雨宿り
昼過ぎから凄い大雨で、少し早めに下校となった。
途中まで徒歩で帰った物の、親から携帯へ連絡が来て、迎え行くから待ってなさいとの事で閉店した判子屋の前に居る。
広めに迫り出した軒下で、店を背に望む光景は、左右に走る道路越しに葡萄棚と畑と山。
道路をずっと左へ行くと、チェーンの薬局があって、とは言え此方は裏道なので車は殆ど通らない。
自宅はずっと右にある。
近くにICが据わっていて、稀に若年層が失踪する。攫われて高速道路で運ばれたのではと、実際警察の調べではそんな形跡ないそうなのに、根強く警戒されている。
漫然と携帯を見ていると、激しく篠突く雨脚で鈍色に煙る視野の外から、溜まる雨水を蹴立てて駆け寄るじゃばじゃば早い足音がする。
おや雨宿りの同士かと、俯きのまま脇へ場所を空けた所、走り込んで来た音源が、ただ雨に濡れただけの人では済まない夥しい滴りを帯びている。
びしゃびしゃ ぽたぽたぽた ちたりちたり じゃびじゃびじゃび
広めに迫り出した軒下へ、矢庭に雨が吹き込んだか、軒が抜けたかの騒がしさで、驚いて顔を上げ横を見ると、人型に雨が降っている。
軒下の乾いた舗装地を、人の起伏の柱状に濡らし、丁度駆け入った体勢から、振り向き直って雨空を仰ぎ、頭や肩を払っている。
仕草の具合や外形から、恐らく同じ年頃の男。
自然にしゃんと背を伸ばした行儀の良さそうな立ち姿が、稜線に雨を伝わせて、何もない虚空の内側に大雨を降らせている。
ここに雨が宿っている。
曰く言い難い気持ちで視線を逸らせずに居る先で、雨宿りは微かに此方へ顔を向け、どうもと言いたげに顎を引く。それで義理は果たしたとばかりに素っ気なく空を仰ぎに戻る。
此方もまごまご顔を戻し、携帯の画面に向き直る。
一旦、カメラを立ち上げて、すぐに思い直して止める。
こう言う、お化けみたいなもの、撮ったら不味いかも知れないし、抑々撮れないかも知れない。
それから違うかも知れないけど、もしかしたら、失踪した人が、雨の中、帰れずにいるのかも知れない。
思い倦ねている間に、隣でぼしゃぼしゃ音が動いて、雨宿りが道の右を見た気配がする。
釣られて同じ方を見ると、厚い雨煙の奥から、水のヒレを高々掻き上げて、ヘッドライトが迫って来る。
車が通るなんて珍しい。
親の迎えの車だろうか。
此方が見えているようで、急にスピードを緩めているが、徐行か停車か分からない。
果たして親の車だろうか。
雨で車体がまだ見えない。
終.




