新しいお店?
「お店って・・・フィーナ、エレンはもうお店をやっているじゃない」
何を言ってるの、と師匠は首を傾げています。
エレンさんも困惑しているようです。
「ですから、女性向けの美容室を開きましょう!こんなに優れた技術があるのに、それを使わないなんて勿体ないです!」
私は力説しました。
「でも・・・いつも身だしなみに気を使う貴族と違って、平民の女性はヘアカットになんてほとんど来ないのよ」
エレンさんが俯いておっしゃいました。
「先程のフィーナさんのように、伸びても縛ってしまえばいいって考えの人が多いし、男性と違って需要がないよ」
そう、現在のルフト王国では、平民の女性はあまり髪を切ることはありません。
髪を切るのは、伸びた際に邪魔になる男性がメイン。女性は私のように、ただ縛って終わりにする方が多いです。
でも・・・
「はい。生活のためには、必要ないかもしれません」
私は続けます。
「でも、何かのイベントの前に。ほんの少しの息抜きに。そんな特別な意味合いで利用する美容室があってもいいと思うんです!」
そう、日々の生活機能としては、今の世の中では女性は来ないかもしれません。
だけど、気分を変えたい時。贅沢な気持ちに浸りたい時。そして、女性同士で交流したい時。そんな時に利用する言わば『社交界』としての美容室があっても良いのではないかと思ったのです。
「ここに来るとまるで自分ではないかのように綺麗になれる。ここに来ると気持ちのいいシャンプーなどでリラックスできる。
そしてここに来れば、エレンさんや、他のお客さんたちと楽しくおしゃべりできる。そんな場所があってもいいのではないでしょうか」
私はエレンさんの目を見ながら訴えました。
こんな風に髪を切ることの楽しさを、心地良さを、私が今日初めて知ったように、多くの人に知ってもらいたいと思ったのです。
「それは・・・」
「それいいじゃない!!!」
考えあぐねるエレンさんの横から、マリーナ師匠が答えました。
「確かに伸びる度に来るって言うのは難しいと思うけど、ほんのたまに、贅沢な気分に浸りたいってことなら、平民の女性だってコツコツお金を貯めて来ると思うわ」
私だって来るもの!とマリーナ師匠は力説して下さいました。
「今だってカフェやレストランにお金を貯めて、時折おしゃべりにいく女性も多いと聞くし!」
ね!と後押ししています。
「はい。エレンさんの技術で、私たちのように笑顔になる女性はたくさんいるはずです。それに・・・その方がエレンさんも笑顔になれるのではないですか?」
エレンさんはハッとしました。
「・・・そうね。本当にそうだわ。私が嫌々、男性の髪を切っても、誰も得はしない。両親だって、きっと喜ばないわね・・・」
バッと、何かを振り切ったかのように、エレンさんは顔を上げました。
「決めた!私、ここをサロンにする!!
ありがとう、2人とも!2人のおかげで、私にも目標ができたよ!」
エレンさんはにっこりと笑っておっしゃいました。
「さあ、これから忙しくなるわ。両親にも話して、お店を改装して、お茶やお菓子も用意して・・・!」
私とマリーナ師匠は顔を見合せてふふっと笑いました。
どうやらエレンさんにも、私たちと同じく目指すべき『目標』ができたようです。
「それから2人には、お客様第1号としてうちの広告塔になってもらわなくちゃ!」
え、と固まる私たちに、エレンさんは続けました。
「とりあえず後で、その格好のまま新装開店のチラシをくばってきてもらおうかしら!?」
・・・なんだか早まったことをしてしまったかもしれません。
少し後悔しながらも、私は真面目にチラシ配りの効果的なルートを検証し始めるのでした。