初めての美容室。
カフェを出た私は、
マリーナ師匠に先導していただき一軒のお店に着きました。
「・・・ここよ。私のその・・・知り合いがやっている美容室なの」
カランコロン、とドアベルを鳴らして、私達は店内に入ります。
美容室、とは髪やお化粧を整えてくれるところだと聞いたことがありますが、
実際に入るのは初めてです。
さすがマリーナ師匠。見聞が深いです。
「いらっしゃいませ・・・あ、マリーナちゃん」
「ご、ごきげんよう・・・」
マリーナ師匠はなんだか少し気まずそうな様子で挨拶されています。
「こちらはフィーナ。その、今日は、私達の髪を整えて欲しくてきたんだけど・・・」
「まぁ。来てくれてありがとう。私はこの美容室でスタイリストをしています、エレンと言います。」
「はじめましてエレンさん。フィーナと申します」
座って下さい、とエレンさんに促されて、私達はくるりと回転する椅子に座りました。
どうやらここで髪を整えるようです。
私は失礼にならない程度にキョロキョロと周りを見渡し、聞いてみました。
「エレンさんはおひとりでこのお店を営んでいらっしゃるのですか?」
「ええ・・・実は少し前まで父が1人で切り盛りしていて、私はたまに手伝っていただけだったのだけど・・・父が怪我をしてしまって、入院しているの」
「まぁ・・・それは突然の事で、とても大変でしたでしょう」
私がそう言うと、マリーナ師匠が意を決したようにパッと顔をあげました。
「そそそそそその、この間は嫌なこと言っちゃってごめんなさい!!あんなことを言うつもりじゃなかったのだけど・・・!!」
師匠は顔を真っ赤にして、少し目をうるませつつも、エレンさんを真っ直ぐに見つめておっしゃいました。
エレンさんは一瞬ポカン・・・とされましたが、
すぐにあぁ、と思い至ったようで、
「そんなことないよ、気にしないで。あの時は本当にその通りだなって思って泣いちゃったの。私こそごめんなさい」
エレンさんは少し困った顔をして笑いました。
「お父さんが入院して、私、なんとかこのお店を続けたいと思って1人でやってみていたんだけど、お父さんのお客さんって年配の男性の方ばかりで、お父さんのように上手く切れなくて。
お客さんもだんだん遠のいてしまっていて、悩んでいたんだけど。
でもマリーナちゃんに言われてハッとしたの。
お店の客層を知っていながら、それに合わせたカット方法を努力して来なかった私がいけなかったんだって。
私これからもっともっと勉強するわ!」
そう言ったエレンさんの表情は、なんだか晴れ晴れして見えました。
「マリーナ師匠はいつも的確なアドバイスを下さいますからね。さすが師匠です!」
私もうんうんと頷きました。
「だからだれが師匠よ!!」
そう言った師匠の顔も、来た時よりずっと晴れやかでした。
「さぁ、お話ばかりしてごめんなさいね!
お客様、本日はどのようにいたしましょうか?」
エレンさんは私の髪を梳きながら、ニッコリと微笑みました。