何故か殿下がそこにいます。
遂にやってきた魔力検査の日。今はステラと言う存在があるのでできれば入学したいが......いや、ステラには洞穴で暮らすよう言ってあるし、入学しなければ攻略対象たちとそもそも出会わない。
でも不正もできない。手を触れるだけなのだから。魔力が微量ながらあれば学園行きは確定。
あんなに魔法を使っておいて、魔力がないとは思えないよなぁ.......
いっそのこと、魔力切れ寸前レベルにすればよかったか。そしたら魔道具で感知されにくくなるかもしれない。
教会に着くと見えるのは、私と同じ境遇________つまり平民の子供たちがずらり。
皆自分に魔力はないかと目を輝かせている。
「はあ.......」
これから来る運命にうんざりしながら、列に並んだ。
*
全員が集まると、魔力検査が始まった。
この水晶のような魔道具が検査に使われるものだ。
手を触れた対象に魔力があれば光を放ち、そうでなければ光らない。
光った場合、光の強さで魔力の多さを表し、色で得意属性を表す。
といった感じなのだが、今のところ魔道具は光る気配すら見せていない。
「本当に光るのだろうかね?」
後ろに並んでいた少年が問いかけてきた。背が頭一つ分ぐらい大きい。
フードを目深にかぶっているので、表情などは分からないが、声からこの状況を楽しんでいるのだろうと拝察できる。
「恐らく光るでしょうね。宮廷魔導士の創ったものですから。」
この辺りでは見ない顔なので、一応敬語で答えておく。
「........っくく.......そうだね。」
なぜか少年はクックと笑っている。その余裕綽々な声音と仕草から、ある可能性が浮かんできた。
「貴方はもしかして______」
言いかけた時、丁度出番が来た。
少々苛つきながら魔道具に手を重ねると......
「うおあっ」
可憐な少女の見た目にそぐわぬ声が出た。まあまばゆい光を魔道具が放っているので致し方なかろう。
キルティーは最強で、裏ルートでこの検査の様子も見ていたことから、大丈夫だと思ったのだが.....
「.........ふふ.......こりゃあ面白いっ!」
後ろにいた少年が大声で笑い始めた。弾みでフードが取れると、そこにいたのは......
「.........やはり貴方でしたか、ザイル殿下。」
他でもない、ここアルツハイン王国の第三王子、ザイル・アルツハインだった。
*
「僕を見破るなんて、なかなかだね、君?」
笑いをこらえながらザイルが言う。まあ、貴方の声は前世で何回も聞きましたし。
「.......一つ、貴方だけ、健康状態が明らかに良かった。二つ、ローブなんて言う高い衣服を着ていた。我々平民は、見ることすらかなわない代物だ。三つ、仕草に品があり、平民は到底やらないものだった。四つ、誰もが緊張している場面で、自分がどうなるか分かっているように余裕で寛いでいた。五つ、他の子どもたちが目を輝かせているのに対し、貴方だけ冷めたものを感じた。まるですべてが分かっているかのように、退屈なものだった。........以上が、貴方をザイル殿下だと判断した概ねの理由です。」
ザイル殿下は、一瞬目を丸くした後、
「ふふふ!........君はとんでもない観察力と洞察力があるようだねぇ!」
笑ってそう言った。更に、
「是非とも、学園に通ってもらいたい!父上から推薦状を出せないか頼んでみるよ!」
「.........................は、い........」
ああ、結局はこうなってしまう運命なのか........
入学回避ができなかったことに対し、後悔の念と「こうしておけばよかった」の案たちが次々と浮かんでくるのだった........