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第2話:ガブリエルと出会い

 ハイドは、一団の後を追う。


「五層とは、またらしいところを」


 苦笑する。

 現在、この牢獄惑星のダンジョンの最前線となっているのは、五七層だ。

 おおよそ、十層までは、初心者層とも言われ、危険度の高いダンジョンガードもそれほど出ない。

 その中でも、五層は特に敵が少ない。

 敵が少ない割にはトラップが多いため、トラップへの対処を学ぶにはいいが、そういう一部の知識を求めないものには受けが悪い。

 そのため、あまり経験を詰めないこともあって、あまり人気のない層である。

 さらに言えば、この五層には、手順を踏まないと入り口を開けることのできない小部屋なども存在する。

 初心者に推奨されているのは、第三層。

 そこから本格的なダンジョン探索をする前に、第十層での階層主攻略を経るのが、一番推奨される流れだ。

 それを第五層に来る。

 男たちがクリミナルではない『プレイヤー』であることを考えれば、少女を連れ込んだ目的など知れている。


「くくくく・・・・・・。クリミナルよりよっぽど小悪党だな」


 皮肉なものだ、と内心自重しつつも、迷彩を発動させ、消音機能を設定したステルスモードで、じっくりと後を追う。

 男たちは、チンピラだ。

 一攫千金を夢見て、うまく行かなかったくせに、まだこの惑星に留まっている。クリミナルからは『負けアンダードッグ』と呼ばれる連中だ。

 プレイヤーの補助をする商人『サポーター』達から、安くて簡単な賃仕事を請け負い、日銭を稼ぐくらいしかしない、ダンジョン攻略に帰依しない連中だ。

 この惑星のダンジョンが完全攻略されれば、この牢獄惑星に収監されたクリミナルは、一部の『終身刑』を受けている者を除き、恩赦の対象となり、解放される。

 それだけに、クリミナルは全員がプレイヤーに比べ、平均的に高い熱意を持って攻略に当たっている。

 それだけに、役に立たないプレイヤーに対して、クリミナルの感情は悪い。

 まして、『負け犬』は、クリミナルを蔑む者も多い。

 自分の無能っぷりを棚に上げて悦に入るには、犯罪者、という肩書を持つクリミナルは恰好の的なのだろう。

 ほかにも、理由はあるが。


「お? 始まるか」


 隠れ潜むハイドの視線の先、少女を連れた一団が角を曲がり、小部屋へと入っていく。

 さて、とポーチからツールを抜き取る。


「おっとてがすべったー!」


 わざとらしいくらいの棒読みをノリノリでつぶやくという器用なことをやりながら、ハイドは手に持ったツールを転がした。

 球状のツールはころころと軽快に床を転がっていき、


「お、やった」


 一呼吸の後、ほんの僅かな痺れが空気中を走り抜けた。


 + * +


 ガブリエルは、ダンジョン探索をちょっと甘く見ていた、と後悔していた。

 まさか、初回の探索がろくに始まりもしないうちから、というのは、さすがに予想外だった。

 抵抗のために、杖で殴ろうかともしたが、視界が一瞬赤く染まった後、体の動きが止まった隙を突かれて、押し倒されてしまった。

 気持ち悪さを感じながら、必死に抵抗するも、寄ってたかって手足を押さえつけられた。

 下卑た笑みが向けられている。

 気持ち悪い。

 感じた、一瞬の後だ。

 体の芯からしびれるような衝撃が走り、意識が落ちた。


 + * +


 パラライザー

 要は、電撃を発して、一定エリア内に麻痺を起こすツールだ。

 エリア内に入っている場合、使った者ですら麻痺してしまう、下手すると自爆してしまうツールだ。

 一般のプレイヤーには流れない、非正規品、というと恰好よく聞こえるが、実際はただの欠陥品である。

 実際、自分やプレーヤー、クリミナルには効果を及ぼさないものが基本ツールの一種としてポートの市には売りに出されている。

 一般的なダンジョン探索を行う際には、そちらの方が使い勝手がいいし、プレイヤーもクリミナルも等しく買い求めている。

 だが、こういった欠陥品が売りに出されるのも、需要があってこそ、だ。

 手に入れられるのは、クリミナルか、それこそクリミナルなみに牢獄惑星に知悉したプレイヤーか。

 非合法、というか管理公社の認可を受けていないツールであるが故に、使用に関しては自己責任だが、当たりを引けば大きな効果を得ることもできる。

 腕のいい職人サポーターを見つけることができるかどうか、が分かれ目だろうか。

 ハイドが使ったツールも、そういったツールである。

 使用を誤れば自爆しかねないツールであるがゆえに、欠陥品として売りに出されたが、逆にクリミナルには使える場面、というものが存在するため、現在ではあえて欠陥を機能という言葉に置き換えて、裏で販売されているツールだ。

