第8話:チュートリアル(2)
チュートリアルな説明回を一週間ごとにするのももったいないので、ちょっと続きを投稿します。
チュートリアルは、あと一回あります。
実践。
すなわち、アーツやツールを使用する。
「では、戦闘に入る前に、こいつだ。腕輪でも杖でもいい。空いてるスロットに装着しろ」
ハイドはガブリエルにカードを渡す。
「これは?」
「『サーチ』。名前の通り、周囲の状況を探るアーツだ。レベル低めだが、この辺りなら十分通用する」
「レベルって・・・・・・?」
アーツには、個別にレベルが存在する。
レベルに応じて効果が強くなるが、半面、消費するBリキッドの量も多くなる。
「ガブリエルが持ってるデバイスは、初心者用で、セットできるBリキッドの量も多くない。もっといいデバイスになると、一つのデバイスにいくつかBリキッドをセットすることもできるからな。そういうのを手に入れたら、レベルの高いアーツを使うのもいい。・・・・・・ただ、適性な質のデバイスにセットしないと、デバイスが壊れることもあるが」
高レベルのアーツは、ショップに売っているものもある。
だが、それは汎用的なアーツだけだ。
「レベルとは言っているが、要は出力制限だ。出力を上げれば、当然消費はでかくなる。だから、レベルって形で制限をかけてるのさ」
「なるほど」
最低出力をレベル一として、出力を上げるほどにレベルが上がる。
「なお、これにもクリミナル特有の制限事項があってな。俗にレベルキャップって呼ばれてる。恩赦で解除しないと、高レベルのアーツは使えないから注意しろ」
「・・・・・・すごい面倒なんですね」
「逆だ。この惑星上限定とはいえ、クリミナルはほぼ自由に歩き回れる。そんだけの自由を与えて置いて、一切の枷なしとはいかんだろう。犯罪者なんだから」
最初に支給される装備と許されている範囲だけで、生きるだけなら十分にやっていける。
さらに言えば、クリミナルの場合は、一日を食べるのに必要な程度の最低限のキャッシュは配給される。
恩赦を得ていくと、配給はなくなってしまうが、そのころには十分に稼げるようになっている。
「と、話が逸れた。ともあれ、まずは『サーチ』を使って」
「はい」
デバイスの操作からのアーツ起動は、思考操作で実行できる。
他にも、アーツ名を口にしたり、動きを設定しておいて使えるようにしたり、と発動の方法はいろいろある。
「とりあえず、初心者はアーツ名を口にするのが安定だな。思考操作は、慣れてないと暴発する」
「はい。行きます。『サーチ』」
ガブリエルが杖に『サーチ』をセットして使用する。
ハイドの視界には、杖を中心に円形にサーチのためのエフェクトが走り抜けたのが見えた。
「・・・・・・さて、どうだ?」
「・・・・・・ええっと」
しばらく目を閉じて集中していたガブリエルは、ある方向を指さした。
「あっち? に何かいるみたいです」
「うむ。それが大体の『サーチ』の効果だな。・・・・・・他には?」
「その、途中の道で、床の下に何かあるみたいなんですけど・・・・・・」
「それはたぶんトラップだろうな。とりあえずそこまで行くぞ」
「はい」
『サーチ』は、割と低レベルでも使い勝手のいいアーツだ。
レベルが上がると感知できる範囲が広がるが、感知できる内容自体は、レベルが上がってもそう変わらない。
『サーチ』を使う場合に重要になるのは、どちらかというとアーツ自体の性能より、使う側の知識と経験である。
「階層や、大まかな形状なんかから、何が引っかかったのかを判断する。それができるようになると、いろいろ便利になる」
「な、なるほど」
「あと、『サーチ』は使用している間、Bリキッドを消費していくタイプだ。慣れてるやつだと、一瞬の展開を定期的にやることで消費を抑えたりもするが、ま、そこはおいおい慣れてから、だな」
使う方によっては、あえて低レベルの『サーチ』を選んで使っているものもいる。
あまりにも遠方を探知したところで、そこに到達することには状況が変わっている、というのはざらにある話だし、かといって常に監視するために使いっぱなしでは、Bリキッドが持たない。
高レベルと低レベルを使い分けるものも少なくない。
「さて、とりあえずは、その引っかかった方にいくぞ、と」
「はい」
+ * +
まずは一つ。
「あの辺だな。床に反応があった場所は」
「はい。ええっと、あのあたり? ですね」
「じゃあ、もう一回短時間でサーチを使って、場所を確定。その後、その場所を、そうだな『ショット』のアーツで撃ってみろ」
「はい」
ガブリエルが、ハイドの言うことに素直に従って、順番に行使する。
場所が分かったのか、そこに向かって、腕輪型のデバイスをはめた腕を伸ばし、
「『ショット』」
バシュ、と空気が抜けるよな音とともに、弾丸が飛んで、床を打った。
次の瞬間に、攻撃を受けた床が崩れて、穴が開く。
「落とし穴。まあ、メジャーだな。踏んだら開くタイプだ」
「・・・・・・わあ」
ダンジョン内のトラップは、基本的に放っておくと変化する。
壊したものが直るくらいは当たり前で、場所が変わったり、内容が変わったりといろいろある。
目の前で瞬間的に変わるようなことはないが、一日二日もすれば、ダンジョン内のトラップは、がらっと場所を変えてしまう。
