第1話:ハイドと出会い
プロローグだけだと何もないので、もう一話投稿します。
ハイドは、ふう、とダンジョンの壁に背を預けて息を吐いた。
右手にはブレード。左手にハンドガン。
曲がり角の向こう側には、ダンジョン内を徘徊するクリーチャーがいる。
すう、と一つ息を吸い、
「ふ!」
タイミングを見計らって飛び込む。
急に眼前に飛び出してきたハイドに警戒を露わにしたのは、『ハウンドドッグ』系列のクリーチャーだ。
名前の通り、犬のような姿をしているが、骨格だけの頭部が普通の犬の背の上に生えている。
識別名『オルトロス』だ。
警戒を取るオルトロスへと、左手のハンドガンでけん制の銃弾を放つ。
頭上を通過する銃弾を身を低くすることでかわしたオルトロスは、ハイドへと飛びかかろうとして、足元に着弾した銃弾に一瞬怯んだ。
その隙を逃さず、ブレードを叩き込む。
右手のグローブ型デバイスの甲に一瞬アイコンが浮かび、ブレードが光を纏って加速。
振りぬかれたブレードはオルトロスの骨格だけの頭部を切り飛ばす。
「ち」
ハイドは一つ舌打ちをして、続けざまに斬撃を放った。
オルトロスの骨格頭部は、破壊できれば確かにオルトロスの戦闘能力を落とせるが、それだけではオルトロスは倒せない。
続けざま右手グローブの甲にアイコンが浮かび、ブレードが通常ではありえない軌道を描いて、オルトロスの生身の首を断った。
「・・・・・・はあ、失敗だ。二つもアーツ使わされるとか・・・・・・」
無駄遣いさせられた、とハイドは嘆息し、ブレードを鞘に、ハンドガンをホルスターに納める。
見れば、倒したオルトロスの死体は、既に溶けて消えている。
ダンジョンの防衛機構である、ダンジョンガードの一種であるクリーチャーは、ダンジョンが生み出した架空の生物だ。
倒してしまえば、核となっている『Qコア』という立方体の形状の結晶体以外に残るものはない。
オルトロスの死体跡に残ったQコアを拾い、腰のアイテムストレージデバイスに収納する。
「・・・・・・どうにも今日は調子が悪い・・・・・・。帰るか」
こういう日はたまにある。普通に探索しているつもりでも、戦闘において余計な一手間がかかったり、敵の行動が妙にずれたり、変なところで増援が入ったりと、どうにも間が悪いというか、なんというか。
狙った通りの効果がでない、というなんともやりづらい日だ。
「こういう日は・・・・・・」
一時考えてにやりと笑い、
「酒だな」
うむ、と頷いて、デバイスを操作。
「帰還、『ポートⅢ』」
足元から登る光に包まれ、一瞬の浮遊感。
そして、眼前の光景は別のものへと切り替わっている。
そこにあるのは、何もない白い部屋だ。
ダンジョンからの帰還部屋である。
仮設異空間を利用して作られたこの小部屋を経由することで、ダンジョンの中から拠点となる港湾区画『ポート』へと自在に帰還が可能となる。
ダンジョンという危険地帯を、探索できるようになったのは、この『Lメカ』の発見と解析の成功が大きい。
白い部屋の出口から外へ出れば、『帰還区画』の門から街へと出られる。
『ポート』の中心となる門を抜け出て、門から少し離れて伸びをする。
「・・・・・・さて?」
のんびりと考える。
行先はいくつか候補がある。
こういう日は、静かに飲むか、騒がしい酒場で飲むか。
懐からコインを一枚取り出し、ぴん、と弾いた。
「さてさて・・・・・・」
手の甲でキャッチした段階で、ふと、それに気づいた。
「・・・・・・よろしくお願いします!」
それは、一人の少女だ。
金の髪を帽子に押し込め、ほっそりとした体躯にぶかぶかの野暮ったい灰色のローブを纏って、自分の身長より長い程度の杖を持っている。
遠目に見ても、目を惹く少女だった。
健気とも取れる笑みを浮かべ、相手の顔を見て頭を下げる仕草一つとっても、どことなく微笑ましい。
ただ、ハイドから見ると、多少わざとらしいくらいあざといとも取れる仕草だった。
もっとも、それを向けられている男たちは、にやにやと相好を崩している。
ハイドに言わせると、いい感じに少女にカモにされそうな男たち、とも見えるが、
「あの場合は、女の子のほうが馬鹿なのかね?」
少女がはめる首輪と、男たちが手首にはめるリングを見て、嘆息する。
「・・・・・・ふむ?」
ふと思う。
酒はうまいほうがいい。
一人で手酌をするよりは、若い少女に酌をしてもらった方が美味いだろう。
というか、あれを見て放っておくと、行きつけの店主に殺されかねない。
「・・・・・・おおう!」
その怒りっぷりを思い出して、感じる戦慄にわずかに背を震わせ、ハイドは身をすくめる。
そして、再度、少女と男たちの一団へと目をやり、
「よし」
決めた、とハイドはダンジョンへと向かう、少女を含む一団を追いかけることにした。
+ * +
ガブリエルは、先導する男たちを見る。
昨日、この牢獄惑星に送り込まれ、一晩、手続きやら何やらで港湾施設内の一室で過ごし、今日から、本格的に探索に入った。
自分の首にはめられた、『クリミナル《犯罪者》』の証である首輪を一度撫でて、決意を新たにする。
クリミナルである以上、この惑星からの脱出のためには、懲役として科せられた分だけ、ダンジョン探索で功績を上げ、恩赦を勝ち取る必要がある。
懲役として与えられた刑量は、おおよそ千年強。
なんとか、頑張りましょう、と小さく拳を握り、ダンジョンの入り口を見やる。
「よっしゃ、ジブちゃん」
「はい!」
呼びかけれ、笑顔を浮かべて返事をする。
少し、強張っているかもしれないが、その辺りは緊張として受け止めてくれるはずだ。
「・・・・・・えっと、何でしょうか?」
「うん。ジブちゃん、今日が初めてなんだろう? とりあえず、第五層辺りで肩慣らししようかと思うんだけど。どうかな?」
「あ、はい! わたしは、今日が初めてなので、お任せします!」
笑顔を浮かべると、男たちは、にやっとした笑みを浮かべた。
隠そうとしている下心が透けて見える、気持ちの悪い笑顔だ。
そういう顔を見ると、どうしてもこの惑星へ来ることになった原因を思い出して、嫌な気分になる。
探索の間だけの我慢、と自分に言い聞かせ、顔から笑みを消さないよう、気をつけながら頷く。
「へへ、ま、俺ら結構ここ長いから、心配しなくてもいいぜ。五層くらいなら余裕だし」
「はい! 皆さん頼もしいですね!」
えへへ、と笑う。
目の前で、門が開かれる。
光の渦にも似たそれを見て、緊張感が高まる。
逮捕されてから半年、『Mテク』を使った、簡単な戦闘訓練も受けはしたが、実戦は初めてだ。
杖を握る手に力を込め、門を潜る。
風景が、一瞬で変わる。
「ここが、ダンジョン・・・・・・!」
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別作品も連載中です。
『竜殺しの国の異邦人』
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