お洋服
リィン、リィン・・・
優しいドアベルの音が響きます。
「いらっしゃいませ~」
カウンターから、おっとりとした優しげな女性の声が聞こえました。
瑠璃色の髪に、水色のワンピースを軽やかに着こなした女性です。
「こんにちは。あの、私たち、美しくなるための方法を勉強しているところでして。お洋服選びについてご助言いただきたく伺ったのですが・・・」
私はズバリ、要件をお伝えしました。
後で師匠が「は、はっきり言うわね・・・」とちょっと引いているようです。
「あらぁ~、それは素晴らしいことですねぇ~。ではこちらへどうぞ~」
私の話に特に動揺した様子もない女性は、私たちを店内奥のカーテンがひいてあるスペースへ案内して下さいました。
「美しくなるために、自分に合った洋服を身につけるのは必須ですよ~。」
言うなり女性は、私たち2人の身体をしげしげと舐めまわすように見つめ始めました。
「ふんふん・・・こちらはライラック色のウェーブがかかった髪にローズピンクの瞳。骨格はウェーブ型でバストは・・・」
女性は何事かをブツブツ言いながらいつの間にか取り出したメモを走らせています。
あら、なんだか既視感が・・・。
「こちらは・・・ストロベリーブロンドのボブカット。サファイアブルーの瞳に、骨格はストレートかな。バストとウエストは・・・」
「なななななんですの!?いきなり!!」
マリーナ師匠は顔を真っ赤にして叫びました。
突然の事で混乱しているようです。
「あら~失礼しました。その方に似合う洋服をご提案するためには、体型の確認が必要なもので・・・」
つい我を忘れて、と、女性はおっとりと謝罪して下さいました。
「でもこれでいくつかおすすめさせていただけそうですよ~。お持ちしますので着てみてください~」
なるほど、このカーテンはここで試着するためのものなのですね。
よく考えられています。
「まずそちらのお姉さん~。ブラウスをかっちりと着すぎですね~。1番上までボタンを止めて、紺の膝丈のスカートなんて、まるで事務員です~」
「じ、事務員・・・!!」
私はガーーーーン!と本日二度目のショックを受けました。
「そちらのお嬢さんはゴテゴテ飾りすぎですね~。フリルの上にリボンにバラは飾りすぎです~。色味もそれぞれが主張し過ぎではっきり言ってダサいですね~」
「だ、ダサい・・・!!!」
マリーナ師匠も傍目から見ても分かるほどガーーーーン!とショックを受けていらっしゃいます。
「お2人ともヘアスタイルやメイクはお似合いなのに服と釣り合いが取れていないんですよね~。まずはこれを着てみて下さい~」
私たちそれぞれに服を渡し、店員さんはシャッとカーテンを閉めました。
「ダサい・・・ダサい・・・」
隣の試着室からブツブツとマリーナ師匠の声が聞こえてきます。
私は渡された服を手に取って見つめました。
「やはりお洋服というのも、私が思っていた以上に奥が深いのですね・・・」
私は意を決して、来ていたブラウスを脱ぎ始めるのでした。