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第12話:ノエル

 ノエルは、部屋に二人が入り、アリアが扉を閉めたのを確認して、口を開いた。


「ハイド。久しぶりですね」

「前に店に来たのはいつだっけ? もう少し顔を出せ」

「そちらこそ。この教会にはとんと足を向けないくせに、勝手なことを言わないでいただきたい」


 言い合いながらも、ハイドとノエルの間に、剣呑な空気はない。

 どこか、穏やかだ。


「それで? そちらのお嬢さんが?」

「ああ」


 ハイドは、ガブリエルを前へと押し出す。


「あ、ガブリエル、です。はじめまして」

「はじめまして」


 ノエルは、机から離れて、ガブリエルの前に立つと、そっと右腕を差し出す。


わたくしが、現在レディアントを統括している、ノエルです」


 ノエルが差し出した右手を、ガブリエルはそっと握る。

 その様を見ながら、ハイドは部屋に備え付けられたソファへと腰を下ろした。


「かけてください。ここまでくる客は久しぶりです」


 ソファを示されて、ガブリエルは恐縮しながらも、ハイドの隣へと腰を下ろす。


「アリア。お茶をお願いします」

「ハイはい」


 ノエルも、ガブリエルの対面へと腰を下ろした。

 停滞のない、流れるような優雅な動き方だ。

 気品がある、と言ってもいい。

 一つ一つの動作が、静かで流麗なのだ。

 見ていて、引き込まれる。


「・・・・・・・・・・・・」


 その仕草を見るガブリエルは、雰囲気に呑まれた顔をしている。

 素直だなあ、とハイドなどは感心してしまう。


「しかし、意外と早かったですね。ハイド」

「ん?」


 ノエルに水を向けられて、ハイドは首を傾げる。


「彼女のことです。ダンガンから聞いてはいましたが、連れてくるにしても、もう少し後かと思っていました」

「ああ、そのことか・・・・・・」


 うむ、と唸る。


「さっきまで、ちょっとした初心者講習をやってたんだが・・・・・・」

「初心者講習?」

「簡単な、ダンジョン探索の基礎知識講座だよ。管理公社は、アーツの使い方は教えても、それ以外はほとんど教えちゃくれないからな。お前もやったろ? こっち来たとき」

「ああ、ありましたね」


 管理公社の初心者講習は、本当に簡単だ。

 ダンジョンで役に立ちそうなのは、ゲートの使い方と、アーツの使い方くらい。

 他に教えてくれるのは、恩赦を得るために、キャッシュを使うときに、どこで手続きをするのか、とかぐらいだ。


「ゲル爺には面通ししておいたから、ツール関連は問題ないだろう。あとは、一緒に組むやつができればいい。しばらくは俺がついてるが」

「貴方がついているなら、大概の問題は解決するでしょう?」


 ノエルはそういうが、ハイドとしては、そうも言い切れない、と思うこともある。


「帰り際に、タイラントと会ったんでな」

「・・・・・・・・・・・・ああ」


 タイラントの名前を出した瞬間に、ノエルの雰囲気がぴりついた。

 抜き身の刃が唐突に現れたかのように、部屋の空気が引き締まる。


「あれの毒にやられる前に、教会で毒抜きしとこうかと」

「・・・・・・・・・・・・貴方の我々の扱いも、なんだかんだで散々ですね」


 はあ、とノエルはため息を吐いた。

 それとともに、部屋の空気が弛緩する。


「何はともあれ。・・・・・・ガブリエルさん」

「はい」

「タイラントを見て、どう思いましたか?」


 その質問に、ガブリエルは首を傾げた。


「どう、とは・・・・・・」

「素直に、思ったところを述べてください」

「ええっと・・・・・・」


 回答に迷うガブリエルはハイドを見るが、ハイドはアリアに給仕された茶に喉を潤している。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・強そうだな、と」

