2.誇張された噺の終わりに立ち込める空気は、
この話は第2話です。初めて読む方は1話からどうぞ。
~あらすじ~
陽光神社の跡取り息子、遠山陽は神社の創建の話を語る催しの手伝いをしていた。いつも通りの仕事。
だが、中間休憩の際、不思議な少女に話しかけられる。そんな中でも、お話会は続く。
20分はあっという間に過ぎ去り、後半のお話が始まる時間となった。皆あわただしく部屋へと入ってきた。父はにこにことほほ笑んでいた。この後話される物語の内容を知っているのに笑みを浮かべているままの父が、怖く思えて視線をそらした。後半の開始を伝える父の合図とともに、部屋が無音の空間へと変わった。
「月華の一件から数か月後、一人のおなごが村に越してきた。ツクヨミといった。」
勘のいいひとは気づいただろう。ツクヨミを漢字で書くと、月詠。月読命。天照大御神の弟。
左目から生まれたアマテラスオオミカミ、右目から生まれたツクヨミノミコト。スケールのでかい姉弟喧嘩である。そんで唐突にBL要素である。どんな神話にも載っていない話で、三貴神の3分の2も出てくるとか、これ書いたやつ誰だ。暇なのか?これだから信じきれないのだ。
「ツクヨミもまた、月華目当てのおなごで、毎晩食事をもって家を訪ね、月華の世話をした。
月華は毎度断っていたが、大抵押しに負けてしまっていた。ある日月華は言った。“俺には愛する人がいるんだ。ニッカというんだ。だからそなたの気持ちにはこたえられない。帰ってくれまいか。”ツクヨミは逆上した。『何を言っておる!!お主は生を賜った時からわしのものであろう!
その証拠に、おぬしの名前にはわしの名前の一部が入っておるだろう!あの醜女、許してたまるもんか。』その日の逢魔が時、昼と夜の狭間。ニッカとツクヨミが混ざり合うことのできる時間であった。禁足地、二人、おなご、姉弟。姉は顔をしかめた。『そのような格好は好ましくない。今すぐやめなされ。』弟は言った。『姉上のせいです。姉上がわしの月華を奪い取るから。』『奪うも何も、この道を選んだのは月華でしょう。貴方は何もわかっていない。太陽なければ月も輝けないのです。太陽なければ母なる星は石くれでしかないのです。ねえ、月の神。母なる星は私の方がいいってこと、わかっていただけないかしら?』『太陽神だって何もわかっていない!母なる星と、月華との距離が近いのはわしだ、月なのだ!ずっとそばにいたのは、わしなのだ!!』ツクヨミはニッカにつかみかかった。力加減などせずにニッカに拳をふるうツクヨミ。ニッカの美しい手足がみるみる鮮血に染まる。『久しいな、喧嘩か。付き合ってあげましょう。どちらかの命尽きるまで。』
『今から夜だ。わしのほうが強い!』『ならば朝まで持ちこたえよう!』闇の中、二人の神は戦った。ツクヨミはニッカにあと一歩で及ばず、朝が来てしまった。『ツクヨミよ、時の流れとは早いものでしょう。もう私の時間ですよ。さようなら、わが弟。』ツクヨミは自らの手をツクヨミのみぞおちにつっこみ、風穴を開けてしまった。ツクヨミは致命傷を負った。だがあきらめる気はなかった。ツクヨミは空を飛び、月華の家へ向かった。血まみれのツクヨミに驚く月華を横目に、台所に向かい、そこにあった包丁で月華を後ろから刺してしまった。倒れた月華をかかえ、ツクヨミは接吻をした。『死んでも一緒だ、月華。わが城で永遠を共にしよう。』そのまま二人はこと切れた。」
…毎度思うが、月華の気持ちは尊重してくれないのだろうか?その時点で一方的な愛の押し売りである。迷惑でしかない。
「月華が死んだ。それを知ったニッカは怒り狂った。ツクヨミを二度と母なる星に近づけないようにした。そして自分がいないと死んでしまう呪いをかけた。最後に、今までツクヨミのせいで半日ほどしかそばにいれなかったが、自らが降り立った土地にだけは、一日中顔を出せるようになった。」
―アマテラスオオミカミは太陽神、ツクヨミは月の神、母なる星は地球だ。つまり、アマテラスが弟にぶちぎれたせいで月は公転軌道に沿ってしか動けなくなり、地球にはもう近づけない。太陽がないと地球は母なる星ではなくなるし、ここ陽光神社は聖地だから一年中太陽見れるよ、という話をそれっぽく語ってるだけである。まじでこの話考えたの誰だ。
「月華は死んだ。だが母なる星の権化、魂は輪廻し新たなる肉体へと永遠に生まれ変わる。ニッカは月華の生まれ変わりにまじないをかけた。自分から離れると死んでしまうまじないだ。人によって症状は違うらしいが、ニッカがいないと死んでしまうことだけは確かだとか。だから人々はこの地に神社を建て、太陽神を祀った。これが陽光神社の成り立ちである。とっぴんぱらりのぷう。…最後までご清聴ありがとうございました。この話を聞いて、我々の神社にもっと興味を持っていただけると幸いです。それでは、また。」
話を聞いてた人々が感想を言い合いながら部屋を後にしていく。次はどうしようか、お守り買おうか、など色々な話が飛び交う。そんななか先程のロングヘアの彼女は、彫刻のように座ったまま、僕の父と知らない女性(おそらく彼女の母だろう)と話していた。冬でもないのに、鼻の奥がツンとするような、頭が冴えるような空気だった。僕も部屋を後にした。ここにいると何故か凍えてしまうような、そんな気がした。
2話目です。前回の第1話の閲覧数が予想していたより多くてびっくりしています。
初投稿で2桁になるとは思っていませんでした。
さて、創建の話も終わり、陽はどんな出来事に出会うのか。次回をお楽しみに。ここまで読んでくれた皆様、ありがとうございました。