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第27話:クリミナルとポート

 ハイドは、ガブリエルを伴って、ポートを歩いていた。

 牢獄惑星には、数か所のポートがある。

 通常なら宇宙港だが、現在の牢獄惑星では、惑星圏外と行き来可能なポートは、第一ポートと惑星の裏側にある第八ポートのみだ。

 主な役割分けとしては、プレイヤーやクリミナルなどの、人が入ってくるポートは、第一ポート。

 惑星外からの物資や、ダンジョンで回収されたものを惑星外へと輸出するためのポートは、第八ポートとなる。

 ポートには、それぞれのポートをつなぐポータルゲートが設置されており、それを通じて物資のやり取りが行われている。

 ポート周囲の惑星表面には、食料をはじめとした消耗品の生産プラントが設置されている。

 これらの生産プラントは、基本的に管理者以外は立ち入り禁止となっている。

 完全自動化されており、時折メンテンナンスロボットが入る以外は、そもそも入り口が開くこともない。

 このうち、プレイヤーが現れるのは、第一ポートから第四ポートぐらいまでとされる。

 第五ポート以降は、クリミナルが占拠、というか、アンダーグラウンドな店が出てくるため、下手にプレイヤーが入ると、犯罪に巻き込まれかねない。


「さて、ガブリエル。俺達が今歩いているのがどの辺か、わかるか?」


 隣を歩くガブリエルに声をかけると、ガブリエルは、少し考え込んで、


「第三ポートです」


 近くの案内板を見て、しれっと答えた。


「そう。ここは第三ポート、の端っこだ。あっちにあるゲートを通って、道を真っすぐ進んで行くと、第四ポートだ」


 ポートとポートの間は、歩いていける距離ではない。

 移動に関しては、専用の送迎バスがある。

 バスといっても、半分宇宙に飛び出す弾道軌道のロケットだが。


「とはいえ、ポートとポートの間に何もないかといえば、そんなことはないわけだ」

「? 何があるんですか?」

「人の住んでいる区画がある。正確に言えば、クリミナルの派閥の一つの本拠地とも言える区画がな」


 ポート以外の惑星には、他に何もないのが、牢獄惑星と言う場所だ。

 惑星表面で資源を採取できない牢獄惑星だが、開拓、というか、切り開いて街が作れないわけではない。

 惑星表面は、ほぼ生産プラントと太陽光の発電プラントで覆われているが、地下部分は掘り進められれば、拡張は可能だ。

 それと、ダンジョン内で取得可能なポータルゲートのLメカを使えば、行き来可能な区画をクリミナルが自身で用意する、というのは不可能ではない。

 実際、レディアントの本拠である教会は、クリミナルの手で建築されている。


「クリミナルの派閥」

「クリミナルの派閥ででかいところは、大体どこかのポートに強い影響力を持ってる」

「そう、なんですか?」

「この惑星から出ることのできないクリミナルが派閥を作ると、百年単位でのさばるからな。どうしたって影響力みたいなものは出てくる。変な問題さえ起こさなきゃ、管理公社が出張ってくることもない。そうなると、ある程度クリミナルの色、みたいなものが出てくる」


 第一ポートと第八ポートは、管理公社の完全管理下にあるため、そういった色は少ない。

 だが、他のポートはどこかしらクリミナルの色がある。


「クルクス派の本拠は第五ポート近辺にあるだろ? レディアントなら、第二ポート全域が支配下にある」


 レディアントは、管理公社から認められている派閥であるため、そういう多少の無理も効く。


「第七ポートは、ニューロードの本拠になってる。・・・・・・管理公社も匙を投げてる文字通りの無法地帯だ。絶対近づくなよ?」

「はい」


 文字通りの無法地帯で、違法な武器や電子ドラッグのショップもある。

 他の人工知能に管理された惑星に比べれば、目指しさえすれば手に入れられるとあって、そういったショップ目当てにこの惑星を訪れるプレイヤーもいないではないが、さすがに少数だ。

 ちなみに、そういった品は、当たり前だが持ち出すことはできない。

 それだけでなく、プレイヤーが牢獄惑星で手に入れた品は、ダンジョンで手に入れた品であったとしても、管理公社のかなり厳しいチェックがなければ持ち出せない。


「で、第三ポートから第四ポートにかけて、強い影響力を持っていて、かつ、他のほぼ全ポートに対しても、ある程度影響力を持っている派閥がある」

「それは」

「これから行くところ。・・・・・・クリミナルの派閥の中でも、ほぼ完全な中立派閥『アスモデウス』だ」



 + * +



 派手、というか、けばけばしい、とでもいうべき電飾が路地を彩っている。

 あちらこちらで派手なネオンサインが輝き、呼び込みの声がする。


「うわあ・・・・・・」


 ガブリエルが感嘆の声を上げるのもわかる。

 整理された都市惑星や、衛星軌道上の軌道ステーションなどにはない、混沌とした景色だ。

 雑然として騒然。

 だが、それゆえにある絢爛。


 それこそ、『アスモデウス』が統治する、歓楽街『ダンジョンパライソ』である。


「巻き込まれるなよ」


 呼び込みの声に引かれないよう、ガブリエルの手を引きながら、ハイドは街中を歩いていく。

 歓楽街、というだけあって、あっちこっちに楽しそうなものがある。

 それに引き付けられてふらふらと行けば、どこまで堕ちるか分かったものではない。

 ガブリエルならば、ここでここで働いても、それなりに稼ぎはできそうだが、その過程でどこまでぼろぼろになるか分かったものではないし、クルクス派で保護すると決めた以上は、下手にふらふらされても困る。


