第25話:火力が高い=ハッピー
「さて! そういうわけで!」
アレイが、元気よく宣言する。
「反省会の結果から、なんか新しい装備作りたいと思います!」
「「おー・・・・・・」」
アレイのガレージで、どーん、と宣言したアレイに、ガブリエルとカノンの二人が、そのテンションに圧倒されつつ、パチパチと拍手した。
「でも、なんか、とは?」
「なんか!」
漠然としている。
ハイドがいたら、ふわふわしすぎだろ、とツッコミを入れるところだ。
だが、ここにいるのは、三人だけである。
いや、正確に言うと、レティクルと直通でつながったままの通話機が置いてあるが。
『・・・・・・・・・・・・』
その通話機は、アレイの言葉などは拾っているだろうが、特に反応せず、沈黙を保っている。
まあ、自主性に任せる、ということだろう。
ガブリエルは、通話機をちらっと、ちょっとばかり不安をにじませつつ一瞥したが、特に反応がないのを見て、アレイに目線を戻した。
「まあ、とはいえ、大方の方向性は決まってるよ。ガブちゃんの戦力強化」
「・・・・・・わたし、ですか?」
名指しで言われて、ガブリエルはぱちぱちと目を瞬かせる。
「そう! 防御とアーツの使用に関しては、ガブちゃんのアーマーで何とかなるけど、あれ、やっぱりまだ試作だからね」
ガブリエルのアーマーは、三本の棒状のパーツが腰の周りにアームで固定された、その状態のままである。
全身に効果が及ぶようにはなっているものの、防御性能の方が重視されており、攻撃性能はそれほどではない。
アーツの増幅効果があるとはいえ、もともと基礎アーツしか持たないガブリエルだ。
攻撃力は、推して知るべし、というか、単純に、三人娘の中で一番火力がしょぼいのだ。
「そこで、ガブちゃん用のデバイスとアーツを揃えよう!」
「なるほど。賛成であります」
カノンも、こく、と頷いた。
「ここ数回のダンジョン探索で得た資金で、ガブちゃんのクリミナル制限は、いくらか解除できた」
アレイの言う通り、ガブリエルのクリミナルとしての制限は、最低限ではあるが緩和されている。
その中に、アーツの出力キャップの制限解除が存在する。
「だから、ガブちゃんは、ちょっと強めのアーツも使えるようになったわけ。もちろん、出力が高くなれば、その分コストもかかるから、バランスは考えないとだけどね」
フェザー種であるガブリエルは、種族的にBリキッドの総量が少ない。
アーツのみを戦闘手段とするのは、無理がある。
「で、今のガブちゃんのアーマーのメイン機能は、腰回りのそこに集約されてる。だから、上半身が開いてるから、そこに軽い機能を追加しようかなって」
上半身にも装甲としての機能はあるし、軽い身体動作補助機能はあるが、それは全身に及ぶものだ。
追加の余地はある。
「具体的には?」
「うん。こいつかな」
そういって、アレイが取り出したものを見て、ガブリエルとカノンは首を傾げるのだった。
+ * +
「おう。ハイドか」
「来たぞ、と」
ツールショップ『ハンドポケット』
ゲルの経営するその店に、ハイドはやってきた。
「何がほしい」
「消耗素材を一通り。リストは・・・・・・、これだ」
ハイドがデバイスを操作して、ゲルにリストを送り付ける。
「・・・・・・ふむ」
リストを眺めたゲルは、一つ唸って、
「配達か?」
「ああ、いつもの通りに頼む」
ふん、とゲルは、一つ息を吐いて、手元のコンソールに操作を始める。
「・・・・・・で? どうなんじゃ?」
「うん?」
ゲルに声をかけられ、ハイドは首を傾げた。
それに対し、ゲルはじろり、とハイドを一瞥した。
「あの、フェザー種の嬢ちゃんのことじゃよ」
「ああ、ガブリエルか」
「ダンジョンには潜らせとるんじゃろ?」
「アレイとカノンにパーティ組ませたからな」
「ほう?」
店内に並べられたジャンクを適当に手に取りながら、ハイドはゲルへと答える。
「見る限りは、三人げ組ませとけば、安定して戦闘もこなせてたからな。まあ、大丈夫だろ」
アレイとカノンの戦闘法が割と好戦的な上に個性派なので、まだそこまで個性のないガブリエルが、ちょっと浮いている感じではある。
「今頃、ガブリエルの火力を上げるのに、アレイがなんかツールを持ち出してるころじゃないかね?」
「・・・・・・大丈夫なのか? あの戦車娘に任せて」
ゲルが顔をしかめているのは、アレイについて知っているからだろう。
アレイの戦車を作る上で、ゲルには多くの素材を融通してもらったことでもあるし、大体どんな性格かは知っているからだろう。
「まあ、戦車みたいなパワーアーマーを仕立てる可能性はあるかね?」
「・・・・・・・・・・・・大丈夫か?」
ははは、とハイドは無責任に笑った
アレイのやらかしについては、ゲルも知っている。
戦車でダンジョン内を爆走し、戦車を暴走させた結果、クリミナルのみならず、プレイヤーにまで被害を出したこともある。
主砲の試し撃ちに巻き込まれた被害者も多数。