 使用した結果は、ハイドの前に現れている。

 すなわち、範囲内のプレイヤーもクリミナルも、等しく気絶している。


「うんうん」


 かかか、と笑いながらも、男たちのデバイスに幾つかの手順を踏んでの操作を施す。

 光に包まれ、『負け犬』連中が消えていく。

 意識のない探索者をポートに強制的に帰還させるための手順だ。

 強制帰還を行うと、ペナルティでそこそこの罰金を食らうが、その辺は自己責任だ。

 要は、ハイドの知ったことではない。


「さて?」


 最後に残ったのは、少女が一人。


「さて、と・・・・・・」


 別のツールを抜き出すと、それを少女の首筋に当てる。

 パチ、と弾ける音が一つ上がり、


「ん・・・・・・」


 少女がゆっくりと目を開けた。


「や、こんにちは」

「・・・・・・誰、ですか?」


 目を覚ました少女は、ゆっくりと周囲を見て、


「あれ?」

「君に乱暴を働こうとした連中なら、強制帰還でお帰りだ。ここにはいないよ」

「強制、帰還?」

「普通は、救助のためのシステムだがね。ダンジョン内で動けなくなった人間を、別の人間が強制的に送り返す手段。普通は、使わないし、使うにはちょっと手順がいるが」

「・・・・・・はあ・・・・・・」


 まだ、寝ぼけたような顔をしている。


「カモが消えて残念かい?」


 ハイドがからかう口調で少女に告げれば、少女は首を横に振った。


「・・・・・・そうでもないと思います」


 割とはっきりとした口調に、ハイドは、おや、と首を傾げる。


「俺を新しいカモとか思うなよ?」

「思っていません。物好きかお人好しか、もしくは下心か。どれでも、助けていただいたのは確かですから」


 はあ、と溜息を吐いて、少女は立ち上がる。

 それにあわせ、ハイドもかがめていた背を伸ばす。


「・・・・・・ガブリエルです」

「ん? ああ、君の名前か」


 ふむ、と頷いて、ハイドは応える。


「ハイド・A・シーク。ハイドで通っている」


 ハイドが差し出した手を、ガブリエルは恐る恐る握るのだった。


 + * +


「・・・・・・犯行防止機能?」

「そう」


 トントン、とハイドは自らの首輪を指先で叩く。


「ま、なんだかんだ言って、俺たちはクリミナル。犯罪者だ。対して、プレイヤーは一般人。同じ場所で過ごさせる以上、クリミナルには何かしらのセキュリティをかける必要がある、と」

「それが、首輪に?」

「そう。いかなる理由があれ、クリミナルがプレイヤーに恣意的に攻撃を仕掛けようとすると、体が硬直して動けなくなる。例外は、故意ではない攻撃。つまり、事故。あるいは、仕掛けたトラップにひっかけることだ」


 ただし、このトラップもプレイヤーをひっかけるつもりで仕掛けると首輪に防止される。

 要は、脳波なり何なりから思念を読み取り、プレイヤーへの攻撃性を感知しているらしい。

 本来なら、ハイドが仕掛けた電撃のツールも、プレイヤーを狙った以上は使えない、はずだった。


「もう一つ例外。自爆攻撃と巻き込み」

「え・・・・・・?」

「さっき君を助けたときにやったやつだけどね。あの時俺は、プレイヤーどもでなく、君を狙ってツールを放った」


 クリミナル同士なら、このセキュリティは働かない。

 だから、ハイドはガブリエルを攻撃し、その効果範囲にプレイヤーを巻き込んだのだ。


「結構重要なことだから覚えておきな? あの程度の電撃なら無効化できる装備はある。それと、さっきのツールを自爆で使えば、周囲一帯に人が気絶する程度の電流の領域を作り出せる。・・・・・・クリミナルが自分の身を守るための基本手段の一つだ。他には遮光ゴーグルと閃光弾、とか」


 プレイヤー側は、結構こういう防護は怠る。

 かさばる上にコストがかかる。しかも、探索中に役立つときは限られており、費用効果は微妙。

 一般的なプレイヤーなら、いくつかの状態異常回復用のアーツをデバイスのスロットにセットし、必要に応じて切り替える。

 さらに言えば、プレイヤーが一般で手に入れられるツールに、自爆覚悟で使うような品は基本存在しない。

 あえてクリミナルのほうが多いブラックな地区をうろつくような探索をしていなければ、まずお目にかかれないような代物だ。

 なにせ、牢獄惑星のインフラは管理公社が握っており、非正規品は作られない。

 そういうものは、基本的にはクリミナルのあふれる地区でクリミナルが勝手に運営している工場で作られるか、少数の手作り《ハンドメイド》だ。


「と、まあ、ざっくりとした説明だが」

「いえ、ありがとうございます」

「クリミナルの初期講習で教えてくれる内容は、プレイヤーのそれと同じだ。だから、クリミナルが知っておかないといけないこととかは結構抜けてる」


 首輪のこととかな、と首筋をなでてハイドが言うと、ガブリエルは首をかしげる。


「プレイヤーも、クリミナルの首輪については知らない?」

「一般的なプレイヤーはな。公社も知ったやつには口止めしているし」

「そうなんですか」

「知ったら、アホが増えるからな。ついでに言うと、これが知られるとクリミナルに復讐企むやつとかも出る。・・・・・・だからといって、それなりに長くやってりゃ、自然と知るんだが」


 ハイドはふと前方へと目をやった。


「お、見えた」

「?」

「目的地。あと、宿屋だな」

「・・・・・・あ」

「ん?」

「私、一文無しですが・・・・・・」

「大丈夫。俺が明日稼がせてやるから、今日はツケだな」


 ははは、とハイドは笑うのだった。


評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『竜殺しの国の異邦人』

https://ncode.syosetu.com/n0793he/


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