プロローグ 魔王、失墜。
新作です。
よろしくです。
「貴方は魔王に相応しくない!!」
「……はぁ…………?」
ボクにそう言ったのは、右腕として重宝していた臣下だった。
場所は玉座輝く謁見の間であり、ちょうど他の幹部たちも集合している時の出来事。いわゆる四天王と名高い彼らは、その魔族――ガイスの言葉に最初、困惑していた。もちろん言うまでもなく、ボクだって同じ。あまりに突飛なそれに、間の抜けた声を発してしまった。
「ガイス……どうしたの、いきなり」
「『いきなり』ではありません! 私は常々、魔王様に進言しておりました!!」
だから思わず、そんな感じで訊ねる。
するとガイスは目の色を変えて、唾を飛ばしながら叫ぶのだった。
「どうして下等な人間たちと、我々魔族が対等に接しなければならないのですか!? 奴らは弱い。それならば、いっそのこと蹂躙して何もかも奪えばいい!!」
「……えー…………?」
その内容というのも、彼から幾度となく指摘されていたもの。
やれ魔王様は優しすぎるだ、とか。やれ人間なんて取るに足らない下劣な存在だ、とか。どれも生産性の欠片もない意見だったから聞き流していたが、ついに不満が爆発したらしい。ガイスは鼻息荒くこちらに詰め寄ると、我慢ならないといった表情で訴えてきた。
「それができない臆病者なら、貴方は魔王に相応しくないのです!!」――と。
まるでボクの統治が、落第点であるかのように。
いいや、彼にとってはそうなのだろう。そして同じく、そう考える者は一人ではなかったらしい。四天王の一人はガイスに呼応するように立ち上がり、少しの沈黙を置いてからこう言った。
「そ、そうだ! リュード様は優しすぎる!! 不適応だ!!」
「…………そ、そうよ! なぜ私たちが、人間に配慮しなければならないの!?」
「リュード様は臆病者の意気地なしだ! 魔王を辞するべきだ!!」
すると、あっという間に。
四天王以外の魔族たちもまた、異口同音にボクを批判し始めた。やがてそれは大きな波となって、辞めろ、という大合唱になる。
その様子を見て、ボクはしばし黙った後にため息をついた。
どうやら、そろそろ潮時らしい。
「分かった。分かったよ。……辞めるよ、魔王」
いい加減、ボクも限界だったのだ。
いっそ清々するし、これを機に自由になっても良いのかもしれない。そう考えてボクが宣言すると、ついには拍手喝采が沸き上がった。まるで圧政者を追いやったかのように。彼らの血の気に満ちた表情を見て、ボクは改めてこう思うのだった。
「……あーあ、どうなっても知らないからね」――と。
◆
――かくして、ボクは一介の魔族に戻ったわけである。
今まで数々のしがらみに囚われていた心は解放され、深呼吸をすると胸がとにかく気持ちよく感じられた。やっぱり、自由って素晴らしい。
そう思いながらも、ボクはこれからについて考える。
「さて、これで自由の身になったわけだけど……」
果たして、いったい何をしようか。
いくつか考えはあるが、いま一番したいこと、といったら……。
「人間側のこと、もう少し知りたいかな……」
今さら、自分を見限った魔族の地にいる必要もないだろう。
そう考えてボクは、魔族特有の赤い瞳の色を偽装し、歩き始めるのだった。
面白かった
続きが気になる
更新がんばれ!
もしそう思っていただけましたらブックマーク、下記のフォームより評価など。
創作の励みとなります!
応援よろしくお願いします!!