「なるほど」


 うん、とノエルは頷いた。

 ガブリエルとしては、散々に迷った後の回答に、どこか不安そうな顔をする。


「ああ。気にしなくてもいい。()()を見てそう思うのは、何も間違ってはいない」


 ノエルは、自分の前に茶を置いたアリアに、小さく礼を言った後、その飲み物に口をつけた。


「アレは、決して強いだけの男ではない。だがそれだけに、アレは確かに毒だ」

「相も変わらず、辛辣というには、含みがあるな」

「・・・・・・ハイド。そういう言い方はやめてほしい。私とて、奴に言いたいことは山ほどあるんです」

「言ってやれ言ってやれ」

「気軽に煽るな」


 はあ、とノエルはため息を吐いた。


「私は今ではレディアントの統括。ヤツとて、ニューロードの王だ。我々が下手に顔を合わせれば、それこそ、全面戦争になりかねない」

「だからクルクスに顔を出せってのに」

「・・・・・・・・・・・・来るのですか?」

「たまにな」

「・・・・・・そう、ですか」


 ノエルは、腕を組んで黙り込む。

 むっつりと押し黙ってしまったノエルに、ガブリエルは、どう答えていいか迷う。


「ほらほら。レディアント統括。新人ちゃんが困ってるぞ、と」

「む? ああ、すいません」


 ふう、と首を振って、ノエルは顔を上げ、ガブリエルを見た。

 その顔には、優し気な笑顔が浮かんでいる。

 

「何はともあれ、ガブリエル」

「はい」

「貴女は、恩赦を目指している。間違いありませんか?」

「はい! 恩赦が欲しいです」

「では、我々とは友となれる」


 うん、と、ノエルは嬉しそうに頷いた。


「ハイドから聞いていると思いますが、我々レディアントは、恩赦を目指す派閥です。貴女が恩赦を目指すと言うなら、それに協力しましょう。だから、貴女も我々に協力してほしい」

「協力?」

「何、不可能なことを頼むつもりはありません。例えば、我々の仲間とともにパーティを組んでダンジョンを攻略したり、新しいダンジョンの情報を得たら、我々に教えたりしてほしいのです」


 ごく当たり前のことを言われて、ガブリエルは首を傾げる。


「それは・・・・・・」

「逆に言ってしまうと、我々ができる協力も、その程度が上限です。我々もダンジョン攻略による恩赦を目指す身。究極的には、ライバルですから」


 誰もが、恩赦を目指している。

 それは、誰もが、ダンジョン攻略の功績を欲しがっている、ということでもある。


「互いに邪魔はしない。それだけでも、十分です。・・・・・・ニューロードのやつらなどは、積極的に邪魔をしてきますから。それがどれほどうっとうしいことなのかは、いずれ分かるでしょう」


 ダンジョン内で、クリミナルは自衛するしかない。

 本当に、周り全部が敵と言っても過言ではない。


「まあ、ハイドがついていれば、本当に強いのは、敵対を避けるでしょうが」

「そうねエ・・・・・・。クルクス派なんて、ニューロードの下っ端は財布扱いダものネ?」


 ノエルの言葉に、アリアが苦笑しながら同意した。


「ていっても、一山いくらの下っ端だと、大して持ってないんだよな・・・・・・」

「ニューロードを財布呼ばわリするのは、アナタ達くらいのモノよ?」


 アリアが肩をすくめてハイドに告げる。


「まあ、気にすんな。今日タイラントに遭ったおかげで、ガブリエルはレディアント寄りのクルクス派だと認識されたろ。それで喧嘩売ってくるやつがいたら、俺らが総出で潰すから」

「えっと・・・・・・?」

「まあ、乱暴ですが、ハイドの言っていることは事実です。貴方はクルクス派の所属。クルクス派は、売られた喧嘩は喜んで買う者達ばかりですから」

「おいおい。その言い方だと、ニューロード並みの暴力集団じゃないか」

「それより性質が悪いでしょうが。貴方達は」


 おどけたハイドに対し、ノエルはじっとりとした目を向ける。


「ニューロードなど、所詮は数が多いだけの烏合の衆です。名前が継がれているだけで、頭も組織としての気風も、一番よく変わっている」


 そこを言うと、クルクス派は、レティクルが店を開いた時から存在し、以降リーダーも、幹部である所属員も変わっていない。

 少数精鋭であることもあって、その性質は一番熟成されている。


「ガブリエル。安心しなさい。・・・・・・クリミナルであっても、ハイドはともかく、レティクルは決して悪人ではない。クルクス派と出会い、保護下に入れたことは、確実に貴女にとって幸運です」

「それ以前が不運すぎるがな」

「ハイド。混ぜ返さないで」


 まったく、とノエルは憤慨している。


「ガブリエル。確実に言えることは一つだけ」

「はい」

「貴女がこれから関わる相手は、基本的にクリミナルです。・・・・・・つまり、どんなに立派に見えたとしても、そのすべてを尊敬してはいけない。それだけは覚えておきなさい」

「ええっと、わかりました?」

「今は実感は湧かないでしょう。実際、レティクルなどは善良です。ただ、信用しすぎてはいけない。信頼できても警戒することを怠ってはいけない。それだけ覚えておきなさい」


 ノエルは、そう締めくくった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『竜殺しの国の異邦人』

https://ncode.syosetu.com/n0793he/

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