王子は呪う
「私は呪われている」が思ったよりも読んでくださった方が多かったので、報告通り、第二弾として王子視点を投稿させて貰いました。
一応、第一弾を読んでない方にも話の内容が分かるようにしているつもりですが、分かりにくい場合はぜひ読んでくださればと思います。
「見た?あの悍ましい姿」
「何と恐ろしく気持ち悪いのでしょう」
「陛下は何故あのような『忌み子』を廃嫡になさらないのかしら。不思議だわ」
私がいることも気づかず、メイド達は廊下で立ち話をする。
もう聞き慣れてしまって今更心が傷つけられることはないが、聞いていて気分が良くなるものではなかった。
『忌み子』
私はこの国の王である父と同じ青い瞳と正妃である母と同じ銀色の髪を持って産まれたレオナルド・ガードナー。
正真正銘の第二王子だ。
だが、この言葉はいつでも私に纏わり付いてくる。
昔、創造神が創り出したこの世界にいた創造神の眷属である3人の神の内の1人だった力神は、同じ眷属の権神を倒したことで人間に落とされた。
人々から愛された美しき権神を害したとして、人間から嫌われた身も心も醜き神。
数千年に1人だけその力神のように醜い姿で産まれてくる。
その人間を『忌み子』と呼ぶのだ。
そして、その数千年に1人だけ産まれてくる忌み子が私だった。
目つきが鋭い大きな目。
高く小さい鼻。
薄い小さな口。
横幅が無い頼りない体。
それぞれのパーツは均等に離れている。
この世界の美しいとされる男性と正反対をいく私は世界一の醜男だった。
側妃から産まれた腹違いの兄は私と反対で見目は美しかった。
さらに、人を惹きつけるカリスマ性を持っているので、婚約者へ名乗り出る令嬢達は後を絶たなかった。
そして、とうとう婚約者が決定した時、兄は自慢するように私に婚約者を見せに来た。
家柄が良いだの、美しいだの、下らない事ばかり。
その令嬢は確かに高位貴族に位置しており、見目も社交界の中でも上位を争うほど美しい。
だが、人への当たりがキツい。
他国との外交は大丈夫なのだろうか?と心配になる。
そんな彼女は今、私を見て今にも倒れそうなほど顔から色を無くしているのに、兄は気付かないで、仲が良いことをひたすら私に自慢する。
そんな私にも一応、婚約者はいる。
私は兄よりも少し前から3つ下の婚約者が宛がわれたが、私との関係はかなり悪い。
私を見れば嫌悪感を感じて顔を歪め、必要最低限の接触を除いて触ることは当たり前だが、話すことすら無い冷め切った政略結婚。
彼女には王になって1人だけ子どもを産んでくれれば、後は好きなように過ごさせると契約書を交わしている。
こうでもしない限り、私の婚約者になってくれることを承諾してくれなかったのだ。
こんな事をするくらいなら、王太子を目指すことを止めたら良いと普通なら思うだろう。
でも、どうしても諦めることが出来なかった。
私に愛情を注いでくれる父上や母上に恩返しするには、私にはこの方法しか思いつかなかった。
私には普通の幸せな家庭を築くことなど出来はしないのだから、せめて表面上だけでも取り繕って安心させたかった。
ある日、第一王子主催のパーティーが開かれた。
そこには社交界デビューを果たした令息や令嬢達で溢れかえっていた。
第一王子が主催しているパーティーに第二王子である私が出ないわけにもいかず、参加した。
私が入り口から入るのが見えた瞬間、皆が私に奇異の視線を向ける。
令嬢達も令息達も私を見て言葉を失い、ちらりと横目で見れば、即座に目を逸らす。
もちろん、私に話しかけてくる酔狂な者は存在しない。
それはそれで返って気が楽だった。
私は王子として最低限のマナーを身につけているが、忌み子である私にだけ教師が手を抜いているため完璧とは言えないのだ。
…ちなみに、兄はその教師から本気で教えを受けているはずなのに、覚える気がないのか、私ほどではないが完璧ではない。
こんな兄が本当に王太子になっても良いのだろうか?
