第46話:襲撃
決着はついたようだ、と闘技場の中心で戦う、タイラントとフェベリウスの二人を見て、ハイドはふむ、と一つ頷いた。
「『大帝』の隠された能力か?」
「Lメカというのは、大なり小なり、妙な能力を持っているものですが、『大帝』のあれは、そういうものの中では癖がない方でしょうね」
「ふむ?」
「サイボーグに、サイキック能力を付与するのですから」
「・・・・・・・・・・・・ほう?」
さらっと言っているが、とんでもない能力である。
サイキック系の能力。
つまりは、念力や念話、などと言った能力は、あることは確認されているし、適性の大小こそあれ、ある程度は発現方法も確率している。
手に入れようと思えば、化学療法や修行などで、手に入れられないこともない。
ただし、サイキック能力を手に入れるには、一つ誓約がある。
「サイボーグに、サイキックか」
自分の肉体を、機械化していないことだ。
サイボーグには、サイキックは使えない。
たとえ元がサイキック能力者だったとしても、サイボーグ化した時点で能力を失うし、失わないまでも著しく弱体化する。
「それはそれですさまじいな」
Lメカなら、あり得ることか、とハイドは頷くが、驚愕はする。
Lメカの中には、適合者にサイキック能力を与えるものはある。
正確には、Lメカ自体がサイキック能力を保有し、それを適合者が扱えるというものだが。
「・・・・・・まさか、覚醒させるのか?」
「そうです。『大帝』は、適合者がどんな種族、どんな肉体を持っていたとしても、サイキック能力を開花させます」
「となると、『大帝』を失ったとしても、サイキック能力は残ったままか」
「本来ならば、そうらしいですね」
ノエルは、腕を失い今度こそ防御一辺倒に回ったタイラントと、使い慣れないサイキックを絡めつつも、タイラントを圧倒するフェベリウスに目をやる。
「タイラントも、サイキック能力を全て喪失したわけではありませんが、あれのサイボーグ躯体は、この惑星についてから何度か換装や更新を行っています。その過程で、サイキック能力のほとんどは喪失しているでしょう」
それでも、かろうじて殴り合えているのは、少しばかりは残っているからか。
「おお、おお。ぼこぼこじゃん」
「いい気味ですね」
ははは、とノエルがタイラントを笑っている。
「それにしても、あの若者。吹っ切れましたか」
「うん?」
「タイラントに押されていた時のような、こざかしい組み立てをしなくなっています」
「こざかしいとは・・・・・・」
ノエルは、フェベリウスが押されていた原因を、端的に言った。
「そもそも、『大帝』は適合者を絶対強者にするLメカです。『大帝』で戦闘を行う場合、その性能に任せて力押しをするのが一番強いのですよ」
「強いやつが小細工するなよ、と」
「私がタイラントとやり合った時に一番苦労したのもそこです。・・・・・・私の剣は『竜骨断ち』でしたから、力任せの打ち合いにも耐えられましたが、それでも『大帝』を斬るには、それ相応の技が必要でした。力任せの打ち合いをしながら、技も合わせて使うのは、非常に困難でしたよ」
ノエルは肩をすくめた。
ともあれ、
「決着、だな」
フェベリウスが腕を振りぬき、タイラントが倒れた。
「・・・・・・うむ。タイラントの負け」
「多少見ごたえはありましたね。いい勝負でした」
+ * +
フェベリウスは、呆然としていた。
殴られる、殺される。
そう思った瞬間に、身体の中に力が目覚めた。
「負けられない、勝たねばならない」
この勝負には、様々なものを背負ってやってきた。
だからこそ、敗北は許されない。
ついてきた二人の従者。
ここに送り込んでくれた故郷の支援者たち。
内乱におびえる、多くの民衆。
すべての期待に、応えねばならない。
だからこそ、敗北は許されない。
そう思っていた。
だが、次の一撃が、自分の命を狩り取るとわかった。
この一撃を受ければ、自分が死ぬと思った。
「死にたくない」
その思いがあり、そして、拳を受け止めていた。
何ができた、とは思わない。
防御など無駄だと思っていた。
自分が防御に掲げた腕ごと、頭を吹き飛ばされると思った。
だが、自分の腕が、タイラントの一撃を受け止めた。
その感触が、タイラントの拳の威力が、自分の知覚に感じるより早く、受け止めた、と確信した。
感じたのは、安堵ではなかった。
それは、渇望だった。
「勝ちたい」
思った瞬間、全身から、タイラントの一撃を受け止めた拳へとエネルギーが流れ込み、気づけば、タイラントの拳を吹き飛ばしていた。
「・・・・・・・・・・・・」
もう、そこからは何も考えなかった。
タイラントが放ってくる攻撃を、ほとんど反射で避け、あるいは、殴られるに任せ、己はただ前へと出る。
口が、叫びを放っていた。
鍛えた技など、何もなかった。
ただ、殴る。
離れたと思えば前へと距離を詰め、とにかく、相手に拳が届く距離まで詰めて、あとは殴る。
