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侵依  作者: 哀溜
2/2

この気持ちは

さて、そんな日から数日が経った、ある日のこと。

玲は授業終わりの気怠さに包まれながら、荷物をまとめていた。

ぐっと体を伸ばせば、校庭に人が集まっていることに気づいた。


「.............?」


不思議に思って見ていると、どうやら校門の外に誰かいるらしい。

芸能人でもいるのだろうか...いや、そういえば。

慌ててスマホを出しトークアプリを開くと、そこには。


『悠紀:今日迎え行くね。そのまま家来な』

「え、てことは...っ」


鞄を掴み、同級生たちを避けつつ急いで校舎をでる。

とんとんとん、とリズミカルに階段を降り、最後の2段を飛び降りた。

靴を履き替え、校門へ走る。

ちらりと覗く、ポニーテール。


「っは、はぁ...ゆき...?」

「、玲!どしたの、そんな急いで」

「えー、玲さんこの人と仲良いの?ね、紹介してよ!」

「ごめん、玲行こ」


息を整えていると、ぐいと悠紀が手を引いてくる。

沢山の同級生から離れた。

悠紀の手は冷たくて、それがとても心地よかった。




「お邪魔しまーす...」

「はいざんねーん。間違いなので入っちゃダメでーす」

「え...あ、ただいま」

「ん。よしよし」


にっと悠紀が笑う。

その一言に執着する理由はわからないが、こう言うと悠紀が笑ってくれるので『ただいま』が好きになった。

悠紀と過ごして変わったものの1つだ。

変わりに血の繋がる家族がいる家では言わなくなった。

私にとっての家族は悠紀だけだ、と思う為に。


「玲?どした?」

「あ、なんでもない!ごめんね」


廊下にいる悠紀が首を傾げるが、慌てて手を振るとまた笑う。

靴を脱ぎ、綺麗に掃除されたフローリングに足をつける。

鞄を置き、手を洗って制服から私服に着替える。

悠紀が似合う、といって買ってくれた白と茶色のパジャマだ。

リビングの黒いソファに身を預けていると、悠紀がココアを持ってきてくれた。


「え、ごめん、何も手伝えなかった」

「いいのいいの、私がやりたくてやったんだし。玲は学校で疲れてるだろうから、甘やかされてて」

「うん...ごめん」

「ごめんじゃ嬉しくないなぁ」

「あ、ありがとう」

「うんうん、どういたしまして」


温かいココア。

悠紀が持っているのはきっとコーヒーだろう。それもアイスコーヒーだ。

悠紀は猫舌だから、温かいものを飲むことは殆どない。

そのくせ体温は低いから、よく私にくっついてくる。

子供体温、とか言うけど、私と悠紀の年齢はそこまで変わらない。

恐らく2、3歳ほどだろう。

恐らく、というのは、私は悠紀の具体的な年齢を知らないのだ。

誕生日は知っている。4月1日。

嘘つきの私にぴったりでしょ、と笑っていたのを覚えている。


(...私は悠紀のこと、なにも知らない。知りたいと思っちゃ駄目だ。私と悠紀は、友達でもなんでもないんだから)

「...い?れーい?」

「っ、なに...?」

「いや、なんかゲームでもする?って言おうとして...玲、なんか今日おかしいよ?なんかあった?」

「な、んでも...」

「嘘。私に嘘が通じると思う?玲」


ああそうだ、誕生日について、こうも言っていた。

『嘘つきに嘘ついちゃ駄目だよ、利用されるから。嘘で生きてきたからこそ、鼻がきくんだよ』


「...思わない」

「いい子。で、どうしたの?...言いたくない?」

「...駄目なこと、考えてた」

「だめなこと?」

「........悠紀のこと、知りたいな、って」

「....................」


手からカップが奪われ、机に置かれる。

悠紀のカップとあたり、かちんと音が鳴った。


「...駄目だよ、それは。私たちは深く関わっちゃ駄目。いつでも離れられる存在じゃなきゃ、駄目なんだよ」

「...わかってる」

「うん、いいこだね。玲」


ぎゅ、と前から抱きしめられる。

悠紀の体温が感じられるから、ハグは好きだった。

まだ死んでないと実感できるから。

ゆっくり、愛でるように、髪を梳かれる。

ぽん、ぽん、と背中を叩かれ、心の隙間にとろりと蜜を流し込まれているような錯覚に陥る。


「ゆき...ねぇ、悠紀...」

「なに?玲」

「.....なんで、こうなっちゃったんだろ。私は悠紀のこと、好きなのに」

「うん、私も好きだよ」

「...私は悠紀がいなきゃ、生きられないのに」

「...うん」

「悠紀は?ゆきはひとりでいきられるの?私、だけ、なの...っ?」

「...そんなこと、ないよ」

「ゆき...っ、ゆきぃ...ッ!」


ぼろぼろと涙が流れ、悠紀の服に吸い取られていく。

1度崩壊したダムから流れる水は止まることなく、ずっと泣き続けた。

悠紀はずっと、抱きしめてくれていた。


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