そんなことを1人、パーティー会場から少し離れた場所で考えていると複数の足音がこちらに向かってきた。
私はすぐに木陰に身を潜め、居場所を知られないようにした。
「ここならお話し出来そうですわね」
「えぇ、そうですわね。…それにしても、噂通り第二王子殿下は醜かったですわね」
「僕も初めて拝見したけど、正直あそこまでとは思わなかったよ」
「本当に『忌み子』なんだって実感したぞ。これだと、第一王子についた方が良いかもな」
私がいないからと好き勝手に話し始める彼らは、よく見ると正妃派の令息・令嬢達だった。
成る程。
今回のパーティーで私が噂通りなのかを確かめてくるように親に言われたのだろう。
全く腹立たしいことだ。
「王太子になるべく、第一王子殿下には悲しきことに婚約者が出来てしまわれましたものね…」
「…そうですわね。でも、本来はこんなにも難航する予定では無かったらしいですわよ?」
「どういうこと?」
「メリィ家のご令嬢についてはご存じ?」
「あぁ、呪われた令嬢か」
"メリィ家のご令嬢"
"呪われた令嬢"
これを聞いてすぐに思い浮かんだ。
ルチア・メリィ公爵令嬢。
5歳の頃、何者かに目が見えなくなる強力な呪いをかけられた私より5つ下のご令嬢だ。
本来、公爵令嬢だった彼女は兄の婚約者候補筆頭だったが、目が見えなくなってから婚約者候補から外され、それから10年間、部屋に閉じ籠もってしまいデビュタントの年のパーティーにも参加をしなかったご令嬢。
以前に噂を聞いてから、会ったことも無いのに少しだけ親近感が湧いてしまい気になっていた存在だった。
「元々はそのメリィ嬢が婚約者になる予定だったとお父様から聞きましたわ」
「その方こそ第一王子殿下に釣り合わないでしょう。噂では目の呪いは嘘でその方はとんでもなく醜くて部屋から出られないとか」
「僕もその話聞いたことがあるよ。確かに、そんな令嬢は第一王子殿下の横に立つには相応しくないよね」
私の醜い顔よりも醜い顔で笑い合う彼らを見て、腸が煮えくりかえるようだった。
メリィ嬢は5歳の頃より社交界出ておらず、その姿を見た者は家族以外にいない。
何故、見たことも、会ったことも無い人をそんな風に誹謗中傷することが出来るのか。
怒りを抑えきれず、彼らに注意しに動こうとしたとき、彼らの前に1人の青年が現れた。
横に大きく立派で頼りがいのある体。
広く大きい顔。
部分部分が小さく中心に寄っていて、バランスは整っていない顔のパーツ。
正に権神を思わせるような美しさだった。
彼はとても冷ややか眼差しを向けて彼らに注意した。
…いや、注意と言うより脅しに近かったような気もする。
彼らはその少年を見た後、逃げるように去って行った。
彼らがいなくなった後、私はその少年に興味を持ったので話しかけてみた。
すると、彼はさっき彼らが言っていたメリィ嬢の兄君だったらしく妹を悪く言っていたので注意しただけとのこと。
あれを注意とよんで良いのかは甚だ疑問ではあるが気にしないことにする。
彼は私を見ても何も思わないらしく、話していてとても楽だった。
彼はメリィ嬢をとても可愛がっており、ずっと部屋に閉じ籠もっているので心配だと打ち明けてくれた。
たった1人、部屋で辛い気持ちを抱えていることはどれ程苦しいことだろうか。
私は考えるだけで胸が苦しくなるようだった。
会って何かしてあげたい。
そう思っていたことが言葉にしてしまったようで、彼に聞かれてしまった。
彼は驚いたように目を見開いた後、まるで花が一斉に咲いたかのようにキラキラとした目で嬉しそうに私にぜひと承諾してくれた。
ただ、メリィ嬢は男性が苦手なようなので無理強いはしないでくれと。
幼い頃には、こんなに美しい兄君や結婚しているはずなのに人気なあの公爵を見て、母君が来るまでひたすら泣いていたらしい。
