雷鳴山
年中通して雷鳴が鳴り響く山がある。
山の周囲には常に雷雲が纏わりつき、山へ入るものを威嚇するかのように雷鳴が轟く。
勇気とともにいざ入山すればまずは視界を遮る大雨。
山道と呼ばれるものもなく、道なき道を上り、ようやく中ほどまで登れば今度は吹き荒れる強風が登山者を拒む。
強風は時折稲妻を巻き込みながら吹き荒れ、登山者に襲い掛かる。
運よく頂上付近まで行けたとしてもそこからは稲妻が降り注ぎ、命を奪おうとする。
自然が生んだその天然の要塞は雷鳴山。悠久の時より雷鳴が止まないこの山は、まるで何かから守るかのように佇んでいる。
とある町の広場に書かれたその説明文を黙読していた一人の青年は、先ほど買った食材を持ちながら町の奥に見えている黒い雲で隠れている山に視線をやる。
「相変わらず雷雲がすごいですよねあの山。晴れたところなんて一度も見たことないや」
少年が横に現れ、同じように買い物袋を持ちながら青年に話しかける。しかし買い物の量が以上で荷車一個分に満載に詰まっていた。
「そういう山だしな。これも頼む」
そういって青年は荷車に自分が持っていた分も入れ、先に進み始める。少年は重みをまるで感じさせず動き始める。
その異様な光景に旅人は驚いた表情を浮かべるが、町の住民たちはいつものことだと認識しており、ただの通行人程度にしか思っていない。
二人はとある流派の門下生でこの町によく買い出しに来ているのだ。道場に住んでいる者たち全員分の食料の調達のため、いつも荷車満載の量になってしまう。
彼らは町から離れた場所にある土地にて修行を行っており、この付近の危険な生物の駆除や護衛任務なんかも請け負ったりしているのだ。
流派の名は無天流。古くから伝わる古流武術を取り入れた流派である。昨今は魔術や魔法を取り込んだ系統流派が流行っているが、無天流はその原点である魔力操作を重点的に鍛え上げ、それを武術として昇華した流派である。
魔法や魔術は一切使わず、魔力の操作技術の向上を促し、それぞれの技の形に落とし込むことで強力な武技へと昇華させることが可能な流派ではあるが、近年では武術自体がそこまで重要視されておらず、あまり門下生は増えていなかった。
二人は買い出しから戻ると、ちょうど組手が行われているところであった。
二人の男が高速で拳をぶつけ合い、片方がなんらかの技を当てたことによりその組手は終了する。
「まだ遅い!魔力操作」