05話! 魔王が来ちゃった 1
入学式から二日。
この学校が始まって以来の大事件が起こった――
「今日の異世界語の授業はセパタクローだ。もちろん、話していいのは異世界語のみだぞー、全員、体育館に集合するように」
ゆな先生が言った。
セパタクローなど、誰ができるんだろうか。
オレは魔力が使えるからできるが。
しかし、俺も体育のときはブレスレットを外している。
体育だとうっかり魔法を使いそうになる時が多いので、中学のころからそうしている。
「なあレン、セパタクローってなんだ?」
こいつは俺の隣の席の高梨レイジ。
頭は悪いが中二病ではないし、結構いいやつだ。
だから最近よく話している。
「えっと、足でやるバレーボールかな」
オレもルールはしらん。
――体育館――
「腕と手の使用禁止、三回以内に相手側に返す。これがセパタクローのルールだ!」
マジでやんのか、セパタクロー。体育の授業ですらないのに?
自由すぎるぜ。
「……あのー、授業中のとこスミマセン。如月レン君はどこにいますかね? どうも、目が悪くて――」
急に現れた声の方を全員がみた。
そして、その姿に全員が固まる。
二メートルほどの慎重に細身だが、筋肉質な体。漆黒の皮膚に、白髪から伸びている長さの違う角。
中世的で美しい顔だが、開いていない目。
そして、和と洋が混ざった、奇抜なデザインのスーツ…… スーツ?
なんで、あいつスーツなんか着てるんだ?
スーツを着ている理由は分からないが、オレはあいつを知っている。
あいつは魔王、焔角。通常種のオーガにも関わらず、魔王となり鬼人へと進化した。
――オレは昔、あいつと戦ったことがある。両目を潰し、角を折ってやった。
その仕返しに来たのだろうか、どうやってゲートの外に?
それは今考えても仕方ない。
それにしても、まずい状況だ。ブレスレットは更衣室だし、こいつと戦うには武器が欲しい。が、武器は異世界の俺の部屋。
こんな時のために、武器を持ち運べるようにしたかったのに……
――ゆな先生が前に出る。
「お前たち、早く逃げろ。今、この学校で戦える先生は私しかいない。おそらく、一番安全なのはゲートの先の王城だ。だが、あいつがゲートを突破してきた可能性もある、臨機応変に対応しろ!」
先生の指示に従い、生徒たちは一斉に逃げる。
王城にある武器を取りに行きたいが、武器をこっち側に持ってくるには、昨日ジイが言ってた、影の中に武器を収納する魔法を覚えないと……
――オレが必死に打開策を考えていると、後ろの会話が聞こえてくる。
「なんなんだ、あいつは! 先生大丈夫なのか?」
「あれは、オウガだ! 異世界常識の授業でやっただろ?」
「でも、真っ黒だったぞ? 教科書のは赤だったろ」
「ほな、オウガと違うか……」
「でも、角が生えてたぞ」
「ほなオウガやないかい、角が生えてたら、そりゃもうオウガやないか」
「でも敬語使ってたぞ? 敬語使う魔物なんかいるのか?」
「ほな、オウガと違うか…… 貴様らごとき下等種族が、とか言うんがオウガやねんからな」
「それに、変なスーツ着てたぞ?」
「ほなやっぱり、オウガと違うやないか。変なスーツは人間でも自己啓発セミナーの講師しか着ないねん」
「あいつは焔角、魔王で鬼人だ。喋ってないで速く走れ」
「「ほな、オウガと違うやないか」」
――同刻、体育館――
「あなた一人で戦うのですか? 如月レンの居場所を教えていただければ、危害は加えません。あなたにも生徒にも」
フンッ、話にならんな。
「如月レンもその生徒の内の一人なんだよ」
私はスマホを取り出し、剣を召喚した。
「ほう、珍しい魔道具ですね」
「異世界と現代の融合といったとこかな」
焔角は背中に刺している、双剣を床に置く。
「使わないのか?」
「使うべき相手には使いますよ、もちろん」
相変わらず、ムカつくやつだ。口調は丁寧なのに、ムカつく行動。
昔もそうだった。
こいつは覚えていないだろうがな……
――私は全身に気を巡らせる。久しぶりの全力戦闘だ。
――同刻、王城――
クラスの連中と走っていたら日が暮れてしまうので、ブレスレットを取りに行きオレだけ先に王城にきていた。
だが……
「もっと分かりやすく、理論的に教えてくれよ? 研究者だろ?」
「だから、教えておるだろうが。パッ、シュ、ストんだ」
オレはジイに影に収納する方法を聞いているのだが――
「擬音やめろよ! 論文に書くように説明しろ! 論文にパッとかストんとか書くのかよ?」
「写真集持ってこなかったクセに、人の教え方にケチつけられる立場か?」
「緊急事態なんだよ! 後で持ってくるって言ってんだろ、このエロじじいが!」
「師匠に向かってなんてこと言うんじゃ! 人にものを頼むときに対価を払うのは当然のことだろう!? まったく、誰がここまで育てたと思っとるんだ?」
「オレの天才的なセンスと理解力で、学び取ってあげたんだろうが? 他の弟子が育たないのは、そのセンスのない教え方のせいだからな!?」
「では、その天才的な理解力で理解してみるんだな!」
「おいおい、何の騒ぎだ? 城中に響いているぞ」
オレたちが言い合いをしていると、ヴァルが仲裁しにきた。
「――なるほど、分かった。今回だけ私の権限で持ち出しを許可しよう」
ヴァルはオレの耳元で囁くように言う。
「お前が外で魔法を使えるのは、一部の人間しか知らない。特に学校の人間は誰も知らないだろ? くれぐれもバレないようにな」
――オレは武器を装備して、全速力で体育館に戻った、が……
オレの目には超高速で動く先生と、魔剣を使う焔角がうつる。
あいつに魔剣を使わせるとは、しかも、オレより速いな先生。
あれ、オレいらなかった?