実に可愛らしい話だが、美しい彼らですら泣かれたと言うのに、私は大丈夫なのだろうかと不安な気持ちを胸にメリィ公爵家を訪れることとなったのだった。
私からメリィ嬢への突然の面会の申し入れに公爵も夫人も驚いてはいたが、快く受け入れてくれた。
あとは、メリィ嬢本人が了承してくれるかどうかだった。
暫くして、兄君がやってきてメリィ嬢が了承してくれたことを知らせてくれた。
条件として、部屋の扉越しに話すだけではあったが受け入れてくれただけでも有難い。
嬉しいという感情が溢れ出て、頬が少し緩んでしまうのは仕方の無いことだろう。
メリィ嬢の部屋の前に案内された私は、用意されたイスに座らず挨拶をした。
「メリィ嬢。本日は急なお願いにも関わらず、お話しする機会をくれたことに感謝する。私はこの国の第二王子のレオナルド・ガードナーだ」
「…え?王子様?」
誰が来るのか聞いていなかったのか、とても可愛らしい小さな声で聞き返す。
「あぁ、名ばかりの王子だから気にしないでおくれ。礼儀も気にしないでくれ。私も自信が無いからな」
私は所詮、忌み子だ。
それは例え、王子という立派な肩書きがあったとしても。
だから、そんなに身構えなくても良いのだと伝えた。
だが、彼女は先程の可愛らしい声でさらに優しく言葉を返す。
「いいえ。それでも王子様であることには変わりが無いでしょう?それに、聞き及んでいるかとは思いますが、私は貴方様の忌み子と呼ばれる姿を見ることが出来ません。ですから、どうかお気になさらないでくださいませ」
この時、初めて私は気づいた。
唯一、見目で判断しない、いや、出来ない女性なのだと。
もしかしたら、彼女なら見目で判断出来ないから私の側にいてくれるのではないだろうかと。
もちろん、こんな都合の良い考えがまかり通るとは思ってはいない。
それに私には婚約者がいる。
…だが、もし、この温かな夢が叶うのなら私はどんなに幸せだろうと考えてしまう。
「…すまない。だが、ありがとう。そのように言ってくれたのはメリィ嬢だけだ。…また、話しに来ても良いだろうか?」
「…えぇ、私はいつでもここに居りますので。いつでもいらしてくださって構いませんわ」
「そうか。では、また」
男性が苦手なメリィ嬢のため、何よりこんなに穏やかに会話が出来ると思っていなかった私は、長い時間の面会にはしなかった。
ただ、一言二言会話が出来ればと思い来ただけだったが、もう少し長い時間空けておけば良かったと後悔する。
それでも、次に会う許可を貰えただけかなり収穫はあったので、私は自分でも気づかないくらい上機嫌にメリィ公爵家を後にした。
私はその次の日から何度もメリィ嬢、もといルチアの元に通った。
ルチアと呼ぶ事を許してくれたのでつい何度もこの名前を呼んでしまう。
ルチアが「レオ様」と呼んでくれる度に心が歓喜に震えた。
兄ですら私の愛称を呼ぼうとはしないのに、彼女は当たり前のように呼んでくれるのだ。
それから私は、尊敬する父上のこと、兄は婚約者をほったらかして別の女性と遊んでいること、その女性が他の令息達とも懇意にしていること、国のこと、外で見聞きしたことなど沢山のことを話し合った。
この当たり前が私には眩しく温かく心地よいものに感じた。
この時間が永遠に続けば良いのに。
そう思っていたが、現実はそう甘くはなかった。
ルチアと雑談をして城に戻ると父上に呼び出された。
謁見の間に行き、聞かされたのは私の婚約者がそろそろ18歳になるので式をあげたいとのこと。
兄は私の1つ上の21歳だが、婚約者が今年17歳になるのでまだ結婚は出来ない。
父上は1番目に結婚式をあげるのだから、盛大に祝いの席を設けようと嬉しそうに話しているが私は上の空で聞いていた。
私が結婚してしまえば、今のようにルチアに会いに行くことが出来なくなるのではないか?
