04話! 師匠と友達
――オレは書斎に行く前に、王城にある自分の部屋に向かった。
王城といっても、王が所有している城というだけで、王様が住んでいるわけではない。
特に、この城にはゲートがあるので、騎士団や魔術師、研究者などの仕事場があり、住処となっている。
オレは自分の部屋に入る――
一か月ぶりだが、かなりきれいだった。ホコリ一つない。
クロノあたりが掃除してくれていたのだろう、土産でも持ってくるべきだったか。
オレは自分の武器を取り出し、書斎へと向かう。
――書斎にいるのはクロノの祖父で、オレの魔法の師匠でもある。
かつて、『太極の魔術師』と呼ばれていたが、現在は引退している。
今は学校で非常勤講師をしていたり、魔術研究で国に貢献している。
――オレが書斎につくと、いつもの通り、ドアが空いてる。
研究資料とかあるだろうに、不用心なことだ。
オレは書斎に入り、ドアを閉める。
ちなみに、オレはドアを閉めておかないと落ち着かないタイプだ。
書斎といっても町の図書館くらいの広さがあるので、毎回探すのに苦労するのだが、今日はデスクのところで作業している。
「ジイ、久しぶり。ちょっと相談があってさ」
ジイはよっぽど集中しているのだろうか、こちらを見もしない。
彼の目の前には魔法陣が書かれた紙があり、その上には黒いエネルギーがプカプカと浮かんでいる。
そして、彼が魔力を送り込んだ瞬間、分裂して消えた。
この人、魔法でまっくろくろ〇け作ってる……
「――おぉ、レンか。久しぶりだな、学校は慣れたか?」
みんな今日から学校なの、知らないのかよ。
「それより、今の何なんだよ?」
「これか、また失敗だ。お前の影魔法の研究だよ、離れたところにある影を操れないのが納得できなくてな……」
オレの魔法を研究してくれてたのか。
――オレの魔法は自分の影に接している影を操るというもので、自分に接していない影は操れないのだが……
今でも十分、使えているのでオレはとっくにあきらめた。師匠のほうは、あきらめられないらしいが。
「理論上はいけるんだっけ? でも、今のままでも強い魔法だから満足してるんだけど?」
「強い弱いの問題ではない! 理論が現実に負けているのが納得いかんのだ」
どうやら、オレのためではないらしい。
「そうだ、相談があって来たんだけどさ、オレの武器をいい感じに持ち運べる方法ない? ホイ〇イカプセルみたいな」
「ホイポイ? そんなもん、影魔法で影を変えて小さくすれば、すむだろう?」
そうなんだけど……
「それだと、ずっと魔力込めなきゃじゃん? いざというとき、魔力カラカラじゃ困るんだけど」
ジイはため息をつく。
昔から、自分の興味ないことには頭を使いたがらない。
「要求が多いのぉ。では、影の中に亜空間を作って、そこに保管しておけばいいだろう?」
「え? 亜空間? どうやんの?」
まさか、亜空間なんてワードが出てくるとは、本当にホイポイみたいじゃん。いや、あれは粒子状に変換するんだっけ。
「お前、たまに人の影に入ってるだろう? あれを武器にするだけだ」
だけって……
「できんのか? まったく、センスがないのぉ。自分の魔法だろ? 感覚で分かるもんなのだがな……」
オレがポカンとしていると、言いたい放題に言ってくる。
「センスがあるから弟子にしたんじゃないのかよ?」
「ワシに比べれば、みんな屁みたいなもんじゃ」
事実だから言い返せないが、ムカつく。
「――仕方ないのぉ、教えてやるから、明日ここに来い。見返りは羽渚つぐみの最新作でどうだ?」
エロじじい!
「――そういえば、第三王子がお前を探していたぞ? なんでも、如月シラタの居場所が分かったそうだ」
まじか……
オレは期待した。もし父が見つかれば今からでも騎士団に入れるかもしれない。
オレは第三王子が訓練室にいるという情報を入手し、全力で向かった。
もちろん、魔力全開放だ!
ちなみに、なぜ王子が訓練室にいるかというと、この国の王子は戦うからだ。
前線で勇者と共に戦い、もっとも功績を上げたものが次の王となる。
「おぉう、レンではないか! 久しいな」
オレが訓練室に入ると、満面の笑みで迎えてくれる。
今日初めて、学校に慣れたか?と聞かれなかった。
異世界の王族というと、嫌なイメージがあるが、この国の王族はみんないい人だ。
だが、戦場では別人だ。何度か、一緒に戦ったのだが敵よりも怖かった。
「久しぶりヴァル。前線から帰ってきたんだな?」
ヴァルというのはあだ名だ。本名は長くて覚えていない。
オレたちは同い年なので昔からよく一緒に修行した仲だ。
最初の頃、王子だと知らずに、タメ口で話したり、あだ名をつけたり、稽古でボコボコにしていたのだが、怒られることはなかった。
本当にできた王子様だ。
それに甘えて今でも友達のように接している。
「最近あまり調子が良くなくてな、修行しに帰ってきたんだ。レンは元気そうだな? もう新しい学校は慣れたのか?」
やっぱり聞かれるんだ……
「お、おう。ボチボチな」
「それよりな、シラタ師匠の居場所が分かったんだが……」
ヴァルの表情が曇る。
そんなにヤバい状態なのだろうか……
「レンは息子だからな、知る権利があると思うんだが。いや、すまん。ちゃんという」
イヤな予感がする。
今日で何度目だろう、この予感。
「師匠は今、極楽都市ワイワイにいる」
「ワイワイ? 観光地じゃないか」
イヤな予感はあたったらしい。
「弟子たちも育ってきたし、この国は安泰だからしばらく、うわ……遊んでいるから探すなと言っていた」
やっぱりな、ヴァルは父の師匠姿しか見たことなかったからショックを受けているようだが、オレに驚きはない。
昔から、何年か働いたら同じ年月だけ休むと決めていた人だ。
最近は、真面目に騎士団の仕事していたから、なくなったんだと思ったが、今きたか……
あと、一年持ってくれていれば、オレは騎士団に入れてたんだが……
「すまんな、十年くらい働いてたから、次に戻ってくるとしたら十年後だと思う。まあ、オレもあと三年もすれば騎士団に入れるし、大丈夫だ」
「そうか、私が連れ戻せればよかったんだが、申し訳ない……」
ヴァルが責任を感じてしまっている。まさか、調子悪いのもこれが原因じゃないよな?
「レンに一つ伝言があったんだ、母さんへの言い訳任せた、だそうだ……」
全くロクなことしないぜ。
ジイもそうだが強いやつってのは、自由人になる決まりでもあるのか。
まあ、もう忘れよう。
それより――
「ヴァル、久しぶりに勝負しようぜ!」
オレはヴァルとの稽古を終え、日本に帰ってきた。
結構、ギリギリの時間になってしまった。この学校の店は閉まるのが早いのだ。
オレは明日にわたす写真集を購入し、カレンとの待ち合わせ場所まで向かう。
カレンに袋の中身を見られ、言い訳に何時間もかかったことは言うまでもないだろう。