 それに、今日の目的地は、ある意味、ここら辺よりちょっとやばい。


「さて、本日の目的地だが」


 横から伸びてきた客引きの手をするりとかわし、ガブリエルと引き寄せて、その肩を抱いて押し、前を歩く人の隙間をくぐらせる。

 そのまま背を押していく。


「ここに、専門の職人がいてな」

「はあ」

「腕はいいが、変態だ。・・・・・・まあ、クリミナルになる技術者なんて、皆そんなだが」

「ええ・・・・・・?」


 ガブリエルが、嫌そうない顔をしかめた。

 だが、言っても仕方がない。


「腕はいいんだ。俺がついてるから、まあ、心配するな」

「はい」


 ガブリエルの背を押して、ハイドは街の中を進むのだった。



 + * +



「うわあ・・・・・・」


 ガブリエルが息を吐いた。

 ただ、歓楽街の入り口に立った時とは真逆の、テンションダダ下がりの、ドン引きの息である。


「気持ちはわかる」


 うむ、とハイドは頷いた。

 そこは、ハイドが連れて来た、とある店だった。

 入り口は、簡素な一枚扉で、入ってすぐに登りの階段があった。

 そこから上に昇っていき、またあった扉を開いて中に入ったところだ。


 廊下の両側だけでなく、天井に至るまで、びっしりと人形が吊るされている。

 下にあるものは椅子や床に座り込み、壁には棚が据え付けられてそこに座り、天井から吊り下げられ、あるいは、手をひっかけてぶら下がるように。

 暗くはない廊下だが、その照明すら、人形の目や手足が光って明りになっている。


 並べられた人形は、大体は、人間の膝丈程度から、腰丈程度までの慎重しかない人形だ。

 どれもこれも、サイズ以外は、精巧に人間を模して造られている。

 性別は男女ともに、どちらともつかないのも含めて大量にあるが、どれもこれも顔の作りが非常に整った人形ばかりだ。

 一見すると、まさしく人間のようである。

 それだけに、廊下の雰囲気は魔界じみて非常に不気味である。


「ほら行くぞ。変に立ち止まってると、そこらの人形に引きずり込まれかねん」

「ひえ」


 冗談を言いながら、ハイドがガブリエルの背を押す。


「わたしが先に行くんですか?」

「ん? じゃあ、俺が先行くからついてこいよ?」


 言いながら、ハイドは人形の群れをかき分けて先へ進む。


「おーい。コッペリウス。いるか?」

「・・・・・・・・・・・・」


 おっかなびっくり、ハイドの後に、ガブリエルは続いた。

 フリルや飾りの多い人形の衣服で埋まりそうな廊下をかき分けて進み、人形を押しのけていく。


「きゃあ」

「きゃあ!」


 その内の一つをガブリエルが押した際に、その人形がそんな声を上げて、ガブリエルは前を歩くハイドに縋り付いた。


「な、泣いた?」

「ああ、コッペリウスの作った人形なら、そのくらい普通普通」

「え。人形って、普通泣きませんよ?」

「ここのは泣くんだ。諦めろ」

「え・・・・・・」


 そんなことよりも、とハイドは人形をかき分けた先、工房の入り口に立って、扉を開ける。


「いたな」

「む」


 扉を開けて声をかけたハイドに、机に向かって背を丸めていた一人の人物が振り返る。


「よう。コッペリウス」

「これはこれは。ハイド氏ではありませぬか」


 あんな廊下を作るなんて、どんな人間だ、とガブリエルがハイドの背後から恐る恐る顔を出す。

 そこにいたのは、なんとも意外な人物であった。


 見た目は、紳士である。

 白いシャツと黒いスラックス。黒いボウタイとモノクル。

 細身で穏やかな顔つきの、普通な男がそこにいた。


「だいぶ久しぶりか?」

「はて? 以前お会いしたのは、たしかベルマリアの葬儀の時であったかと」

「ああ、あれか。あれは嫌な事件だった」

「ははは。全くですな」


 はっはっは、とコッペリウスと呼ばれた男は笑う。


「して、本日はどのようなご用件で?」


 ひとしきり笑った後、コッペリウスはハイドへとそう問うた。

 その際、す、と視線を向けられたガブリエルは、ひえ、と息を飲むのだった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『竜殺しの国の異邦人』

https://ncode.syosetu.com/n0793he/

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