私の話に一生懸命耳を傾け、嬉しそうに、楽しそうに聞こえるあの可愛らしい声はもう聞けなくなる。
最近では、私の婚約者は他の男性といることが多いと聞く。
そんな人と結婚…?
頭の中をグルグルと暗い気持ちが渦巻いていく。
そうだ。
分かっていたはずだ。
私には婚約者がいて、ルチアとは一緒にはなれないと。
そもそもルチアは兄の婚約者候補筆頭だったにもかかわらず外されたのは、目が見えなくなってしまったからだ。
なら、第二王子である私も例外ではないのだ。
父上は心から嬉しそうに結婚式の話をするが、私の耳には何も入ってこなかった。
部屋に戻った私は普段はしないが余りに心の余裕が無く、そのままの服でベッドに深く沈み込み考える。
いつ結婚するかは知らなくとも、ルチアも私に婚約者がいることくらい知っているはず。
と言うことはきっと、ルチアは私を友人と思っているだろう。
ならば、私は友人として居続けよう。
結婚するまでの間、会えなくなるまでずっと会いに行こう。
そう決意を固めて、ルチアと会うときは楽しく笑顔でいられるように努めた。
決意をしてからルチアに会う度、話す度、私の心が痛いほど叫び続けていた。
ルチアが好きだと。
それでも私はその痛みを知らぬ振りをし続けた。
私のこの気持ちはルチアに迷惑をかけるだけだと知っていたからこそだった。
それに友人と思ってくれているはずのルチアを、私のこんな気持ちを告げたばかりに失うのは耐えられなかった。
だから、ずっと我慢していた。
この気持ちに蓋をして、私は王太子になるのだと言い聞かせた。
しかし、それも無情にも打ち砕かれる出来事が起こる。
私の婚約者が他の男と関係を持ってしまい、私との結婚は出来なくなってしまったのだ。
私はいよいよ何も考えられなくなった。
ルチアへの想いに蓋をしてまで我慢して、王太子になるという夢を追い求めたのに、その王太子への道も閉ざされてしまったのだ。
私には何も…無い。
絶望のあまり涙すら出なかった。
この時ほど、この世界を呪いたいと思ったことはなかった。
誰かが私に会いに来たと従者が言っているが、そんなのはもうどうでも良い。
ただ1つ強く思うことは
ルチアに会いたい
ただそれだけだった。
あの優しい声が聞きたい。
扉越しにクスクスと笑っているあの声が聞きたい。
見えないがきっと、いや確実に可愛い笑顔で私の下らない話を楽しそうに聞いてくれる彼女に会いたい。
願わくばいつか扉越しじゃなく、直接会いたい。
気づけば私はルチアの部屋の前に来ていた。
どうやら先程、従者が言っていた来訪者はルチアの兄君だったらしく、放心していた私をルチアの元まで連れてきてくれたようだ。
本当に頭が上がらない。
私は半ば本能的に名前を呼んでいた。
「ルチア…」
「レオ様?どうされたのですか?」
私の声の高さから異変を感じ取ったルチアは、すぐに私の心配をしてくれた。
その優しさに目が熱くなる。
「私は王にはなれそうにないのだ…」
「え?」
私は包み隠さず事情を全て伝えた。
「だったら、婚約者を新しく立てるのは…」
「私は忌み子だ。誰も婚約者になろうと思わないんだよ」
結局、私はこの呪いからは逃れられない。
どんなに頑張ろうとも手にすることは出来ないのだ。
この呪いがある限り。
あれを使えば良いのだろうけど、あんな元婚約者に使いたいとは思えなかった。
それに、なるべく両者の合意無しにあれは使いたくはない。
そんなことを考えている間に私はまた思っていたことが口から出てしまったのだ。
「ルチアが婚約者になってくれれば良いのに」
と。
はっと気づいたときには遅く、小さな声ではあったがルチアにははっきりと聞こえてしまったらしく、少し息を呑む音が聞こえた。
そして、ゆっくりとルチアが言葉を紡ぐ。
「…レオ様は…私のことをどう思っておられますか?」
ルチアは恐る恐るといった感じで、私に問う。
私は言っても良いのか悩んだ。
私にはこの見目の代償に創造神より物や人、何でも心から欲しいと思い言ったものを与えられる権利があるらしい。