「まあ、だから、トラップに対する警戒は、常に行うこと」
床に開いた穴を覗き込むと、底が見えない。
ただ、底にトラップが敷き詰められているタイプではないし、
「これは、下の階層に落とされるタイプだな、おそらく。即死するようなトラップじゃないが、トラップというのは、引っかかれば大概死に近づく。かからないようにするのが無難だ」
「他には、どんなトラップが?」
「天井が落ちてくる。ガスが噴き出す。銃弾が飛んでくる。針が飛び出す。ガードが出てくる。どこかにランダムで転移させられる。炎、冷気、電撃そのほかなんでも。まあ、いろいろだ。ゴミをぶっかけられるとか、警報が鳴るとか、爆弾が降ってくるとか」
「わあ・・・・・・」
「まあ、いい効果は一個もない。どんなトラップなのか分かれば利用できないこともないが、そういうことは慣れてから考える。今はトラップには引っかからないを前提にすること」
「はい」
頷いたガブリエルを連れて、歩く。
「さて、そうこう言っているうちに、もう一つの実践編」
「は?」
「敵が来る。『アーツ』を使った戦闘だ」
「あ・・・・・・」
ぐ、と杖を握りしめて身構えるガブリエルを見て、ハイドも腰に下げていたブレードを抜いた。
「さて、来るぞ」
通路の角を越えて、それが姿を現した。
+ * +
現れたのは、浮遊する球体だ。
全体的に銀色。中央に丸いレンズのようなものがある。
「えっと・・・・・・」
「まあ、この辺に出てくるやつだから、危険度はそんなにない」
俗に、ボールと呼ばれるガードボットだ。
「ダンジョンを徘徊するセキュリティモブは、主に、クリーチャーとガードボットの二種類。あれはガードボットで、見た目のまんまボールと呼ばれる。バリエーションがたくさんあるが、大体は一緒だ」
攻撃手段は、接近しての電撃か、レンズからビームを撃つ。
「まあ、この階層なら、当たっても、痛いぐらいだ。死ぬほどじゃない。食らい過ぎると知らんが」
言っている間にもボールはふよふよと近づいてくる。
「とりあえず、どっちでもいいから撃ってみろ」
「あ、はい!」
ガブリエルは杖を構えて、アーツを発動する。
「『スライサー』!」
ボールにそれが衝突し、ばちんとスパークを発した後、落ちた。
「お、一撃か。筋がいい」
「そ、そうでしょうか」
「基本、アーツの攻撃力は一定と思った方がいい。セットしているデバイスとアーツのレベルで、大体威力は同じ。あとは、どこに当てるかだ」
そういう意味では、一撃で倒せるくらいの敵でしかない、ということでもある。
「さて、では見ろ」
そうして、倒されたボールを拾い上げる。
丸いボールは、もうそうでもない。
小さな金属板が一つと、
「こいつがQコア。ダンジョン探索の一番でかい収入源だな。これは」
ハイドはガブリエルの腰につけられた箱へと、手に持ったQコアを押し付ける。
「こんな感じで、ストレージに入れられる」
ストレージには、ツールなんかも入れておくことができる。
「で、クリーチャーの場合は、Qコアしか残らなんが、ガードボットの場合は、こういう風にパーツの一部が残る」
「これは・・・・・・?」
「クリーチャーは、その身体のすべてをQコアからのエネルギーで賄っているが、ガードボットの場合は、このフレームにQコアがエネルギーを供給することで、機体を作ってる。そのおかげで、ガードボットの場合は、こういうパーツが残るわけだ」
さて、とハイドはそのパーツをガブリエルに見せる。
「こまったことに、こういうパーツはストレージに入れられない」
ストレージに入れることができるのは、ツール、デバイス、Qコア、Bリキッドのシリンジなど、ポートでストレージへの保存を設定した品のみだ。
ダンジョン内で手に入る物品は、専用のボックスを持ち込まないと、収納は不可能だ。
「こいつみたいな小さいのなら、ポケットに入れておくこともできるかもしれんが、もっとでかいのとなるとそうはいかん」
「じゃあ、置いていくんですか?」
「時と場合による。こんな小さいもんでも、例えば『ハンドポケット』のゲル爺のところにでも持ち込めば、買い取ってくれる」
「へえ・・・・・・」
ガードボットの部品は、この惑星で回収可能な数少ない資源である。
しかも、管理公社を通さずに回収可能な資源だ。
管理公社の管理外のツールを作ったりする際には、非常に重宝する。
「ということで、持ち帰るかどうかは、その時の荷物の空き具合による。・・・・・・ただ、回収用のボックスは、それほど容量を圧縮できない。いつ撤退するかのタイミングの見極めも含めて、重要な要素だ」
小金にはなるが、Qコアほどには換金効率が良くないのも事実だ。
「ま、こういうのは慣れだな。今日は持ってけ」
「あ、はい」
ひょい、と投げ渡されたパーツを受け取り、ガブリエルはポケットにしまう。
「さて、疲れたか?」
「いえ、まだいけます」
「いい返事だ。じゃあ、もうちょいいこうか」
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別作品も連載中です。
『竜殺しの国の異邦人』
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