第15話:パーティーの結成(1)
クルクスの店内で、ハイドはグラスを傾けていた。
「それで? 顔合わせはうまくいったの?」
レティクルの問いは、ガブリエルをアレイに紹介したことだ。
ダンジョン探索をする際に、どうやって強くなるか、という点に関して、方法はそう多くはない。
単純な鍛錬。
これは分かりやすい。
自分を鍛えれば、それだけ強くなる。
ダンジョン探索の経験値を積む、ということでも、問題はない。
Lメカを手に入れる。
ダンジョンから回収可能な、Lメカは使うことができるなら、それだけで手札が増える。
もっとも、Lメカは種類が多岐にわたるため、戦闘に使えるLメカが手に入るかは、運しだいではある。
そもそも、Lメカ自体が、かなり希少ではあるが。
Mテクをアップデートする。
Mテクは、キャッシュを支払うことで購入可能な、お手軽な戦闘法である。
ツールや、アーツを揃えるだけでも、十分に戦力は向上する。
もちろん、高価なものなら、性能も上がる。
また、ツールやアーツは、カスタマイズしやすい、という面もあるため、カスタマイズによって性能を上げることもできる。
そのカスタマイズを専門としているショップもあるため、自分に使いやすいようにカスタマイズできれば、それでも戦力は跳ね上がる。
強いカスタマイズ品などは、プレミア価格などがついたりもする。
有名な探索者などは、専用のアーツやツールを持っていることも多く、それを通じて二つ名を付けられることもある。
他に、薬品を使用した化学的な肉体強化。
あるいは、サイボーグ化。
種族固有のやり方もある。
アレイは、分類するなら、サイボーグ化になる。
ただし、アレイは、自身の体には何の改造も施していない。
自分で作り上げた戦車をマニュアル操作で動かしている。
通常、戦車のように内部に乗り込んで操作するタイプは、搭乗者もサイボーグ化して、操縦系と直結し、ダイレクトに操作するのが一般的だ。
アレイは、そうはしない。
そして、そんなアレイだからこそ、ガブリエルを任せることもできる。
「アレイがいてよかったと思う日がくるとはなあ・・・・・・」
「しみじみと相当なことを言うわね?」
レティクルは、苦笑している。
ハイドの言うことも相当ではあるからだ。
「いやだってなあ。・・・・・・覚えてるだろ? アレイが入ってきた当初の騒動」
「あんまりにも無茶なことをやらかそうとしていたわよね」
なんとか手に入る素材を用いて、パワーアーマーを作っていたが、質はそれほどのものでもなく、どう考えても命の無駄になりかねなかった。
そこをハイドが手助けし、クルクス派でいくらかの素材を融通して、なんとか実戦レベルにまで仕上げたのだ。
ちなみに、アレイが作っていたパワーアーマーも、サイボーグ化して直結操縦にしていれば、十分に戦力として通用するものであったことは述べておく。
ただ、アレイが信条として、サイボーグ化を嫌っているために、戦闘で使えるレベルではなかっただけだ。
「技術を持ってるだけに、見捨てるには惜しかったからな」
「まあ、彼女のおかげで、クルクス派やレディアントが、機械系で充実したのは事実だけれど」
レティクルは、肩をすくめた。
「技術は、まじすごいからなー、あいつ。・・・・・・俺も、まさか今更に最新技術でもない既存技術の組み合わせに、感心させられるとは思いもしなかった」
「で、それをガブリエルちゃんに?」
「ああ」
ガブリエルは、フェザー系だ。
フェザー系種族は、サイボーグ化と相性が悪い。
もともと身体が華奢で軽量なフェザー系種族は、サイボーグ化した場合に、その身体にかかる負荷が他種族よりも重い。
「うまくいった?」
「相性は悪くなさそうだ。しばらくは俺もついていくが、できれば二人でダンジョン探索できるようになってくれるとな」
そう思いながら、ハイドは、今日の探索を思い出した。
+ * +
「では行こうか!」
アレイが、戦車に乗り込んで元気よく宣言する。
アレイの戦車は、初期のころと形状を変えていた。
戦車上部のポッドとなっている部分の装甲が展開し、一人用の戦車に、他のものが乗り込める補助席が出ている。
そこにガブリエルは収まっていた。
「うーん。まあ、今回はいいか!」
アレイとしては、搭乗者が外気に身をさらすことになるこの状態は、あまり好ましいものではないだろう。
単純に、外部からの攻撃から身を護るものがないし、戦車の主砲や副砲が近いところにもあるので、排莢や反動が搭乗者にダメージになるかもしれない。
今回は、お試し、ということで、こういう状態だ。
「うん。次は、ガブちゃん用に、アーマーを用意してあげる!」
「えっと、ありがとうございます」
「うんうん!」
アレイは、なんだかんだ、嬉しそうにガブリエルに話しかけている。
それに対するガブリエルの反応は、多少戸惑いと遠慮はあるものの、悪いものではない。
「よし。じゃあ、ガブリエル。デバイスを出して」
ハイドには、そんな二人に、一つ教えておくことがあった。