だが、これは呪いだ。
これは最近、夢に創造神が出てきて教えてくれた事だった。
夢かとも思ったが、何故か本当だと本能で理解していた。
だが、創造神がかける呪いなのだから、とても強力だ。
そんなものを既に呪いを受けているルチアにかけるわけにはいかなかった。
「…ルチア。私の気持ちを知ったらルチアはもう私から逃げることは出来ないから聞かない方が良い」
「っ!私は!レオ様から逃れようとは考えておりません!」
「私を見てないからその様なことが言えるのだ。それに、忌み子には忌み子しか知られてない事があるんだ。…忌み子は見た目の代償としてたった1つだけ欲しいものを得ることが出来る。それは人も例外では無い。それを誰かに言ってしまえば、離れることなど出来なくなる。創造神がかけるこの世界の何よりも強力な呪いなんだ!」
正直に全てを話した。
私自身、止めた方が良いと強く忠告した。
それなのに、ルチアは何故か嬉しそうにいつもの優しい声で言葉を返す。
「…レオ様。良いですよ。私をずっとレオ様の側に置いてください」
もう、この言葉を聞いて私は蓋をしていた気持ちが一気に溢れ出始めていた。
だから、何度も念押しした。
「っ!!…本当に良いのだな?後戻りは出来ないぞ!?」
「えぇ。レオ様も私で宜しいのですか?私、ずっと一緒にいますよ?」
それでも一緒に居てくれると言う。
反対に、私の方を心配してくるルチアをもう手放すことは出来ないと思いながら、私はルチアの言葉が嬉しくて言葉にした。
「ルチアが良いのだ。…私はルチアがほしい」
言葉にした直後、私の左の薬指に茨の指輪がはめられた。
まるで、もう絡め取られて逃げられないのだというようだった。
きっと呪いが成立してしまったのだろう。
声が聞こえなくなったルチアが心配になった私は名前を呼ぶ。
「ルチア…?」
「レオ様…っ!」
涙を必死に堪えるような苦しそうな声。
私は胸が痛んだ。
やはりルチアは嫌だったのだと。
「泣くほどだったのか…。すまない。だが私は…」
そのまま言葉を紡ごうとすると、ルチアが私の言葉を遮って
「レオ様。どうぞお入りになってくださいませんか」
と言った。
「!?良いのか!?だがっ!」
「レオ様に直接お会いしたいのです」
焦る私を落ち着かせるような私の好きな優しい声で、部屋の中へ入るように言われる。
私は何度もルチアに会いに来たが、面と向かって会うのはこれが初めてだった。
緊張して部屋に入る時に、声が上擦ってしまったがそれを気にする余裕は無かった。
私はルチアがどんなに醜くても受け入れるつもりだが、今更ながらルチアはこんな醜い私で良いのかと不安に押しつぶされそうになる。
扉を開けベッドに腰掛けているふわりとカールのかかった金髪の少女、きっとルチアであろう人物を見つける。
私はそっとルチアの横に立った。
ルチアはゆっくりと2つの綺麗な翡翠色の瞳で私をその目に写した。
その事に私はとても驚いた。
ルチアは目が見えない呪いを受けたはず。
では何故、見えているのか。
そして目が見えていることもそうだが、ルチアは私が見た中で誰よりも美しかったのだ。
長いまつげ。
白い肌に頬はほんのり赤く、唇は紅をさしたかのように色鮮やか。
瞳は元々なのか先程泣いていたのか、とてもウルウルと揺れていて儚げな印象で庇護欲をそそられる。
いや、それよりもルチアは私が見えていることが問題だった。
「ルチアっ!目が見えて!?」
「はい。目の呪いは他のとても強力な呪いを受けることにより、効果が無くなるのです。そして、その呪いをレオ様が解いてくださった。本当に心から感謝致します。これからも私の王子様で居て下さいますか?」
「私の王子様」と絶世の美女に言われ、顔に熱が集まるのを感じつつも答える。
「勿論だ!だが、私こそこんな醜い姿なのに私で良いのか?いや、もう離すことはできないのだが…」
彼女は本当に美しい。
そんな彼女の横に私が居て良いのだろうか?
