかかっているのだとしたら……もう、心配なさらなくて大丈夫です」


言葉を選びながら、ゆっくりと続ける。


「女王陛下のおかげで、一人でやっていける仕事もいただきましたし……今は、自分の足で立てています」


胸の奥が、少しだけ痛む。

それでも――これは、伝えなければならない。


「ですから……どうか、レイスさんは」


顔を上げる。


「ご自身の幸せを、考えてください」


しばらく、沈黙が落ちた。


レイスさんはうつむき、表情が読み取れない。


言い方が悪かっただろうか。

これは、私の本心だ。


もちろん、私の傍にいることがレイスさんの幸せなら、それ以上のことはない。

でも……そんな都合のいい話があるとは、思えなかった。


黙り込む彼を前に、どうしていいかわからなくなって、


「あの……本当ですから。レイスさん、小さい頃はつらい思い出ばかりだったと伺いましたし……だから、幸せになってほしくて……えっと……」


言葉が、どんどん散らかっていく。


そのときだった。


「……私が、ほしいのは」


レイスさんが、低くつぶやく。


そして、まっすぐに私を見る。


「美桜……あなた一人です」


「ですから、私は――」


私が続ける前に、彼は静かに言葉を重ねた。


「私にとっては、ミオであっても、美桜であっても……どのような容姿であっても、関係ありません」


意味がわからず、私は首をかしげる。


「私のことを、きちんと見ていてくれたのは……今、目の前にいる貴方です」


ゆっくりと、噛みしめるように。


「確かに、最初は以前とまったく違う姿に戸惑わなかったと言えば、嘘になります。ですが……今は、その姿のほうが自然に感じています」


少しだけ、困ったように笑う。


「もっとも……今の姿が美桜なのですから、当たり前かもしれませんが」


私の思考は、完全に止まっていた。

何を言われているのか、理解が追いつかない。


固まった私を見て、彼は少し照れたようにしてから、


「すぐに、とは申しません。ただ……」


一度、言葉を切る。


「いずれ、私の妻となることを、今から真剣に考えていただけませんか」


真剣な眼差しが、私を射抜く。


――妻。


言葉の意味が、すぐには結びつかなかった。


頭の中で何度も反芻して、ようやく理解する。


「え……あ、えっと……その……レイスさん……」


それ以上、声が出ない。

顔が、どんどん熱くなる。


レイスさんは、困ったように微笑んだ。


「突然、このようなことを言われては……困りますよね」


それから、少し真剣な声で続ける。


「もし、ほんの少しでも私のことを想ってくれるのであれば……考えていただければと」


一拍置いて、


「もちろん、嫌でしたらすぐ忘れてください。その場合でも……これからは、良い友人として、お付き合いできればと思っています」


ありえない展開に、私は言葉を失ったまま立ち尽くす。


そんな私を見て、レイスさんは本当に困ったような表情になり、


「美桜……すみません。もし嫌でしたら、本当に忘れてください。もう遅いですし、送ります」


そう言って、私の背中をやさしく押す。


「あ……あの……私……」


必死に、声を絞り出す。


「考える……時間を……その……」


途切れ途切れの言葉。


それでも、彼はやさしく微笑んで、


「わかりました」


そう、答えてくれた。

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