第16話:パーティーの結成(2)
「うわあ・・・・・・」
扉を押し開いて見えた光景に、ガブリエルは感嘆の声を上げた。
壁のラックには様々な工具がかけられ、天井からはクレーンがぶら下がり、床から生えた機械のアームがある。
中央には台があり、改造を加えるのだろうと想像できる。
他にも様々な工具箱が置かれ、端末や生成器も設置されている。
決して広くはないが、そこは確かにガレージであり、工場であった。
「ようこそ。ボクの工場へ」
扉を押し開けたアレイは、そのまま中へと進んでいく。
その後をついて歩きながら、ガブリエルはあちらこちらときょろきょろと見回す。
「ああ、足元に気をつけてね。一応滑り止めはしてあるけど、何か転がってるかもしれないし」
「・・・・・・・・・・・・」
ガブリエルがきょろきょろと室内を見回しているのをみて、アレイが首を傾げる。
「どうかしたの?」
「アレイさんの戦車はどこに?」
「あれは地下のガレージだよ。ここに全部並べると、さすがに狭いからね」
「他にもあるんですか?」
「あるよー」
のんきに言いながら、アレイが壁際に据えられた端末を操作すると、部屋の中央部分の空中に透過型のスクリーンが表示された。
そこに、いくつかの戦車が浮かぶ。
「最近、ようやくフレームを増やせてね。片方は自動か遠隔で運用しようと思ってたんだけど」
アレイの戦車は、フレームにそれぞれのパーツを必要に応じて付け替えてカスタマイズ可能な作りとなっている。
ただ、このフレーム部分が、牢獄惑星では用意しづらい。
他の惑星であるなら、自家用車を買うより安い品だ。
積むパーツの種類に応じて、戦車から自家用車、パワーアーマーに家政ロボット、あるいはペットロボットまで、サイズにもよるがパーツ積み替えでなんにでもできる万能フレームは、この宇宙時代にあっては、有用な素材の使い方なのだ。
だが、牢獄惑星では、このフレームを手に入れる手段がない。
様々に応用が利きすぎるために、輸入が禁止されているからだ。
何せ、素材さえそろえば宇宙船すら作れてしまう。
そのため、基本的に輸入は禁止、自作にもかなり厳しい制限がつく。
「普通はね? パワーアーマーを作れるのが限界」
制限の内容としては、主に管理公社のデバイスを組み込むことと、飛行機能を付けないことだ。
そこから、ダンジョン探索に有用なもの、と考えると、汎用性の高いパワーアーマーが多い。
さらに言うなら、サイボーグ化してしまった方が楽なことも多い。
サイボーグ化した人間のメンテナンス施設なら、牢獄惑星は割と豊富だ。
「さて、というわけで、フレームが一個余っているので、これをガブちゃんのアーマーにします!」
アレイは元気よく宣言する。
それとともに端末を操作すると、部屋の中央の床が開き、下からフレームを懸架した台がせりあがってくる。
「・・・・・・いいんですか?」
「モチさ! お友達記念にプレゼントするぜ!」
ぐ、と親指立ててにっこりとアレイは笑う。
その笑顔をいて、ガブリエルもにっこりと笑い返すのだった。
+ * +
教会。
その中で、ハイドはノエルを訪ねていた。
ノエルの執務室で、ノエルは事務作業中ではあるが、ハイドは部屋の中の椅子に腰を下ろし、アリアは近くに控えている。
「悪いな、昨日の今日で」
「構いません。ガブリエルのことでしょう」
「ああ、アレイと顔合わせさせて、パーティー組ませることにしたんだが」
「・・・・・・・・・・・・無茶ではありませんか?」
机に腰を下ろして、何かしらの自部作業をしていたノエルが、その手を止めてハイドを見る。
ハイドを見る視線には、どこかじっとりしたものが含まれている。
アレイが戦車を完成させるまでにあった、様々な騒動を思い出せば、そういう目になるのも分からなくはない。
「ガブリエルは、種族的にもろいんでな。アレイの戦車でそこらへんカバーできれば、と思ったんだが」
「理屈は分かりますが、それなら、オーネスを頼むべきだったのでは?」
「あ? あいつに? ガブリエルを?」
「・・・・・・・・・・・・愚問でした」
はあ、とノエルはため息を吐く。
オーネス、というのは、クルクス派の構成員の一人である。
クリミナルになる前からプレイヤーとしてダンジョン探索をして生計を立てていただけに、探索者としては経験豊富で有能なのだが、まあ、クリミナルになっているのだ。
クリミナルになるには、クリミナルになる理由がある。
「・・・・・・ガブリエルは、あれで世間知らずっぽいからなあ・・・・・・」
「どこの組織に育てられたんだか」
「たぶん愛玩用だぞ。あれ」
「ああ、趣味の悪い・・・・・・。人というのは、いつの時代になっても・・・・・・」
まさしくさげすむ目になったノエルに、ハイドは肩をすくめる。
「まあ、ともあれだ。オーネスとガブリエルは相性が悪い。性格的に」
「そうですね。少なくても、ガブリエルにある程度慣れてもらわないと」
「アレイは純粋だが濃いからな。くっつけとけば勝手に赤くなるだろ。ただ、暴走した場合に止めるやつがいない」
「・・・・・・・・・・・・いろいろと言いたいことはありますが、今日の要件は分かりました」
はあ、とノエルはため息を吐く。
「要は、誰か回せと」
「レティクルから提案でな。・・・・・・ステラあたりが、ちょうど良い感じに納まるんじゃないか、とな」
「ステラですか。・・・・・・ふむ」
ノエルは顎に手を当て、唸る。
「何かあったのか?」
「・・・・・・ステラは中堅とも呼べますし、最近は、レディアント内の新人の引率もやってもらっているので、外に動かすのはちょっと・・・・・・」
