素敵なお洋服
「お客様~いかがですか~?」
店員さんの呼び掛けに、私たちは同時にカーテンを開けました。
「まぁ・・・!」
「えぇ・・・!!」
そして同時に声を上げました。
なんということでしょう・・・!
マリーナ師匠の雰囲気がまたまた大きく変わっています!!
クリーム色のワンピースは、シンプルなデザインでありながら、軽やかな生地で上品さを感じさせます。
また首元や裾に所々レースが縁取られており、シンプルな中にも可愛らしさがあります。
それにいつの間に渡されていたのか、
お花をかたどったネックレスやブレスレット、それにリボンの付いたミルキーピンクのサンダルなど、身につけている小物が可愛さをとても引き立てています。
「師匠・・・!とっっても可愛らしいです・・・!」
「良くお似合いですよ~」
私と店員さんに口々に褒められて、師匠は顔を真っ赤にしています。
「フ、フィーナもとっても素敵よ・・・!」
「はい~。思った通り可愛く仕上がりましたね~」
2人に言われて、私は改めて鏡を見ました。
私の方は、ピンクに白の襟がついたブラウスです。
こちらも一見シンプルですが、首元には中心にお花のついた大きめのリボンが飾られていて、とても華やかです。
下は白のシフォンスカートで、動く度に揺れる裾が素敵です。
私も小さなパールのついたネックレスとブレスレットを選んでいただき、お花のハイヒールも合わせていただきました。
「テーマは春の妖精?いや、花の王女の方がいいかしら~」
店員さんが満足そうにうんうん頷いています。
「髪型やメイクだけ整えてもダメですよ~。お洋服も女性を表現する大切な一部分、いわば体の一部ですから~」
お洋服が体の一部・・・!!
なんと深いお言葉なのでしょう・・・。
これは・・・エレンさんに引き続き、私はまた幸運なことに美のプロに出会ってしまったようです。
私たちはその後、普段使いの服のアドバイスと、社交界に出た時のためのドレスのアドバイスまでいただきました。
(確かに玉の輿にのるとなれば、ドレスは必須です)
「素晴らしいです・・・!!ありがとうございます!!」
私は大変感動しながら感謝を伝えました。
「ありがとうございます・・・でも・・・」
私と同じように感謝を伝えつつ、マリーナ師匠は何だか言い淀んでいます。
「マリーナ師匠?どうなさいましたか?」
「あ、ごめんなさい。せっかく沢山すすめていただいて、どれもこれも本当に素敵なんだけど・・・。さすがに全部買うことは出来ないなって・・・。」
師匠は申し訳なさそうにもじもじと伝えました。
「本当はお洋服は毎日着るものだし、素敵な服が何着かあれば嬉しいんだけど・・・」
今回は1着だけかな、と寂しそうに呟くマリーナ師匠に、店員さんもおっしゃいました。
「そうなんですよねえ・・・。私も、その方その方にあった服をもっと気軽に、毎日楽しんでいただきたいんですけど。そんな贅沢ができるのはお貴族様だけなんですよね~」
店員さんもはぁ。と溜息をつきました。
「平民の私たちはそんなに頻繁に新しい服を買う機会はないしねぇ。」
とマリーナ師匠がおっしゃると、
「そうなんです~。1度買った服をなんども直して着るのが当たり前ですし、兄弟姉妹のお古や、果てにはおじいさんおばあさんのお古まで当たり前の世の中ですからね~。
正直ブティックを開いたものの、結構厳しいんです~」
と、店員さんも重ねておっしゃいました。
なるほど・・・不勉強でした。
我が家も質素倹約をモットーにしていますので、服は手直しして長く着ていますが、一般にはそれ以上に服は買わないものなのですね。
でももったいないです。こんなに美しく、変われる機会があるのに、限られた人しか味わえないなんて・・・
私はそこまで考えてハッとしました。
そして店員さんの手をがしっと掴むと、
「貸衣装屋さんなんてどうでしょう!?!?」
と告げるのでした。