目指すべき道とは?
「さて・・・」
ローズティーを飲み終えた私は、
マリーナ師匠に勧めていただいた本から分かったことをまとめてみることにしました。
「まず・・・各事例を比較する限り、単にお金持ちと結婚するだけではダメなようですね」
そう。これらの本において仮定するならば、
玉の輿とは
1.見目麗しく地位のある男性と
2.双方が納得の上恋に落ち
3.共に困難を乗り越えた上で
4.結婚に至る
という流れがほぼ必須事項のようなのです。
例えば、
継母に辛く当たられる美しい女性が、魔法使いの助けを借りて王子と出会い、結ばれたり。
あるいは、
別の世界から聖女として送られてきた女性が、聖女としての務めを全うしながら騎士団長と結ばれたり。
はたまた、
一度亡くなって再び生まれ変わった️『悪役令嬢』が、改心して元々の婚約者と結ばれたり。
色々なバリエーションはありましたが、
最後には皆素敵な男性と結ばれてハッピーエンドを迎えていました。
そして『素敵な男性』とは、見た目が大変優れているだけでなく、
確かな地位もお持ちで、当然の如く金銭的にも恵まれた方のことを指していました。
・・・うん、なんだか言っていてとても難易度が高いような気がしてきました。
王子様って、あの王城にいる王子様ですよね??
私のような一庶民が、いえ、一応は貴族ですけれど、
それでもお会い出来るような方ではありません。
騎士団長様だって、王様の近くでお仕えしていらっしゃる貴族ですから、
たかだか子爵令嬢如きが会う機会なんて早々ありません。
それに私、継母に虐められてもいませんし、
聖女様でもありません。
玉の輿に乗れる要件を満たしていないような気もします。
かくなる上は、い、一度死んで生まれ変わる・・・??
いえいえいえいえ、そんな恐ろしいことできません。
あと悪役と言えるほど悪事も尽くせていない気がしますし。
うーん・・・どうしましょう・・・。完全に行き詰まってしまいました・・・。
私がうんうんと頭を抱えていると、
トントン、とドアをノックする音が聞こえました。
「お嬢様。お食事の支度が整いました」
私が頭を悩ませているうちに、もう夕方を過ぎていたようでした。
私は思考を中断して、ダイニングルームへ向かいました。
食卓には既に、お仕事から帰宅されたお父様とお母様がいらっしゃいました。
「おかえりなさいませ、お父様、お母様」
「ただいまフィーナ。
今日はどんな一日だったかしら」
私が席につくと、お母様がそう尋ねられました。
お父様とお母様は、毎日必ず、こうして一日にあったことを聞いて下さいます。
仕事に精を出しつつも、子どもとのコミュニケーションを怠ってはいけない。
と、ある意味真面目に考えて下さっているようです。
私は食事を取り始めながらお話しました。
「図書館で本を借りて、調べ物をしていました。
・・・その、達成したい目標ができたのですが、調べるうちにその目標は難しいのではないかと行き詰まってしまって・・・」
両親なら何かいいアドバイスがもらえるかもしれません。
玉の輿、の部分はぼやかしながら、私は聞いてみました。
「目標に向かって努力するのは素晴らしいことだな」
お父様が食事の手を止めて真剣に聞いて下さいます。
「簡単に達成できる目標などあるまい。
しかしどんなに難しかろうと、努力で変えることができるのは自分のみだろう。
まずは少しでも目標に近づくために、
己をどう変えてゆくのかを考えてみてはどうだ」
私はハッとしました。
大切なことを忘れていました。
私は聖女でも、悪役令嬢でもありません。
今から生まれ直すこともできません。
でも違いました。
大切なのは如何に玉の輿に足る人間になるかです!
変えられない環境を嘆いても仕方ありません。
彼女たちに、玉の輿に乗る人間に必要な素養を、1つでも多く備えられるよう努力するのです!
真面目にコツコツ!それが私のできる唯一のことなのですから!
「ありがとうございますお父様!!何だか道が見えてきたような気がします!」
満足そうに頷くお父様とお母様にお礼を言い、
私も霧が晴れたような満ち足りた気持ちで食事を終えるのでした。