特に、ガブリエルにだ。
「基本的に、ダンジョン探索はチームで動く。で、デバイスには、それ用にパーティー結成メニューがある」
デバイスを操作させて、アレイとパーティーを組ませる。
「パーティーには、メリットがある」
デバイスでのアーツスロットの追加設定だ。
共有設定である。
「スロットで共有設定を入れれば、パーティー内でアーツを共有、つまり、他のもののデバイスにセットされているアーツでも使用が可能だ」
「それを使えば、ガブちゃんでも、ボクの戦車の戦車砲が撃てるようにできるよ」
もう一つ。
「パーティー設定をしておくと、パーティーメンバーへのアーツの誤射、すなわり、フレンドリーファイアを防ぐことができる。クリミナルの、プレイヤーへの攻撃禁止と、大体にたような仕組みだな」
さらに言うと、一部アーツには、発動対象がアーツ使用者のみになっているものがある。
回復系のアーツなんかはその類だ。
これらのアーツを他者に施すには、その相手とパーティーを組んでいる必要がある。
つまり、この世界では、別パーティーへの回復や補助はできない。
「できたか?」
「はい。大丈夫です!」
「こっちでも確認したぞー」
ガブリエルとアレイの答えを聞いて、ハイドも頷いた。
「よし。じゃあ、適当に流すか」
「うん。ボクも、ガブちゃんがどういう風に戦うのかとか知りたいな!」
「・・・・・・あの、今更ですが、アレイさんは、わたしとパーティー組んでもいいんですか?」
「うん? 別にいいよー。ボクは戦車で戦えれば、何でもおけー」
アレイの返事は軽い。
だが実際、そういうところはある。
アレイは、自分で作った戦車の性能向上には興味があるが、ダンジョンの攻略そのものには、それほど興味を抱いていない。
ダンジョンから取得できるLメカには興味があるようだが、それも戦車の性能向上に役立つと思えばこそだ。
「アレイ。ガブリエルは脆いから、そこだけは注意しろよ? マジで」
「うん。フェザー系、だっけ? ボクらテギス系と違って、体格がもろいっていうのは知ってる。大丈夫だよー」
ふふふ、とアレイは嬉しそうに笑っている。
「何より、ド初心者! 多少適性はあるとはいえ、鍛える方向性は選び放題!! いやあ、楽しみだなー!!!
アレイは大分興奮しているようだ。
研究者気質のあるアレイからすると、自由に研究成果を試せる被検体、と見ることもできるからだろう。
一般社会だったら、眉を顰める価値観も、ここは牢獄惑星だ。
そう言うことに忌避感を持つものは少ない。
「ほんと、やり過ぎるなよ?」
「大丈夫大丈夫!」
+ * +
「・・・・・・早まったか?」
あの笑顔を思い出すと、やはりちょっと心配になってくる。
「大丈夫よ。というか、あなたもちゃんと見ておきなさいよ?」
「それはそうだが」
レティクルに言われて、ハイドは唸る。
「それに、大丈夫なんでしょう?」
「何回か戦った。途中で、いくつかアーツも貸したけどな。・・・・・・で、今アレイは、工房にこもって、ガブリエル用の装備を作ってる」
割とテンション高めだったから、どうなるかかなり心配ではある。
「アレイからしてみると、アレイには合わないから使えないと思ってアーマー作れるって、めっちゃ張り切ってた」
「ふうん・・・・・・?」
ふむ、とレティクルは考えて、
「ねえ、一つ提案なのだけれど」
「うん?」
「ガブリエル。パーティーを組ませるのは、アレイ一人だけだと不安でしょ?」
「うむ。・・・・・・性格的にな」
「だから・・・・・・」
レティクルがハイドに耳打ちする。
「・・・・・・ああ、なるほど。そうするか」
「いい案でしょう?」
「だな。・・・・・・明日にでも、話を通しに行ってみるか」
どうせ、アレイは、数日出てこないだろうし。
その間に、準備を進めておくとしよう、とハイドは決めるのだった。
+ * +
「人がいいでしょう? あの人」
レティクルは、ガブリエルに食事を出しながら、笑う。
話題の相手は、ハイドのことだ。
「面倒見がいいですよね」
アレイと初めて組んで戦闘をしたときも、さりげなく二人をガードする動きをしていた。
後方などの死角を押さえた上で、動きやすいように補助を入れてくれていた。
それでいて、戦闘中でもガブリエルには立ち回りのアドバイスが飛んできた。
「とても、ありがたいと思います」
「ふふ。ならいいの」
レティクルは笑う。
「・・・・・・今日の成果はどうだった?」
「いくつか、Qコアが。アレイさんと山分けで、ちょっとお金になりました。それで、少しだけ恩赦をもらって・・・」
ガブリエルが話す今日のことを、レティkルウは微笑ましい顔で聞いていた。
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別作品も連載中です。
『竜殺しの国の異邦人』
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