実は、あれで有名人だ。
主に、『触るな危険』の代表格として。
「大丈夫だろ。戦車の運用は安定してるし」
「のんきな・・・・・・」
「なあに、それで何か言ってくる輩なんて、今はニューロードのやつらくらいだ。それくらいなら、返り討ち返り討ち」
けらけらとハイドは笑っているが、ゲルはじっとりとした目を向ける。
「儂は覚えとるぞ? 以前、戦車が大砲をぶっ放した挙句、自爆して被害を広げたあの事件」
「嫌な事件だったね」
ははは、とハイドが笑えば、はあ、とゲルはため息を吐いた。
「おまけに、自走する爆弾を部屋にぶち込んだこともあったか」
「ああ、パンジャン。・・・・・・あれもなー。今の技術でジャイロ仕込めば、もっと誘導できると思ったんだけどなー」
「貴様の指金か!」
「失敬な。実験しただけだ。そしたら、たまたま性質の悪い負け犬どもに突っ込んじまっただけだ。・・・・・・公社の方からもおとがめなしだったぞ?」
「厄介な」
反省していない風のハイドに対し、ゲルはもうあきらめたように息を吐く。
なんだかんだ言ったところで、ハイドの方がアレイより厄介な人材なのだ。
この星で長くダンジョンに潜っているだけあって、やらかしの数はそれこそ比にならない。
「ばかもの。それで、ダンジョンに潜るものが少なくなれば、資材の出回りが少なくなる。儂の店の品揃えも悪くなるぞ」
「と言われてもな」
ゲルの言葉も、ほとんど冗談みたいなものだ。
基本的に、そんな程度のことはあっちこっちで起こっているので、ダンジョンへの突入者が減ることはない。
ただし、あまり悪質なことをやると、ダンジョン内に管理公社のドロイドが派遣されることがある。
ある程度探索慣れしたクリミナルは、大なり小なり違反行為をしている。
その違反行為も、ダンジョン内でやっていたから見逃してもらっていたものが、見逃されなくなるわけだ。
結果として、ダンジョンからの資材が回収されない事態が出てくる。
「稼がせてもらったよなー。あの時は」
「貴様はあの時、わざとそうしたじゃろうが」
「ははは。なんのことかな?」
資源が高騰すれば、当然回収が成功した時に一財産になる。
アレイの戦車の暴走を仕込んで、ニューロードを刺激し、一時期ダンジョン内の治安を悪化させ、管理公社の介入を招く。
ぶっちゃけ、諸刃の剣ではある。
普通はやらない。
「まあよいわい。ほれ、資材の配達は手配しておいたぞい」
「おう」
支払いを終えたハイドを、ゲルはじろりと見た。
「最近のダンジョンは、何かと物騒じゃ。余計なことはするなよ?」
「今回は、静観するさ。・・・・・・さすがに、タイラントは制御できんしな」
「ふん」
+ * +
「で、調子はどうだ、と・・・・・・?」
ハイドがアレイのガレージを訪れると、妙に静かだった。
「どうした?」
「うーん・・・・・・」
アレイに声をかけると、アレイは唸る。
「ガブちゃんの火力を上げようと思って」
「そこまでは普通だな?」
「アーツの威力を上げるのと、Bリキッドに頼らない銃器を持たせるのと、どっちがいいかなって」
そこまでは、おかしなことはしていないだろう。
だが、
「ガブちゃんは、Bリキッドに余裕がないから、銃器持たせた方がいいかな、と思ったんだけど」
うーん、とアレイが唸る。
「持て余し気味かな、と」
「ほう?」
ガブリエルは、頭に何かごてごてとしたヘルメットをかぶって、椅子に座って大人しくしている。
どうやら、VRを使って、銃を使う訓練をしているらしい。
傍らにあるモニターに、その様子が出ているわけだが、
「・・・・・・ほう? 思い切りのいい撃ちっぷりだな?」
モニターの中では、次々現れるターゲットを相手に、ガブリエルがひたすらマシンガンでの銃撃を繰り返している。
銃は上半身部分の補助アームで保持し、狙いをつけて撃つ。
反動の制御なども、ほとんど補助アーム任せだし、装備ありきではあるが、なかなかサマにはなっている。
両手は開いているし、個別にデバイスを持って、アーツを使うこともできるだろう。
「・・・・・・トリガーハッピーだったみたい」
「うん?」
アレイのつぶやきに、ハイドが改めてモニターを覗き込む。
『アハハハハハハハハッ!!!!!』
連続する発射音に紛れて、甲高い笑い声が聞こえてくる。
「・・・・・・・・・・・・あー」
「もう、何時間もあのままなんだ。実際ヤバイ」
「ちょっと、怖いでありますな」
意外な性癖があるものだが、とハイドは思うものの、
「まあ、頼もしいじゃないか」
「いいのかなあ・・・・・・」
モニターからは、笑い声と銃撃音が鳴り響いている。
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別作品も連載中です。
『竜殺しの国の異邦人』
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