「えぇ!私はこれから先、レオ様以外に呪われる予定はありませんわ!」
私の不安の全てを笑顔で消し去ってくれる。
それが当然と言うように。
「ははっ!あぁ、私もだよ」
ルチアは以前よりも明るい声で可愛らしく笑った。
目が見えても尚、私の側にいてくれると言うこんな可愛い人を手放せるわけがなかった。
目が見えるようになったルチアを新しく私の婚約者とすることをルチアと手を繋いで父上に報告しに行くと、それはもう泣かれるほど喜ばれた。
ルチアの事を聞きつけた兄がルチアに求婚したときにはかなり焦ったが、ルチアは「私はレオ様だけをお慕いしておりますので」とハッキリと断ってくれたので安心した。
何より私のことをそんなに想ってくれているのだと赤面した。
その後も、見目麗しい令息達からの求婚は後を絶たなかったが、ルチアは一切振り向くことはなかった。
それどころか、兄も含め令息達はルチアに散々にフラれ女性達からも白い目を向けられるようになっていき、学園での行いが酷かったのもあってそれぞれで処分を言い渡された。
婚約者の代わりに兄と仲良くしていた女性がルチアを殺そうとしたので、処刑台へと送られた。
怖がるルチアを抱きしめていると、安心と同時に場違いではあるが愛おしさが溢れてしまったのを今でも覚えている。
私はと言うと絶世の美女であるルチアを呪いから救った王子として英雄のように扱われた。
その結果、学園で散々やらかした兄は父上の怒りを買ってしまい廃嫡になり平民に落とされ、今や市民にも貴族にも支持を得た私が王太子となった。
ルチアとすぐにでも結婚したかったが、ルチアはまだ15歳。
あと3年の辛抱…だったが…正直、別の意味で辛かった。
ルチアの全部が可愛すぎて、時々理性が吹き飛びそうになるのを必死に堪え距離を保った。
しかし、距離を保つと知らない間に他の男が近寄ってくるのでまた虫除けする。
するとまた、ルチアが可愛いことを言う。
幸せではあったが、一種の拷問ではと思えて仕方なかった。
そんな修行の3年間を終え、遂に私達は今日、結婚式を迎えた。
純白のドレスを身に纏い、神秘のベールを被り、いつもとは違った化粧を施されたルチアは、本物の女神と言われても疑えないほど美しかった。
私はこの3年間でさらに醜く成長していった。
それなのにルチアはどんどん美しくなっていく。
何故今、私と腕を組んでくれているのか不思議なくらいだった。
「あぁ。やっとこの日が来たね。私は年々、醜さが増しているけれど、他の男の元に行かないでおくれよ?」
「えぇ。レオ様が私を呪い続けてくれる限り、私はレオ様の元から離れることは出来ませんから。レオ様も他の人を呪ったりしないで下さいよ?」
「それこそ無いね。これから人生をかけてルチアだけを呪うんだから」
「あら、光栄ですわ」
以前の私は自分を、世界を呪った。
でもこれからは、私のこの命尽きるその時までルチアを呪い続けるのだ。
「愛しているよ。ルチア」
「私も。愛していますわ。レオ様」
当たり前のように返ってくるその言葉がいつまで経っても嬉しくて泣きそうになる。
私達は外すことの出来ない茨の指輪を見せつけた後、国民や貴族達に祝福されながら、私はルチアにゆっくりと優しくキスを落とした。
柔らかくも甘いルチアの唇はこれからも私だけのものだ。
他の男どもにくれてやるつもりは無いという意思表示で、ルチアが苦しくならない程度に長く深く口づけを交わした。
これは呪いだ。
私達はこの一生解けることのない呪いを受け続けるのだ。
ねぇ、ルチア。
私はずっとただ君1人だけを呪うから。
これから幸せな家庭を築いていこうね。
心から愛しているよ。
永遠に。
Fin♡
今回も読んでいただきありがとうごさいました!
前回同様、第三弾はこの第二弾が好評だった場合に投稿させていただきます。