自分の拳が、タイラントの体を殴る感触が、一撃一撃に重く感じ始め、そして、
「!!!」
は、と正気になった。
目の前が、開けている。
今の今まで、フェベリウスの眼前をふさいでいた巨躯が、ない。
視線を、下におろした。
そこに、タイラントが仰向けに倒れている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぉ」
それを、どれほど眺めたか。
口から、声が漏れた。
「ぉおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!!!!!!!!」
それはほどなく、叫びとなる。
フェベリウスは、拳をに握り、上を向いて、ただ、心のままに叫びを上げた。
+ * +
「・・・・・・・・・・・・いいねえ。若い」
ハイドが、そんな呟きを漏らした。
いまだ、フェベリウスの叫びが轟いている。
「フェベリウス様」
ロドナーが、感極まったか、滂沱の涙を流している。
「・・・・・・これで、これで帝国は救われる」
「それはよいことだ、と」
ハイドは、ノエルへと視線を送る。
ノエルは、タイラントへと目を向けていたが、ハイドの目くばせを受けて、頷いた。
「若造。そろそろ、限界だ」
「は?」
「フェベリウスだよ。そろそろ崩れる」
ハイドが言う間にも、フェベリウスの叫びは小さくなっていく。
息が切れて来たか、叫ぶだけ叫んで、気が落ち着いてきたか。
ともあれ、闘技場全体に響いていた叫びが消えていく。
そして、その叫びが切れそうになった瞬間、ぐらり、とフェベリウスの体が傾いだ。
「フェベリウス様!」
ロドナーが駆けだすより早く、その崩れる体を支える腕がある。
タイラントだ。
叫びをあげている間に、身を起こしたタイラントが、フェベリウスが倒れるのを支えたのだ。
そして、ロドナーと、もう一人、離れたところで見守っていた男が、中央へと駆け寄った。
「・・・・・・・・・・・・」
その様子を見ながら、ハイドは視界の端にレーダーの映し、周囲の状況を探る。
「・・・・・・アレイ」
「うん?」
闘技場中央の決着に目を奪われていたアレイに、ハイドは声をかけた。
「戦車の防御を起動して、三人で立て籠もれ。ガブリエルの防御も展開。急げ」
「え? あ、うん。分かった」
ハイドの指示を受け、わたわたと慌てながら、アレイはガブリエルとカノンの二人を戦車へと押し込む。
「来ますか?」
ノエルは、ハイドへ短く聞いた。
「ああ、包囲が確実に狭まった。・・・・・・決着を見た結果だな」
「分かりました」
頷き、ノエルは腰からブレードを抜いた。
「ま、対応は俺がやろう」
ハイドが言った、次の瞬間であった。
闘技場の外周付近から、大量の射撃系アーツや、砲撃、銃撃などが、驟雨のごとく、闘技場中央へと降り注いだ。
+ * +
その攻撃の圧力は、極めて高いものだった。
生身の人間どころか、サイボーグであろうとも、その驟雨の前では何も残らないだろう。
それほどの攻撃であったが、
「・・・・・・!」
攻撃が途切れた後、中央には、無事な姿がある。
「・・・・・・雑ですね。数を用意するために、量産品を用意しましたか」
そこに、ノエルがいる。
ブレード一本だけで、どのようにしたのか、すべての攻撃をはじいていたようだ。
+ * +
ハイドは、中央へと降り注いだ攻撃を解析する。
銃撃や砲撃はいい。
物理なら、ノエルが全部切り落とせる。
攻撃に対する防御なら、ノエルのブレードを抜くのは極めて困難だ。
アーツによるエネルギー攻撃に関しては、
「ふん」
少量の干渉と投げつけたジャミンググレネードが威力を落としている。
あとは、ノエルに任せておけばいい。
こちらはこちらで対応がいる。
数は少量だが、こちらにも攻撃は飛んできている。
ハイドは、すかさずアーツを起動。
ガブリエルの『アンヘル』へと干渉し、防御アーツを稼働させ、アレイの戦車を含め、防御の範囲内に収めた。
「・・・・・・・・・・・・Lメカ。『コネクトマンモス』によるアーツの連続発動か」
ハイドは、攻撃を解析する。
「となると・・・・・・」
攻撃が勢いを弱めた、と思ったところで、
「ふん」
さらに、攻撃が降り注ぐ。
『コネクトマンモス』は、アーツを接続して連続発動する。
そして、このLメカを使用した攻撃方法において、裏技に近い使い方が一つある。
それが、アーツの自動発動だ。
デバイスにLメカに接続して、起動したままアーツを放てば、デバイスに設置されたBリキッドが尽きるまで、アーツを放ち続けることができる。
つまりは、攻撃はまだ続く。
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別作品も連載中です。
『竜殺しの国の異邦人』
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