「ああ・・・・・・。なるほど。そういやあいつもそれなりに長いか・・・・・・」
ふむ、とノエルが唸っていると、アリアが小さく手を挙げた。
「ノエル? だったら、カノンはどうかしラ?」
「カノンですか。・・・・・・なるほど、悪くはないですね」
「聞かない名前だな。新入りか?」
「えエ、そう。最近拾った子でネ? アタシがいろいろ仕込んでルの」
「アリアの弟子か」
となると、役職としては、ヒーラーだな、とハイドは当たりを付ける。
「アーツ使い、と」
「で、ノエルもいくらか手慰み程度には、近接戦闘教えてるから、結構イケルわヨ?」
アリアの言葉に、思わずノエルを見る。
「え? お前の教え子でもあんの?」
「何か文句が?」
「いや、天性のゴリラが人にモノをどうやって教え・・・・・・」
ひゅん、とハイドの頬を何かがかすめた。
ちら、と後ろを見れば、壁に薄い紙片が突き立っている。
それは、突き立ってしばらくは震えていたが、やがてはらりと下に垂れた。
「誰がゴリラか。・・・・・・まったく、私は剣士ですよ? 剣術を教えるに決まっているでしょう」
ノエルは、不満そうに息を吐く。
「・・・・・・大丈夫なのか?」
「おいコラ。なぜアリアに確認を取るのですか」
「いや、どう考えても、なあ・・・・・・?」
「大丈夫ヨ。常識的な子ダカラ」
「常識的、ねえ・・・・・・」
疑わしい、とハイドはノエルを見るが、ノエルはじっとりと見返すだけだ。
「いや、二人と相性がいいかどうかだな。うん」
「色々と言いたいことはありますが、カノンにはこちらか話を通しておきましょう」
「頼んだ」
+ * +
「・・・・・・というわけで、レディアントから一人パーティーメンバー回してもらえることになった」
「おや。ボクとガブちゃんだけじゃ心配かい?」
「心配だ」
「即答されるとは思わなかったぜい!」
ははは、とアレイは笑う。
「顔合わせは明日だ。・・・・・・で? それは何だ?」
ハイドの視線の先、ガブリエルがアーマーを着込んでいる。
いや、着込んでいる、というより、着られている、いや、拘束されている。
外見としては、人型。
コックピットが解放式の、内部の人間の動きを外に伝えるタイプの外骨格だ。
大型の者であり、胴体のコックピットにガブリエルがいるのだが、地に足が着かず、吊られているような状態だ。
ガブリエル本人は先ほどからじたばたしているのだが、どうにもうまくいっていない。
なんというか、罠にかかって吊るされた小動物がじたばたしているようで、哀愁を誘う。
「いやあ、まだ操縦者の動作を手足に伝えるところが上手くいってなくってねえ・・・・・・」
「やめろアホ。あんなもんをダンジョンで動かせるか」
「えー?」
アレイの頭をはたいて、ガブリエルを下ろさせる。
「あそこまでのもんはいらん。ガブリエルに必要なのは、被弾してもある程度は大丈夫な程度の装甲と、その装甲の重さに負けずに動ける動作補助だ」
「えー。どうせなら、手からロケットパンチ。両肩にドリル、ぐらいはつけても」
「いらん。・・・・・・というか、ガブリエルに近接をさせるな」
「む。そうか、必要なのはガトリングか」
「・・・・・・・・・・・・もう一発、いるか?」
「待って待って。真面目に考える」
ふざけだしたアレイに拳を振り上げて見せると、アレイは慌てたように手を振る。
「要は、防御力高めるためのアーマーなんだね?」
「あとは、逃げ足」
「むう。趣味じゃないけど・・・・・・」
「基本的にフェザー系は体が弱いと言ったろう。無理はだめだ」
「やれやれだよ」
溜息を吐くアレイに、ガブリエルは申し訳なさそうな顔をするが、それを見たアレイは慌てて首を振る。
「ああ、ガブちゃん、気にしないで! 注文通りのものを作らないボクが悪いんだから!」
「趣味はいいんだが、まずはさっき言ったものを中心にそろえろ。武装は最低限。・・・・・・正直、Bリキッドのエネルギーも多用は禁止だ」
「それは何で?」
「フェザー系は軽くて弱い。つまり、血液量そのものも少ない。あまり多くのBリキッドは作れん」
「・・・・・・なんていうか、ダンジョン探索に向かない種族だね?」
それはまったくもってその通りではある。
フェザー系は、その肉体の虚弱さゆえに、ダンジョン探索には向かない。
ダンジョン探索で強いフェザー系もいないではないが、そういう手合いは大概身軽さな体でのヒットアンドアウェイの戦法をメインとするか、索敵をメインとしていることが多い。
ガブリエルに前者をやらせるのは無理がある。
だからといって、後者は難易度が高い。
ついでに言えば、ガブリエルは戦闘に関して立ち回りは素人だ。
それゆえに、アレイと引き合わせて、ある程度の防御力を持たせようと思ったのだ。
とりあえず一撃で死なない程度の防御力があればいい。
「そういうことだぞ?」
「え? 武装いらないの?」
「後だ。そういうのは。まず、立ち回りを覚えさせんと」
「えー」
「拡張性を持たせればいいだろうが。まず最小限の素体を組んでだな・・・・・・」
それ以降、ハイドも加わってあーでもないこーでもない、とガブリエルのアーマーづくりはすすめられた。
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別作品も連載中です。
『竜殺しの国の異邦人』
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